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2014.11.12 (Wed)

シンデレラ・コトリーナ 13

今年もギリギリです、入江くんのバースデー(笑)
琴子ちゃんのバースデーの方に力を入れるのはイタキス月間の初日だから。うん、別に入江くんを粗略にしたいわけじゃない…はず。
ということで、入江くん、HAPPY BIRTHDAY!!




☆☆☆☆☆





【More】







「え!王子様のお誕生日にパーティー?」
11月のある日、コトリーナは驚いていた。
「ええ、そうよ。知らなかった?」
「何を今更」というような顔をしているのは王妃付き魔法顧問を務める魔女モトである。
「うん…。」
と答えつつ、コトリーナはそれが当然だということに思い当った。イーリエ王国の王位継承権第1位であるナオキヴィッチ王子の誕生日である。何も行事がない方がおかしい。このようなことに気付かなかった自分にコトリーナは呆れるしかない。
「ま、心配しなくて大丈夫よ。」
モトがポンとコトリーナの背中を叩いた。
「ちゃんとあんたも出席リストに入ってるって。」
「え?」
「あの王妃様があんたを呼ばないわけないじゃないの。」
息子の嫁にしようとコトリーナを呼び寄せたのはノーリー王妃である。コトリーナは出席できるか不安になっていると思っているモトはとことん、明るかった。
「うん…。」
しかしコトリーナの顔は浮かないままである。
そこに王妃付きの女官がやってきた。王妃がコトリーナを呼んでいるという。
「ほうら、ごらんなさい。きっとパーティーのドレスのお話よ。」
早く行けとモトに背中を押され、コトリーナは部屋を出て行った。

モトの言うとおり、王妃の用件はパーティーのドレスのことだった。もう既に沢山のドレスが用意されているとコトリーナが言っても王妃は聞き入れず、次々とコトリーナに似合いそうなドレスを見せた。コトリーナは王妃の気持ちを無駄にしないよう、笑顔を見せてドレスを選んで自分の部屋に戻って来た。

「はあ…。」
コトリーナは深い溜息をついた。そして部屋の隅に置いてあった木箱を取って来て中を開けた。
「王子様のお部屋、きれいに飾り付けてお祝いしようと思っていたんだけどな。」
不器用ながらに丁寧に作った飾りがそこには収められていた。ナオキヴィッチの誕生日にはこれを飾りつけてケーキを焼いてお祝いするつもりだったのである。
「でも王子様だもの、パーティーを開くのが当たり前よね。」
木箱の蓋をしめて、コトリーナは元の場所にそれを置いた。



11月12日。ナオキヴィッチの誕生日当日は朝から城内は大わらわであった。大広間は大勢の人が行きかい、午後には他国から祝いを述べるための使者が列をなし、夕方には多くの貴族たちがめかしこんでやってきた。それをコトリーナはぼんやりと眺めていた。

「あんた、まだ支度してないの?」
美しく着飾ったモトが部屋にやってきて呆れた。
「そろそろ準備しないと!」
モトはコトリーナを鏡台の前に座らせるといつもの「カマ~」という呪文を唱えた。するとあっという間にコトリーナの髪の毛は高く結いあげられ、まばゆい髪飾りが光る。ドレスは王妃に選んでもらった淡いブルーのもの。
「楽しみだわ。素敵な貴族の御曹司や大使がどれくらい来ているのかしら?」
コトリーナの手を引きながらモトは上機嫌で大広間へと歩いて行く。

煌々と輝くシャンデリア。その下には着飾った人々がおしゃべりをしながら国王一行を待っている。
「あら、あの方は伯爵さまの」「あちらは○×国の大使だわ、若いわねえ」と浮かれるモトのおしゃべりをコトリーナは「ああ、そうね」と気のない相槌を打っていた。
そのような時間がどれほど過ぎたか。高らかにトランペットの音が大広間に響き渡った。途端に皆のざわめきがぴたりと止む。
やがて国王、王妃、ナオキヴィッチの三人が用意された席にやってきた。
「お誕生日だけに、王子様とても素敵ね。」
どこぞの貴族令嬢たちの囁き声がコトリーナの耳に入った。確かにその通りだった。正装をしているからかいつも以上に凛々しい姿に見とれる。

