日々草子 永遠に君を愛す 11

永遠に君を愛す 11

いつまでこの話続くんだと思われているような気がして…すみません。
色々書きたいことが出てきて、進みが遅くて申し訳ありません。
退屈されている方もいらっしゃるでしょうが、いや退屈するということは読んで下さっているということですのでありがたいです。
ありがとうございます。

☆☆☆☆☆☆









時は流れ、昭和19年11月末。
直樹と琴子はそれぞれ医学部、看護学校の最終学年として残り半年もない学生生活を送っていた。
その間、戦況はますます悪化。紀子と琴子の服はもんぺとなり、食料も内地よりはまだましとはいえかなり切迫したものとなっていた。

「おまえの根性を受け継いだのか、すごい生命力だよな。」
入江家の庭はいつしか野菜を育てる畑となり、そこでは琴子が丹精こめたネギが青々と育っている。
「はい。やっぱりネギは人間に欠かせないものなんですよ。」
暗い雰囲気の中、琴子のこの明るさが入江家を救っているといっても過言ではなかった。
さすがに最近は若い男の姿が消えていた。皆兵隊に取られている。故に琴子に縁談が持ち込まれることもなくなっている。琴子がのびのびと看護の勉強に励むことができるのは直樹にとっても喜びである。



その琴子は現在、帝大附属病院にて実習の真っ最中であった。
院内で見かけるとなかなかてきぱきとした動きをしている。昨年よく聞かれた「相原さん」という教師の怒声もない。

が、ある日琴子はがっくりとした様子で帰って来た。
「坊ちゃん…。」
先に帰っていた直樹の部屋を琴子は訪れた。
「今日、叱られてしまって。」
「そろそろ叱られる頃かと思っていたよ。」
今までが珍しかったのだとの直樹はさして同情もしなかった。
「何だ?採血か?血圧測定か?」
琴子は首を横に振った。
「…話を長く聞き過ぎるって。」
琴子は患者一人に接する時間が長すぎると怒られたのだという。
「まあ患者は一人だけじゃないからな。」
「それは分かってます。でも婦長の考えに納得できなくて。」
「おいおい、学生のくせに逆らうのか?」
「逆らいます。」
珍しく琴子は譲らなかった。
「だって皆さん、病気の時は精神不安定じゃないですか。話せばずっと楽になることだってあるんですよ。」
と、琴子は数人の患者が話を聞いただけで症状が少し改善されたことを話す。直樹はそれはたまたまのことではないかと思ったが、口は挟まなかった。
「適当に対処しておけ、それより軍人さんを優先しろとか、お偉いさんにゆっくり相手しろとか。おかしいですよ、絶対。」
「ああ、それか。」
つまり患者を差別しているのが許せないのだと琴子は怒っている。それは直樹も同感であった。
「病気だけじゃなく心だってちゃんと見てあげたいんです、私。」
二年近く勉強してきて、琴子の中にはどういう看護婦になりたいかという目標がしっかりと定まってきていた。
「…それじゃ、平和な時代になったら実践しろよ。」
今の時代は琴子の考えは通用しないだろう。
「平和な時代…来ます?」
「ああ。」
それも遠くないうちに。直樹はそう確信していた。
「そうしたら、その時は戻ってきた坊ちゃんと一緒に実践できますね!」
「俺と?」
「はい。坊ちゃんだって丁寧に患者さんの相手をするお医者様になられるでしょう?私も一緒に!」
輝く琴子の顔が直樹にはまぶしかった。そして同時に心が痛む。自分が琴子と共に医師戸看護婦として働ける時は来るのだろうか。
「…そうだな。」
叶うといい、わずかな希望を胸に直樹は答えた。
医学生、卒業後は軍医となることが決まっているゆえ直樹は徴兵されずに済んでいたが、それでも卒業生の誰それが戦死したという知らせは日々伝わるようになってきた。家族を心配させたくない直樹はそれらについて語ることはなかった。



「今年もあと1か月くらいなのね。」
溜息をつきながら毛糸を巻く紀子。琴子はそれを手伝っていた。
「来年はどうなるのかしら?今年よりよくなればいいけれど。」
「そうですね。」
来年は直樹が戦地に行ってしまう。それが紀子と琴子に悲しみを落としていた。
「こちらがおじ様の毛糸、裕樹坊ちゃんに直樹坊ちゃんですね。」
古いセーターをほどき新しいセーターを編む準備だった。
「私のものを一番に編んでいただいて申し訳ないです。」
そう言う琴子が着ているセーターは、今年紀子が一番に編んでくれたものである。
「いいのよ。女の子のものはやはり色もきれいだし。最初に編めば気分も上がるものなの。」
笑う紀子に、ふと考えが浮かんだ。

