日々草子 永遠に君を愛す 6

永遠に君を愛す 6

進みが遅くてすみません…。
そのうち、ブンブン飛ばせる、いや飛ばすしかない状態になるかと思いますので読んで下さっている方は、それまで我慢して下さい。すみません。

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合格発表日の翌日から琴子は熱を出して寝込んでしまった。生きてきた中で一番勉強した疲れと、寒い中直樹に合格を報告しようと長時間待っていて体を冷やしてしまったことが合わさって風邪を引いたのである。
「知恵熱だ、知恵熱だ。」
「これ、裕樹!」
琴子の着替えをさせて出てきた紀子が、廊下ではやし立てる裕樹を叱った。
「琴子ちゃんは疲れているんです。ゆっくりと休ませないと。」
「バカが背伸びしたからだよーだ。」
「裕樹!」
もっとも裕樹だって琴子をバカにしてこのようなことを言っているわけではなかった。琴子が皆に風邪をうつさないようにと紀子に願って、裕樹を部屋へ入れないためだった。
「琴子ちゃんに遊んでもらえないからって、すっかり拗ねちゃって。」
氷枕を作りながら紀子は言っていると、直樹が帰って来た。
「医者は呼んだんだろ?」
「ええ。」
最初は大したことないからという本人の言葉に従っていたが、熱が下がる気配がないので今朝医者を呼んだばかりであった。
「やはり風邪ですって。こじらせてしまったみたいね。」
とにかくここはゆっくり休ませて、来月の看護学校の入学式に出られるようにしなければいけない。

「でもお兄ちゃまが帰ってきてくれて助かったわ。」
「え?」
琴子がいないので仕方なく自分で淹れたお茶を飲もうとした直樹が紀子を見た。
「これからね、裕樹の学校へ行かなければいけないの。」
三者面談が前から予定されていて、出席しなければいけないのだと紀子は言った。
「家に琴子ちゃんを一人にしておくのは不安だったけど、お兄ちゃまがいるなら安心だわ。」
「どうせあいつ寝ているんだろ?」
「そうだけど、でも心配だもの。」
そう言いながら紀子は忙しげに氷枕を持って琴子の部屋へ行った。

そして戻ってくるなり直樹に、
「ねえ、お兄ちゃま。甘いお薬ってないのかしら?」
「は?」
紀子は直樹に薬の瓶を見せる。茶色の液体のそれはあまり減っていない。
「琴子ちゃん、お薬が苦いからって飲んでくれないの。」
「子供か!」
これから看護婦になろうという人間が何を言っているのかと直樹は開いた口が塞がらなかった。
「あら、お薬が悪いのよ。」
そして何があっても琴子の味方をする紀子である。
「こんな気味の悪い色をしたお薬、飲みたがる人間がいるものですか。」
「色は仕方ないだろ。」
と直樹は瓶を観察した。一般的な解熱剤である。
「わがまま言う奴は放置しておけ。」
「まあ!何てことを。それでも医者の卵なの?」
「医者の言うこと聞かない患者が悪い。」
「何ですって!」と応戦しようとした紀子であるが、時計を見てハッとなる。
「いけないわ。もう出ないと。裕樹、裕樹!」
そしてこれまた慌ただしく裕樹を連れて紀子は家を出て行った。
「ったく、何が苦いのは嫌だ、だよ。」
とにかくこれを元の場所へ戻さねばと、直樹は渋々立ち上がった。



布団の中で琴子は目を閉じていた。起こさないようにと直樹は薬を枕元に起き、ついでに額に手を当てた。その熱さに直樹は驚いて上げそうになった声を止めた。
「熱、上がってるんじゃねえか?」
とりあえず薬を飲ませないと。可愛そうだが直樹は琴子に声をかけることにした。
「琴子、おい。」
「…え?」
とろんとした目を開けた琴子であったが、すぐに閉じてしまった。目を開けていることも辛いのだろう。
「おい、薬を飲め。」
「…やだ。」
苦しげな息の間から漏れた声だった。果たして話しかけているのが誰か分かっているのか。いや、この状態じゃ分かっていないだろう。それから琴子は目を閉じたままだった。眠っているのかどうか。
「このままじゃまずいな。」
肺炎になったら大変である。直樹は琴子の顔を見つめる。
「…緊急措置だぞ。」
誰に向かってというでもなく一人呟くと、直樹は琴子の体をそっと布団から抱き上げた。いつもお下げに結ってある長い髪が背中に垂らされ、それが直樹の手に触れる。
そして直樹は空いている手で薬瓶を取り、器用に蓋を開けた。中身を自分の口に含ませると、熱い息を吐いている琴子へと口移しに飲ませる。
琴子の白い喉が動き薬が飲まれたことを確認すると、直樹は二口、三口と一回分の服用量に至るまで同じように口移しで琴子に飲ませたのだった。