やがて貴族や大使たちの祝いの言葉をナオキヴィッチが受け始めた。皆、それぞれプレゼントを持参している。ある者は上等な織物、ある者は滅多に手に入らない貴重な書物、いずれも素晴らしい品々。
それを受けるナオキヴィッチの堂々とした様子をコトリーナは遠くから眺めながら思っていた。あれが本来のナオキヴィッチなのだ。牛と牧場で戯れたり、図書室で並んで勉強したりと距離が近づいたと思っていたコトリーナであるが、今宵初めて、自分とナオキヴィッチの差を知ることになったのである。
「今までが図々しかったんだわ…。」
「え?何?」
自分に話しかけられたと思ったモトがコトリーナに聞き返した。「ううん」とコトリーナは笑って誤魔化した。

「今宵私と踊って下さるかしら?」
「あら、私よ。」
貴族令嬢たちがナオキヴィッチとダンスを踊る順番を騒ぎ始める。当のナオキヴィッチはまだ挨拶を受けているところであった。
「モトちゃん、モトちゃん。」
挨拶を終えた貴公子たちを品定めしていたモトのドレスをコトリーナは引っ張った。
「ちょっと気分が悪くなってしまったみたい。お部屋で休むことにするわ。」
「え?大丈夫?」
「うん。」
送ると言ってくれたモトをやんわりと断ってコトリーナは大広間を後にした。ナオキヴィッチはあの美しい令嬢たちと踊る。王妃付き特別女官とはいえ、この間までボロを着ていた自分になど声をかけるわけがない。令嬢たちと踊るナオキヴィッチを見るのは苦しかった。



「モト。」
挨拶が終わり、目当ての貴公子たちをおしゃべりに興じていたモトは振り返った。
「ま、王子様!」
自らやってきたナオキヴィッチにモトは驚いた。相手をしていた貴公子たちも慌てて「これは王子様」と頭を下げる。
「…ちょっといいか?」
ニッコリと笑いナオキヴィッチはモトをバルコニーへと連れ出した。女性たちの羨望の眼差しを受けながらモトはナオキヴィッチに付いていった。

バルコニーに出るなり、ナオキヴィッチが突然モトに振り返った。そしてと両手を壁につきモトを追い詰める体勢を取った。
「王子様!?」
何事かと目を丸くするモト。
「あいつはどこにいるんだ?」
「へ?」
「あいつだ。あの追剥ぎ女はどこにいるんだ?」
「追剥ぎ?ああ、コトリーナですか。」
「おかしいじゃないか。いつもだったら王子様とのんきにやってくるのに。」
「…気になります?」
モトに軽く睨まれ、ナオキヴィッチは両手を壁から離した。
「…別に。あいつは単純だからな。ちょっと声をかけられてホイホイと付いて行って騒ぎを起こさなければいいなと思っているだけだ。」
「気分が悪くなったからって部屋に戻りましたよ。」
モトの言葉に吊り上っていたナオキヴィッチの眉が元の位置に戻った。
「まあ、この人混みだからな。俺だって正直疲れている。」
肩をもむナオキヴィッチを見ながらモトは「猫をかぶられるのもそりゃあお疲れで」と呟く。
「部屋に戻ったならばいい。お前も男漁りは程々にしておけよ。」
用は済んだとばかりにナオキヴィッチは片手を軽く上げてまた大広間へ戻って行く。たちまち令嬢たちの歓声が響いた。



