日々草子 入江法律事務所 37

入江法律事務所 37






「あーあ、応援グッズ作るの忘れちゃった。」
「よかったよ、忘れてくれて。」
裁判所で二人がそんな会話を交わしていると、
「ここは裁判所ですよ。デートするなら違う場所を選んで下さい。」
という嫌味が聞こえてきた。
「お前は懲りずに」と言い返そうとした直樹は、その口が止まった。
「何か?」
「…お前、今日は休みか?」
「は?」
思わず直樹が言うのも無理はなかった。いつも堅苦しいスーツを着ている船津なのに今日はなぜかジーンズ姿なのである。
「失礼ですね。これはお堅い検事のイメージを崩そうとする僕の努力の賜物ですよ。見た目がこうでも中身が優秀であることは変わりません。今日は君が負ける番です、入江。」
「イメージ崩しすぎだろ、どうかしたんじゃねえの?」
「先生、先生」と琴子が直樹の耳元に口を寄せた。
「モトちゃんが言ってたんですけど、船津検事はドラマに影響されているみたいですよ。」
「ドラマ?」
「はい。最近検事と事務官がメインのドラマが放送されていて。ほら、船津検事は品川事務官に報われない恋をしているじゃないですか。それでドラマの主人公みたいな格好すればあやかれるんじゃないかって思ってるんですって。」
「…全部聞こえているんですけど、そこのダメ事務員さん。」
船津がクイッとメガネを上げると琴子は「あわわ」と口を押さえた。
「ったく、どいつもこいつもテレビに影響される奴ばっかだな!」
「ちょっと、こんな人と一緒にしないで下さいよ!」
「何ですと!どこの誰がこの僕の綿密なプランを真似しようとしているのですか!」
同時に抗議する琴子と船津に「うるさい奴ら」と言い残し、直樹は弁護人の席にと着いた。



この日、直樹たちの法廷を担当するのは初めて一人で裁判長を務める裁判官であった。
検察官は東京地検の(自称)ホープだし、弁護人は大事務所を経て若くして独立した超優秀な弁護士。そんな優秀な二人を前に裁判ができるか緊張で倒れそうになっていた。
しかも先輩裁判官からは「あの二人の法廷か」「いやあ、荒れるぞ」と言われている。
心臓を今にも爆発させそうにしながら、彼は法廷のドアを開けた。

「…え?」
裁判長の席に着くなり、彼は目を疑った。検察官の席に座っているのはものすごくカジュアルな格好をした男だった。
「こ、これは…格好で僕を試しているのか?」
そうだ、そうに違いない。自分が人をきちんと判断できるかどうかを検察官は試すために、わざとこのような格好をしているに違いない。
「さすが地検の(自称)ホープだ…。」
見た目に惑わされてはいけないと、裁判官は弁護人席に目をやった。
「ひぇぇ、優秀っていうからすごいガリ勉タイプかと思ったのに。」
自分の同期にはこんなイケメンはいない。いやこんないい男見たことがなかった。これは本当に弁護士か?テレビ撮影じゃないのか?
なるほど、これは心してかからないといけないと裁判長は深呼吸をした。そして開廷を宣言した。



「…でありますから被告人は○月×日午後9時に…。」
格好が変わっても、船津は相変わらずだった。やたら感情移入しまくっている起訴状の朗読。直樹はすっかり退屈しきっていた。

「それにしても、どいつもこいつもテレビ、テレビと。」
直樹は傍聴席に目をやった。琴子が「ふぁぁ」とあくびをしているのが見える。あくびしても可愛いと素直に思ってしまうのが惚れている証拠なのか。
「あいつがドラマ…テレビ…映画?」
直樹の意識が飛び始めた。

************

「よう、お前の出演作見せろよ。」
直樹が言うと「え!!」と琴子は顔色を変えた。
「何だよ、恥ずかしがっている場合か。」
「いえ、でも…ダメ出しとかしないで下さいよ。」
「どうせ大根なのは分かってるよ。」
琴子がおずおずと出したDVDを直樹は奪い取った。が、すぐにその目が点となった。
「“弁護士秘書のあぶない法廷”…?」
カバーには秘書なのになぜかセーラー服の琴子。一目でどういった類いのものか分かった。
「今準備しますね。」
なぜか手際よくレコーダーの準備を始める琴子。なぜ?なぜこんな物を自分に見せたがるのか!
「ああ…もうちょっといい声出さないとなあ。監督さんには色気がないところが逆にいいって褒められたんですけど、甘えてはだめですよね。」
見まいと目をそらしている直樹の気遣いを琴子は無視して呟く。
「琴子ちゃん、次の撮影がそろそろだよ。」
「次の撮影?」
直樹の周囲が突然変化した。事務所にいたはずなのになぜかスタジオ。
「次の相手、この人。」
「はあい。」
脂ぎった男を前に、琴子が「よろしく」と挨拶している。
「ちょ、ちょっと待て!そんなもんに出るな!」
「でも先生。私、女優になりたくて。」
「いや、そういう女優はやめておけ。」
「そんな!私の可能性をつぶさないで下さいよう!」
「つぶすに決まってるだろうが!!」
しかし直樹の制止も聞かずに琴子はいつの間にかセーラー服に着替えていた。
「やめろ、やめてくれ!」
直樹は叫んだ。

「それ以上、俺の琴子を汚さないでくれ!!」


************

「…ん?」
直樹は現実に戻った。
「べ、弁護人…な、何を汚さないでくれと?」
突然イケメン弁護士が「汚さないでくれ」と叫び出し、裁判長は真っ青になっていた。これも、この叫びも新人の自分を試すためのものなのか?
「そうです、何を汚すと?」
朗読を邪魔された船津が睨んでいる。
「それは…。」
傍聴席ではすっかり目が覚めた様子の琴子が不安そうに自分を見ている。
「それは…お前のそのふざけた格好とくせのある朗読で法廷を汚すなって意味だ!!」
「何ですとぉぉぉぉぉ!!」
頭から湯気を出さんばかりに船津は激怒した。
「この僕が何を汚すと?神聖な法廷を汚しているのは入江、お前だあ!!」
「俺はまともだ、ふざけるな!」
「検察官…弁護人…お、落ち着いて…。」
ああ、これが荒れるという意味だったのか。裁判長はオロオロと二人を注意しようとするが彼らの耳にか細い声が聞こえることはなかった。

「自分はさっさと女作ったからって、いい気になるんじゃない!!」
「そんなの関係ないだろ!お前が変人だから相手も振り向かねえんだ、気付け!お前の脳みそはスカスカのカスカスだな!」
「お前よりは詰まってる!!」
ギャーギャーと二人の言い争いは止まる気配がなかった。

「…いい加減にしなさい!!」

若き裁判長は人生で一番大きな声を出した。
「もう二人とも…出て行けえ!!!」



「まったく船津検事には困ったものですね。法廷がめちゃくちゃ!」
プリプリと怒っている琴子を前に直樹は複雑だった。
「先生、元気出して下さいね。」
琴子は直樹が被害者だと信じて疑っていない。
「さ、おいしい物でも食べて帰りましょう。嫌なことはさっさと忘れて。」
「…そうだな。」
意外に直樹が誘いに乗ってくれたので、琴子は嬉しそうに「何がいいかな。ラーメン?いやいやお寿司?」と色々呟いている。その琴子を見ながら直樹はある決意をした。








************

すみません、一気に最後まで書き上げられるかと思ったのですが予想以上に長くなってしまって。
またそのうち続きは書きますね。



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