日々草子 器の大きさが謎である後輩

器の大きさが謎である後輩

限定記事の続きはもう少しお待ち下さい、すみません。
それでもって、このシリーズですみません。群を抜いて素晴らしい不人気ぶりなんですけどね、うふ(笑)

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ランチを終えてスタッフステーションへ戻ったら、入れ違いに桔梗くんが慌ただしく出てきた。
「急変?」
僕だって医者の端くれだ。さすがに気になる。
「いえ、入江先生とミーティングです。」
「ミーティング?」
そんなこと聞いてないけど?担当患者について何かあるのかな?
今は8月。医者も看護師も交代で夏休みを取る時期だ。入江だって琴子ちゃんとイチャイチャするために夏休み取るだろうから、その時代理が務まるように把握しておく必要がある。ということで僕も桔梗くんの後を追いかけた。

「あれ、西垣先生も来たんすか?」
カンファレンスルームには鴨狩くんがいた。そうか、桔梗くんの留守の時は鴨狩くんが対処するように呼ばれているわけか。うん、うん。やっぱり僕が来て正解だった。入江に呼ばれずとも来た僕、偉い!

「…本当に呼びもしないのに来る人ですね。」
静かな声に僕は振り向く。ドアの影にいつのまにか入江が腕を組んで僕を睨んでいた。
「いや、だってさ。夏休みに備えて…。」
と言いかける僕を相変わらず無視して、入江は桔梗くんたちの前に座った。僕も桔梗君の隣にこっそりと座った。

入江は僕たちの前にコピー用紙のようなものを滑らせてきた。何だ、一体?どうやらインターネット上の掲示板のようなものをプリントアウトしたものらしい。

『突然だけど、座薬って他人に入れてもらうの、超恥ずかしくねえ?』

…本当に突然だな。

『恥ずかしい!』

…なら自分で突っ込めよ。

『それがさ、尻を出していれば座薬を撃ち込んでくれる医者がいるらしいんだよ!』
『マジ?』
『俺も頼みたい!』

…そんなに世間に座薬を必要とする患者がいるのか?
いや、違う。そういうことじゃない。尻、座薬、撃ち込む?僕らは読み進める。

『でもそれ、本当かよ。』
『本当だってば。親戚がやってもらったって!俺のじいちゃんの姉ちゃんの旦那の義理の父親のいとこの子供の…』
 …親戚といえるのか、それ?

『…という人がやってもらったんだって。』

更に文章は続く。

『俺、血管超細いらしいんだよね!』
…あ、そ。

『それじゃあ採血とか痛いんじゃねえ?』
『マジ、腕の悪い看護師とかに当たったら地獄見る!』

…琴子ちゃんの被害者同盟のメンバー?

『なんかさ、噂で聞いたんだけど。どんなに細い血管でもビシッと打ち込んで採血してくれる医者がいるらしいんだよ!』
『すげえ!』
『それこそ、ネ申だな!』
『俺の彼女のばあちゃんの初恋の人の姉ちゃんの…』
…お前のばあちゃん、初恋の人とまだ付き合いがあるのか、すげえな。

『…という人がやってもらったって!』

…と、まあこれに似たケースが延々と続いているわけだけど。


「これって…。」
全部読み終えた桔梗くんと鴨狩くんが入江の顔を見つめた。

「…よく読むと入江先生の“仕事”に見えてきますよね?」

…いやいやいや!!!

「ちょっと待てよ、君たち!よく読むまでもないじゃないか。どう読んだって入江のやってることだろうが!ていうか、尻に座薬ぶち込んだり、採血するのにわざわざ遠くから撃ち込んだり、あんな酔狂な真似をする人間が入江の他にいると思うかよ、え?」

…桔梗くんと鴨狩くんが呆れた顔で僕を見ている。あれ?

