日々草子 永遠に君を愛す 38

永遠に君を愛す 38

お待たせしてすみませんでした。
忘れていたわけではなく、お正月にこれを読んでいただくのもな~と思ったのと、この後をどうするか考えていたのです。
お待たせしていた割にはこの続きが全く浮んでいないので、また時間をいただくことになるかもしれません。
コメントで「続きを」というお言葉、ありがとうございました。
☆☆☆☆☆








この一月の間、入江家側からあえて縁談を進める行動は起こしていなかった。ただ、何も意を唱えないところを見ると了解したと思ったのか、大泉家が色々と準備を始めたことは知っていた。もう流れに任せるといったのが入江家の方向だった。

「会う気力がないと追い返せ!」
誰のせいで琴子が出て行き、紀子が寝込むことになったのだと裕樹は怒りを露わにした。
「聞こえますよ、裕樹。」
「聞こえたって構わないさ。」
だが紀子の寝室と玄関は離れている。聞こえていることはない。
紀子は布団の上に体を起こした。
「…会わねば決まりが悪いでしょう。」
一応未来の嫁が尋ねてきたのである。着替えをすると女中に命じようとする紀子を裕樹が止めた。
「母様は具合が悪いんだ。そのまま寝ていていい。」
「こちらへお通しするの?」
それは嫌だと思った。ならばきちんとした格好で出迎えたい。そう話す母に自分が応対すると裕樹は言って立ち上がった。



「お母様が伏せておいでだと聞いたものですから。」
花束を持って来たおつねを伴った沙穂子だった。
「起きていられないもので。」と自分が相手をすることを裕樹は最初に詫びた。
「そんなこと気にしないで下さいませ。」
沙穂子はさして気にしていないといった様子だった。そして頷くとおつねが裕樹に花束を差し出した。
「どうも。」母から失礼がないようにと言われているに関わらず、やはり心の内が外に出てしまう裕樹である。そしてそのような自分の態度におつねがややムッとしたのが分かった。
「お疲れが出たのでしょうか?」
そう尋ねながら沙穂子はさりげなく、失礼にならないように家の中に目をやった。琴子が出てくるのではと気にしているのだろうと裕樹は気付いた。琴子がいなくなったことは大泉家に言っていないので当然といえば当然だろう。
「疲れというか、大きなショックを受けたもので。」
「え?」
もしや自分と直樹が結婚することがショックなのかと沙穂子は不安になった。
「娘が突然いなくなれば、寝込むのも無理はないでしょう?」
「いなくなった…?」
「ええ。琴子が家を出たのです。」
ずっと心の中で押さえていた恨みを裕樹は爆発させてしまった。しかしもう止めることはできなかった。
「琴子さんが家を出たとは?どちらへ?」
「どちらもこちらも。」と裕樹はフッと冷たい笑みを浮かべた。「誰にも行き先を告げずに一人で消えてしまいました。」
「まあ…恩知らずな」とつぶやいたおつねの声を裕樹は聞き逃さなかった。
「誰よりも恩を強く感じていたからこそ、琴子は消えたのです。何も知らない他人にあれこれ口を出される覚えはありません。」
裕樹の剣幕におつねは「まっ!」という顔をしたが沙穂子に「おつね」と睨まれ口を噤んだ。
「…自分がいたら兄の今後の人生の邪魔になると言ってましたから。兄があなたと新しい人生を送れるようにと身を引いたのです。」
あえて沙穂子に恩を着せるように裕樹は告げた。琴子がいなくなったのは大泉家に遠慮してのことだと裕樹は声を大にして言いたかった。
「だからといって兄とあなたの結婚に反対することはないのでご安心下さい。」俯いている沙穂子に、少し声を和らげて裕樹は言った。
「兄に新しい人生を送ってもらわないと、琴子が消えた意味がなくなってしまいますしね。」



