日々草子 Nurse X

Nurse X


最近忙しい日々が続いているので更新およびコメントのお返事が途絶えて申し訳ありません。
前回は「あきてないよ」とのお声を下さりありがとうございます。ちょっと進みが遅いので心配していたので。
そして今回はお祭りらしく、こんなくだらないお話を。
前に某サイト様が入江くんバージョンを書いていらしたので、うちは違うバージョンをば。
タイトルに似ている某作品をご存じない方も楽しんで頂けるように書いてみましたが、意味不明でしたら申し訳ありません。










東京都にある斗南大学附属病院。
世間の例にもれず、この病院も日々看護師不足に悩まされていた。

「派遣の看護師?そんなの珍しくないんじゃ?」
「大蛇森先生、派遣じゃありません。フリーランスだそうです。」
「フリー?看護師にフリーもへったくれもないでしょうが。ちゃんと使えるんでしょうね?」
「あと顔、顔は重要ですよね。」
「西垣先生は女ならば誰でもいいんでしょう。」
そのような会話をしているのは此度の採用の責任者となった脳外科医の大蛇森と外科医の西垣である。二人は今、会議室にてそのフリーランスの看護師の到着を待っているところであった。
そこにドアがノックされる。

「失礼します。」
表れたのは、二十代の普通の女性であった。
「入江琴子と申します。よろしくお願いいたします。」





“これは一匹狼の看護師の話である。常に人手の足りない看護師。看護系大学の数は増えているにもかかわらず、すぐに退職していくのはその激務のため。その危機的な医療現場の穴埋めに現れたのがフリーランス…すなわち、一匹狼のナースである。たとえば、この女。
群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、正規な手段で取得したライセンスとその度胸だけが彼女の武器だ。 看護師、入江琴子。またの名を、ナースX。”

(♪~某ドラマのテーマソングが流れる~♪)



「なかなか可愛いな」と西垣は満足げに頷いていた。が、その隣の大蛇森は渋い顔である。
「君、大学に通学している年数長くない?」
履歴書を見て大蛇森は苦々しく訊ねた。卒業はしているものの、入江琴子は通算7年間斗南大学へ通っていた。人より三年余分である。留年に次ぐ留年か?
「私、文学部から編入したものですから。」
「へえ。それは苦労したねえ。」
途中編入してまで看護師になりたいというのはどれほど熱意が強かったのか。西垣の琴子に対する好感度は上昇していく。
「それで君、どく…。」
「独身」と聞こうとした西垣の脇腹を大蛇森が肘で三回押した。
「大蛇森先生、何を!」
「セクハラだと訴えられるぞ!」
「ですけど、これは配偶者控除の問題とか色々あるし。」
「そんなもんは事務担当のすることだ!」
「でも。」
抗議を続けようとする西垣を無視し、大蛇森は琴子を見た。どうも気に入らない。
「勤務条件だけど。」
「あ、それは私じゃなくて。」
「え?」
突然琴子に止められ大蛇森と西垣は顔を見合わせる。と、そこへまたノックの音。

「失礼します。」
現れたのはスーツ姿の若い男性。それもかなりの男前であった。
「おい、ここは今面接に使っていて。」
自分より男前には態度が厳しい西垣が文句つけようとしたが、
「何だね?」
と、こちらは男前にめっぽう弱い大蛇森が相好崩した。

「私、こういう者です。」
男前が二人に出した名刺には『入江看護師紹介所 所長入江直樹』と記載されている。
「このたびはうちの看護師の入江琴子へのオファーありがとうございます。」
「入江ってことは…。」
「夫です。」
琴子がうっとりとした目を夫、直樹に向ける。途端に西垣と大蛇森の顔が険しくなった。
「夫持ちかあ。」
「妻持ちかよ。」
がっかりしたものの、一応琴子は採用されることになった。

「では勤務条件について。」
再び大蛇森が説明しようとすると今度は直樹が手を上げた。
「それは私が。琴子、お前は早く現場に行って慣れるように。」
「え?もう?」
西垣が言うと、
「ええ、時間が勿体ないですから。」
と直樹は琴子を早々に会議室から追い出した。

