日々草子 永遠に君を愛す 4

永遠に君を愛す 4

今年も恒例アンケートを設置いたしました。(スマホはTOP画面一番下にカテゴリがあります)
一年の間に色々お話も増えて…たっけ?(笑)是非お好きなお話を聞かせていただけたらと思います。
記事のコメント欄に書くのは勇気が…という方も、アンケートのコメント欄に気軽に声を聞かせていただけると嬉しいです。
何度でも投票できます。
ただし、コメントは公開されますのでその点はご注意くださいませ。

☆☆☆☆☆









「お前、男を見る目ないな。」
あのまま百貨店の食堂で衆人環視のもと食事を取る気にはなれなかった二人は、違う食堂に移動していた。そして注文を終えるなり直樹が口にしたのがこの台詞である。
「写真写りがよかったんですよ…。」
と口を尖らせる琴子であったが、定食のおかずが思ったより豪華だったこと気をよくして箸をつけ始めた。直樹はその様子を見ながらこれまでの琴子のことを思い出していた。

琴子が出自を馬鹿にされたことは今回が初めてではなかった。
内地(日本国内)で暮らしていた時も、入江家本家の財産狙いで集まってくる、親戚とも呼べないような遠い親族からも言われていたものだ。
―― お情けで引き取ってもらったくせに、入江の娘面して暮らしている。
琴子は重樹と紀子に文字通り溺愛されて育ったが、それをかさに着て暮らしている素振りは一つもない。いつも育ててくれた二人に感謝の心を忘れずにいる。そんなことも知らずに口さがないことを言う者たち。
それを聞いてから琴子は一度、重樹と紀子を「旦那様」「奥様」と呼ぶようになった。自分のせいで重樹たちが非難されないようにという心遣いから出たものだった。
もちろん、重樹たちはそのような呼び方はしなくていいとすぐに止めさせた。
「いいかい?琴子ちゃんはうちの娘なんだからね。誰が何を言おうと、わしらは琴子ちゃんを娘だと思っている。わしらだけじゃない。直樹も裕樹もこの家で働く者たちみんなそう思っているんだから遠慮することはないんだよ。」
「そうですよ。そんな他人行儀な呼び方されたら悲しいわ。」
裕樹までも、
「慣れない呼び方するなよ、バカ琴子のくせに。そんな呼び方してたら舌噛むぞ、ばあか。」
と彼なりの慰め方をしたものだ。
それで呼び方は元に戻したものの、控え目に出しゃばらないようにという琴子の姿勢は変わらなかった。それなのに入江家に借金を申し込み断られた連中に至っては「あんな娘を育てる金があったら分けてくれたって」と捨て台詞を残していったが。



――どうすれば、琴子が何の負い目もなく暮らせるようになるのか。
考えに耽っていた直樹を現実に呼び戻したのは琴子の声だった。
「あ!あれがないから今日は駄目な日だったんだ!」
「あれ?」
「ブローチです。」
今日はお出かけということでいつもの肩かけ鞄ではない、紀子が作ってくれたおしゃれな手提げを持っていた琴子だった。そこにいつものブローチはなかった。
「そっかあ、ブローチがないから…。」
「ブローチがあったら、今日の見合い成功してたんじゃねえの?」
「え?」
「いや、お前の話をまとめるとそういうことになるだろ?」
「…ですかね?」
「そうだよ。ブローチがあったら見合い成功してお前は赤フンボクちゃまの嫁になって、来年あたり赤フンボクちゃま二世を産んでいると…。」
と、そこまで話したところで琴子の表情に気づいた。
「…そんなに嫌だったなら、見合い失敗してよかったな。」
「…ブローチがないのは複雑ですが、そうですね。」



