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2014.04.14 (Mon)

入江法律事務所 35

お返事ができずに申し訳ありません。
読んで下さった方、コメント、拍手を下さった方、ありがとうございます!!
皆様が楽しんでいただいている様子を見る(読む?)ことは何より幸せです。

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【More】







「あれ?先生はどこに?」
どんどん混んで来た公園で、懲りずに妄想に夢中になっているうちに琴子は直樹とはぐれてしまったらしい。
「下手に探し回るより、ここにいた方がいいかな?」
直樹が見つけてくれることを祈って、琴子は傍のベンチに腰を下ろした。
桜を見上げながら歩く家族連れ、カップル…琴子は彼らを見て「はあ」と溜息をついていた。
「何でうまくいかないんだろう?」
自分だってああいう風に過ごしたいのに。肝心の相手はどこかに消えてしまった。

「あの、すみません。」
声をかけられ琴子は顔を上げた。若い男性が見下ろしている。
「駅ってどちらでしょう?」
「駅ですか?それはですね。」
立ち上がり、自分が来た方向へ琴子は顔を向けた。
「ここをまっすぐ行って…ええと、売店を右…あれ?左だっけ?」
何となく分かるのだが、どうもうまく説明できない。そんな琴子を見てクスッと男性が笑う。
「すみません、公園を出た所まで一緒に行きましょう。」
「いえ、それでは申し訳ありません。」
遠慮する男性に、
「公園を出ればすぐに分かる所なので。」
と琴子が「さあ」と勧めた。



「あいつ、また浮気する気か?」
琴子を探してようやく辿り着いた直樹は、眉を寄せていた。初詣の時も、その前に二人で出かけた時も、どうして琴子はああして男に声をかけられるのか。何よりも本人が男の下心に気付かないことが直樹には一番、腹立たしい。
「おい!」
直樹の声に、歩こうとしていた琴子が足を止めた。
「先生!」
「何をしてるんだ?」
「丁度よかった。こちらの方が駅までの道が知りたいって。」
琴子にとっては直樹の登場はまさしく、救いの手そのものなのだが、男性が「男連れか」という顔をしたことは見えていない。が、直樹はそれを見逃していないわけで。
「駅ですか?駅はここから100m歩くと売店があります。その売店を左に曲がって下さい。そこから150m歩いたら子供広場がありますから。そこを右に。200m歩いたら門が見え、車道に出ます。その車道をまっすぐ進めば駅にたどり着きますが不安でしたら、門の傍に交番があるのでそちらでもう一度確認されて下さい。」
「あ、は、はい。」
「よかった!」
ナンパに失敗して戸惑う男性とは違い、琴子は心からホッとした顔をしていた。
「おい、ボートに乗るぞ。」
「え?本当ですか!」
「ああ。だからさっさと行くぞ。」
「わあい!あ、お気をつけて!」
琴子は直樹に手を引っ張られながら、ニコニコと手を振った。
「どうも…ありがとうございました…。」
男は力なく手を振っていたのだった。


「気を付けて。」
「ありがとう。」
ボート乗り場では男性が女性の手を取って乗せていた。
「うわあ…素敵。」
当然、自分もそうしてほしいと琴子は直樹を見る。が、直樹はそんなカップルに目もくれず一人でボートに乗り込んだ。
「んもう…。」
気付いてくれないかと、乗り場でもじもじと琴子はしている。
「何だ?乗れないのか?」
「いえ、そういわけじゃなくて…。」
「しょうがない奴だな。」
手を取ってくれるかと思って琴子は右手を差し出した。が、違った。
「ったく。」
直樹は琴子の体をいとも軽々とひょいと抱き上げた。そしてストンとボートに下ろす。
「うわあ、いいな!私もやって!」
「無理だよ!あれはイケメンがやるから絵になるんだって!」
真っ赤になっている琴子の耳に、羨望の声が聞こえる。そんな声に構うことなく、直樹はオールを動かし始めた。



