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2014.01.18 (Sat)

入江法律事務所 30


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「うわあ、3日でもこんなに混雑してるんだあ!」
地元の神社だというのに、境内はぎっしりと人がつまっていた。それに加え露店が並んでおり動くのもやっとといった感じ。
琴子と直樹は参拝者の列に連なった。

ふと見ると、前にはカップルが並んでいた。手をしっかりと「恋人つなぎ」している二人をじっと見る琴子は素直に羨ましいと思った。
「なかなか進まねえな」と隣でぼやく直樹を琴子はそっと見上げた。
「先生、先生。」
「何だ?」
「あの…混んでますね。」
「言わなくても分かるよ。」
人混みの嫌いな直樹は不機嫌そのままに返してきた。
「こんなに混んでいたら、はぐれたら大変なことになりますよね?」
素直に「手を繋いで」と言ったところで直樹が願いを聞いてくれるとは思えない琴子であった。遠回しに行く作戦を立ててみる。
「はぐれる?」
「そうですよ。そうしたら…。」
「それぞれ家に戻ればいいんじゃねえの?」
「え?」
「家はすぐそこだし。お前、道分かるだろ?」
「そりゃあ分かりますけど…。」
「じゃ、そういうことな。」
「いやいや、それはちょっと。」
「ああ?」
誰かに背中を押されたのか、直樹が露骨に嫌な顔をした。
「いえ、その…ほら、待ち合わせ場所を決めておくとか?」
「はあ?」
「はぐれないように手を繋ぐ」という方向へ持って行きたいはずが、どうもおかしな方向へと進みそうである。しかしここで直樹とはぐれて一人で家へ戻るということだけは避けたい。

「待ち合わせ場所ですよ。はぐれたらそこで待っていると。ええと…あそこなんていいかも!」
と、琴子ははるか前方にある、臨時に立てたお守りの授与所を指さした。
「何であんなところで…。」
「あそこだったら、いざとなったら呼び出しもしてもらえるじゃないですか!」
と琴子が言った時、ちょうどいいタイミングで「ピンポンパン」というチャイムが響き「…区からお越しの○×□子さん、御家族の方がお待ちです…」と呼び出しがかかる。

「そうそう、最後はあんな風に呼びだしてもらえば」と琴子は想像する ――。



**********
「世田谷区からお越しの入江直樹さん。婚約者の相原琴子さんがお待ちです…」
「婚約者…ムフフ」と笑う琴子。直に直樹が駆け付けて来るに違ない。想像しただけで「こんな素敵な人が婚約者なんですよ~」と誇らしげな気分になる。

しかし。

「うーん、もう五回呼びだしたけど、お連れの方来ないねえ。」
と、困った様子で担当者が琴子を見た。
「…本当に婚約者なの?」
「…え?」
「自分が思っているだけでさ、その、入江さんとやらは婚約したと思ってないとか?」
「そ、そんなあ!」

神社の担当者が向ける哀れな視線の中で琴子は叫んだ ――。

**********

「そっか…婚約者はちょっと調子に乗り過ぎかしら?」
想像しつつ琴子は「うーむ」と考える。まだ直樹からはそんなことは言われていない。
「だったら…」と、琴子はまた考え始める ――。


**********

「世田谷区からお越しの入江直樹さん。結婚を前提に交際されている相原琴子さんがお待ちです。入江直樹さん、結婚を前提に交際されている…ああ!もう面倒だ!!」
アナウンスをしていた担当者がなぜかブチ切れた。
「何だよ、結婚を前提に交際って!こんな長い続柄をこんなクソ忙しい時に読ませるんじゃねえよ!!」
「だ、だって!」
涙目で訴えようとする琴子に担当者は続ける。
「大体、本当に結婚を前提に交際しているわけ?え?」
「ほ、本当ですって!」
「だったら何で迎えに来ねえのさ!そもそもあんただけがそうだと思い込んでいるんじゃねえの?いや、結婚したくて既成事実をここで作り上げるつもりじゃ?」
「そんなことないですよ!」
「この入江さんとやら、あんたのそういうガツガツとしたところが嫌でここに置き去りにしたんじゃない?」
「置き去り!?」
「あ、もしかしたら…入江さんとやらはあんたが作り上げた妄想の産物じゃ?」

