日々草子 永遠に君を愛す 7

永遠に君を愛す 7

さあ、サクサク行きますよ←恒例の言葉。

どうも私は入江くん目線の話になってしまうんですよね。何でだろう?

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「おい、女だ!女が来たぞ!」
ある日のこと、京城帝大の教室から医学生たちが大騒ぎとなった。
「入江、お前も来いよ。」
「はあ?何で俺が?」
女が来たってどういうことだと思いながら、級友たちに無理矢理直樹は連れ出された。
「ああ、そういうことか。」
そこにいたのは、白衣の女性たち。京城帝大の付属病院は設備がかなり整っていることで有名なため、近隣の看護学校が実習に使う。今回もその一団がやってきたのだった。
「なんかこう、明るくなるなあ。」
「あれ、あの子可愛いんじゃないか?」
勝手なことを噂する医学生たちも、選ばれし秀才であることは忘れすっかりただの男だった。

「入江、あの子、お下げちゃんじゃない?」
「え?」
示された方を見ると、白衣姿の琴子が友達と談笑しているのが見えた。そういえば実習だと琴子も言っていた。どうやらここで実習するということは直樹に隠していたらしい。
直樹の目には、琴子が一番白衣が似合っているように見えた。 
「お下げちゃん、看護婦になるのかあ。もしかして、俺を追いかけて?」
かつて琴子との仲を橋渡しすることを直樹に頼んできた級友の浜崎が期待の目で琴子を見ている。
「男の好み、変わったのかなあ?入江、そこんとこ確認してきてよ。」
「お前、まだあきらめてなかったのか。」
しつこい奴だと直樹は呆れる。
「あ、こっち見た!俺を見てる?」
浜崎はそんな直樹の冷めた目に気づかない。



ここが直樹の学ぶ京城帝大医学部。その門をくぐったとき、琴子の胸は高鳴った。この付属病院が実習先だと聞いたとき、琴子は直樹には黙っていて後で驚かせようと考えたのだった。
入学してあっという間に過ぎた三ヶ月だった。日赤ではないにせよ、看護学校の授業はやはり琴子にとってついて行くことはかなりの困難だった。それでも自分が決めた道、やりたいことを見つけた喜びを溢れさせ、懸命に授業についていく琴子であった。
そのような日々の中、早くも病院実習が行われることになった。あまりの早さに一同は驚いたが、戦況は激しさを増す一方。本来は三年である看護婦の修了期間が二年に短縮されていることからも机上の勉強よりもまずは実地という考え方は理解できた。
が、自分たちに何ができるだろうか。学生たちは不安でいっぱいだった。もちろん琴子も同じだった。だから医学部で直樹の姿を見つけたときは喜びと同時に安堵した。

「ねえ、あの方とても素敵!」
「本当。医学生にあんな方がいらっしゃるのね。」
級友たちの噂が琴子の耳に聞こえた。それが誰を指しているかは琴子にすぐ分かった。
「あら、こちらにいらっしゃるわ!」
医学生たちの中からその人物が歩いてくる。それも看護学生に向かって。
「医学生を代表しての挨拶?」
「そんなこと聞いてないわ。」
ざわつく看護学生たち。その後ろに琴子は何となく隠れてしまった。が、すぐに見つけられる。
「…ここで実習することを俺によくも黙っていたな。」
「そ、それは…ええと…。」
医学生も看護学生も、琴子と直樹を見ている。
「俺に面倒はかけないでくれよな。」
「が、頑張ります!」
そして直樹は琴子の頭に手を伸ばし、そこに乗っている白い帽子を手直しした。
「ったく、まっすぐかぶれよ。」
「ありがとうございます。」
直樹に手直しされた帽子を琴子は嬉しそうに触れた。

「相原さん、あの方とお知り合いなの?」
直樹が行った後、琴子は看護学生たちに囲まれることになった。
「お知り合いなら紹介を。」
「決まった許嫁はいらっしゃるの?」
「お名前は?」
次々と質問攻めになる琴子。あの態度から相当、あの医学生は琴子と仲がいいと皆が分かったのである。
「ええと…あの方は…。」
とりあえず琴子は、お世話になっている家の長男だということを説明した。
「ま!それじゃあゆくゆくは相原さんとご一緒に?」
制限された時代でも愛に憧れる年頃。家に引き取られて跡取り息子と結婚ということを誰もが考えた。
「いえ、そんなことは!」
自分が直樹と一緒になるなんてとんでもないと琴子は分かっていた。いくら娘同然に育てられていても資産家の御曹司で将来有望な医者になる直樹が自分のような人間と結婚するなんてと琴子は考えていた。