「ただいま。お兄ちゃま、琴子ちゃんの様子はどう?」
「さあ?」
帰宅した紀子に直樹は素っ気ない返事をした。
「さあ?って、ちょっと、様子を確認してないの?」
「確認も何も部屋に立ち入り禁止だろ。」
「まあ、何てことを!」
子供の裕樹ならまだしも、医者になろうという人間が立ち入り禁止を言い渡されたくらいで何ていうことをと紀子は目を吊り上げた。
居間のテーブルに広げている医学書を直樹は紀子に見せた。
「あいつが部屋から出てきてぶっ倒れた時に備えて、ここで勉強してやったんだ。」
「それでもちょっとくらいのぞいてあげたって。」
まったく気が利かないことと文句を言いながら紀子は琴子の部屋へと向かった。

「あ…おば様。」
「ごめんなさい、起こしちゃったわね。」
「いいえ…ちょうど目が覚めたところですから。」
弱々しく微笑む琴子。その枕元の薬瓶に紀子は気づいた。
「まあ、琴子ちゃん。お薬飲んだのね。」
「え?」
「よかった。苦いお薬、よく我慢したわね。」
明らかに中身が減っている瓶を紀子は琴子に見せる。
「お口の中、苦くない?金平糖でもなめる?」
「いえ…大丈夫です。」
「そう?それじゃもう少し寝ましょうね。あとでお粥を持って来てあげますからね。」
上機嫌で紀子は部屋を出て行った。後に残された琴子は、薬瓶をじっと見つめる。
「…飲んだ覚え、ないんだけどな。」
寝ている間にふわりと体が浮いた記憶はかすかにあったが、それは熱でうなされていたからに違いない。
あまりいろいろ考える気力もないので、琴子はそこで目を閉じることにしたのだった。



「菌がうつった!琴子の風邪菌、バカ菌がうつったぞ!」
「裕樹、そんなこと言うのはやめなさい!何度言ったら分かるの!」
「だって母様。」
裕樹はうなだれている琴子を横目に言った。
「兄様が風邪引いたのって琴子のせいじゃん!」
そう、数日間寝込んだ琴子がようやく回復したと思ったら今度は直樹が寝込んでしまったのだった。
「ごめんなさい、私があんなことになるから…。」
「琴子ちゃんのせいじゃありませんよ。琴子ちゃんはお部屋を立ち入り禁止にしてまで私たちを風邪から守ろうとしてくれたでしょう?」
「でも琴子の風邪菌は持ち主に似てしぶといから、ドアやふすまの隙間からニョロ~って出てきたんだ。それで兄様にうつっちゃったんだ!」
まるで幽霊のような手つきをしながら裕樹がクネクネと琴子の前で体を動かす。それを見た琴子はさらに体を縮ませてしまった。
「裕樹、おやめなさい!琴子ちゃん、気にしなくていいの。風邪なんていくら予防したって引く時は引くんですからね。」
いくら紀子に慰められても、琴子は立ち直れなかった。



「直樹坊ちゃん、入りますよ。」
もしかしたら眠っているかもしれないと声を潜めながら、琴子は静かに直樹の部屋に入った。しかし直樹は目を覚ましていた。
「ごめんなさい、坊ちゃん。」
氷枕を取り替えながら、琴子は謝った。
「私の風邪がうつってしまったから…。」
「うつる時はうつるんだよ。」
「でも。」
「気にしなくていい。」
直樹は布団の中で琴子に背を向けた。
――あの時はうつることなんて、ちっとも考えていなかった。
ただ琴子に薬を飲ませなければという一心から出た行為だった。よくよく考えればうつるのは当たり前である。

「坊ちゃん、これお粥です。私が作ってきました。」
「また余計に体を壊しそうなものを。」
「大丈夫ですよ。おば様に教わりながら作りましたもん。」
ならば大丈夫かと、直樹は布団の上に起き上がろうとした。
「あ、だめです。食べさせてあげますから。」
「いいよ。」
「そんなこと言わずに。」
「とりあえず中身を確認させろ。」
「大丈夫なのに」と言いながら、琴子は土鍋の蓋を開けた。たちまち覚えのある匂いが直樹の鼻につく。
「…おふくろはこれを入れろと教えたのか?」
「いいえ。でもこれを入れた方が絶対治りが早いですって!」
土鍋のおかゆ、その上には太く長い焼きネギが主張されていた…。

