日々草子 五輪な後輩

五輪な後輩





どこまでも続く白い山…。白銀は招くよ、ってどこかで聞いたことがあるけど、まさしくそんな感じ。

「×◎△$@。」
「□▼○#。」

ロシア語を華麗に操っているのは、いつもの後輩だ。ふん、何さ。ちょっとロシア語ができるからってこれ見よがしに喋りやがって。

「ここがロシアなのだから、その国の言葉で話すのは当たり前では?」

そして今日も僕の心を見透かす、本当に嫌な奴だ。

ピューッ!うう、寒いっ!
僕たちはロシアの吹きっ晒しの外にいる。何でこんな所にいるかって、このシリーズを最初から読んでくれている人たちには分かるよね?

つい先程、このロシアのとある山荘であいつは「仕事」をしてきたばかりだ。
といっても山荘の中に入ったわけじゃなく、山荘の窓の隙間から例のごとくアーマライトM16で座薬を撃ち込んだわけで。

で、今僕たちは何をしているかというと。

「ダスビダーニャ!」
ロシア人の男に肩をポンと叩かれると、入江はフッと笑ってスキーで雪山を降り始めた!
え!嘘!ここ、すごい絶壁なんだけど!ていうか、ここを降りないと帰る道ないの?

「OH!サスガ、ゴルゴ入江。オリンピッククラス!」
「うん、悔しいけどすごいテクニック…って、あんた、日本語喋れるの!?」
入江を見送ったロシア人の流暢な日本語に僕は驚愕する。

「ホンノ少シネ。ゴルゴ入江ト仕事スルナラ、日本語覚エタ方ガ便利ダカラ。」
「だったら、さっきも喋ってよ~!」
「テイウカ、ゴルゴ入江ノ連レナラ、ロシア語デキルトオモッテタ。チト残念。」
「どうもすみませんね…。」
「能力ナケレバ仕方ナイ…ハラショーッ!!」
「え?何?どうしたの?」

突然叫んだロシア人の視線を僕は追いかけた。

「うわ、すげえ!!」

スピード付けて滑降した入江が、見事なフォームでジャンプ!
マジで平昌めざせるんじゃないの?

僕たちの驚嘆を知ることもなく、シュッと着地した入江…とおもったら!

「ハラショーッ!!」

…スキー履いたまま、なぜかトリプルアクセル!!雪が舞う中、あいつの体が見事に回転する!!

「入江、スキーダケジャナク、フィギュアモ最高!スキー、トリプルアクセル、初メテ見タ!」
「いや僕もそうだけど…でも。」
でも…あそこでトリプルアクセルする必要性はある?正直、無駄な動きじゃ?
クールに振る舞っている割には、実はオリンピックムードに流されてたのか、あいつ?

「ジャ、次ハお前。」
「おい、お前って失礼だろうが!って、今何と?」
「お前モ入江ノ後、行ク。」
ニッコリと笑って入江が滑って行った先を指すロシア人。ていうか、既に吹雪で1メートル先も見えなくなっている。

「いや、無理!!」
僕はブンブンブンと手を振った。
冗談じゃない!僕はジャンプもトリプルアクセルもできない!
「僕、オリンピッククラスの腕前じゃないから!」
「見レバ分カル。デモ、行クシカナイ。」
「死ぬよ!死んじゃう!」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ。」
「大丈夫じゃねえよ!」
「冥途ノ土産ニイイコト、教エテアゲルカラ。」
「大丈夫の後に冥途の土産と続けるって、日本語おかしいぞ!」
「マアマア。」
ロシア人は僕の耳元にヒソヒソと囁いた…。
「…それ、本当?」
「本当ネ。ソレジャ!」
ロシア人は油断していた僕の背中をドーンと思いきり押した。

「わあ!!」
勝手に滑り出すスキー。目の前にはどこまで続いているか分からない雪道!