帰宅して琴子はすぐに重樹と紀子の元に向かって頭を下げた。
「申し訳ありません!おじ様の会社の方なのに…。」
「いやいや琴子ちゃん。話は母さんから聞いたよ。」
「そうですよ。私はあんな家に琴子ちゃんをお嫁に出さずに済んで本当に嬉しいんですから。」
「でもすごく失礼なことになってしまって。」
相手は気に入らなかったが、それでも断り方もあるというもの。
「あれは琴子ちゃんじゃなくて、直樹のしでかしたことなんだろ?」
紀子の話を思い出したのか重樹が笑った。
「琴子ちゃんは悪くないし、それにあの家とはそんな深い付き合いもないから。」
「でもお仕事とか…。」
「勅使河原家の方がうちと近い関係になりたくてたまらないという関係なんだ。だからうちが不利な状況になることもない。むしろあちらの方が困った状況になるだけの話。」
「たとえあの家がいい状況になったとしても、次の代があのボクちゃまだったらおしまいでしょうけどね。」
だから琴子は気にしなくていいと重樹も紀子も言ってくれた。
「それより琴子ちゃん。今回の話を受ける気になったのは…わしらに対する恩を感じてのことだろう?」
重樹に言われ琴子は返す言葉がなかった。育ててくれた恩のため、少しでも入江家の役に立てたらと思ったことは事実だった。
「そんなこと、もうしなくていいからね。娘を育てるのは親として当然の義務なんだから。」
「そうですよ。」
「恩を返したいとどうしても琴子ちゃんが思うならば、琴子ちゃんがこの人ならば幸せになれるという人と結婚してくれること。それが一番の恩返し、親孝行なんだよ。」
「おじ様…。」
重樹の優しさに琴子は胸がいっぱいになり、目に涙を浮かべた。



「…母さんは琴子ちゃんが直樹と結婚してくれたらって思ってるんだろ?」
琴子が去った後、夫婦二人きりの場で重樹は紀子に聞いた。
「…そうなったら琴子ちゃんはずっとうちにいますもの。」
重樹の背広を手入れしながら紀子は微笑む。
「琴子ちゃんは直樹を意識しているのかな?」
「…どうでしょう?」
意識してくれていたら嬉しいことだと紀子は思う。だが、
「直樹と一緒になってほしいなんて言えませんわ。」
と紀子は悲しげに言った。
「…そうだな。」
数年後には軍医として戦地に赴くことが決まっている息子だった。その息子と一緒になったとしても…未亡人になるかもしれない。そんな結婚を琴子に要求することはできない二人だった。



「俺の話をちょっと聞いてほしいんだけど。」
見合い騒動から数日経った夕食後の席で、直樹が徐に切り出した。
「改まって何だ?」
重樹が新聞をテーブルに置きながら訊く。
「お袋も、琴子も。」
「私たちも?」
台所で片づけをしようとしていた紀子と琴子は顔を見合わせた。
「裕樹もついでに。」
「僕はついで?」
不満そうな顔をした裕樹は重樹の隣に座った。紀子と琴子が座るのを見て、直樹は口を開いた。
「実は琴子のことなんだけど。」
「私のことですか?」
いきなり自分の名が出て何事かと琴子は緊張する。もしや勅使河原が直樹の大学まで押しかけて来たのだろうか。

「…琴子の手に職をつけさせた方がいいんじゃないかと俺は思うんだ。」
どうやら勅使河原のことではないらしい。だが手に職をつけるという、突然の話にやはり琴子は戸惑いを隠せなかった。それは重樹たちも同じだった。
「琴子ちゃんにお仕事をってことなの?」
「うちはそれほど暮らしに困っていない」と抗議しようとする紀子を「そういう意味じゃない」と直樹は制す。
「外地はまだ落ち着いているから分からないだろうけど、内地は結構厳しい状況になってきているんだ。」
「…確かにそうだな。」
報道ではいいことばかり伝えられているが事実が違うことは仕事上、重樹も知っていた。
「これからどうなるか分からない。だけど手に職があって、これで食べていけるというものがあった方が琴子も生きていけるんじゃないかと思う。」
「直樹坊ちゃん…。」
直樹がこんなに自分のことを考えてくれるなんてと琴子は嬉しかった。
「考えたくないが、琴子ちゃん一人になる場合もあるしな。」
琴子を捨てるという意味ではなく、戦争が激しくなり生き別れ、いや最悪死別もありうる。そんな中で琴子がどうやって生きていくか。
「琴子ちゃんは若いしな。」
そして重樹は琴子に、
「どうする?琴子ちゃん。」
と意志を確認した。