「も、もしかして、僕、今の内容、全部口に出してた?」

心の中で突っ込んだつもりだったんだけど。

「これ、入江先生の仕事なんですか?」
鴨狩くんが僕を無視した。うん、いいさ。慣れっこだもんね。

「…そう見えるのも無理はない。」
入江は腕を組んだまま無表情で答える。

「入江先生、覚えは…といってもいっぱい治療してらっしゃるから…。」
「俺が引き受けた患者はすべてインプットされている。ここに書かれている患者に覚えは全くない。」
「ということは?」
「誰かが俺の真似をしているということだ。」

…酔狂な奴がいたんだ、ふうん。


「それであたしたちにこれを調べろということなんですね?」
すると入江は白衣のポケットからテーブルの上に札束を放り投げた。一つ、二つ、三つ、四つ…ええ!?

「あとは出来高次第だ。」

で、出来高って!!これだけでも桔梗くんたち、いやいや僕のボーナス以上なんですけど!!

「何ともやる気の出る額ですね。」
「OKです、入江先生。」
何のためらいもなく札束をポケットに突っ込む二人(ていうか、ポケットが不自然に膨らみすぎておかしいんだけど?)



「ねえ、ちょっと待って!」
カンファレンスルームを出た桔梗くんたちを僕は呼び止めた。
「あのさ、調べるって入江の真似をしている奴を調べるってことだろ?」
「そうですよ。」
「調べたら、入江…どうするの?」
「そりゃあ…。」
桔梗くんと鴨狩くんは息をぴったり合わせて、自分たちの首の前で手を横に切った。

「そ、そんな物騒な。」
あいつなら、本当にやりかねない。
「しょうがないですよ。」
「よりによって入江先生の真似をするなんて命知らずなことをするんだから。」
「だけど、そいつだって患者を救っていることに違いはないわけだし。」
「甘いなあ、西垣先生!」
鴨狩くんが腰に手を置きため息をつく。
「入江先生はどんな人間であれ、自分の真似をする人間は嫌いなんです。」
「そうです。相手が誰であれ、絶対許さないんですよ。」
…僕、宴会で入江の物真似することだけは絶対避けよう、うん。

「それにしても、すごいお金もらったよね?」
不自然に膨らんでいるポケットをチラッと僕は見る。
「あら、だって日本中探さないといけないわけだし。」
「どこにいるかもまだ分からないわけだし。」
当然という二人。更に必要経費が発生した場合は追加されるという。
さて、入江の真似をしている奴は見つかるのか…。



「ああ、見つかりましたよ。」
翌日の職員食堂にて、あっさりと桔梗くんは僕に告げた。
「もう?だって昨日話を聞いたばかりなのに?」
「俺たちを甘く見ないで下さいよ、西垣先生。」
Aランチのコロッケを頬張りながら、ニヤリと笑う鴨狩くん。
「そ、それで?誰だったのさ?」
僕は二人の答えに驚愕した。入江の物真似をしていた奴は何と、何と!!…ここから自転車で10分の病院の医者だった。そんな近くにいたなんて。嘘みたいじゃないか。

「で、入江には?」
「とっくに報告しました。もう始末もつけたそうです。」
「し、始末?」
「まさか」と僕は自分の首を手で横に切る。
「いやいや。」
鴨狩くんは首を横に振った。
「一応、今回は初犯だったということで入江先生も優しさを見せたそうです。」
「さすが入江先生よねえ。」
そうだよな。あいつだって一応医者なんだ。人を傷つけたりすることはしないはず。
うん、よかった、よかった。

「自分の半径500キロ以内に今後絶対近づくなと念を押して解放してやったそうです。」
「そうかそうか。半径500キロね。本当、あいつにしては温情…て、500キロ!?」
500キロ、500キロって…何県まで行くんだ?

「それで…500キロからもう、そいつは…。」
「はい。それで済むなら喜んでと。」
…どんだけ恐ろしい目に遭わせたんだろう、あいつは。

「ていうことは、あのお金結構余ったよね?」
だって自転車で10分の所にいたんだもん。情報集めるにしたってそんな全部使うほどではないはず。
「やっぱり入江に残りは返したの?」
「いいえ。」
これまたぴったりと合った呼吸で二人は返事した。
「じゃあ、もらったってこと?」
「そうですよ。いつもそうですから。」
「入江先生は残ったら返せなんて器の小さなことは言いません。」
「そうそう、誰かさんと違ってね。」
何だよ、こいつら。僕だって(本当にたまにだけど)缶コーヒーとかおごってやってるじゃん。

