日々草子 入江法律事務所 28

入江法律事務所 28

ということで、早々とその後ですよ~。


母が久しぶりに熱出して寝込んでしまった…f(^_^;


♪♪♪♪♪



新しい年の二日目。

「お父さん、風邪引いちゃうよ」と言いながら琴子はこたつで気持ちよく寝ている父に毛布をかけてやる。
昨日の元日は親子二人でのんびりとおせちを食べつつ(勿論、重雄が作った)、テレビをのんびりと楽しんでいた相原家であった。

「さて、と。」
自分の部屋から持ち込んだ『ガラスの能面』81冊を琴子は積み上げていた。
「お正月、のんびりと読書でも。」
一巻から読みかえしつつ、現在40巻の折り返しに入ったところである。
「そうそう、この辺から紫のカトレアの人にお見合い話が持ち上がってね…ぐすっ。」
何度も読み返している割には同じ個所で琴子は感情移入してしまう。少し前までは自分もこのマンガのヒロインと同じ立場だった。
「それにしても…夢じゃないかしらね?」
マンガを手に琴子は自分の頬をびよーんと引っ張った。
「痛い。やっぱり夢じゃないのね。」
擦りつつ笑う琴子。そう、年末の出来事は夢ではなかった。

静かな正月だと思いながら、琴子がまたマンガの世界に入り込もうとした時だった。

ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴り、琴子は顔を上げた。

「お正月に誰?」
読書の邪魔をされた琴子は不機嫌を露わにした。
「うーん、新聞の集金か?」
チャイムで目を覚ました重雄が寝ぼけた声を出した。
「やだ、お正月から集金に来ないでしょ?それにちゃんと先月末に払ったはずだし。」
宅配か、いやそれも予定はないはずと思いながら琴子は玄関に向かった。

「はあい、どちら様…。」
「よう。」
玄関に立っていたのは、直樹だった。琴子は大きな目をパチクリとさせると、静かにドアを閉めた。
「おい、何だ、その態度は!正月から!」
直樹の怒鳴り声をドアの向こうに聞きつつ、琴子は玄関前の鏡に向かって髪をなでつけた。
「な、な、何で先生が?」
信じられなかったが、琴子はまたドアを開けた。
「ったく、何だよ。」
「いえ、その…集金の御用で?」
「集金?」
「頂いた退職金を取り返しに来たとか?」
一度は事務所を退職した琴子であるが、今年からまた復帰することが決まっていた。
「…俺は正月早々そんなことをするほど、金に困っちゃいねえ。」
「では、御用件は?」
「お前の親父さんに年始の挨拶に。」
「ああ、そういうことか!」
正月といえばそれではないかと、琴子はポンと手を叩いた。
「ったく、相変わらずだな。」
「すみません。」
頭に手をやり「アハハ」と笑う琴子に直樹は溜息をついた。

「わざわざ、ご丁寧に」と言いながら琴子は直樹を家に上げた。と、居間の前で琴子は重雄が寝ていたことを思い出した。まずは起こさねば。

廊下に直樹を待たせ、琴子は居間に飛び込んだ。
「お父さん、お父さん。」
「おう、集金だったらわしの財布がコートのポケットに…。」
「違う、先生!入江先生!年始の挨拶に来て下さったの!」
「何?入江先生…直樹くんが集金に?さては小学生の時に駄菓子屋でイリちゃんに立て替えてもらった10円を回収するため、息子を寄こしたか!」
「ちょっと、10円も持ってなかったの。って、10円をわざわざ取り返しに来るほど、入江さんちはお金に困ってないでしょう?」
「それもそうだな。」
「…やっぱり親子だ」と直樹はクスッと笑いながらその会話を聞いている。

重雄を起こしながら琴子はハッとなった。こたつの上には81冊のマンガ。こんな物を見られたらまた何を言われるか。
「ええと、どうしよう」と琴子は困り果てた。このマンガを部屋へ戻すには直樹の前を通らねば。それでは隠す意味がない。
「困った時はここ!」
琴子はこたつの中にマンガを押し籠めた。ついでに重雄の毛布も放り込む。