「終わったんだ、パーティー。」
城から出て行く馬車を廊下の窓から見下ろしながらコトリーナは呟いた。その姿は普段のドレスであった。
「はあ…ちょこっと出ただけなのに疲れたな。」
部屋に戻りベッドに倒れ込んだコトリーナは目を閉じた。と、そのお腹がグーと鳴り響いた。
「そういえば何も食べてなかったんだ。」
ムクッと起き上がったコトリーナはテーブルの上の銀の覆いに目をやる。
「一人で食べちゃってもいいよね?」
銀の覆いをパカッと開けると、そこにはこれまた不格好なケーキがあった。食べてもらえないと知りつつ、コトリーナが焼いたものであった。
「大広間のケーキ、すごかったな。」
この日のために腕がふるわれたと思われる見事なバースデーケーキをコトリーナは思い出した。何段だっただろう。あのような物を見た後にこのようなケーキはとてもナオキヴィッチに見せられない。
「うん、食べちゃおう。いただきまあす!」
お行儀が悪いと思いつつ、一人なのをいいことにコトリーナはフォークをケーキに振り降ろした…。



「ったく、騒々しいのは苦手だ。」
パーティーを終えナオキヴィッチは部屋へ戻る廊下を歩いていた。これ以上人に囲まれるのは嫌だと侍従たちの付き添いを断り一人であった。
「あいつはいねえし、ったく。」
コトリーナをからかうことを楽しみにしていたというのに肝心の本人がいないのも面白くなかった。
「早く寝るとするか。」
と、部屋の扉を開けたナオキヴィッチの目が大きく見開かれた。
「何だ、これは!?」



「え?ケーキはどこ!?」
フォークを刺そうとしたケーキが忽然と消えてしまった。どこかに飛ばしてしまったのかとコトリーナはテーブルの周囲を探すが、どこにも見当たらない。
「え~どこに行っちゃったの?」
声を上げるコトリーナ。と、その姿がそこから消えた――。



「これは一体、どういうことだ?」
見慣れた部屋の中が、飾りで溢れていた。それも先程まで過ごした大広間のような飾りではない。手作りの花や輪など素朴なものである。
「一体誰が?」と言いかけたナオキヴィッチの前に、「ポン」という音がしたかと思うと何かが出てきた。
「え?王子様?」
「お前、どっから来やがった!?」
突然ナオキヴィッチの前に姿を見せたのは、何とコトリーナであった。

「何で私がここに?」
「それは俺の台詞だ。」
ここでコトリーナは部屋の飾りに気がついた。それは自分が木箱にしまったはずのもの。
「これ、ちゃんとしまっておいたのに…。」
「しまっておいた?」
「あ、いえ。」
それだけでナオキヴィッチには十分な答えとなった。
「お前が作ったのか。」
「…ええ、まあ。」
隠しても仕方ないのでコトリーナは認めた。
「飾ったのはあのオカマ魔女の仕業か。」
それはコトリーナも同感であった。自分がここに飛ばされたことから考えてもそうに違いない。

「で、これもお前の作品ってことだな?」
「ああ!」
消えたケーキがそこにあった。
「…腹減ったな、食うか。」
「え?だって王子様、あんなにたくさんの御馳走、ケーキだって。」
「あれは来客のためのものだ、ばあか。」
「そうなのですか?」
「この俺があんな甘いもんを食えると思うか?」
「じゃあ、これだって。」
チラリとケーキを見るコトリーナに、
「これは甘くないだろ。」
とナオキヴィッチは素っ気なく言った。
「お前が焼いたってことは焦げだらけだろう。むしろ苦いに違いない。」
「そこまで苦くありません!」
ぷぅと頬を膨らませるコトリーナの前で、ナオキヴィッチはこれまた行儀悪くフォークでケーキを切って口へ入れた。
「…ケーキの食感じゃねえな、これは。」
「なかなか膨らまなくて…。」
「ちゃんと材料の分量を正確に量ってるのかよ?菓子は分量どおりが基本なんだぞ。」
ナオキヴィッチの言葉にコトリーナは返事につまる。
「ったく、次はもうちょっとまともなもんを食わせてくれよ。」
「次も食べて下さるのですか?」
「お前の作ったもんの犠牲者を増やさないのも王子の務めだ。」
「犠牲者って…。」