「“もしも願いが叶うなら…”」
琴子が歌い始める。
「“…会えない日には部屋中に飾りましょう。あなたを想いながら…”」
「お前、その歌好きなんだな。」
家でもずっと流れていたことを直樹は思い出していた。
「はい!あのね、私の気持ちピッタリのところがあるんですよ。」
「へえ。」
「“土曜の夜と日曜のあなたがいつも欲しいから”ってところなんです。」
「土曜の夜…日曜の…。」
「私もその…土曜と日曜の先生は気になるし…キャッ!」
自分で言っておいて照れる琴子である。
「…お前、その歌ってどういう歌か分かってる?」
「分かってるに決まってるでしょう。恋する乙女の歌ですよ。」
何を分かりきったことをと琴子は直樹を睨んだ。
「学校とか会社では会えるけど、週末はお休みだから会えないんです。」
「いや…ちょっと違うんじゃねえか?」
「え?」
「それって不倫の歌だろ?」
「ふ…不倫?」
琴子の目が点になった。
「不倫って…何で不倫が土日に会えないんですか?」
「土日は相手の男が家庭に戻るってことだろ?」
「家庭に戻る…。」
琴子は「うーん」と考え込んだ。直樹は「やれやれ」とオールを動かし続ける。

「でもやっぱり、私と同じ気持ちですよ。」
「何で?」
「だって…先生だって家庭があるじゃないですか!」

「…。」
思わずオールを直樹は落としそうになった。その直樹の耳に、
「何なの、不倫カップル?」
「あんなウブそうな子、騙してるわけ?最低。」
「つうか、イケメンだから女を弄んでいいと勘違いか、あの野郎。」
「春だからって何をしてもいいってわけじゃねえんだぞ。」
と、次から次へと冷たい声が聞こえてきた(どうやら今日集っているカップルは、かなり潔癖な人間が多いらしい)。

「お前…家庭の使い方、何か違う。」
漕ぐのをやめ、直樹は額に手をやった。
「どうしてです?先生だっておじさん、おばさん、裕樹くんと一緒に暮らしてるでしょ?」
「いや、それはそうだけど。この場合は俺の家庭っていうか親父の家庭じゃない?」
「そうですか?」
「そうだよ。」
「うーむ…じゃ、そういうことにしておいてもいいですけど?」
「何を偉そうに。大体、俺の家庭ってお前とこれから築くことになるんだろうが。」
「へ?」
またもや目を点にする琴子であったが、やがてその顔が赤くなった。
「先生と家庭を築く…えへへ。」
そしてまたもや、得意の妄想タイムに突入したらしい。
「やれやれ」と直樹はオールを再び手にした。



水面に映る桜も美しいものである。
「わあ、きれいねえ。」
「おいおい、落ちると危ないぞ。」
傍のボートのカップルが騒いでいた。
「だって、こんなに綺麗なんだもの。タケシも見て。」
「俺はいいよ。」
「何で?」
「桜よりもお前の方が綺麗だからさ。」
「タケシ…。」

「…何を言ってるんだ、あのバカップル。」
冷めた目でカップルを直樹は見ていた。その前の琴子はというと、こちらも水面に浮かぶ桜の花びらに見とれている。
「…俺もあれくらい言うべきか?」
一応、これでも琴子が喜んでくれる彼でありたいと思ってはいるのだが、なかなか実行に移せないことは気になっている。

************
「先生、見て下さい。桜の国に舞い降りたみたいですね。」
「確かに見事だな。」
「うふふ、先生、桜の国の王子様みたい。」
「何を言ってるんだ、それを言うならお前の方こそ桜の国のプリンセスだ。」
「先生…。」
************

「…無理!!!」
「え!?」
突然の直樹の声に、琴子は水面から顔を動かした。
「先生?大丈夫ですか?」
「え?あ、ああ…悪い。」
「無理って先生…ごめんなさい。ずっとボート漕がせてしまって。私、代わりましょうか?」
「いや、平気だ。」
「そうですか?疲れたら遠慮なく言って下さいね。」
琴子はまだ心配そうに直樹を見ていた。直樹は話題を変えねばと、琴子を見た。

「それ、付けてくれているんだ。」
「え?」
「ネックレス。」
琴子の首には、ホワイトデーに直樹がプレゼントしたネックレスが輝いていた。家を出た時から気付いていて、密かに直樹は喜んでいたのである。