「では勤務条件についてはこちらを。」
と、なぜか直樹が書類を二人の前に置いた。なぜそちらがという顔をしながら二人は書類を見る。
「ええと…医師の雑用は…。」
「させません。」
二人が読み上げる文言に直樹がすかさず答える。
「出張の同伴…。」
「させません。」
「医師とのマンツーマンの飲み会。」
「させません。」
「看護師免許が不要の仕事は。」
「させません。」
「コミュニケーションと称するセクハラは。」
「…明日の朝日は見られないものと思え。」
最後の直樹のセリフに二人は震え上がる。

「…以上、入江琴子の契約書です。サインを。」
ここまで条件を出してくるということは、それなりの優秀なナースなのだろう。そう思うことにして大蛇森は契約書にサインをしたのだった。



さて、当の本人の入江琴子はというと。点滴、採血は不得意。包帯を巻くのもあまり上手ではない。
「…採用は失敗だったか。」
チッと大蛇森が舌打ちしたくなるような看護師であった。
「まあまあ。患者からの評判は悪くないですよ。」
腕はあまりよくないが、人当たりはいい。ノリも悪くないので患者からの人気は上々である。
「もしかしたらオペで彼女の能力は発揮されるのでは?」
西垣の言葉に大蛇森は半信半疑である。
「とりあえず、オペに入れてみましょうよ。」
なんだかんだと琴子を気に入っている西垣に負け、大蛇森は明日担当するオペに入江琴子を入れることにした。



「西垣先生、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしくね、琴子ちゃん。」
オペの準備をしながら西垣は笑顔を琴子へ向けた。
「先生、助手なんですね。」
「まあね。でもここだけの話。」
西垣は琴子の耳に口を近づけ言った。
「…執刀医の大蛇森先生より僕の方が腕がいいんだよ。」

手術室では大蛇森が疑いの眼差しで琴子を見た。
「大丈夫かね、入江くん?」
「はい。よろしくお願いします。」
「ふん。足手まといは勘弁してくれ。」
「大丈夫です。私…失敗しないので。」

ということでオペが始まった。
大蛇森のメスはスイスイと動く。腕は悪くないらしい。それを補佐する西垣は不満そうであるがそれなりにうまいこと助手を務めていた。
一方琴子はというと、特に素晴らしいというわけではなく。いや、正直何のためにいるのかも謎。機械出しのナースの邪魔にならぬように小さくなっている。
「入江くん、君も手伝いなさい。」
まったくこれじゃ何のためにあんな条件をのんで契約したのか分からないと思った大蛇森が琴子に命じた。
「で、でも。」
琴子の戸惑いを無視し、大蛇森は機械出しのナースに琴子と交代するよう命じる。

「ケリー鉗子。」
「え?」
「ケリー鉗子!」
大蛇森に怒鳴られ、琴子は慌てた。
「はい!」
と渡したが、その向きは逆で…。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
手術室に大蛇森の悲鳴が響いた――。



「…機械出しが初めて?」
叫び続ける大蛇森を手術室から追い出す…いや連れ出した後、残った西垣は驚愕の事実を知ることとなった。
「じゃ、手術に立ち会うのも?」
「いえ、それは何度も。」
「じゃあ見ているだけ?」
何のためにとあきれる西垣であったが、そんなことを追及する暇はない。
「では僕、西垣が執刀医ということで。」
表舞台に上がるこのチャンスを逃す手はない。西垣が意気揚々と、
「ではこれより…。」
と手術再開を宣言しようとした、その時であった。

手術室の扉が開き、誰かが入って来た。
「誰だ?」
「入江くん!」
西垣の疑問に琴子が答える。手術着に身を包み現れたのは入江看護婦紹介所の所長入江直樹である。
「おい、お前が何でここに?」
「うちのナースのミスは所長である俺がカバーします。」
「は?」と怪訝な顔をする西垣を直樹はその場からどかせ、執刀医の位置についた。
「ではこれより××××××の△△△(←読者様のお好きな手術名を入れて下さい)の手術を再開します。」
「お前、医師免許あるのか?」
「よろしく。」
西垣の叫びを無視し直樹が挨拶するとスタッフたちが一斉に「よろしくお願いします」と挨拶した。



「は、早い!」
「こんなメスの動き、見たことがない!」
まるで魔法使いのような直樹のオペに誰もが息をのむ。
「琴子、汗。」
「はい。」
「琴子、ケリー鉗子。」
「はい。」
「琴子、キス。」
「はい。」
となぜかマスク越しに直樹の頬に口をつける琴子。