「…全く世話のやけること。」
二人がケーキを食べる様子をバルコニーから眺めていたのは、モトであった。
「あの飾りだってあたしが気付いたからよかったものの。」
正直に準備していたと言ってくれればと思うが、そういう所で妙に遠慮深くなるのがコトリーナだった。
「王子様は行動に出しているくせに鈍感だし。あの子はあの子で遠慮深い。そんな二人じゃ進むものも進みやしない。さて、仕上げといきますかね。」
モトは杖を取り出し高く掲げると叫んだ。
「カマ、カマ、カマ…カマアゲウドン~!!」



「あら、音楽が。」
パーティーは終わったというのに音楽がどこからか聞こえてきた。
「素敵…。」
「ワルツか。」
耳を傾けながらコトリーナは、このような曲に合わせてナオキヴィッチと踊れたらどんなにいいかと思った。
目を閉じて音楽に聞き惚れるコトリーナにナオキヴィッチは声をかけた。
「…踊るか?」
コトリーナの大きな目が更に大きく開かれた。
「だって王子様はもうたくさんの方と…。」
「踊ってないぞ。」
「なぜですか?」
次は丸くなったコトリーナの目を見ながら「よく動く目だ」と感心しながらナオキヴィッチは、
「何だか知らないが女同士で揉め始めたんだ。関わりたくなかったから放っておいた。」
自分こそナオキヴィッチのダンスの相手をと令嬢たちがそれはすごいバトルを繰り広げたのだった。もっともそのようなバトルがなくてもナオキヴィッチは誰とも踊るつもりはなかったが。
「でも私がお相手なんて…。」
初めての出会いで散々ナオキヴィッチの足を踏みつけたことを思い出し躊躇するコトリーナ。
「何を今更。」
ナオキヴィッチはコトリーナを強引に席から立たせるとその手を取った。
「いいか、俺の言うとおりに…そう、その調子。」
他に誰もいないからかコトリーナの足は軽やかに動いた。

「あ、そうだ。忘れてた!」
暫く優雅に踊っていたコトリーナが突然声を上げ、そしてナオキヴィッチの足を踏んでしまった。
「てめえ、突然止まるな!」
「ごめんなさい。でも大事なことを忘れていて。」
「俺の足を踏まないことより大事なことって何だよ?」
コトリーナはナオキヴィッチの顔を見上げて口を開いた。
「お誕生日おめでとうございます、王子様。」
改まって言われてナオキヴィッチはきょとんとした顔になった。が、すぐにその口に笑みが浮かんだ。
「…ありがとう。」
こちらも改まって言われて、コトリーナの顔が真っ赤になった。
「…曲がってる。」
何が曲がってるのかと思うコトリーナの髪にナオキヴィッチが手を伸ばした。
「え?飾りなんて…。」
「今夜のドレス、お前になかなか似合ってるじゃん。」
見るとコトリーナのドレスが、あのパーティーの時に着ていたドレスになっている。髪もまた綺麗に結われていた。
「あ、ありがとうございます。」
更に赤くなったコトリーナを見ながら「目だけじゃなくて顔の色までクルクルとよく変わる奴」とナオキヴィッチは面白く見ている。
「馬子にも衣装ってところか。」
「孫?私、王子様の孫なんですか?いや、王子様、いくら仏頂面と言われていてもおじいちゃんには見えませんからご安心を。」
「孫違いだ。それに誰が仏頂面だ。お前、俺に喧嘩売ってるのか?あ?」
「いえいえ、とんでもない。」
漸くいつものコトリーナが戻って来たらしい。



今までもらったどんな高価なプレゼントより、この夜がナオキヴィッチには一番のバースデープレゼントとなった。素朴な、でもとても心のこもった飾りとケーキ、そして誰よりも心のこもった「おめでとう」の言葉はナオキヴィッチの心にほんわかとした温かさをもたらした。
二人はこの晩、誰にも邪魔されることなく踊り続けたのだった。






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