日々草子 大蛇森の純白

大蛇森の純白

大蛇森マニアにしか受けないこのシリーズ…タイトルを目にした瞬間、がっかりしたという溜息が発生しているかと思います。

☆☆☆








この日の朝は雪が見事に積もっていた。
ううーん、日光が雪に当たって眩しいことこの上ない。しかしどうだろう、ここまでの銀世界、心が洗われるようじゃないかい?
静かに降り積もった雪は…まるで入江先生に対する僕の仄かな想いのようだ。長い年月をかけて積もった…。

「あーあ、こんなに積もっちゃって!」

…美しき銀世界をぶち壊す、耳障りなダミ声が聞こえた。ちっ!
いけない、いけない。ダミ声に惑わされず美しき世界に心を戻さねば。
全く新年早々、雑音に惑わされる羽目になるとは。

僕は雑音から逃れるよう、銀世界に心を戻した。
そう、雪はまさしく恋心。
少しずつ、少しずつゆっくりと積もっていく僕の淡い恋心…。

「ここまで積もると、溶けるのにやたら時間がかかるのよねえ。」

…だから黙れ、チンチクリン!

全く風情を理解しない奴には困ったものだ。そりゃあ確かに雪に慣れていない地域ではたまにこうして積もると大変だ。だが、少しくらい見慣れないこの世界に酔いしれたっていいじゃないか。
お前と違ってこちらは頭を使ってるんだよ!疲れた脳を美しい景色で癒したいんだってのが分からないのか、まったく!

おっといけない。あいつにつられて僕まで風情を失くすところだった。優雅に季節を楽しまねば。
ああ、それにしても本当になんて美しいんだろう。しかしこの雪景色も時が経つにつれ、失われていくのだ。
それはまさしく、僕の入江先生への想いそのもの。。ゆっくりとしずかに募る僕の恋心も、すぐに溶けてしまうような儚さよ…。

「溶け始めてもさ、ベチョーッとしつこく残るのよね。」

…僕の恋心がベチョーッと残るとでも?しつこいって言いたいのか、お前は?え?

「そんでもって、人に踏みつけられて真っ黒で汚くなって。ああ、バッチイ!!」

ば、ば、バッチイ!?この僕の純粋な想いがバッチイだと!?

「いい加減にしたまえ、入江くん!!」
とうとう僕は堪え切れず、その名を口にしてしまった。ああ、もう本当に嫌だ!
「大蛇森先生、こんな所で油売ってたんですか?」
昨年より更に輪をかけたマヌケ面をチンチクリンがさらしていた。
「…それはこっちの台詞だよ。」
おい、油売ってたのはお前の方じゃないか。

「そもそも君には風流を解する心はないのか?」
「はあ?」
よもや風流という言葉の意味すら分からないのか?
「この雪を見て美しいとか…ああ、もういい。君にそんな話をしても時間の無駄だろう。」
「失礼な!」
動くこともせず、食っちゃ寝の正月を見るからに送っていたかのような、真ん丸に膨れ上がった顔を、更に真ん丸く膨らませるチンチクリン。そのまんま顔だけを三方に載せたら鏡餅になること間違いなし。もっともチンチクリン鏡餅じゃ縁起悪いけどね。

「君はこの雪の中に頭を突っ込んで、脳を十分に冷やしたまえ。まあ手遅れだと思うが腐りかけた脳が少しはマシになるかもしれないからな。」
「腐ってなんていませんよ!」
「ああ失礼。腐りきって溶けたんだっけ?」
「ちょっと!」
フン、これ以上チンチクリンの相手をしていたら、僕の優秀な脳までどうにかなりそうだ。『脳神経外科のアインシュタイン』と呼ばれている僕の脳がチンチクリンに毒されたらこの病院の機能はストップしてしまうだろう。斗南大病院の未来のために僕はここを立ち去らねば。
まったくあいつの相手をしていたら、新年の清々しい空気で洗われたばかりの僕の純白な心がドス黒くなってしまう。ああ、恐ろしや恐ろしや。

と、僕の足が止まった。雪よりも美しき人を見つけてしまった…。

「大蛇森先生、当直お疲れ様でした。」
入江先生が、昨年よりも更に美しい笑顔を僕へ向けた。
「いやいや。」
雪以上に心の浄化作用をもたらす、それが入江先生だ。ああ、雪に反射する日差しが先生の白衣にも反射し…何て神々しいのだろうか。キラキラと輝いている先生はまるで雪の精のよう。笑顔がいつもの百万倍も輝いて、周りにダイヤモンドをきらめかせているようだ。
ああ、2015年の入江先生は美しさに更に磨きがかかってもはや人とは思えないほどだ。
神よ、なぜゆえこのように美しき人をこの世に誕生させたのだろう。そのせいで僕はどれほど、心を惑わせればいいのか。

それにしても…。
本当にこんな美しい先生がどうしてあんな化け物と一緒にいるのだろうか。
そもそも、入江先生にノーベル平和賞が授与されたっておかしくない。授賞理由、自己犠牲の精神にてチンチクリンと共に暮らしていること。うん、絶対与えられるべきだと思う。
2015年こそ、ぜひともノーベル平和賞を受賞してノルウェーの授賞式にて崇高な演説を披露してほしい。あ、その時は勿論僕も一緒に。

美しい先生の隣に立つことはとてもおそれおおかったけど、僕は勇気を出して近づいた。
ああ、歩く空気清浄機のような先生の隣に立つだけでチンチクリンの毒に侵されたこの身が浄化されていくようだ。
…それなのに、どうして一緒に暮らしている、もとい、入江先生に寄生しているチンチクリンは浄化されないのだろうか。