「琴子、時間は?」
「開始してちょうど1時間です。」
「縫合終了。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。」
あっというまに手術は終わった。
「…もう終わった。」
「こんなに短時間でこの手術が終わるなんて。」
皆が驚く中、直樹は琴子と共に消えて行った。

「…ぼ、僕が執刀するはずだったのに。」
一応助手のはずなのに、出番がまったくなかった西垣は「くぅ!」と悔しさの声を上げていたが、誰も構わなかった。



「まったく、何が看護師免許だ!君、本当に免許あるのか?」
琴子に刺された手を大げさに出しながら、大蛇森は叫んだ。
「申し訳ありませんでした!」
手術後、すぐに大蛇森の所に呼ばれた琴子はひたすら頭を下げていた。
「まったく…何が“私、失敗しないので”だ!どの口が言えたもんだ、え?」
「…そんなこと、言ってませんけど?」
キョトンとした琴子に大蛇森の怒りが更に爆発する。
「言っただろうが!」
「うん、言ったよ。」
西垣も聞いていた。
「違います。それは“私の夫は失敗しないので”って言ったんです。」
「はあ!?」
そういえば確かにあの時、「私」と「失敗しないので」の間に何かあったような。
そこへまたノックの音。

「失礼します。」
いつの間にシャワーまで浴びたのか、爽やかな様子で直樹が現れた。
「こちら、請求書です。」
「請求書!?」
「はい。うちの看護師を手術に使うときは別料金が発生すると契約書に記載してあるはずですが。」
二人は契約書を出した。確かにそう書いてある。
「怪我させられた上に金まで…」と大蛇森が文句を言いながらそれを開く。たちまちその顔が真っ青になった。

「きゅ、9,999,998円!?」
西垣も驚いて顔を請求書へ突っ込んだ。
「何だ、この膨大な金額は!」
「というか、中途半端だろ!」
そして大蛇森は怪我をした包帯の手をひらひらと動かして、
「この怪我で受けた苦痛の賠償を請求したいくらいだ!」
「失礼。」
直樹は前に進むと大蛇森の手を握った。なぜかポッと赤くなる大蛇森。直樹はお構いなしに包帯を手早く解いていく。
「ああ、やはり思ったとおりでしたね。」
直樹は呟くとその傷にペタッと絆創膏を貼りつけた。
「賠償です。」
「はあ!?」
「この絆創膏の料金はきちんと請求料金より差し引いております。」
二人は再び請求書を見た。

「請求金額…金1000万円。うち絆創膏代2円マイナス?」
「ひと箱40枚入りの108円の絆創膏のうちの1枚を使ったということで。108÷40=2.7…サービスで小数点以下は切り捨てておきました。よって1000万から2円引いてその金額です。」
「さすが入江くん!」
パチパチと手を叩いて夫を褒める妻琴子。

不満は山のようにあるが契約書どおりの内容。仕方がない。大蛇森は振り込んでおくと答えた(その顔とは裏腹に直樹に貼ってもらった絆創膏を優しく撫でていたが)。

「では、こちらもサービスで。」
そして直樹が机の上に風呂敷包みを置く。
「今度は何だ?」
「うちの琴子がお世話になっているお礼の品ですよ。」
一応礼儀は分かっているのかと、西垣は風呂敷をほどこうとした。と、そこにまた直樹の声が飛んだ。
「ドリアンですけど。」
「ドリアン!?」
大蛇森と西垣がそれぞれ左右の方向に逃げ出す。
「くさやとどちらがいいか迷ったんですけどね。」
「何で選択肢がその二つなんだ!」
「どうぞお納め下さい。」
そして直樹は腕時計に目をやった。
「5時か。勤務終了時間ですね。琴子、帰るぞ。」
「はあい!」
入江夫妻は部屋を出て行った。
「おい!これいらねえよ!」
置いて行かれたドリアンを手に西垣が廊下に出る。が、颯爽と歩く直樹、そしてスキップしながらその後を付いていく琴子の耳にその声は届くことはなかった。



“群れを嫌い(男と群がること)、権威を嫌い(夫より腕のいい医師はいないから)、束縛を嫌い(夫の独占欲で満足)、看護師のライセンスと有能な夫だけが彼女の武器だ。看護師、入江琴子。またの名を、ナースX。”




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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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