「お待たせしました、どうぞ。」
笑顔で琴子は直樹を居間へと招いた。



「あけましておめでとうございます、おじさん。」
膝を揃え挨拶をする直樹に、
「おめでとう。わざわざありがとうな、直樹くん。」
と上機嫌で相手をする重雄。琴子は二人のためにお茶を淹れ始めた。

「今日はもう一つ挨拶をさせていただきたいと思って、お邪魔しました。」
「もう一つ?」
重雄と琴子が顔を見合わせた。
「ああ、そうか…。」
少し考えた後、重雄が頷いた。が、琴子はキョトンとしたままだった。
「そうか、とうとうこの日が来たんだな。」
「…ええ。」
重雄が話の内容を分かっていたことに驚きつつ、直樹はこれなら話も早いと思った。
重雄と直樹はどうやら通じ合っているようである。琴子だけが分からないままだった。

「分かってるよ、直樹くん。言わなくとも。」
「ですが一応、けじめとして。」
「いやいや。本当に真面目でしっかりしている。イリちゃんも立派な息子さんを持って幸せなことだ。」
「そんなことは。」
「謙遜などせずともいい。分かった、わざわざ来てくれたんだ。きちんと挨拶を受けよう。」
「はい。」
そしてまた直樹は背筋を伸ばした。重雄も背筋を伸ばす。

「この度はお嬢さん…。」
「ああ、いや!やっぱり全て言わなくてもいい!」
重雄が手を直樹に伸ばし、その口を止めた。
「言いにくいことだ、よそう!」
「…え?」
直樹が聞き返す。琴子はやはり分かっていない顔をしたままだった。

「言いにくいことなど…。」
「いいや!いくら君でも言いにくいことは言いにくい!全てわしは分かっている。勿論、琴子もだ。」
「あたしも?」
琴子は自分を指さし、直樹と重雄の顔を見た。そう言われても分からない。

「直樹くん。」
重雄が今度は膝を揃える。
「君には本当に感謝している。こいつが本当に世話になったと思う。何もできないし迷惑ばかりかけたことだろう。それなのにずっと面倒を見てくれた。言葉に言い表せないくらい感謝しているよ。」
「おじさん…?」
「いいんだ。そんな君に最後まで言わせるつもりはない。わしも琴子も分かっている。ああ、そうだ。」
ううっと重雄は涙をぬぐう。
「あのですね、おじさん。」
「いいって!琴子を解雇するって言いに来てくれたんだろう?親父さんとわしが親友だからって気を遣って出向いてくれたんだ。その態度にわしは感服しているよ。恨むなんてことはない!」
「か、解雇?」
琴子は口をあんぐりと開け、直樹を見つめた。
重雄は昨年末、琴子が一度直樹の事務所を辞めたことを知らなかった。なぜなら年末は重雄の店も書き入れ時とあって、琴子と顔を合わせ話をする機会が少なかったこと、琴子の口から直樹のことを話しづらかったからだった。ゆえに琴子が一時期、入江法律事務所を離れていたことを重雄は知らない。

「せ、先生…私、また解雇されるってことですか?」
「いや、その…。」
「琴子、わしも店を経営している身として直樹くんの気持ちは理解できる。お前も辛いだろうが経営側も辛いんだ。仕方ない、受け入れろ。」
「先生!そんなあ!」
「違います!二人とも、落ち着いて!」
「直樹くん、本当に今までこいつをありがとうな!」
「先生、考え直して!」
「琴子、未練がましい!」

「違います!琴子さん…お嬢さんは俺の所に永久就職してもらうつもりなんです!」

「…え?」
直樹の宣言に重雄が今度は口をあんぐりと開ける番であった。



「え、永久就職?ということは定年なしでこいつを雇ってくれると?」
「そういう意味ではなく。」
直樹はコホンと咳払いを軽くして、
「話の流れで言い方は古くなってしまいましたが。つまりお嬢さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂きたいと思っています。本日はそのお願いに参りました。」
「結婚を前提…。」
その言葉で琴子は頬が赤くなることを感じていた。