「ダスビダーニャ!!」

何が「また会う日まで」だ!!二度と会えないよ!!

ああっ、ああっ!!
ヒーッッッッッ…!!!





************

「…てわけでさ、そこから先は記憶がないんだよね。それにしてもよく無事だったと思うよ。人間って命かかると、本当に知らない力を出すもんだね。」

僕はしみじみと話した。僕がいるのは日本だ。斗南大病院の医局に今、こうして座っていられることは本当に奇跡だと思う。

「そうですか…。」
「ちょっと!命からがらの体験なんだよ?もっと感動してよ!」
こんな恐ろしい経験をして帰って来たことすら奇跡だというのに、どういうわけか目の前で話を聞く鴨狩くんと桔梗くんは面白くなさそうである。

「だって…。」
「俺、冷凍マンモスみたく、三億年後に先生が発掘される方に賭けてたんすよ。」
「あたしは五億年。あーあ、賭け不成立か!」
「ちょっと待て!三億年だか五億年だか知らないけど、君たちは見届けることできないじゃないか!」
「そりゃそうですけど。」
「まさか無事に帰ってくるとは。」
「帰ってきたよ!もっと喜べよ!ったく、あいつのせいで危険な目に遭ったってのに。」
「それは西垣先生が悪いんじゃないっすか。」
鴨狩くんがあきれる。
「オリンピックをテレビで見てて。」
「“ロシアは美女が多い!これは行かねば!”って入江先生の後をくっついて行ったの、先生でしょ?」

…うっ!確かにその通りなんだけど。

「そ、それはともかくさ、僕は重大な入江の秘密を手に入れたんだけど聞きたくない?」
「入江先生の秘密?」
「そ!あのね…。」
あのふざけたロシア人の「冥途の土産」とやらを、僕は二人に打ち明けた――。



「…は?」
ポカンと口を開ける鴨狩くんと桔梗くん。驚いている、フフフ。
「ね、すごいだろ?」
「…それ、西垣先生、マジで信じてるんですか?」
更に冷めた顔をする鴨狩くん。
「入江先生が…実は年金をもらう年齢?」
目が点になっている桔梗くんは盛大な溜息をつき、
「…脳みそ、まだ凍結したままなんですね。」
とまで言い放った。

「入江先生が、俺のじいちゃんみたいにゆうちょ銀行に行って、通帳に年金が振り込まれているのを確認して笑っていると?」
「いや、あいつはスイス銀行かもしれない。」
「んなわけ、あるわけないでしょうが!」
「だって、ロシア人が言ったんだよ!入江は世界の重大な事件に密かに関わっているって。それを計算したらさ、あいつ六十代になるんだって!」
「からかわれたんですよ。」
「やれやれ」と鴨狩くんが言えば、「付き合ったあたしたちがバカだった」と言う桔梗くん。
「でもさ、でもさ…今度はちゃんと証拠があるんだ!」
「証拠?」
「そうさ。それは琴子ちゃん!」
「琴子?」
「ああ。入江と琴子は同級生なんだろ?」
「…琴子も六十過ぎているってことが言いたいと?」
「そう!」
「…どこを見て?」
うんうん。琴子ちゃんが六十代。あのベビーフェイスな琴子ちゃんが六十代。そりゃあ二人には信じられないだろうね。

「だってさ、あの二人は始終イチャコラしてるだろ?それなのに琴子ちゃんは妊娠する気配がない。それっておかしいと思わない?」
「いや、そこはちゃんと考えているってことなんでしょう。」
冷静な鴨狩くんに、頷く桔梗くん。

チッチッチッ!僕は人差し指を振った。

「違うよ。琴子ちゃんは年だからもう、その心配がないのさ!だからところ構わず入江が琴子ちゃんをヒーヒー言わせてもOKだってこと。」

これには自信がある!絶対そうだ!
琴子ちゃんは六十代。奇跡の六十代!