「どのような女性がお好みなのかしら?」
「相原さん、あの方とお話できるようにしていただけなくて?」
琴子の事情を深く追求することもなく、級友たちは琴子に詰め寄る。
「それは…。」
直樹は大勢と騒ぐことは好まない。それに今は医学への勉強に集中している。その直樹の邪魔をしたくない。
「ねえ、お好みの方は?」
「それは…。」
重い口を琴子は開いた…。



「看護学生たちのお前を見る目、厳しくない?」
浜崎が直樹に囁く。
「あれ、絶対この間のお下げちゃんへの態度に怒ってるんだぜ。」
もうちょっと優しくできなかったのかと浜崎は言った。
いや、そうではない。琴子への態度が彼女たちの癇にさわったわけではないことを直樹は分かっていた。
「あいつ、また俺を男好き設定にしやがったな。」
女学校の時と同じ視線を看護学生たちは直樹に送っていた。まあ、うろうろされて邪魔をされるよりはましだが。しかし他に琴子も説明のしようがあるだろう。
「ま、いいや。おかげで俺たちにもチャンスが回ってくるってもんだ。」
直樹が看護学生たちに敬遠されたおかげで他の医学生たちは喜んでいた。



最もそれも最初のうちの騒ぎであった。医学生も看護学生もそれぞれ自分たちの実習に忙しくなり、恋だの愛だのと浮かれることも減ってきた。
琴子は琴子で実習についていくのが精一杯であった。加えて不器用があらわとなり、附属病院の看護婦が「相原さん!」と叫んでいる声があちこちで聞かれた。
それだけ怒られたらいくら前向きな琴子であっても落ち込む。家でも琴子は元気なく、紀子の手伝いを済ませると部屋に入って遅れを取り戻そうと勉強していた。が、なかなか事態は好転しないらしく、浮かない顔の連続。

「仕方ないな、明日はとことんあいつに付き合ってやるか。」
明日は日曜。分からないところは徹底的に教えて、血圧測定などの練習台にもなってやろうと思いながら直樹が帰り道についた、とある日の夕方だった。
あの角を曲がれば我が家というところ、誰かがその角から家をのぞいているではないか。
「お袋?」
直樹が声をかけると、後ろ姿を見せていた紀子は驚いた顔を見せたがすぐに「しっ」と指を口に当てた。
「何をしているんですか。」
足下に買い物かごがあるところを見ると配給所の帰りか。しかしなぜ家に入らないのか。直樹は紀子の上から首を伸ばした。

「あれは…。」
家の門の前に男女が立っていた。女性は琴子である。そして相手は直樹の級友、浜崎。
「琴子ちゃんは可愛いものね。今までこういう日が来なかったことが不思議なのよ。」
どんどん暗くなっていく時代、ようやく年頃の女性を持つ親の気持ちを味わえたと紀子の言葉は弾んでいる。
「…ただ、そこで会ったばかりかもしれないし。」
「あら、そうだけど。でも…って、お兄ちゃま?」
紀子が気を遣っていたにもかかわらず、直樹は一人家へと歩き出した。

「悪いが、どいてくれるか?」
直樹の声を聞いた途端、二人は驚いた。
「入江、いやこれは。」
「直樹坊ちゃん、お帰りなさい。」
二人同時にしどろもどろといった様子。直樹は目もくれずに門扉を開け、中へ入る。その後ろでは「それじゃ僕はここで」「送っていただき、ありがとうございました」という焦った様子の二人の会話が交わされていた。



「シーツを敷く練習で居残りになってしまって。」
紀子に冷やかされた琴子は説明を始めた。
「それで病院を出たところで、あの方にお会いして。」
図書館で勉強をしていた浜崎が琴子を見つけて声をかけてきたのだという。琴子は直樹と親しくしている浜崎に見覚えがあったこともありそのまま二人で帰ることになった。
「浜崎さんのお家の通り道だからといって。」
浜崎の家は入江家と正反対のはずだった。琴子と帰りたいがために見えすいた嘘をついた浜崎に直樹は反吐が出そうだった。
「まあ、でも紳士的な方ね。女の子一人で歩かせるのが不安だったのでしょう。」
「どこかの誰かと大違い」と紀子が直樹を睨む。直樹は気分を害し居間を出た。

