日々草子 入江法律事務所 40

入江法律事務所 40

ここらで甘いものを投下しておいた方がいいかと思いまして♪

☆☆☆






「あれ?」
出勤してきた琴子は腕時計に目をやった。午前8時50分、間違いない。
「先生、早いですねえ。」
10時近くに出勤してくる直樹がもう机の前にいた。
「ん?」
更に琴子は気付いた。直樹の服装である。それは昨日とまるっきり同じ。ネクタイも同じである。
「先生…もしかして昨夜、帰ってないとか?」
「ああ。」
直樹は返事をすると欠伸をした。それを見ていた琴子は不安に駆られる――。

**********

「直樹、こんなことしていていいの?」
薄暗い部屋の中。ダブルベッドから直樹を見ている一人の美女。
「結婚を前提にお付き合いしている人、いるのに。」
「いいんだ、あいつは。」
ネクタイを乱暴に外しながら直樹は思い出したくもないことをという感じで答える。
「お子様のお相手は疲れるよ。」
と、裸になると直樹は女の隣に潜りこんだ。直樹が手を伸ばすと女が「キャッ」とはしゃいだ声を出す。
「子守から逃げてきたんだ、アリサ、癒してくれよ。」
「もう…しょうがない人ね。」
クスクスと笑いながら直樹とアリサはベッドに潜った――。

**********


「先生、アリサとはどういう関係なんですか!!」
「アリサって誰だよ!?」
突然降ってわいた見知らぬ名前に驚く直樹であるが、その前で琴子は「うわ~ん!!」と泣き叫んでいる。

「ったく…。」
渡してやった高級ポケットティッシュで涙を拭く琴子を見ながら直樹は呆れていた。
「お前の妄想癖はいい加減慣れっこだからあきらめているけど、せめて内容が分かるように最初から口に出してくれよ。」
「…すみません。」と言う琴子はまだ「ぐすん」と鼻をならしていた。
「だって先生が同じ服だから…。」
「仕事が終わらなくて気付いたら終電間近だったんだよ。集中して一気に仕上げたかったし、帰るのが面倒だったし、今日はアポも裁判もねえから泊ってもいいかって。」
「だったら私も残ったのに。」
「いいよ。零細事務所だから残業代もろくに出せないしな。」
「そんなことないですよ!」
バンと直樹の机を琴子は両手で叩いた。
「ちゃんとボーナスもいただきましたし。おかげでほら!」
琴子はまだ脱いでいなかったコートを見せるため、直樹の前で一回転した。
「新しいコート、この間買っちゃいました。お店に行ったら20%オフで、なおかつ、ポイントが結構貯まっていたので安く買えたんですよ!」
「…結局安月給だと遠回しに言ってねえ?」
「可愛いでしょ?このリボンに一目惚れしちゃって。」
首元にリボンが飾られているキャメルのコートであった。

「…それ、仕事の時は着てくるなよ。」
「へ?」
似合うとは言ってもらえるとは期待していなかったが、まさか否定までされるとは思っていなかった琴子は驚いた。が、すぐに「あ、そうですよね。ちょっと可愛過ぎて仕事には向いていないかな…?」と寂しげに呟いた。法律事務所という場所にはふさわしくないかとしょんぼりすると、
「そんなもん着ていたら、お前が声をかけられたらどうする?」
と直樹が続ける。
「声って…。」と言い琴子は「ああ」とポンと手を叩いた。
「なるほど。大丈夫ですよ。そうなったら買ったお店を教えてあとポイントも貯まるし、使えるよって教えてあげますから!」
「お前は店の回しもんか!」
コートについて訊かれると思い込んでいる琴子に直樹が突っ込んだ。
「違うよ。そんなよく似合っているもん着ていたら、変な男が寄ってくるだろうがって意味だ。」
これまたポカンとした顔をしていた琴子であったが、直樹の言葉の意味が分かり顔をポッと赤らめた。
「そんなことないですよ…もう。」
「フン。」
自分で言っておいて決まりが悪くなったのか、直樹はクルリと椅子を回転させ琴子に背を向けた。
「ったく、無駄遣いしてまた金がないって泣きついても知らねえからな。」
「無駄遣いって、これは違いますよ。」
琴子はリボンを引っ張りながら呟いた。
「だって先生に可愛いって思ってもらいたいから買ったんですもん…。」
琴子に背を向けていた直樹の頬が緩んだ。自分のために買ったと言われて悪い気がしない。だがそれを琴子に見透かされるのは更に決まりが悪い。
「…だったら俺と出かける時に着て来いよ。」新聞を広げながら直樹は言った。「それだったら守ってやれるから。」
これにはさらに琴子の顔が赤くなったのだった。



昼休み、二人は外に食事に出ることにした。もうすぐクリスマスで街はすっかりその飾り付けになっている。
「わあ、あそこ可愛い!」
「ああいうの、うちにも飾ってみようかなあ。」
とはしゃぐ琴子を直樹が優しい目で眺めていた。