**********

「ひどい!実在しますよ!」
「何だよ、お前!」
「だってアナウンスの担当の人がひどいことを言うんですもん!」
「アナウンスの担当?何だ、それ?」
「え?」
琴子はキョロキョロと周囲を見回した。人、人、人。そして隣には先程より一層不機嫌な顔をしている直樹。
「…またお得意の妄想して現実とごっちゃにしてたな?」
「…みたい、です。」
「ったく。」
「はあ」と溜息をつく直樹。
「私、先生に意地でも今日はくっついてますので!」
と琴子はその隣で意気込んだ。迷子アナウンスをしてもらうわけにはいかない。何が何でも、絶対!
「あ、そ。」
「はい!」
と鼻息荒く頷く琴子であるが、気付くと手を繋いだ恋人たちがさらに増えているようだった。

「先生、先生。」
「今度は何だよ?」
「あの、じっとしていると手、冷たくなりません?」
今度はそこから攻める作戦を琴子は立てた。
「手?」
「はい。もし冷たかったら手をつな…。」
と言いかけた時、直樹がサッと左手を上げた。その手には黒の手袋がピシッとはめられている。
「昨日、裕樹が福袋買ってきてさ。この手袋はちょっと自分には大人っぽいからって俺にくれたんだよな。まあ、なかなかいい品だと思うんだけど。」
「え…あ…そうですね…。」
「福袋の中身にしては当たりだよな、うん。」
黒の手袋をしげしげと見つめる直樹。
「本当に…素敵な手袋で…はい。」
琴子はしょんぼりとして俯いてしまった。



しかし、琴子はまだ手を繋ぐことをあきらめていなかった。
「こうなったら真正面から!」と覚悟を決めた。
「あの、先生!」
「何だよ?」
琴子はじっと直樹を見つめた。
「あ、あの。その恋人繋ぎをしたいなあと!」
思いきって「恋人繋ぎ」と言った琴子だった。こう言わなければ直樹は気付いてくれないし、永遠に手を繋いでくれないに違いない。いや、言ったところで繋いでくれるかどうかは分からないが。
「…別にいいけど?」」
「えっ!?」
あまりに素直なGOサインが出たもので、琴子が仰け反ってしまった。
「ほ、本当に?」
「ああ。でもお前も変わってるよなあ。」
「え?そうですか?」
「ああ。こんな所でそんな繋ぎ方をしたいなんてさ。」
「いえ、こういう混雑しているからこそ、必要なんです!」
「そう?ふうん、俺にはよくわかんねえけど。」
「女の子にしか分かりませんよ。」
男には手を繋ぎたい女の心情など理解してもらえないのだろうと、琴子は思った。

「それにしても、お前がそんな繋ぎ方を知っているとはな。」
「そりゃあ知ってますよ!有名ですもん!」
「有名なの?俺が知ったの、司法試験に受かってからだけど。」
「そうなんですか?それは先生が勉強ばかりしていたからでしょう。」
勉強ばかりしていたから、世の中のカップルの行動に疎かったのだろうと琴子は素直に受け取る。
「そっか。司法修習の時に知ったけど。」
「修習で流行ったんですか?」
難しい試験をパスしてきた人たちがこぞって「恋人つなぎ」をしていたのだろうか。まあ、そんなことは琴子にはどうでもよかった。

「いや流行ったんじゃなくて、教わったっていうか。」
「教わった?」
「ああ。まあ話のタネって感じで。」
「話のタネ?」
「しかし“容疑者つなぎ”がそんなに一般に知れ渡っていたとはなあ。」
「よ、容疑者つなぎ!?」
何でそんなことにと琴子は大きな目を更に大きく見開いた。

「お前が容疑者役でいいんだな?」
「え?ちょ、ちょっと、何でそんなことに!?」
「お前がしてくれって言ったんじゃねえか。」
「違います、そんな繋ぎ方は望んでませんよう!」
やっと直樹が手を出してくれたというのに、琴子はその手から遠ざかろうと必死に体を仰け反らせた(注・容疑者つなぎは筆者の想像の産物です)。