「啓太、今年の夏休みはどこに行くの?」
「俺さ、いよいよラスベガスでカジノデビューしようと思って。お前は?」
「あたし?あたしはスイスの高級スパで全身磨いてくるつもり。」

…あの金でそれだけ豪遊するってわけか。くそ、僕なんて休暇も3日でさらに金欠なもんだから家でゴロゴロするつもりなのに。ああ、そうだよ。女の子に声かけたら金かかるしね。



「西垣先生、俺、来週から夏休みもらうんで。」
スタッフステーションに戻ったら、入江が今日も無表情で話しかけてきた。
「あ、そ。」
好きにすればいいさ。
「俺が留守の間、まああてにはしてませんけど一応よろしくお願いします。」
「お前ってやつは、ったく。」
僕は勤務表を見る。どれどれ、入江は…って、おい!!

「お前、何だよ、この休暇は!!」
あいつ、あいつ…医者のくせに…二週間も休暇取りやがる!!
「部長にも院長にも許可は得ています。」
しれっと答える入江。何だよ、一体!なんでこんな長い期間取れるっていうんだ。見ると琴子ちゃんも合わせて二週間。

「そうだ、西垣先生。」
「何だよ、まだ何か用か?」
入江は僕の前に手を出してきた。何だ?よろしくの握手か?
「先日俺が渡したハガキのお金、まだなんですけど。」
「ハガキ?」
「ったく」と入江は舌打ちして言う。
「先生が、当たりもしない缶コーヒーのシールを集めた懸賞に応募したいってわめくから渡したハガキですよ。」
ああ、そうだ、思い出した。
せっせと集めていたシールが漸く応募枚数に届いたんでさあ、いざと思ったらハガキがなくて。買おうにも院内の郵便局もう閉まっていて。締切その日までで。それで入江がたまたま持ち合わせていたハガキをもらったんだった。

「早く、52円。」
ちょっと待て。さっき桔梗くんたちは何と言っていた?入江は与えた金を返せと言わない、器の大きな男だと言っていたはずだが?
昨日札束をポンポンと渡していた男と、今僕の前で52円を寄越せと威張っている男は本当に同一人物なのか?

「分かったよ。」
僕は渋々、52円を奴へ渡した。



今日も散々な一日だった。やれやれ、惣菜店で閉店間際値引きシールの貼られた弁当でも買って帰るかと思っていると、
「るんたった、るんたった~♪」という間の抜けた声が後ろから聞こえてきた。
「御機嫌だね、琴子ちゃん。」
「そうです。だって来週からお休みなんですもん。入江くんと一緒!」
Vサインと共に琴子ちゃんが笑顔を見せる。そうだよね、何ていっても二週間もねえ。

「旅行にでも行くの?」
「はい!」
「ふうん。よくホテルの予約取れたね。」
あんなんでも一応医者だから休暇は間際にならなければ取れなかったはず。今からじゃとても予約は難しいと思うんだけど。
「あ、別荘なので。」
ヒュー。さすが、お金持ちのボンボンは違うねえ。
「入江の親父さんの別荘か。」
「違いますよ、入江くんの別荘です!」
琴子ちゃんがプーッと頬を膨らませて訂正する。何?あいつ、別荘なんて持っているのか?てことは国内か。
「海外旅行なんですよ。すごく楽しみで!」
何だと?海外に別荘!?あいつ、いつの間にそんな金を!いや、待て。あいつのあの裏稼業から察するに別荘くらい持てるか。

「でも飛行機の予約は?」
海外というと飛行機だよな。船にしたって予約は必要。
「そういうの必要ないって。」
「必要ない?」
「ええ。入江くんのプライベートジェットで行くからって!」

琴子ちゃん、今、なんつった?
ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、プライベートジェット、だあ!?