「何なのでしょうか、あの態度は!」
「おつね、直樹さんの弟さんに向かって。」
帰りの車の中でおつねは怒りを爆発させていた。
「だからといって失礼にも程があります。第一、直樹様の命の恩人に向かってあのような口のきき方を。」
「…それだけ琴子さんを慕っていらしたのでしょう。」
自分のこともあれほど慕ってくれるだろうか、いや難しいだろうと沙穂子は分かっていた。入江家に家族の一員として迎えられることは不可能に近い。琴子から直樹を奪ったのは自分――。
「奪ったなどと考えられる必要はありませんよ、お嬢様。」
さすが幼い頃より傍にいただけに、おつねは沙穂子が考えていることを言い当てた。
「でも…。」
「違います。直樹様はお嬢様を選ばれたのです。上海にいた時から献身的に尽くされたお嬢様を。」それは当然の成り行きだとおつねは強調した。「相原さんがいなくなったことはお嬢様と何の関係もありません。どうか気にされませんよう。」
「そう…ね。」
おつねの言うとおりだと沙穂子は自分に言い聞かせた。そうだ、直樹は琴子のことは忘れていたのに自分のことは忘れていなかった。ということは、直樹の中では琴子よりも自分の方が存在が大きかった証拠だ――。



来客の相手を終え部屋に戻ったと思ったら、女中が後を追いかけて来た。
「坊ちゃま、こちらのお花はいかがいたしましょうか?」
応接間に置いてきたことを裕樹は思い出した。
「奥様のお部屋に飾りましょうか…。」
「捨てちまえ!!」
いつも冷静な裕樹が声を荒げたことに、女中は驚いた。
「も、申し訳ございません。」
「いや、大声を出した僕が悪いんだ。」
すまないと裕樹は謝った。そして花を受け取ると女中を解放してやった。
沙穂子が選んだのか、美しい花束だった。が、それを見ていた裕樹の脳裏に蘇ったのは、入江家で紀子に教わりながら眉を寄せて花を生けていた琴子の姿だった。
「ぷっ!」と裕樹はつい思い出し笑いをした。「アハハハハ!!」堪え切れず声を上げる。また女中が気にして飛び込んでくるかもしれない。しかし裕樹は笑い続けた。が、その目はちっとも笑っていなかった。笑いながら裕樹は花束を手に取った。そして部屋の窓を開け、それを放り投げた。花束が落ちて行くところを見つめる裕樹の顔から笑いは消え、その顔はゾッとするほど冷たいものであった。



台所の窓から、この家の主が帰ってくる姿が見えた。
「お帰りね。」
「私、玄関へ。」
そう言って玄関へ向かったのは琴子だった。
「お帰りなさい、おじい様。」
「ただいま、琴子ちゃん。」
琴子が出迎えていたのは、70近い老人であった。和服をきちんと着こなしたその老人は琴子を孫であるかのように優しく見つめた。
「お帰りなさいませ、あなた。」
「おお、今日の夕飯は何かな?」
老人が訊ねた相手は60過ぎの、こちらも上品な和服が似合う女性だった。
「おばあ様特製の煮物ですよ。」
琴子が言うと「それはわしの好物だ」と老人は顔を綻ばせた。



あの日、車で強引に連れて行かれた先は人目を忍ぶように建っている家であった。
「これから可愛がってやるからな」と卑しい顔つきの禿頭の老人が琴子の手を持ち上げベロリと舐めた。その気味の悪さに琴子の背筋は凍り付いた。そして次に琴子が取った行動は今考えても信じられないものであった。
「ギャーッ!!」
老人の悲鳴が当たりに響き渡った。琴子は枯枝のごとき老人の腕に思い切り噛みついたのだった。突然のことで座り込んでしまった老人の隙を突き、琴子は駆け出した。運転手が追いかけてくるのが見えた。捕まるわけにはいかないと、琴子は全力で走った。
角を曲がったところで琴子は人にぶつかってしまった。
「大丈夫かい?」
「すみません!」
見るとこちらも老人。そうしているうちに運転手が追いつき、息を切らせてあの禿頭老人もやって来た。