自分で食べられると何度も言い張ったが、琴子がどうしても引かなかったため渋々直樹は食べさせてもらうことに同意した。
「よく冷ましてくれよ。」
「分かってます。」
れんげにすくったお粥を琴子は「ふーふー」と口で冷ます。その口に自分の口を重ねたことを直樹は思い出しながら見つめた。
「はい、あーん。」
嬉しそうな琴子に直樹は面倒くさそうに口を開けた。お粥は紀子が見張ってくれたおかげで普通だった。
「ネギは?」
「…最後にもらう。」
「わかりました。それじゃ次ですよ、あーん。」
看護婦になったら患者にこういうことをすることもあるだろう。自分はいい練習台といったところか。
「お薬もちゃんと飲んで下さいね。苦いからって嫌がってはだめですよ。」
自分の時と同じ薬を見ながら琴子は言った。
「お前には言われたくないね。」
「もし、苦くてだめだったら仰って下さいね。」
「…そしたらどうするんだ?」
もしかしたらあの時のことを覚えているのだろうか?直樹の心臓が高鳴った。何か言われたら、「あれは緊急措置。人工呼吸と同じだ」と言い返そうと思う。
「そしたら…。」
琴子はポンと手を叩いた。
「直樹坊ちゃんの鼻をつまんで開いた口にお薬を注ぎましょう!」
「…お前、今すぐ看護学校の入学辞退してこい!!」
それが看護婦志望者、いや人間のすることかと直樹は叫ばずにいられなかった。と、同時に琴子が覚えていないことに安堵したのだった。








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あらあら(笑)

今晩は~連日の更新ありがとうございます。嬉しいです
琴子ちゃん勉強疲れと寒い中入江君を待ってたせいで、琴子ちゃんは風邪をひいてしまったんですね。琴子ちゃん可哀想です。確かに苦い薬は嫌ですよね~私も苦い薬は大嫌いです(笑)後注射も大人になっても嫌なもんですよね~嫌がる琴子ちゃんになんと!口移して薬を飲ます入江君格好良いです。そのお陰で琴子ちゃんは治ったけど、次は入江君が風邪をひいちゃいましたね。やっぱり口移しがいけなかったんですね(笑)入江君は琴子ちゃんが口移しで飲ませた事を覚えてるかどうか、胸がドキドキしてたみたいだけど、残念!覚えてませんでしたね(笑)もしかして入江君…口移しで飲ませて欲しかったのかしら(笑)

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たまちさん、ありがとうございます。

妹でも口移しはないですよね~。誰もいないのをいいことに、すっとぼけて紀子ママを迎えてるし。
琴子ちゃんが気づいたら大騒ぎになったでしょうし。でもお前が薬を飲まないからだと言われて、それでああそうかと納得しそうな。
そして風邪がうつった本当の原因を知るのは本人のみ…自分の行動が原因だから誰も責めない。いやむしろそのウィルスを大事にしろと私は言いたいです。
本当、ネギはきついわ~せめて首に巻く程度にしてあげて、琴子ちゃん!

さなさん、ありがとうございます。

こちらこそ連続でのコメントありがとうございます。
私も注射はだめです、点滴もいやです笑ついでに採血も嫌いです(笑)
普通のキスじゃつまらないかと、口移しという方法を使ってみました。かっこいいと言っていただけて嬉しかったです。
でもそんなことしたらそりゃあ風邪引かない方がおかしいでしょう。
覚えていなくて残念やらホッとするやら忙しい入江くんでした。自分も口移し、それは期待してたかも~(笑)

紀子ママさん、ありがとうございます。

おお、紀子ママさんに萌えていただけて嬉しい!
普通のキスじゃ私の筆力はもはや飽きられたかと、いろいろ工夫してみました(笑)
もうちょっと描写力があれば床ゴロゴロしていただけたかなと、それが口惜しゅうございます。
確かに琴子ちゃん以外は鼻つまみですよね。何て乱暴な医者志望…(笑)
このもどかしさが皆さんに飽きられているのではと不安だったので、たまらなくいいと言っていただけて嬉しいです。
恋のステップ1.2.3(爆笑)!!!

こっこ(*^^*)さん、ありがとうございます。

そう、そうなんです!ファーストキスなんですよ~!!
本当に意識がなかったのが残念で。無自覚で自分の唇を提供する入江くん(笑)
嫌いだったらしないですよね。それだけ大事、そうそう、こっこ(*^^*)さんの仰るとおりそれが恋の始まりなんです。
いつ気づきますかね~?

葉月綾乃さん、ありがとうございます。

待ちきれないと思っていただけて嬉しいです。ありがとうございます!
琴子ちゃん、デリケートなんですよね。うちの世界では特に体が弱いような(笑)だって倒れてくれた方が話をすすめやすいんです(笑)
薬が減っているのを見て、それ以上突っ込まないところが…本当に琴子ちゃんですよね!考える気力もなかったんでしょうけど。
プロセスを楽しみにしていただけて嬉しいです。本当、葉月さんに飽きられないように頑張りますね!
大蛇森シリーズも楽しんでいただけて嬉しいです!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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