日々草子 永遠に君を愛す 50

永遠に君を愛す 50

続きのお話を読まれる前にこちらに目を通していただけますよう、お願い申し上げます。

ちなみに49話で終わりじゃないですよ~(笑)

☆☆☆☆☆






昭和25年春。上野駅に降り立った直樹は驚いていた。
「お帰りなさい、兄さん。」
大人びた弟が笑顔で立っているではないか。
「わざわざ迎えに来なくても。」
「お袋がそわそわしていて落ち着かないんだよ。」
そう言いながら裕樹は兄の荷物を半分強引に受け取った。口ではそんなことを言っているが裕樹も早く兄に会いたくてたまらなかった。
「お帰りなさいませ、直樹様。」
「車まで!」
駅を出ると入江家の懐かしい運転手が笑顔で車のドアを開けてくれた。直樹は笑いながら車に乗り込んだ。

「お帰りなさい、お兄ちゃま。長旅は疲れたことでしょう。」
入江家では紀子が笑顔で直樹を出迎えた。
「何だか大げさすぎないか?」
「まあ、そんなこと言わないで。」
「だって少しの間の帰京なんだから。」
今回、直樹は一年ぶりに東京に戻ってきた。といっても、こちらで行われる学会で発表をすることが目的の一時的なものである。だが師事する博士がこの一年、お盆も正月も帰らずにいる直樹に休みを与えてくれたのだった。
「殆どアパートにも帰らなかったでしょう?電話しても出なかったものね。」
紀子の言うとおりであった。病院まで徒歩ですぐという場所に部屋を借りているにもかかわらず、直樹は滅多に帰らない。「入江は病院で暮らしている」と周囲で言われるほどであった。
「その代わり、こちらから連絡してたじゃないか。」
「あら?それでもすぐに切っちゃうくせに。」
しかしそれでも定期的に息子の声が聞けて紀子は安心していた。戦争の時のように無事を祈るしかない、ということはなくなったのだから。
「今夜はお父様も早く戻られると仰っていたから、御馳走ですよ。」
「御馳走って、だから大げさなんだよ。」
「何を言ってるの?あなた、少し痩せたのではなくて?ここにいる間はしっかりと食事をしてもらいますからそのつもりで。」
とにかくまずは着替えていらっしゃいと紀子は直樹を二階へ行かせる。裕樹が荷物を持ったまま後をついてきた。
「午前中にさ、食材を運びこんでいるところを見ちゃったんだけど、すごいんだよ。僕らだけじゃ食べきれないくらい。兄さん、お腹ペコペコにしておいた方がいいよ。」
「それは覚悟しておかないとな。」
裕樹が部屋を出て行くと、直樹は改めて自分の部屋を見回した。仙台へ大半の医学書を運びこんでいるから本棚はスカスカであるが、後は何一つ変わっていない。ベッドもきちんとしてある。
ここは我が家だ――直樹は家族のありがたさをしみじみと感じてそのベッドにひっくり返った。



学会で直樹は見事な発表をして賞賛を浴びることになった。一年間、がむしゃらに学んだ甲斐があったと直樹も胸がいっぱいになった。だがこれで満足するわけにはいかない。医学は日々進歩していく。まだ努力は続く、それは一生。
この若さで素晴らしい研究をした直樹に、各大学の教授や大病院の医師たちがいずれはうちの病院にと誘いをかけてきた。直樹は丁寧に礼を述べ、まだしばらくは仙台で修業をするつもりだと答えた。
直樹は電話で仙台の博士に発表の成功を報告すると、博士も大喜びだった。直樹は一年間の頑張りを労った後、とある病院の名前を口にした。そこは直樹が専門に学ぶ小児外科で目覚ましい進歩を遂げている病院で、直樹も名前を知っていた。
「いい機会だから院内を見学して、医師たちと情報交換してくるといい。」
博士の知己が院長をしているということで話を通しておいてくれるという。そういう病院ならばぜひ見学してみたいと直樹も思った。

その病院の訪問の前に、直樹はかつて自分が勤務していた病院に挨拶に出向いた。退職する時も気持ち良く送り出してくれたそこは、久々の直樹の訪れを歓迎してくれた。
患者の数は一年前より増えている。混みあっている待合室を懐かしく眺めていた直樹の体に衝撃があった。見下ろすと子供が直樹を見上げている。まだ歩き始めたばかりと言った年頃か。
「どうした?お母さんはどこかな?」
仙台で沢山の子供と接したため、扱いに慣れていた直樹はその子を抱き上げた。
「すみません!」
すぐに母親が直樹の元に駆けつけて来た。直樹は子供を母親へ引き渡す。
「ここは病気を治す人がいっぱいなのだから走ったら駄目ってお母さん、言ったのに。」
親子を見送りながら、直樹の中に封印してきたものが蘇って来た。
「あいつも母親になってるだろうな…。」
ここが再会した場所ということもあるのだろう。考えまいとしていたことが浮かんで来る。大阪でどんな母親になっているだろうか。ちょうど今の子供と同じ年頃の子供がいるだろう。
「威勢のいい関西弁で子育てしてそうだな。」
クスッと笑って直樹はホッとした。もうここまで笑えるようになったのだ。