「逃がすか!」
一体どこにそんな声を出す力があるのかと思うくらい禿頭老人は怒鳴った。運転手が「来い!」と琴子の腕を引っ張った。
「待たんか!」
すると琴子がぶつかった老人が叫んだではないか。その声の張りに琴子も禿頭老人も運転手も驚いた。
「…この爺さんの関係者か?」
老人は琴子に確認した。琴子は「いいえ!」と否定した。
「ふうむ、ならば嫌がっている女性を無理やりどうにかしようとしていると?」
老人は禿頭老人を見据えた。
「何が爺さんだ。お前も爺さんのくせに!」
禿頭老人が睨む。するとそれにひるむことなく老人が琴子を後ろへと庇った。
「でも!」と琴子は前に出ようとした。ぶつかった老人は杖をついている。運転手にひどい目に遭わされることは目に見えて明らかであった。
「いいから。」
老人はニヤッと笑うと杖を構えた。驚いたことに背筋がシャンと伸びた。
「同じ老人の風上にも置けない奴め!」
老人の声に運転手がとびかかった。琴子はそこでさらに信じられない光景を目にすることとなった。
「アイヤーッ!!」というよく通る声がしたかと思うと…運転手がうつ伏せに倒れていたのである。老人の杖が見事に命中したらしい。
「…来い!」
老人は禿頭老人を見やった。途端に禿頭老人はブルブルと震え出した。
「来ぬのなら、わしから…。」
「ひぃぃぃ。助けてくれええ!!」
禿頭老人は「もうしない!もう何もしないから!」と繰り返すと来た道を走って行った。目を覚ました運転手も後を追いかけて行った。

「…大丈夫かい?」
残った老人は杖を元の位置に戻すと、琴子を気遣った。琴子は呆然として声も出なかった。琴子の格好を見た老人は何か感じたのだろう。「自分の家で休んでいくといい」と言ってくれた。
「大丈夫。わしはあのヒヒ爺と違ってそういうことをする体力はないからな。」
自分を安心させるように軽口を叩く老人に琴子の顔もようやくほころんだ。そしてその言葉に甘えて、老人の家へと付いて行った。


老人の家はその昔、商家の別宅だったという落ち着いた佇まいであった。空襲で焼け出された後、引っ越して来たのだという。
「まあ、かわいらしいお客様ですこと。」
二人を出迎えたのは和服が似合う年配の女性であった。
琴子が助けられたことを話すと女性はコロコロと笑って言った。
「そりゃあうちの旦那様に勝てませんよ。何といっても剣道七段なんですもの。」
今でも毎朝素振りを欠かすことはないのだという。

着替えてきた老人は真瀬浩介と名乗った。そして女性は浩介の妻、七重。二人は聞き上手で琴子の話を上手に聞き出した。
「なんと…ご苦労なさったんですねえ。」
七重が目頭を押さえる。
「巷では夫は戦死したものだと思って妻が再婚したら、本人が帰ってきたという話もあると聞いたが…。」
真瀬も琴子の辿って来た運命に深い溜息をついた。夫は生きていたが自分のことを二度も忘れた、しかも別の女性と結婚しようとしているとそんな辛い話は聞いたことがないと真瀬は琴子の境遇に同情を寄せる。
「生きて帰ってきてくれさえすれば…と思っていたが、生きて帰って来てもそんな辛いことが待っているものとは。」
真瀬の視線の先をたどり、琴子は気づいた。そこには仏壇がありまだ若い男性の写真が置かれていた。
「…孫だよ。戦死したんだ。」
真瀬夫妻の息子夫妻は早くに亡くなり、残された孫息子をそれは愛情かけて育てたのだという。そんな孫息子を戦争は無残に奪っていった。

真瀬は琴子に、しばらくここで暮らすように勧めてくれた。七重もそうした方がいいと言ってくれた。そこまで甘えていいのだろうかと固辞していた琴子であるが、甘えられる時は甘えるべきだと真瀬達に説得され、この家で世話になることを決めたのだった。






関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

待ってました~!!