「もう、何で上手くいかないの…」と愚痴りかけた琴子の体が突然後ろから押された。
「ちょっと、押さないでって…わぁ!!」
ドドドという音と共に琴子はどんどん押されてしまった。
「せ、先生?」
必死で手を伸ばし、腕をつかんだ。もうこうなったら腕でも何でも構わない、はぐれさえしなければ。

「先生、大丈夫ですか?」
やっと顔を上げた琴子の目の前にいたのは、見知らぬ若い男だった。その男の腕をどうやら琴子は掴んでしまったらしい。

「あ、あの?」
相手も見知らぬ琴子につかまれ戸惑っていた。
「すみません!」
「いえ、大丈夫ですか?」
狼狽する琴子とは逆に、男は満更でもなさそうな顔をしている。
「大丈夫です、ありがとうございます。ええと…どこ行ったんだろう?」
琴子は礼を言うと直樹を探そうと顔を動かした。
「連れの子、いなくなっちゃった?」
「そんなことは…。」
「もしよかったら一緒に探そうか?」
男は琴子がどうやら好みのタイプだったらしい。
「いえ、そこまでお手数をかけるわけには。」
「そんな、ここで知り合ったもの何かの縁だし。」
「縁?」
ナンパされていることに全く気付いていない琴子が、キョトンとなった。そんな所も可愛いと男は思った。こんな子、離したくはない。そして男は琴子の連れが女だと、なぜか疑いもしない。

「おい、何をトロトロしてるんだ?」
「先生!」
「え?」
喜ぶ琴子とは逆に男が顔を歪めた。見ると自分よりずっとずっといい男が仁王立ちして睨んでいるではないか。
「連れって…ええと…?」
「すみませんでした!おかげで会えましたので!」
律儀にペコリと頭を下げて琴子は、あっという間に男から離れた。

「ったく、もう浮気する気かよ?」
「浮気なんて、そんな!」
直樹に反論しつつも琴子は「浮気」いうフレーズに喜びを隠せない。そう、もう自分は直樹以外の男とどうかなったら、「浮気」ということになる。
「浮気するなら、俺が負けたって思うような男を選んでくれよな。」
そう言いながら直樹はギロリと先程の男を睨む。すると男は身を小さくしてしまった。
「先生に勝つ人なんていませんよ、絶対。」
「まあ、そうだろうな。」
と言いながらも直樹は琴子が男の腕を掴んだ手を掲げ、そこをパンパンと、まるで汚れを落とすかのように払った。
「あれ?汚れてました?」
「ああ。」
「さっき押された時かなあ?すみません。」
「別に。」
そんなことをしているうちに、漸く二人に参拝の順番が回って来た ――。



「ちゃんとお前のドジが治るよう、お祈りしたか?」
「先生のお仕事がうまくいきますようにって。」
「そんなこと、神頼みするまでもないね。」
「言いますねえ。」
「それよりさ」と直樹は琴子の顔を見た。

「お前、さっきから俺に何かしてほしいんじゃねえの?」
「…え?」
琴子が聞き返すと直樹はニヤッと意地悪く笑った。
「も、もしかして…知ってた…とか?」
「ない脳みそを絞って、小細工をしかけようとして来たことはお見通しだ。」
「だったら!」
顔を真っ赤にする琴子の頭をコツンと直樹は軽く叩いた。
「ったく、お前はお前らしく真っ向勝負をかけてくればいいじゃねえか。何をコソコソとしてるんだか。」
「…勝負かけたら私のお願い、かなえてくれるんですか?」
気付いていて黙っていた直樹の意地悪さを恨みながら、琴子は口を尖らせた。
「さあ、言ってみないと分からないけどな?」
「…。」
少し迷った末に、琴子は「先生」と直樹の後ろ姿に声をかけた。
「先生と…恋人繋ぎ…したいです。」
顔を真っ赤にして、それでも直樹の目をじっと見つめて琴子はとうとう口にした。

それを聞き先を歩いていた直樹は琴子の元に戻って来た。そしてその手を取り、しっかりと指をからめた。

「…了解。」
そう言うと直樹は握った手を琴子の目の前に掲げ、優しく笑いかけた。

「…これからもお願いしたらこうしてくれますか?」
直樹の手の温もりを感じながら、琴子は嬉しそうに訊ねた。
「いいや。」
「え?」
予想外の返事に琴子はまたもや目を見開いた。
「これは年始スペシャルサービスだからな。」
「嘘!」
「当たり前だろ。」
「そそれじゃあこうして手を繋ぐのはまた一年後?」
「そういうことだな。」
「そんなあ!」
涙目になって叫ぶ琴子に直樹はクスッと笑ったのだった。