「私、入江くんのその気持ちだけで十分で。」
うっとりと目を閉じて琴子ちゃんが手を組んだ。
「入江くんが、私のためにコツコツとお金をためて…プライベートジェット買ってくれたなんて。二人でゆっくり過ごそうって。こんなに幸せでいいのかしら?」
そして琴子ちゃんは目を開け、
「西垣先生も女の人と遊ぶことにばかりお金を使うんじゃなくて、コツコツとお給料貯金した方がいいですよ。」
「それじゃあ」と琴子ちゃんはまたもや「るんたった~るんたった~♪」とスキップしながら去って行った。

琴子ちゃん…普通の勤務医はね…お給料をどれだけ貯金したって…プライベートジェットは絶対買えないって…知ってる?ねえ?



「ああ、知ってますよ。プライベートジェットのことなら。」
翌日、桔梗くんに訊ねたらあっさりと答えが返ってきた。
「何でも面倒だからって。」
「そりゃ行き先によっては乗り継ぎとかもあるし、予約とかも面倒かもしれないけどさ。そこが旅の醍醐味っていうんじゃ…」と言いかけた僕の口と「チッチッチッ」と桔梗くんが人差し指を振った。
「そういう面倒じゃないんです。」
「じゃ、どういう面倒さ?」
「んもう、鈍いんですね、先生は。」
「は?」
「飛行機移動って…琴子とウフーンなことできないでしょ?」
「…何だと?」
琴子ちゃんとウフーンなこと?え?それって?
いや待て。あいつは…あいつは移動時間すら耐えられないってことか!?
「そ、それじゃあ、琴子ちゃんとウフーンなことをするためにプライベートジェット!?」
「そういうこと。」
桔梗くんはウィンクして行ってしまった。

桔梗くんたちに札束渡す、愛妻のためにはプライベートジェットと別荘を手に入れる、そして…僕には52円を請求してくる。

あの後輩の「器の大きさ」ってのが僕には理解不能だ!



ついでに話しておこう。
奴らの休み明け、琴子ちゃんは…梅干しの種のような状態(どんな状態だ?)になって勤務に戻って来たよ、うん。プライベートジェットと別荘をとことん利用したらしい…。









☆ゴルゴ13の豆知識
自分の真似をする人間は徹底的に排除する。


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紀子ママさん、ありがとうございます。

このシリーズにコメントして下さり、ありがとうございます。
しかも私にまで可愛いだなんて。嬉しい♪

ゴルゴ入江は本当に器の大きさが謎です。
愛妻琴子ちゃんに関しては確かにミジンコレベル。
そうそうゴルゴはお仕事に関してはバーンと使いますもんね。何しろ第二次大戦中の飛行機キャッシュで買って、更に飛行場まで作らせましたし。
そうなんですよね。些細なことをきちんとするからこそお金もたまるってものです。
本当に旦那様の行動を微塵も疑わない琴子ちゃんは大物です。

たまちさん、ありがとうございます。

このシリーズにコメントありがとうございます。貴重ですよ~!!

毎回毎回残念で、邪険にされてもくっついて回る西垣先生。本当に何でそこまでといったところでしょうか。
確かにギャラが多いからこそ、本業よりも力を入れるのかも。
まあ入江先生の恐ろしさを知っているからこそ、何が何でも見つけ出してきたんでしょう。

関東から追い出されたものの、日本にとどまることは許されたんだから幸せだったでしょうね。
なにしろ本物のゴルゴは躊躇なく殺してますから。

愛妻とウフーンのためにお金に糸目は…アハハハ!!
確かにそうです。その二つがゴルゴ入江の原動力なんですもんね。
梅干しの種レベルまで吸い取られちゃった琴子ちゃんは、仕事になるんでしょうか?

ねーさんさん、ありがとうございます。

このシリーズにコメント寄せて下さる方は、本当に限られた方しかいらっしゃらなくて。
ありがとうございます!!

西垣先生の扱いは本当にひどいですよね。
琴子ちゃんへの愛情の数十万分の一でもいいから分けてあげればいいのにと思います。
プライベートジェットの中ではもちろん、別荘でもそりゃあすごかったと思います。
でもちゃんと、ゆったりとした時間も過ごしたはず。

ゴルゴ入江はさぞ、たっぷりとした休日を過ごしたことでしょう。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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