「直樹坊ちゃんやおじ様がこんなに私のことを考えて下さっていることに感謝します。」
琴子は頭を深く下げた。
「お二人の仰るとおり、私も何か身につけたいです。でもこれは皆さまと別れた後に役立てるということではなくて、これから何が起きるか分からない時代に備えて、少しでも入江家の皆様の役に立ちたいということです。」
「琴子ちゃん…。」
涙ぐむ紀子。
「そうだな。わしの会社もどうなるか分からないし。いざとなったら琴子ちゃんに食わせてもらうか。」
わざと明るい調子で話す重樹に、
「ま!琴子ちゃんにこんなおじいちゃん、おばあちゃん、子供の面倒を背負わせるなんて。」
と紀子が睨む。

「そうなると琴子ちゃん、何を身につける?」
紀子が考える。
「女性一人で生きていけるようにとなると…お茶やお花、書道の先生かしら?それとも仕立て物とか…。」
紀子の言葉に直樹と裕樹が「ぶっ!」と噴き出す。
「お茶は苦くて舌出してたよな。お花は確かこの間、花瓶にギューギュー詰め込みすぎて倒してたっけ?」
「書道って、紙じゃなくて自分の顔に書いてたのかってくらい汚してたよ、兄様。」
「仕立て物って雑巾もろくに縫えないのに?」
堪え切れず腹を抱えて笑いだす兄弟。
「二人とも!」
怒鳴る紀子を「まあまあ」と宥めながら重樹は、
「何も今夜決めろってわけじゃないんだから。」
大事な人生のことだからとその場をおさめたのだった。



それから数日後の夜。
「あの…この間のお話なのですが。」
今度は琴子が重樹たちに話を切り出した。
「手に職をつけるお話?やりたいことが決まって?」
「こういうのがあるんですが。」
琴子は手にしていた文書を重樹と紀子に見せた。呼ばれた直樹と裕樹も覗き込む。
「京城日赤看護専門学校?」
それは京城にある日赤が設立した看護専門学校の入学案内であった。
「看護婦さんってどうでしょうか?」
それにと琴子は説明を始めた。
「この学校、学費かからないんです。お布団だけ寮に運べばいいって。あ、寮費もかからないんです。」
「だけど、琴子ちゃん。」
一通り目を通した重樹が言った。
「…どうして学費がかからないか、寮費もかからないか知ってるかい?」
「どうしてですの?」
紀子が夫を見た。
「それは…。」
言いよどむ琴子に代わって直樹が口を開いた。
「召集されたら従軍看護婦として戦地へ行くことになってるからだろ。」
「戦地?従軍看護婦!?」
途端に紀子の顔色が変わった。
「どうして琴子ちゃんがそんなことに?いけません!絶対にだめ!」
叫びながら紀子は琴子を抱きしめた。
「おば様、何も今すぐ戦地へ行くわけではありません。勉強して資格を取ってそれで召集されたらということですし。」
「だめですよ!ね、琴子ちゃん?違う学校に行きましょう?ね?」
「でもそこだと学費も…。」
「学費のことは心配しなくていいんだよ。」
興奮する紀子をなだめながら重樹が言った。
「琴子ちゃんを看護婦にするくらいのお金はある。それで暮らしが傾くこともない、そこは安心しなさい。」
「ですが、おじ様。」
琴子は重樹に向き直った。
「私は女学校まで出して頂いて、その上看護学校まで行かせていただこうとしているんです。本当だったら自分でお金を稼いで行かなければいけないところなのにこれ以上は…。」
女学校どころか小学校までろくに通えない人間もいるというのに。琴子はこれ以上よくしてもらうなんてという思いだった。
「わしも琴子ちゃんを戦地へ行かせることは賛成できないな。」
重樹は告げた。
「他にも看護学校はあるだろう?どうだろう、そちらへ行くことを考えてみたら。」
「そうですよ。看護婦さんは立派なお仕事だし心の優しい琴子ちゃんはきっと向いているわ。でも寮生活はだめ。琴子ちゃんと離れて暮らすなんて耐えられないわ。」
「…おふくろはともかくとして。」
黙って聞いていた直樹が口を開いた。
「京城に限らず日赤の看護学校は難関だぞ。お前が調べたように学費、寮費がかからないわけだからあちこちから優秀な人間が集まる。正直、お前の出来じゃ合格は難しいだろう。」
現実的なことをはっきりと直樹は言った。
「他の看護学校なら、もしかしたら何とかなるかもしれない。だから学費の面は親父に頼ったらどうだ?」
直樹の一言が決定打となり、琴子は日赤ではない看護学校を目指すことになった。