「ねえ、琴子ちゃん。お勉強は忙しくて?」
「いえ。今は実習も終わったばかりですし。」
試験は年が明けてからであるので、今は学生最後の余裕ある時間であった。
「だったらお兄ちゃまのセーター、編んでくれないこと?」
「え!?」
琴子は驚いて腰を抜かしそうになった。
「私が直樹坊ちゃんの?」
「ええ。教えてあげるから。」
「そんな…私が編んだものなんて着ていただけるかどうか。」
「大丈夫よ。文句言うようだったら毛糸でグルグル巻きにして押し入れに放り込んでやるから。」
自分は重樹と裕樹のものを編まねばいけないしという紀子。確かに紀子の負担は大きすぎる。
「じゃあ…僭越ながら。」
変なことを口走る琴子に紀子は微笑んだ。



「今年は俺は寒さに震えることになったわけか。」
「まだ決めつけないで下さい。」
膨れながら琴子は直樹の体の寸法を測っていた。平静を装いつつ、琴子の胸は今にも爆発しそうである。考えてみれば直樹の体に触れたことなどない。
「おい、ちゃんと測れているんだろうな?」
「測れてますって。」
巻き尺を持つ手が震えているのが直樹にばれないようにと願いつつ、琴子は丁寧に測っていく。
そこにノックの音が聞こえた。
「父様が全員居間に集まれって。」
裕樹が伝えた。一体何事だろうと思いながら琴子と直樹は急いで部屋を出た。



「…みんなに伝えねばならないことがある。」
仕事から帰って着替えることもせず、重樹は渋い顔で口を開いた。
「東京の我が家がなくなった。」
「えっ!?」
声を上げたのは紀子だった。
「どういうことですの?」
「…空襲で焼けたんだ。」
「とうとう始まったんですね。」
直樹の言葉に重樹は頷いた。
昭和19年11月24日、東京に初めての空襲が行われた。入江家は焼けてしまったという。
「…留守番の人たちは無事でしょうか?」
東京の本邸には留守番として数人の使用人を残してきていた。
「何とか避難できて無事だったらしい。」
「よかったわ。」
家はともかく忠実な使用人たちの無事は紀子を安堵させた。どうしても保管しておきたい荷物は京城に行く前に佐賀の実家へあらかた送ってあるので心配はない。

だが家には思い出が残されていたことも事実だった。自分の部屋に戻り琴子は直樹からもらったブローチをそっと手に取った。このブローチを受け取ったあの大階段も焼けてしまった。紀子の自慢だったシャンデリアもない。裕樹が琴子と鬼ごっこをした庭もーー。



「そうそう、そこをくぐらせて…そうよ、上手、琴子ちゃん。」
本邸が焼けてしまった辛さを忘れるため、紀子と琴子は編み物に夢中になった。
「ちょっと編み目が…。」
「最初はそのようなものよ。慣れてきたら揃うわ。」
果たして直樹は着てくれるだろうか。琴子は不安である。

「直樹は戻っているか?」
二人が夢中で編み棒を動かしている中、重樹がまた難しい顔で帰宅した。
「ええ、戻ってますよ。」
「私、お呼びしてきますね。」
琴子がすぐに立ち上がり居間を出ていく。重樹はソファに座り溜息をついた。
「どうかなさって?」
また辛い知らせが入ったのかと夫を心配する紀子。その前に重樹は鞄から白い厚紙のような物をテーブルに出した。
「これはお見合い写真じゃありませんか?琴子ちゃんにまた?」
「違うよ。」
「では?」
「今度は直樹だ。」
重樹が答えた時、直樹が居間にやってきた。









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エ~

連日の更新ありがとうございます(*^_^*)
日々草子さんのお話し凄く面白いです。全然退屈じゃないです。毎日ブログを覗くのが楽しみです。長くっても全然OKです。ジャンジャン書いてください。今日のお話しは…どんどん戦況は悪くなってるのに琴子ちゃんの明るさで入江家は救われてるようですね。それなのに…東京の家が空襲で焼けてしまい、ショックですよね?それと入江君にお見合いの話が…やっと入江君は琴子ちゃんを好きだと自覚したのに~琴子ちゃんが心配です。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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