日々草子 永遠に君を愛す 14

永遠に君を愛す 14

すみません、イタキス祭り終了まであと10日…絶対終わりません。

☆☆☆☆☆







先程の騒ぎが嘘のような静かさであった。
縁側に座り、琴子は夕日をぼんやりと眺めていた。先程、一体何を直樹は口走っていたのか。確か最後に思い出す顔は自分の顔がいいとか。いやいやと琴子は首を振ってそれを振り払った。
「おい。」
振っていた首をそのまま、琴子は声がした方へ向けた。いつの間に来たのか、直樹が前に立っていた。
「…一応、さっきのことを話しておこうかと思って。」
あのままやり過ごすことも考えたが、それは琴子に悪いと思いやって来たのだった。
「あのさ…。」
「大丈夫です、ちゃんと分かってますから。」
立ち上がって琴子は言った。
「あのお嬢様との結婚を断りたかったんですよね。すみません、坊ちゃんの気持ちを無視してせっついてしまって。」
直樹は黙って琴子を見ていた。
「あのお嬢様だったら坊ちゃんとお似合いだろうなって純粋に思っただけなんです。」
「嘘つき。」
「え?」
「琴子のくせに見え透いた嘘つくんじゃねえよ。」
直樹はピンと琴子の額を押した。
「出征回避という条件を聞いたんだろ。」
額を押さえて俯く琴子を見て、やっぱりと直樹は思った。
「でも…綺麗な方だと思ったのは本当ですよ?」
「顔と中身があれほどかけ離れた人間いるんだなって勉強になったことには礼を言う。」
「そんな…。」
と弁明しようとする琴子を直樹は遮り、
「ところでお前のいう分かっているってのは?」
「それは、結婚を断りたくて私を連れてきたってことですよ。」
自分に言い聞かせるように琴子は答えた。
「あの場合は他に女性がいるとか言うのが一番いいですものね。たまたまそこに私がいたからちょうどよかったんです。はい、分かってます。」
直樹が本気で自分をどうこう思っているわけではない。それはちゃんと自覚していると琴子は自分に強く言い聞かせた。
「だから私の方は気にしないで下さい。」

「…分かってねえな、やっぱり。」
溜息をつく直樹を見ながら琴子は「え?」とドキドキしながらその顔を見た。
「あの…何かまだあります?」
適当な所に自分がいたから利用した以上に理由があるのだろうか。まだ思い上がっているのだろうか。
「あの、坊ちゃん?」
「俺、そこにお前がいたから利用したわけじゃねえよ。」
「…もしかしておば様がよかったとか?」
「余計おかしいだろうが。」
「じゃあ、どうしてでしょう?」
自分で何を言っているか分からなくなってきている琴子だった。

「あの時言った台詞は本当の俺の気持ちだってことだ。」
「あの時…台詞?」
それはあの、最後に思い出すのはという台詞のことだろうか。まさか、そんなはずはない。
「俺はもしもの時、最後に…お前の顔を思い出したい。いや出征する時もお前の顔を胸に抱いて行きたい。」
琴子は耳を疑った。これは夢だろうか。あの直樹が本当に口にしているのだろうか。
「そ、それは…。」
愛情?いや、そんな調子のいいことを考えていいのか?もしや憎しみが強すぎるゆえに?
「…多分、初めて会った時から俺はお前が好きだったんだと思う。」
次々と直樹から信じられない言葉が出てくる。
「お前が泣きべそかきながらおふくろの後をちょこまかと付いて歩いていた頃、俺は初めて人の笑顔が見たいと思った。だからブローチを買って来たんだ。誰かを幸せにしたいなんて初めてだった。」
最初の出会いを思い出しながら、直樹はゆっくりと話していく。
「お前のことを大事にしたかった、あの時から変わらない。」
「坊ちゃん…。」
「好きだよ、琴子。」
直樹の表情が柔らかくなった。
「わ、私…。」
「でも、これは全部忘れてくれ。」
直樹はここで初めて琴子から目をそらした。
「俺の一方的な気持ちだ。本当は言わずに戦地へ行くつもりだった。でもこんなことになったからちゃんと説明した方がいいと思って。」
「坊ちゃん?」
「お前のことを好きだった男がいた、お前の思い出の片隅にでも置いてくれればいいから。」
自分の気持ちを告げたら琴子を困らせることは分かっている。だから言わないつもりだった。
「つまらない話を聞かせて悪かった。」
「じゃあな」と直樹は琴子に背を向け、庭を歩いて行く。