「そう考えると、琴子ちゃんは美魔女どころか…妖怪だな!入江はモンスター。モンスターと妖怪、うん、ある意味お似合い!」
「そんなこと言うと、入江先生に殺されますよ。」
「はいはい。少し寝た方がいいですよ。」
「僕はバッチリ、目を開けている!」
相手にしてくれない二人の前で僕は目を指でクイッと見開いてみせる。

「分かったよ!それじゃあ本人に確認してやろうじゃん!」
僕は勢いよく立ち上がる。
ああ、そうさ。信じてもらえないならば確認してやるさ!

「琴子ちゃん!」
ちょうど廊下を歩いていた琴子ちゃんを見つける。
「西垣先生、何か?」
「琴子ちゃん、すごく頑張ってるよね!」
琴子ちゃんの肩をがしっと僕は掴んだ。
「普通なら定年だっていうのに…夜勤もこなして!」
「定年?」
「いいんだ、いいんだ。ほら、そこに座って。疲れちゃうからね。」
何せ相手は六十代だ、大事にしないと。僕は琴子ちゃんを無理矢理座らせた。

「うんうん、本当にどこから見ても二十代だよね。あ、でもメイクもそんなにしていないし…普段のお手入れがすごいのかな?」
「は?」
「人は琴子ちゃんを妖怪だというだろうけど、気にしないでいいんだよ。若く見えるのは武器なんだから。」
「妖怪!?」
大きな目をまん丸くする琴子ちゃん。僕はそんな琴子ちゃんの胸を見て、ポンと手を叩いた。
「そっか!琴子ちゃんは胸が小さいんじゃないんだ!加齢で胸が垂れ下がっただけなんだね!」
「た、垂れ下がったですってえ!!」
顔を真っ赤にして琴子ちゃんが叫んだ、その時だった。

ボカッ!バコンッ!!バシーンッ!!

…ロシアの雪山に続き、またもや僕の記憶は途切れた。




************

「…その口、永遠に凍結していた方が今後の先生のためにはいいと思います。」
「…うるさい!」
「もう本当、勘弁して下さいよ。」
「うるさい、うるさい、うるさーいっ!!」
桔梗くんと鴨狩くんに、例のごとく尻に湿布を貼ってもらいながら僕は叫んだ。
尻は赤々と腫れ上がっている。当分椅子に座ることは無理だ。

「あ、これ。入江先生から点滴台の請求書。」
「また事務を手なずけやがって。」
鴨狩くんが額に貼り付けた請求書を僕はペリッとはがしてクシャクシャに丸めた。

「それにしても、入江先生の点滴台さばきも見事だったわあ。」
「さすが琴子の旦那。西垣先生の尻のど真ん中!」
「西垣先生もすごかったですよ!覚えていないと思いますけど、入江先生に打たれた勢いで四回転ジャンプしていましたから。」
「今季最高得点ってとこっすね!」
「何が最高得点だ!君たち、オリンピックボケも大概にしろ!」

「あと、今日はこちらも預かっています。
僕の額に桔梗くんがまた何かを貼り付けた。
「ホルマリンの料金…?何でこれを僕が?」
「先生を一生、ホルマリンに漬け込んでおきたいそうです。」
「やっぱ、ロシアの凍土に永遠に埋まっていた方が幸せだったんですよ。」
「そんなことは決してない!」
いてて。叫ぶと尻に響く。

「大体、入江先生と琴子が六十過ぎって…それじゃあ二人の親はどうなるんです?」
「あっ…。」
桔梗くんの言葉に僕は今更ながらハッとなった。
そうだ。そう言われると…。
「やっぱりホルマリンに漬け込まれた方がいいかも。」
それは絶対やだ!