「すまないな、関係のない場所まで来てもらって。」
「構わないさ。これも親孝行だよ。」
医学関係の他にも直樹は忙しかった。重樹が会社関係のパーティーに来てほしいと言い付き合ったのである。戦後更に大きくなった入江商会の跡を継がずに医者になった長男を見たいという声に重樹が応えたのだった。と言いつつ、重樹が自分を自慢したかったことを直樹は知っている。だから親孝行としてこうして付き合った。
「すっかり立派になったな。」
帰りの車の中で重樹は目を細めた。正直、記憶を取り戻したと同時に琴子が離れた時はどうなるかと心配になったものだが、今の直樹はすっかり地に足をつけている。東京と仙台に離れても心配することはもう何もない。

「一つ、謝らなければいけないんだ。」
「ん?どうした?」
久しぶりの東京の夜の景色に目をやりながら、直樹は言った。
「…孫の顔を見るのは無理かもしれない。」
琴子のことはもう過去となった。が、だからといって他の女性と結婚する気は直樹には全くなかった。「今はそうでも今後は」ということも自分にはないと思う。過去のことになっても、自分が生涯を共にしたいのは琴子だけだから。
「…構わんよ、お前がそれでいいのなら。」
その言葉の意味が分かった重樹は穏やかに微笑んだ。紀子ともこの件は話していた。恐らく直樹は生涯独身を貫く気がすると。だがそれでいいという結論に二人は達していた。勿論、直樹が自分で幸せを見つけたら歓迎するつもりである。しかし無理強いはするつもりはなかった。
「また見合いでとんでもない発言をされても困るしな。せっかく立派な息子と褒めてもらったのに。」
重樹の冗談交じりの台詞に直樹は「アハハ」と声を上げて笑った。が、その心中は両親への感謝でいっぱいだった。



漸く直樹が博士の紹介の病院を訪問したのは、東京に来て一週間が過ぎた頃だった。
院長室を訪れると、院長は話は聞いていると笑顔で迎えてくれた。
有名な博士の一番弟子がやってくるということで、この病院の医師たちも直樹と会うことを楽しみにしているという。といっても忙しい医師たちが時間が取れるのは何時間も後になりそうだった。
勿論、同業者として直樹もその忙しさは承知している。邪魔をするつもりもないので時間が来るまで院内を回りたいと院長に申し出ると、快く許しを得ることができた。
「入江先生が歩くと看護婦たちが大騒ぎになるでしょうな。」
「まさか、そんなことは。」
そんな会話をして院長室を出た直樹であったが、すぐにその通りとなった。
「どちらのお見舞い?」
「違うわ、見学にいらした小児外科の先生ですって。」
看護婦だけではなく、患者、見舞いの人たちも直樹に見とれている。直樹はその視線を浴びながら溜息をついた。全く、こんな顔のどこが面白いのかと思う。
「入江先生はご結婚は?」
案内役の事務長が苦笑しながら直樹に訊ねた。
「いえ、一人です。」
その答えが聞こえたのか、女性たちの「独身ですって!」という黄色い声が聞こえる。事務長が「ウホン」と咳払いすると慌てて口を噤んだ。

病院は動きやすく、患者に対する職員の態度も好感が持てるものだった。医師たちもキビキビと動き回っている。事務長の案内も的確で手術室、薬剤室など色々な場所を見学できた。
そこに事務員が事務長を探してやってきた。どうやら急用らしい。
「では誰か代わりの者を」と言う事務長の言葉を直樹はやんわりと断った。もうあらかた見て回れたし、あとは時間が来るまで一人でのんびりと待つと直樹が言うと事務長は申し訳なさそうに事務員と去って行った。