「許していただけますでしょうか?」
直樹は重雄に向かって頭を下げた。琴子も下げた。
「…本当に?」
重雄はまだ信じられないという顔で二人を見ていた。
「はい、本気です。」
直樹はいたって真剣である。
「個人事務所なのでお嬢さんに苦労をかけることになるかもしれません。ですがお嬢さんの支えがあれば何でも乗り越えられる、いえ、支えてくれるのはお嬢さん、琴子さんしかいません。俺には琴子さんが必要なのです。」
「そこまで琴子を…。」
直樹の決意に重雄は先程とは違う涙を目に浮かべた。
「琴子さんを必ず幸せにします。」
「…よろしくお願いします。」
直樹の言葉に重雄が頭を下げた。許しを得られたことが分かり、直樹と琴子は笑みを浮かべた。



「いや、めでたい。琴子、酒だ。酒を持ってこい。」

固い話はここまでだと重雄は上機嫌で琴子に命じる。
「一番いいやつな。ほら、直樹くん、こたつに入りな。足が疲れただろう。」
先程から少しも足を崩さなかった直樹に向かい、重雄はこたつ布団を叩く。
「それでは。」
「どうぞ、どうぞ。」
にこやかな重雄を見ながら、琴子は酒の仕度のために立ちあがった。
が、「おこた、あったかいですよ」と言いかけた所で、琴子の足が止まった。
「おこた…?」
そこで琴子は青くなった。こたつの中には…。

「ちょ、ちょっと待って!」
足を伸ばしかけた直樹と重雄が琴子を驚いた顔で見る。
「こ、こたつは…先生、足が長いから足を伸ばさない方が。こたつからはみ出ちゃう。」
「あ?何を言ってるんだ。いくら直樹くんの足が長いからって出やしないさ。」
相原家のこたつは長方形である。
「いや、もしかしたらって…。」
「いいからお前は酒を用意して来い。直樹くん、気にしないで足をグーンと伸ばしな。ほら、こんな風に…痛え!」
見本を見せようとした重雄が顔を歪めた。
「何だ?こたつに何か入ってるのか?」
「ああっ!!」
琴子が止める間もなく、重雄が布団をめくり上げた。
「何だ、こりゃあ?」
重雄がこたつの中から次々と出してくる、81冊のマンガを直樹は茫然と見つめ、琴子は額を押さえたのだった。



「…知的な正月を過ごしていたところ、邪魔して悪かったな。」
「知的って…。」
「いや、どうやら“読書”にいそしんでいたらしいから。」
帰る直樹を見送りに門のところまで出てきた琴子は「ううっ」と唸り声を上げていた。
「しかし、まあ…」と直樹は大きく息を吐いた。
「どうかしました?」
「緊張したなって思って。」
「緊張?」
「そりゃそうだろ。結婚を考えているって相手の親に挨拶することがこんなに緊張するとは思わなかったぜ。」
「先生が?嘘でしょう?」
「ひでえな。生きてきた中で一番緊張したんだから。」
フッと直樹が笑った。それでもまだ琴子は信じられず、
「試験よりも?裁判よりも?」
「試験や裁判で俺、緊張したことねえもん。」
そして直樹は嬉しそうに、
「でもよかった。許してもらえて。」
と笑った。

「先生、これ…。」
琴子が直樹のコートの中に指を入れた。そこには琴子の手編みのマフラーが見えていた。
「見栄えはともかく、なかなか暖かいぜ。」
「何かまだ夢を見ているみたい…。」
直樹がマフラーをして、ちゃんと親に挨拶に。結婚を前提と言ってくれた。
「夢じゃねえよ。」
直樹は琴子の両頬をびよーんと引っ張った。
「痛い!」
「だろ?」
頬を擦りながらも笑っている琴子に、直樹がキスをする。

「…これで現実だって分かった?」
「…ますます夢のようで。」
ほんのりと頬を染め、目を潤ませる琴子に直樹はもう一度キスをする。
「お前が夢みたいという度に、キスして分からせてやるから覚悟しておけ。」
「…はい。」
笑う琴子の額に、直樹は自分の額をつける。