「待って、坊ちゃん!」
ところが琴子が今度は意外な行動に出た。歩いて行く直樹に後ろから抱きついた。
「待って下さい、坊ちゃん!」
「何だ、どうした?」
腕を振りほどこうとする直樹であったが、この小柄な体のどこにそのような力があるのかというくらい、琴子の腕は直樹から離れなかった。
「私を…坊ちゃんのお嫁さんにして下さい!」
「お前、何を…!」
強く言い返そうとした直樹であったがすぐに思い直した。あのようなことを言ったから琴子は気を使っているに違いない。世話になっている家の息子がもうすぐ戦地へ行く。そのために犠牲になろうとしているだけだろう。
「いいんだ、そんな気を遣わなくて。」
直樹は琴子の頭をポンポンと優しく撫でた。
「気を遣っていたら、このような大それたこと言えませんよ!」
しかし琴子は違った。
「私だって…私だってずっと坊ちゃんを…もうずるすぎます!」
絞り出すように琴子は叫んだ。
「ずるい!自分だけ言って逃げるなんて。私の気持ちだって聞いてくれなければ!」
「お前の気持ちって…。」
「私も…私もずっと坊ちゃんをお慕いしてました。」
泣きながら琴子は直樹を見上げた。
「小さい頃から、あのブローチをくれた時から。あの時付けてくれた優しい坊ちゃんをずっと…!」
「琴子…。」
「お嫁さんにして下さい、坊ちゃん。私も坊ちゃんと一緒にいたいです。ずっと坊ちゃんのことを思って生きていきたいです!」
「琴子…。」
しゃくり上げ続けても琴子は直樹から離れようとしなかった。だがその力は最初より弱くなっていたので直樹は簡単にその両腕を離すことができた。

「琴子、いや、相原琴子さん。」
「え?」
突然そのような呼び方をされて、琴子は驚いて泣きやんでしまった。顔を上げると直樹が優しい微笑みを向けていた。
「…俺の嫁になってくれますか?」
琴子は涙をごしごしと拭いた。そして笑顔になって、
「…はい!」
と答えたのだった。



その晩、直樹と琴子は連れ立って重樹と紀子に自分たちの気持ちを報告した。結婚したいと直樹が言った時、二人は大層驚いていた。
「でも琴子ちゃん。お兄ちゃまはね、すぐ…。」
「そうだよ、琴子ちゃん。」
二人が心配したのは琴子のことであった。琴子が万が一戦争未亡人になってしまったら…。そのような不幸な結婚を進めるわけにはいかない。
「それでも私…坊ちゃんのお嫁さんになりたいんです。」
琴子ははっきりと二人に告げた。
「俺も琴子がいいんだ。」
直樹と琴子の手はしっかりと繋いであった。それを見て重樹と紀子の固かった表情が和らぎ始めた。
「琴子ちゃん…本当にいいのですか?」
涙を流しながら紀子が琴子に訊ねる。
「直樹のお嫁さんになってくれるの…?」
「私の方こそ…この家のお嫁さんにしていただけますか?」
「琴子ちゃん以上の嫁なんていないさ。」
重樹も目に涙を浮かべて微笑む。
「ずっと母さんと話していたんだ。琴子ちゃんが直樹の嫁になってくれたらって。それが実現するんだね?」
「それじゃあ、おじ様…。」
重樹は頷いた。
「直樹を頼みます、琴子ちゃん。」
「お願いします、琴子ちゃん。」
重樹と紀子に頭を下げられ、琴子はそれより深く頭を下げた。



「…ああ、やっぱりそうなったんだ。」
結婚のことを話した時の裕樹の反応はそれだった。
「お前の図々しさを発揮できる時が来てよかったじゃん。」
「図々しいですか、やっぱり。」
しゅんとなっている琴子に裕樹は、
「ばあか。それくらいしていいんだよって意味だよ。」
と照れながら悪態ついた。
「お前のいない家なんて考えられないからな。ただでさえ暗い時代なんだ、せいぜいこの家くらい明るくしてくれよ。」
「裕樹坊ちゃん…。」
「よろしくな、義姉様。」
「そんな義姉なんて裕樹坊ちゃん…。」
「ばあか。」
裕樹は舌を出した。
「こんな呼び方、最初で最後だよ、お前は永遠に琴子で十分だ。」



こうして怒涛の年末が過ぎていき、昭和20年が明けた。
「琴子ちゃん、ちょっといいかしら?」
自分の部屋でせっせと直樹のセーターを編んでいたところを呼ばれ、琴子は急いで紀子の元へ行った。紀子は寝室に使っている和室にいた。
「わあ!」
障子を開けるなり琴子の目に飛び込んできたのは、見事な黒引き振袖であった。大輪の花が描かれ見事の一言。
「琴子ちゃんのですよ。」
「え!?」
「いつか琴子ちゃんがお嫁に行く時のためにって作らせておいたの。でも実のところは、これを着てお兄ちゃまの隣に立ってくれないかなって期待していて。」
望みが叶ったと嬉しそうに紀子は笑った。
「派手なことは慎まねばならないけれど、お写真くらいは撮りましょう。」
一度合わせてみてと言われ、琴子は恐る恐る袖を通した。
「ああ、ぴったりだこと。」
「おば様…ありがとうございます。」
本当に直樹の嫁になれるのだと、琴子は漸く実感がわいてきたのだった。





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良かったね琴子ちゃん

やっと…二人は素直にお互いを好きだって言いましたね「俺の嫁になってくれますか?」と言う台詞に私の涙腺は決壊しちゃいました(年のせいか涙もろくって…)入江家の人達には結婚を許してもらえたし、裕樹君は憎まれ口を叩いてるけど、嬉しそうですね。最後は黒引き振り袖を入江お母さんが用意してくれて、派手な式は出来ないけど写真をとるんですね?きっと似合うだろうな…琴子ちゃん
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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