一人になった直樹は、小児病棟へ向かった。小児科で名を上げている病院だけに、丁寧なケアがされていると一目で分かった。
見舞いが患者を話すことのできるスペースが一角に設けられていた。直樹が見た時そこにいたのは5歳くらいの女の子一人だった。ぬいぐるみと遊んでいる様子を微笑ましく見ていると、その小さな体がゆっくりとうずくまった。直樹の耳にまで、その子が発する呼吸の異常な音が聞こえた。と同時に直樹はその子の傍に駆け寄った。
「喘息だな」と直樹はすぐに診断を下した。発作が起きたに違いない。
「誰か、来てくれ!」
自分が勤務する病院ではないが構っていられない。直樹は子供に楽な体勢を取らせながら声を上げた。
「おい、誰か!」
「どうしました?」
直樹の声を聞き付けた看護婦が駆け寄ってきた。
「喘息の発作だ。この子の病室は?」
「里子ちゃん!」
「病室は?」
看護婦の顔を見上げた直樹は驚いた。そして看護婦も直樹と同じように驚いていた。
「…お部屋はすぐそこです。」
「分かった。」
里子と呼ばれた患者を直樹は抱き上げた。そして先を急ぐ看護婦の後に続く。歩きながら直樹は驚いたままであった。
――なぜ琴子がここに?
今、直樹を案内している看護婦は琴子だったのである。




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看護師琴子ちゃん!!

あぁぁぁぁ!!!
ついに再開ですね!!
しかも看護師琴子ちゃん(*´∇`*)
会いたかったよー(*´ェ`*)…
一人で感激して少し叫びそうになりました笑

これからの展開楽しみにしてます(∩´∀`∩)

わあ、看護婦の琴子がいる!
すでにドキドキしてきました。

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マジ?

え、琴子ちゃん?
マジですか?
どうなるかと思ってたところに琴子ちゃん?
うそ~!気になる!!めっちゃ気になる~…o(;-_-;)oドキドキ♪

水玉さんの書く直樹は、一途で本当に大好き。
イリパパに孫は見せられないかもって言ったとき、琴子はこんなに思ってもらえて本当に幸せだな~って思いました。
あ~続き!続きが気になるよぅ!!

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え~( ̄○ ̄;)

入江君が仙台へ行ってから一年立つんですね…仙台ではがむしゃらに働いてて、それでも琴子ちゃんの事は忘れられないんですね?入江パパには「孫の顔を見るのは無理かもしれない」と言ってたし、入江君の奥さんは琴子ちゃんだけなんですね。そんな時に、看護婦さんになってる琴子ちゃんに再会!ワ~この後が凄~く気になります。再会した二人はどうなるの~

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ウへ~”!琴子ちゃん、?なんか、やっぱり、運命感じるね、入江君も、驚いたね!これから?二人どうなるんだろうね、これから?入江君と、琴子ちゃんの、二人の、関係を、期待してしまいますけど❓どんなふうになるのかな。

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やっと!!
うわー…!先が気になります!!(^-^)

楽しみにしております!

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nonkoさん、ありがとうございます。

こちらこそ読んで下さってありがとうございます。
直樹同様ドキドキして下さってありがとうございます。
突然の琴子ちゃんの登場、なかなかよかったかと(笑)

sayuさん、ありがとうございます。

49からの連続コメントありがとうございます。
琴子来た―っと思って下さって嬉しいです!
意外と早かった再会楽しんでいただけたらと思います。

葉月綾乃さん、ありがとうございます。

耐えていらしたんですか!それはすみませんで!!
そうですよね、ずっとすれ違いですもんね。心配して下さってこの二人も嬉しいでしょう。
新川さん、そう、彼も本当にどうしているんだって感じですよね。
読んで下さりありがとうございます。

ピチカートさん、ありがとうございます。

そうなんですよ、私も何年経ったんだっけと確認しつつ(笑)
でも人妻になってからそんなに経ってはいないんです。
そうですね、ぜひとも興味のないお話にも目を通して下さればと…でもつまらなかったら無理しないで放置して下さって構わないので(笑)色々書いているし、自分でも人気がないな~というジャンルは分かっておりますので。
いえいえ、こちらこそお返事が滞ってすみません。一通ももらさず読ませていただいております!
ありがとうございます。

Hanaさん、ありがとうございます。

ありがとうございます。
看護婦の琴子ちゃん、ようやく登場です。
ドキドキして下さって嬉しいです!

まみりんさん、ありがとうございます。

そうです、再会です。
今度こそいい方向へ動くといいのですが…。
看護婦の琴子ちゃんもすっかりご無沙汰でしたしね。
感激して下さって嬉しいです。
可愛い絵文字沢山のコメント、とても嬉しかったです。ありがとうございます。

satominさん、ありがとうございます。

そうなんです、『天の海~』を超えてしまってびっくりです。
最初は20話もいかないかもと心配で必死で伸ばしていたのに(笑)
読み応えのあると仰って下さって嬉しいです。
なんだかんだとめぐり会う二人ですから、いい方向へ進んでいってくれたらいいなと思います。
二人の幸せを願いつつ、続きを楽しんでいただけますよう願っております。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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