それから少しして、琴子はお茶を手に直樹の部屋を訪れた。
「直樹坊ちゃん、色々ありがとうございました。」
自分の将来を色々考えてくれたことに琴子は感謝の言葉を口にした。
「…でも本当におじ様にこんなに甘えていいのか。」
「日赤を考えたのは、やっぱり家を出て俺たち家族水入らずの時をって思ったんだろ?」
直樹は琴子の本心を言い当てた。
「ったく、気にするなって言ったのに。」
「…すみません。」
「でも」と琴子は続ける。
「私は従軍看護婦になっても…だって直樹坊ちゃんだって卒業されたら…。」
長男の直樹が従軍することは決まっているのに自分はこんなに守られて申し訳ない。
「俺はいいんだよ。医大生であるゆえ徴兵も免れているんだし。医者になるって決めた時に親父もおふくろも覚悟は決めている。」
琴子は何も言えなかった。
「…ま、お前が俺にどうしても申し訳ないって思うんならさ。俺が家を出た後、親父とおふくろを笑わせてやってくれ。お前がいれば二人も気持ちが楽だろうから。」
「そんな…。」
分かってはいることだが、直樹がこの家を出る時は現実にやってくる。琴子は想像したくなかった。
「もっとも日赤の学校行っても従軍看護婦になることは…。」
「え?」
「…いや、何でもない。」

看護婦―琴子はいい選択をしたと思った。立派な職につけば、琴子は自信を持ってこの先を生きていける。
お釣りを誤魔化されても、変な男との見合いを画策されても、軍医になったら琴子を守ってやることはできない。看護婦になれば結婚に急がなくても大丈夫だろう。職業婦人として世間が見る目も違うはず。
――叶うならば、ずっと傍で守ってやりたいが。
そう思う直樹の前で、
「お茶のおかわりをお持ちしますね。」
琴子は顔を見られぬよう部屋を飛び出した。あのまま直樹の前にいたら泣き出してしまいそうだったから――。



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看護婦さんの琴子ちゃん

今晩は~連日の更新ありがとうございます。凄く楽しみにしてました。やっぱり琴子ちゃんは看護婦さんを選びましたね(笑)少しでも入江君と同じ仕事に近付きたいと思う乙女心がひしひしと伝わってきました。入江君も反対しないし、頑張って欲しいです。続きを楽しみに待ってま~す。

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こっこ(*^^*)さん、ありがとうございます。

琴子ちゃんが愛しいという気持ちの裏返し…こっこさんのこの一言で涙腺が緩みました!!
そうなんですよね、まさしくその通りです!!
今回もこっこさんの夜勤のお供にしていただけるよう頑張りますね!!

さなさん、ありがとうございます。

楽しみにして下さって嬉しいです。
そうです、琴子ちゃんは看護婦さんをめざすことに。やっぱり入江くんの傍にいたいんでしょうね。
琴子ちゃんの夢が叶うころに入江くんはいるのか…戦地に行くまでの僅かな間、二人が幸せだといいですね。

たまちさん、ありがとうございます。

入江家のために、重樹の仕事がうまくいくようにってお見合いを考えて。
嫌な思いをいっぱいしても、入江家のみんなが庇ってくれたからこそでしょうね。
だから入江家も琴子ちゃんを全力で守って。素敵な家族です。
入江くんは自分がいなくなった後、琴子ちゃんが一人で生きて行けるよう、誰にもいじめられることのないようにと道しるべを作ってあげて。
本当、自分でもこんなに入江くんが優しくなるとは思いませんでした(笑)

アミキママさん、ありがとうございます。

アンケートですが、大丈夫です!!
そのために何度投票してもOKにしてますから(笑)お好きな話全部に投票して下さると嬉しいです。
多分時間を置けばできるように設定したはずなので!!
そんな風に考えていただけるなんて嬉しいです。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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