「直樹坊ちゃん!」
二階へ上がったところで琴子が追いついてきた。
「…あいつ、他に何か言っていたか?」
琴子を振り返ることなく直樹は訊ねた。
「ええと、分からないところがあったら一緒に勉強しましょうって。」
直樹は拳を握りしめた。自分が面倒見なくても琴子にはちゃんといる。貴重な時間を琴子のために割いてやろうと馬鹿なことを考えていた自分が嫌になった。
「あの、坊ちゃん?」
「…入学できたからって、余裕こいてるんじゃねえよ。」
低い声が聞こえ、琴子はビクッと体を震わせた。
「余裕なんてそんな。」
「お前、医者をつかまえたくて看護学校入ったのか?さっさと嫁に行きたくて入ったのか?」
「そんな!」
「学費泥棒。」
思ってもいないことを口にしてしまった。しかも琴子が一番気にしていることを、一番最低な言い方で。
おそらく泣きそうになっているであろう琴子の前で、直樹はわざと乱暴に部屋のドアを閉めた。何て自分は最低な男なのかと思いながら。








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酷い…

今日のお話…琴子ちゃんには辛いばかりですね。琴子ちゃんなりに看護婦さんの勉強を頑張ってるのに、不器用な為に上手くいかず、最後は入江君に「学費泥棒」なんて言われちゃったし…可哀想です 琴子ちゃんには一番傷付く事を大好きな入江君に言われて、琴子ちゃんこれからどうするんだろう…心配です。

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紀子ママさん、ありがとうございます。

やっちまいました、入江くん。
本当に恋愛偏差値ゼロ。いやもはやマイナスか。
琴子ちゃんが本当に好きなのは誰かも知らないで、八つ当たり。
確かにこれじゃ医者は厳しい。
口から出た言葉も消せない、琴子ちゃんの心は深く傷つきましたよね。

こっこ(*^^*)さん、ありがとうございます。

こちらこそ、連日のコメントありがとうございます。
本当、誰か教えてあげてほしいです。そうでないとことこちゃん可哀想!
入江くんの持っている辞書の嫉妬に大きく赤で○をつけ、ついでに付箋も貼っておきたいくらいです。

海さん、ありがとうございます。

以前コメントいただいてますよね?励ましていただいた記憶があります^^
あの時から数年経っておりますが、再びのコメントありがとうございます。来て下さっていたことが嬉しいです。
無自覚嫉妬男…(笑)今回どれほどコメント欄でその言葉を拝見したか。
やっぱりここは書いておいた方が安心していただける?かなあと。
そんなに長い間海さんが耐えることがないよう、頑張りますね。

Yunさん、ありがとうございます。

こちらでも無自覚男の文字が(笑)
そうそう、お約束になっておりますよ、無自覚嫉妬男。
哀愁漂う琴子ちゃんに、なぜか大笑いしてしまいました!!季節もぴったりですしね。
ハンカチをYunさんに使っていただけるよう、頑張ります!

さなさん、ありがとうございます。

琴子ちゃん、まさしく泣きっ面に蜂といったところですね。
学費泥棒はひどいです!一番傷つくって分かっていてよく言えたなと。
誰かこの馬鹿男に何か言ってやってほしいです(笑)

ソウさん、ありがとうございます。

安定のひどさ(爆笑)!!
そうですか?しかもぐっじょぶとな!それは嬉しいです。
学費泥棒と書いた時は「ああ、これは言い過ぎだよ~どうしよう」と迷ったのですが。
実際こんなこと口にしたら二度と、琴子ちゃんに許してもらえないでしょうしね。
ソウさんにワクワクしていただけて嬉しいです。
突き進みます!!

たまちさん、ありがとうございます。

とりあえず級友に名前をつけてやりました。出す予定はなかったのですが。
おさげちゃんって、たまちさんに言ってもらうと何だか可愛いですね。
戦時中でもちっちゃい男は健在だし。
直樹バリアは成功してるけど琴子バリアは簡単に破られてるし。
今回は琴子ちゃん、モテモテ状態です。なかなか書いていて楽しい。
原作ではしょっちゅうモテモテ入江くんにやきもきさせられていたので、ここでは入江くんがヤキモキしてほしいのです。それが私の二次の原点なので!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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