♪♪♪♪♪

なんとか1月のうちにお正月ネタを書き上げることができました~!!
お付き合い下さり、ありがとうございました。
自分でも入江法律事務所の琴子ちゃんは可愛くて気に入っております♪
また何かあったら書きたいです~。





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*Comment

★必死な琴子ちゃん

こんばんは、今日のお話は、二人で、初詣に来ました。入江先生にてを繋いでほしくって色々作戦を考えてる、琴子ちゃん必死です。色々考えてたら、迷子になるし…ナンパされるし。結局入江先生が、助けに来てくれました。なんとか参拝した後、先生は、気付いてて、最後は手を繋いでくれて、良かったね。琴子ちゃんでも、つぎは、来年なんて、意地悪言って、本当にツンデレです。
さな |  2014.01.18(Sat) 20:19 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2014.01.18(Sat) 20:58 |   |  【コメント編集】

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 |  2014.01.18(Sat) 23:30 |   |  【コメント編集】

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 |  2014.01.19(Sun) 15:24 |   |  【コメント編集】

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 |  2014.01.20(Mon) 15:19 |   |  【コメント編集】

★さなさん、ありがとうございます。

本当に必死な琴子ちゃん、書いていてとても可愛いなと我ながら思っちゃいました。
入江くんはツンデレなので、そう言っていただけるととても安心しました。
ぜんぶ先生にはお見通しでしたけどね(笑)
ナンパされるほど可愛い琴子ちゃんだから、いつも手を繋いであげたらいいのにと思います。
水玉 |  2014.01.21(Tue) 17:57 |  URL |  【コメント編集】

★たまちさん、ありがとうございます。

はぐれたら各々帰る…確かにひどい扱い(笑)
そんなところが本当にツンデレ(笑)
江戸時代に罪人をひったてるですか!私は手元をハンカチで覆うあれを想像しちゃいました。
いや、考えたら手はつないでませんけどね。

手をパンパンって叩くところなんて本当に素直じゃないですよね~。
一年に一度なんて言わずに、何度も繋いであげてほしいです!
水玉 |  2014.01.21(Tue) 18:00 |  URL |  【コメント編集】

★こっこ(*^^*) さん、ありがとうございます。

そうそう、妄想を口に出す琴子ちゃんを呆れつつも可愛いと思う入江くん、絶対優しい眼差しでしょうね!
本当にこんなに可愛かったら、そりゃあたまらないでしょう!
水玉 |  2014.01.21(Tue) 18:01 |  URL |  【コメント編集】

★紀子ママさん、ありがとうございます。

いえいえ、本当にもったいないお言葉をありがとうございます!
このシリーズの琴子ちゃんはどのシリーズよりも一生懸命で、私も可愛くてつい沢山話を書いてしまいました。
入江くんの意地悪は琴子ちゃんを可愛いと思う気持ちの裏返しなんですよね。
今年もミジンコな心の持ち主なんでしょう(笑)
赤いロープでがんじがらめで縛っても、まだ物足りないと思いそうです!
水玉 |  2014.01.21(Tue) 18:02 |  URL |  【コメント編集】

★吉キチさん、ありがとうございます。

お久しぶりです!
わぁ、来て下さってとても嬉しいです!コメントありがとうございます!

そうなんですよ。妄想中の琴子ちゃんも可愛くてたまらないと思いますよ!
そんな琴子ちゃんを独占したくてたまらないくせに、この男は素直に気持ちを出さない!
そうですよね。もっと素直になれっ!って誰もが思いますよ。
俺がつなぐ前にお前は…って確かにその通りだと思います!
「何、他の男と手をつなごうと」とイライラしてたまらなかったことでしょう!
吉キチさんの言うとおり、琴子ちゃんよりも幸せを感じていると思います♪
水玉 |  2014.01.21(Tue) 18:04 |  URL |  【コメント編集】

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