「それじゃ、また明日。」
「わざわざ来なくていいのに。」
明日は琴子が入江家に挨拶へと行くことになった。重雄も一緒である。
「親父におじさんが10円に利子つけて返しに来るぞって言っておこうか。」
「アハハハ。」
「じゃあな。」
「気をつけて。」

少し歩いた所で直樹は振り返った。琴子がいつかのように、大きく手を振っている。
「風邪引くから、早く入れよ。」
「はあい。」
そう言ってもきっと自分の姿が見えなくなるまで、琴子はそこに立っているだろうと思いながら直樹も手を振り返したのだった。





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すごい!!

早速続きUPされていて嬉しいです!!
しかも結婚前提って。
原作の流れだと即結婚なので、恋人期間があるって嬉しいですね。
ラブラブな二人を今後も楽しみにしてます。

かっこいい!

こんばんは今日のお話素敵でした。正月に、相原家に挨拶に来た入江君、親子揃って集金に、来たなんて言って、面白かったです。やっぱり親子だなぁと私も思いました。結婚の承諾に来たのに勝手に親子で勘違い…入江君も永久就職なんて、いつの時代の言葉を言ってるんだか、結局結婚の許しをめらい、ホットしている入江君、試験や裁判より、結婚の挨拶のほうが緊張するなんて…入江君可愛です。これから二人は(三人かな?)入江家に挨拶しに行くんですね紀子ママは、大興奮でしょうね、楽しみです。絶対すぐ結婚式挙げると騒ぐでしょうね、大変だ、早く続きが見たいです。次回を楽しみにしてます(^O^)

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たまちさん、ありがとうございます。

まったくのんびりだらだらな相原家の正月…に爆笑しました!
確かに両想いになったばかりの娘には見えない琴子ちゃん。
何がなくとも『ガラスの能面』…にも大爆笑!!
マンガと結婚しなよ、琴子ちゃんと言いたいくらいです。

入江家をバカにしていると言われても仕方ないですよね。
それにしても、子供の頃の10円の貸し借りをよく覚えていたな、アイちゃん(笑)
たとえ解雇の話をしに来たとしても、いくら入江くんでも正月早々はそんな無粋なことはしない…と信じたいです。

ねーさんさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそ読んで下さってありがとうございます!
そうなんです、私も恋人期間の二人をちょっと書いてみたいなと思って。
今回は付き合い始めたばかり(?)の初々しい二人を楽しんでいただけたらと思いました!

さなさん、ありがとうございます。

永久就職という言葉も聞かれなくなって久しいですねえ。
今は結婚後も働く女性が多いせいもあるんでしょうけど。
さすがの入江先生も交際の許可を頂く時は緊張するのかなと思って。
アイちゃんは反対しないことは分かっていても、やっぱりそれはね。
そうそう、皆さんにも「親子だ」と笑われたんですよ~。

よしぴぃさん、ありがとうございます。

いえいえ、こんなブログに沢山のコメントすごく嬉しいですよ!
もう回数なんて気にしないで下さい♪
三人の会話を書きたくて書いた話だったので、笑って頂けて嬉しかったです。
本当にボケている親子で、入江くんの苦労もしのばれるというか何というか。
原作は琴子ちゃんより先に琴子パパにプロポーズしていますよね(笑)
今回は一応、手順を入江くんに踏んでもらいたいなと思って書いてみたんです。
琴子ちゃんは本当に夢の中にずっといる気分でしょうね。本当、たくさんキスしてもらっちゃえ!!

そして母のこともお気づかいありがとうございます。
その後私がもらってしまって…鼻だけで済んでいるのでよかったんですけど。
ノロ、すごい怖いですよね。
よしぴぃさんも気をつけて下さいね!私もひたすら手を洗ってます。

ナイトさん、ありがとうございます。

板さんですものね、そりゃあおいしいかと!
琴子ちゃんは口はかなり超えているイメージがあります(笑)

こたつの中のマンガ達(笑)
ええ、そりゃあもう温まったことでしょう(笑)
寝る時に抱いて寝たら気持ちいいかと思います。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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