「出勤大変だったんじゃないかい?」
「いえ、僕はさほど。まあ琴子が足を滑らせてしこたまお尻を打ってましたけど。」
なるほど、さっき震度2の地震があったが、それはチンチクリンが転んだからか!そりゃあ揺れるわけだ。
それにしてもあいつのデカ尻の犠牲になった道路が哀れだな。きっと陥没して通行止めになってるに違いない。今頃あの辺りは交通渋滞が起きているだろうよ。

「しかし、ここまで積もると見事ですね。」
「そうだね。」
入江先生と二人で雪景色を眺めることができるなんて。何てついているんだろうか。
こうして立っていると、まるでここが病院じゃないような気がする。
そうだ、ここは温泉宿。雪見酒としゃれこむ僕たち。ほんのりと赤く染まった先生の頬…。浴衣がはだけ、少し覗いている雪のような先生の白い胸元…ああ、まずい!これ以上想像したら仕事が手につかなくなる。落ち着け、落ち着け僕の純愛!

「まだ誰も足跡を付けてないところを見ると、付けてみたい衝動に駆られるんですよね。」
「ハハハ、先生、子供みたいなことを言うんだね。」
すると入江先生は「フッ」と照れたように笑い、「失礼します」と去って行った。

ハッ!!僕の脳に何かが浮かんだ。
誰も足跡を付けていないところに足跡を付ける…足跡を…。
これはもしや、もしや…先生からのメッセージ?

昔はストレートに自分の気持ちを打ち明けるより和歌に思いを込めて伝えたというではないか。
そうだ、入江先生のことだ。奥ゆかしい性格ゆえに遠回しに自分の気持ちを伝えてきたのでは?

誰も足跡をつけていない雪に自分の足跡を…雪は白い。白いは…僕の肌!!
そうだ、あのチンチクリンですら僕の肌を見て「真っ白い」と称したではないか。風情も何もないダメダメチンチクリンですらそう称さずにいられなかった僕の裸体。僕の陶器のような白く美しい肌!それをその場にいた入江先生がそれを知らないはずがない。

つまり意味を解釈するとこうなる。
僕の白い肌に足跡、自分の痕跡を残したい。すなわち――。

―― 今年こそ枕を交わす仲になりたいものです ――


うわぁぁぁぁぁっ!!
そ、そんな!そんなこと言われたら僕は…ああ、だめだ!興奮のあまり立っていられなくなった。僕はその場にしゃがみこんだ。
どうしよう、息が、息が上がる!呼吸器!呼吸器の医者を早く!
いや息が上がるどころじゃない!鼓動が速い!ということは心臓に影響があるのではないだろうか?誰か、心臓専門医を!!

そうか、先生はとうとう自分の恋心を打ち明ける決心をしたんだ。
僕と共に生きたいと。世間の目がどうであろうと愛し合いたいと!!建前などを全て捨てて自分に正直に生きて行く決心をしてくれたんだ!!

先生、僕の心はもう決まっています。さあ、僕の白き胸に思いきり飛び込んできて下さい!!
どうぞ、先生の好きな所に構わず先生の痕跡を残して下さい!


こうしてはいられない。
ああ、どうしよう。近いうちに先生を迎え入れる準備をせねば。ベッドを買い替えようか?シングルサイズで密着がいいのかな?それともダブルでゆったり?
それとも先生は布団派?そうするとリビングのテーブルを片づけて…ああ、どうして和室のある部屋を借りておかなかったのだろうか。僕の2LDKには和室がない!!
ベッドにせよ布団にせよ、シーツと掛け布団はやはり赤がいいだろうか。ほんのりと灯した明かりの下で絡み合う僕たち…。

いやいや、もしかしたら先生は職場でというのが実はお好みとか?
「職場で秘密めいた関係ってドキドキしませんか?
なあんてイタズラっぽく笑われたら…もう止まらない!どうしようか、どうしようか!!
…そういえば先生は上と下、どちらがお好みなのだろうか?いや、痕を残したいというのだから上か?うん、僕もその方が…ああ、また息が上がった!!

先生、今年は先生の全てを受け入れます!さあ、どうぞ僕の雪のごとく白い胸に飛び込んできて下さい――!!



************

「…せっかく消えたとこだったのに。」
手鏡に向かって琴子が口を尖らせている。
「何でこういう所に痕を残すかなあ?」
といいながら、琴子は俺がつけたところに絆創膏を貼っている。
「雪景色を見ていたら、その気になってね。」
お尻を擦りながら歩いていた琴子を見つけて、ちょうど誰もいなかった医局へ連れ込んだ。「職場ではキス以上はNG」と琴子が言うので、それから先は家でのお楽しみだ。
「大蛇森といい入江くんといい、雪って人をおかしくさせるんだね。」
「誰も痕を残していないところに、俺の印を残すのがいいんだよ。」
「…よく分からない。」
怒っている琴子の首の後ろの所にまた痕を残すと、「もう!」と顔を赤くして怒った。「めっ!」って目を吊り上げられても全然怖くないし、むしろその気にさせられる。
雪は確かに人を狂わせるかもしれない。そんなことを思いながら「貼って」と頼まれた絆創膏を俺は琴子の首の後ろにペタリと貼りつけた。





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純白・・・?

新年早々大蛇森大暴走。。。

なんか、妄想が琴子を上回ってる気がする(^_^;)

ぶっちゃけ・・・キ★モ★イ★

赤い布団で直樹と大蛇森が・・・。

水玉さん、わたしをインフルエンザ以外の病気で寝込ませたいんですか!?

次こそは、【永遠に・・・】の続きお願いしますね~(笑)

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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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