「やっぱり…思います?」
ところが琴子はなぜか浮かない顔になった。
「先生、思ってました?」
「何を?」
「“ブタにトンカツ”だって。」
「ブタに…トンカツ?」
「そうです!私にこんな素敵な物なんて似合わない。ああ、ブタにトンカツだったって!」
頭を抱え、琴子は「おおお」と絶叫する。

「ええと、それは…ブタに真珠と言いたいのか?」
「へ?」
頭を抱えつつも琴子は直樹を見た。
「ブタにトンカツって、共食いかよ。」
「第一」と直樹は冷静に口を開く。
「そんなこと思ってないよ。良く似合ってる。」
「…本当ですか?」
「ああ。」
「本当に?」
「本当。選んだ甲斐あったよ。」
途端に琴子の顔がフニャァとなった。

「…今日ね、この公園に来ている女の人達を見ていて。みんなスタイルはいいし可愛いし。何か自信なくしちゃっていたんです。」
「何を気にしてるんだか。」
「だって。先生だって可愛い子とかがいたら、気になるでしょう?」
「全然。俺、お前以外の女なんて目に入ってないから。」
琴子の顔が赤くなった。直樹は自分の台詞の効果に全く気付いていない。こうしてさりげなく琴子が喜ぶことを口にしているのだが、本人は無自覚なのである。



公園で桜を堪能した後、二人は入江家に向かった。
「ほうら、見てごらん、二人とも!」
「大物が釣れたぞ!」

重樹から釣果がよかったという連絡が紀子の元に入り、ならば皆で食べようということになり琴子も入江家に呼ばれたのだった。

「今日はお魚づくしね。」
「お手伝いします。」
紀子と琴子が連れ立ってキッチンへと入ろうとした時だった。
「あ、そうだ。お前に渡すもんがあったんだ。」
直樹はポケットに手を突っ込んだ。
「ハンカチ、落ちてたぞ。」
相原家で拾った琴子のハンカチを、直樹は思い出したのである。
「ありがとうございます。」
琴子が受け取ろうとして手を伸ばす。直樹も「ほら」と手を伸ばした。

パラリ。

直樹の手から広げられたものは、白地にクマのアップリケのついた…パンツだった。


「きゃあっ!!!」
琴子は悲鳴と共に顔を真っ赤にしてパンツをひったくった。
「何でこれを先生が!!」
「何でって、俺はハンカチだと…。」

「な、な、直樹くん…?」
顔を真っ赤にしてポケットにパンツを詰め込んでいる琴子から直樹が目を動かすと、そこには真っ青になって震えている重雄。
「そ、そ、その…君と琴子の間ではぱ、ぱ、ぱ、パンツを…ハンカチというわけで…それは…隠語というやつかね?」
「いえ、そんなことは!」
そもそもなぜ、自分と琴子が隠語などを使わねばならないのか。
「今日君と琴子は、お花見をして来たといっていたが…そのお花見とやらは、色っぽい意味のお花見とか?ど、どこのお花を君は見たのかい?え?」
ガクガクガクと口を動かす重雄。
「直樹、いくら付き合っているからとはいえ、そんなわしたちの前で開けっ広げに話をするのはどうだろうか。一応節度というか、慎みというか、そういうものを持つべきでは?」
震える重雄をなだめながら、重樹も落ち着かない様子で直樹に話しかけてくる。それに対し直樹はきっぱりと答えた。
「だから、そういうことはありませんから!あれはともかく、俺たちは健全に、公園に花見に行ってきただけです!」



「はあ…疲れた。」
「お魚パーティーだ」とワイワイと賑わっているリビングから一人、直樹は庭に逃げ出していた。
そんな直樹の頬にヒヤッと冷たい感覚が走った。
「先生、どうぞ。」
琴子が缶ビールを持ってきたのだった。
「サンキュ。」
「ぷしゅ」と缶を開ける直樹の隣で、琴子はジュースの缶に口をつけた。
「さっきはすみませんでした。」
「別に。確認しなかった俺も悪かったし。」
「今日はとても楽しかったです、お花見。先生とボートにも乗れたし。」
「そりゃよかった。」
「うふ。」
嬉しそうに微笑む琴子に、直樹はキスをしたのだった。
「…また、ボートに乗りましょうね。」
「…考えておく。」
「んもう!」
「アハハ」と笑いながら、直樹は家の中に戻っていく。琴子もその後を追いかけたのだった。





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