「あ、でも先生。いいお知らせがちょっこっと。」
桔梗くんがウィンクした。
「何?内科のタカヨちゃんがデートしてくれるとか?」
「いえ。先生についたニックネームがあることを教えてあげようかと。」
「ニックネーム?」
「ええ。“レジェンド”と“カミカゼ”です。」
「うひょーッ!!…いててっ!」
痛いけどちょっと嬉しい。何だよ、やっと僕の外科医としての腕前が認められてきたんじゃん!
「カミカゼ」のような鮮やかなメスさばきで斗南大病院始まって以来の「レジェンド」を作り上げたってことが、ようやく認められたに違いない。

「次々と信じられないことをしでかす、その愚かさはまさに“レジェンド”としか言いようがない。」
「もはやそれは“カミカゼ”級のおバカさということだそうです。患者さん、上手いことオリンピックにかけて名付けたなってあたしたち、感心しているんですよ。」
「感心してるんじゃないよっ!!」

オリンピックなんて…もう絶対観てやらねえ!!!










ゴルゴ13が関わった世界に起きた事件を考えると、彼の年齢は六十を超えるらしい…。




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たまちさん、ありがとうございます。

はい、そうなんです(笑)
まだパラリンピックもあることですし、今のうちに!と思って。
そんなに熱心に見てはいなかったのですが(翌朝ニュースでチェックする程度)、本家ゴルゴは結構な確率でロシアを訪れていることもあり。
ついでに、どうでもいい知識ではありますが狙撃以外に初めてゴルゴが能力の高さを示したものはスキーだったりします。文庫版一巻でプロスキーヤー顔負けの腕を見せております。いや、本当に興味のない話題ですみません。

最初四回転をさせる予定だったのです、ゴルゴ入江。でもここはやはり話題のトリプルアクセルかなと。
やる気になったらできるゴルゴ入江だと思います。
そうそう、ハーフパイプ!実はスキーをさせるかスノボーをさせるか迷いました。

あ、またもやどうでもいい知識ですが。
原作者がもうゴルゴのルーツ物が書けなくなったことが心残りだそうです。自分より年齢が上になるからとか何とか。ついでにゴルゴの最終回は香港だそうです。
最後まで本当、興味のない話題ですみません。

ソウさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそ早速来て下さりありがとうございます!
ソウさんのところで色々拝見するとつい、ゴルゴを書きたくなります(笑)
面白いお話を読むと自分も!と思うことと、一緒に盛り上がりたくなるみたいです。

なんか詰め込み過ぎだったなと反省もしたのですが楽しんで頂けて安心しました。
レジェンドは絶対入れたくて!
本当にロシアまでついて行って…ある意味、ゴルゴ入江から信頼されていると言ってもいいような気がします。

ねーさんさん、ありがとうございます。

結構ノリノリでスキーしていたと思います(笑)
このシリーズ、もはやゴルゴ入江よりも西垣先生の方が主役な雰囲気です。
書いている私もそんな感じなので。
本当、いつクビにされてもおかしくないくらい、あちこち付いて回っているという。
西垣先生がどうしてクビにならないかも不思議ですよね!
連載のお気づかいありがとうございます。
無理しない程度に頑張りますので、よろしくお願いします!

佑さん、ありがとうございます。

本家ゴルゴはケネディ暗殺やらなんやらにも関わっていたことになっているので、計算したら六十は軽く超えていることになるんですよ。
ガッキーもいい所に気づいたけど、やっぱり甘かった!

パス記事、頑張ってみて下さいよ~(笑)
あのヒントが出せるギリギリ路線です(笑)でも悩んでいるお姿を見てちょっと安心しました(色々あるので)。

吉キチさん、ありがとうございます。

いえいえ!
五輪からそんな深い内容を浮かべて下さるなんて!五人の美女って…誰?(笑)
ロシアでコースアウト(笑)確かにそうなってもおかしくないですね!
どんな状況になっても無事に病院に戻ってくるんだから、西垣先生も本当に不死身です。
こんな恐ろしい目に遭っても、女性を追いかけることはやめないんだからすごい!

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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