「そうか、クリスマスか。」
直樹の言葉に「もう、今更何を!」と琴子は笑った。
「そういうお前だって、忘れていたくせに。」
「そんなことありませんよ。」
「嘘だね。意識していたら“デート”だ、“ディナー”だって騒いでいたくせに。」
「違いますよ。先生が忙しそうだから言わなかったんです。」
琴子の言葉は本当であった。この所直樹は裁判だ、顧問会社との打ち合わせだと飛び回っていた。だから事務所で机に向かう暇もなく、深夜まで書類作りをする羽目になった。何も手伝えない自分が情けないと思っていた。
「だからいいです。気にしないで下さい。」
クリスマスに限らなくても、こうして一緒にいられるだけで嬉しい琴子である。直樹がクリスマスに時間を作れるなら体を休めるために使ってほしい。
一方、直樹は直樹で琴子を楽しませたいとは思っていた。
「今からじゃ店は予約できねえし…。」
「平気ですよ、本当に。」気を遣わせまいと琴子は笑う。それを見ると更に直樹は何とかしてやりたいと思うし、琴子と一緒に過ごしたい思いが強くなる。

昼食を終えた後、書店に直樹は寄った。琴子は雑誌売り場で立ち読みしながら待つ。雑誌もクリスマス一色。早いものだとお正月特集である。
「イルミネーション…ま、テレビで見てもいいし。」と思いながらページをめくる琴子の手が止まった。

「悪い、待たせたな。」
目当ての本を買った直樹が戻って来ると、琴子は目を輝かせ直樹を見た。
「先生!」そして琴子は雑誌を直樹に見せた。「…うちに来ません?」
「え?」
「ほら、これ!」琴子が示すページには「ホームクリスマス」と大きく書かれていた。

「今、忘年会シーズンだからお父さんも帰り遅いんです。だから家に一人なのでよかったら。」
「それって…」聞きようによっては色気のある誘いであるが、琴子に限ってそれはないことは直樹が一番よく知っている。それにしてもいくら付き合っているとはいえ、そんな家に男を入れようとは。
「…男はオオカミだって知らねえのか。」
「ん?オオカミの丸焼きがいいんですか?」
「んなもん食うか!」
直樹が返事をする前に琴子は既にパーティーのメニューで頭がいっぱいのようである。
「ね、先生?私、腕をふるって御馳走作ります!七面鳥の丸焼きがいいですか?」
コートの腕をまくってみせる琴子。
「お前が腕をふるうと嫌な予感しかしねえ。」
「んま、失礼な!」
頬を膨らませる琴子の頭を直樹は軽く叩いた。
「お招きに預かるとするか。」
「うわあ!」と琴子は喜ぶ。「七面鳥ってどこに行けば買えるかな?」
「七面鳥はあきらめろ。」
「やっぱりオオカミがいいんですか?オオカミって日本にいましたっけ?え?外国まで狩猟に行くってこと?じゃあ、まず有給を頂いて。そうだ、動物図鑑買わないと!オオカミがどこにいるか調べて、そして世界地図を買って…。」
人差し指を口に当て真剣に考える琴子に、「オオカミからも離れろ!」と直樹はまた頭を小突いた。
「ほら、あっちで身分相応の、お前でもできそうな料理探して来い。」
「んもう。」と言いながらも、直樹に勧められた料理本コーナーへとスキップしながら向ったのだった。



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ラブラブな二人

甘いお話し…全然OKです(笑)入江法律事務所シリーズの続きは嬉しいです。
前日と同じ格好してる入江君を見て、変な妄想して泣くなんて相変わらずな琴子ちゃんに笑っちゃいました。ボーナスで可愛いコートを買った琴子ちゃん…入江君は他の男の人には見せたく無いよね(笑)可愛かったんだろうな~琴子ちゃん。素直に「似合ってる」って言ってあげれば良いのにね。どうやら二人は楽しいクルスマスを過ごせそうですね。琴子ちゃん頑張って料理を作らなきゃね(笑)

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この?お話も好きです、琴子ちゃん、直樹、皆さんも。クリスマスまで、アット?一週間早いですね、クリスマスが、終わると、今度は、カウントダウン、みなさん、メリークリスマス、ちょっと早いかな。

可愛すぎる!!

思わず、全話読み返しちゃいました!!
今のシリーズが結構つらい局面に来てたから、糖分補給できて良かったですよ~。
二人きりのホームクリスマス、いいですね~。
もう、いっそ直樹はオオカミに大変身しちゃえばいいのに~。
婚約してるんだから無問題ですよ!!
まぁ、アイちゃんパパはちょっと複雑でしょうけど、入江ママは大喜びの大興奮間違いなしだし!!
今年はどんなクリスマスを二人が過ごすのか、読んでみたいです~(*^_^*)

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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