今か今かと続きを待ちわびてましたよ~。
もう琴子がどうなったのか気になって気になって。。。
いい人に巡り合えてよかった。
やっぱり日ごろの行いがいいからでしょうね。

てか、裕樹の男前度がハンパない。
おにーたまがヘタレると、次男はこんなにシャンとするんですね!
言うべきことをはっきりきっぱり言う裕樹に惚れてまいそーです(笑)

今後の展開も気になります。
また続き楽しみにしてますね~❤

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

琴子ちゃん…良かった(;_;)

今晩は~続きを凄くまってました(笑)
ノコノコと現れたアホ子、入江お母さんが寝込んでるのに、何しに来たんだと私も怒りがフツフツと沸いて来ます(`o´)そうだそうだ!裕樹君良く言った!偉いぞ、格好良い~花束なんか受け取らず、アホ子に投げ付けてやれば良かったのに~私だったら絶対やるのに、アホ子は入江家に嫁として受け入れられるか心配してたけど、あの裕樹君が許さないよねきっと。裕樹君がアホ子にガツンと言ってくれて私の胸がスッとしました(笑)
一方琴子ちゃんは優しい、おじいさんとおばあさんの所にお世話になってたんですね。良かった~本当に良かったです(;_;) 琴子ちゃんは自分の身の上を全部話し、良い人に助けて貰って本当に良かったです。

ホッとしました(^^♪

 いつも楽しく読ませていただいています。
琴子のことが気がかりで・・・更新して欲しいと思いつつも、先を読むのが怖くて(>_<) 違うお話の更新にホッとしたり・・・
でも・・・続きが気になってとずっとドキドキしていました。
 とにかく琴子が酷い目に合わずに良かった。やっぱり優しくかわいい琴子には善い人がやってきてくれるんですね。
 ドキドキしながら続きのお話を楽しみにしています。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

取り敢えず❓よっかった?琴子ちゃん無事だったんですね、いい人。おじいさん、に、助けてもらって、よっかったね。それにしても、どの、面下げて、おつねも、佐保子も、きったんだか!祐樹君、よくやった、佐保子も、おつねの、持ってきた、花なんか、すてちゃえ!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

更新ありがとうございます‼︎琴子ちゃん、直樹君の事がとても心配で、その後がどうなるのかとドキドキしながら待ってました。二人にとって良い未来が待っているといいなぁと願ってます‼︎

きくこさん、ありがとうございます。

こちらこそ、待っていて下さりありがとうございます。
二人がいい未来になるかどうか…そうなるといいですが。
またドキドキして頂けるよう頑張ります。

ちぃさん、ありがとうございます。

そうですよね、そりゃあ悶々としたまま年を越すのは嫌ですよね。
続きをお届するのが遅くなり申し訳ありませんでした。
琴子ちゃんが無事であることが分かっていただけて、よかったです。
コトリーナちゃんも楽しんでいただけて何よりです。
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。

kabeさん、ありがとうございます。

初めまして、コメントありがとうございます。
そうですよね。直樹坊ちゃんは悪くないんですよね。頑張って生きてきたのに…琴子ちゃんのことを忘れてしまって。
ついつい忘れられている琴子ちゃんに力が入りますが、忘れてしまった方も辛いですよね、きっと。
あと入江家のメンバーは直樹坊ちゃんが気の毒でたまらないんだと思います。記憶を失うほど過酷なことがあったのだろうと思うと…身を切られるほど辛いことでしょう。

anmismileさん、ありがとうございます。

先を読むのが怖い…うわあ、嬉しいです(笑)
ワンパターンであることが気になっているので、そうやって思っていただけて!!
そうですよね、私も違うお話を書いて気分転換をはかっております。ちょっとリフレッシュしたので続きが書けました!
本当、優しい琴子ちゃんはどこかで守られているんでしょうね。

shirokoさん、ありがとうございます。

そうなんですよね~。
12月は何かに取りつかれたかのように更新していたので…年が明けたらちょっと気が抜けてしまったのかもしれません。
平成の琴子ちゃんに昭和の琴子ちゃん…そう言っていただけると嬉しいです!
どうしても時代が変わると、琴子ちゃんは控えめになってしまうので。
そうそう、長男が戦死したら次男と…ってありましたよね!
続き、頑張りますね♪

でめさん、ありがとうございます。

ありがとうございます。
元気の源と言っていただけて嬉しいです。
でめさんや皆さんのコメントは私の元気の源でもあります!
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
リンク