日々草子 入江法律事務所 26 ※挿絵がつきました!!

2013.12.29 (Sun)

入江法律事務所 26 ※挿絵がつきました!!


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都心の一角にあるスーパーは既に煙で見えなくなっていた。ホースから出る水の音が響くが火が収まる気配は一向にない。
「確かに見た!サンタの格好をした子がいた!」
誰かが叫んでいる。消防士たちが何とか助けようとしている様子が目に飛び込む。
「中に知り合いがいるかもしれないんだ!」
直樹は規制線が貼られた傍で叫んだ。
「危ない、下がって!」
そんなことは言われずとも分かるといった風で駆けつけた警察官が直樹を追いやる。
「入れてくれ!」
それでも直樹は叫ばずにいられなかった。
と、その時である。

バキッ、バキッ!!

建物の中で何かが崩れ落ちる音が聞こえたかと思うと、悲鳴が上がった。

「直樹さん、こちらに!」
いつの間に来たのか、沙穂子が直樹を現場から遠ざけようとしていた。
「消火の邪魔になるわ。ここは消防の方にお任せして…。」
「任せられるか!」
直樹の剣幕に沙穂子は思わず手を引っ込めてしまった。

直樹は沙穂子の手を振り切り、規制線の中に入った。
「直樹さん!」
真っ青になって沙穂子が叫ぶ。
「君、何をしている!」
消防隊員も叫んだ。
「おい、君!」
直樹は消防士たちの制止を振り切り、燃えさかるスーパーの中へと飛び込んで行った ――。



中は炎の熱さと煙で1メートル先も見えなかった。
「おい、相原!!いるんだろ!」
煙にむせながら直樹は叫んだ。しかし琴子の声は聞こえて来ない。
「おい!返事をしろ!」
何度繰り返しても、何も返って来なかった。
―― 崩れ落ちた何かの下敷きになって、気を失っているのでは…。
直樹は見える範囲に目を凝らした。が、付近に人らしき影は何もない。

と、直樹はそこで足を止めた。
「何かが聞こえたような…。」
全神経を耳に集中させる。
「ひっく…ひっく…。」
間違いなかった。確かに、泣き声が聞こえる。それも段々と細くなっていっている。
直樹は声が聞こえる方へハンカチで口を押さえながら急いだ。

「ぐすっ…ぐすっ…。」
かつては休憩スペースだったのだろう。今や煙につつまれているそこに人影があった。
「おい…!」
直樹が声をかけると、その顔が上がる。それはまだ小さな女の子だった。
「ママ…ママ…。」
女の子は顔を涙だらけにして母親を呼んでいた。
「大丈夫だ。」
直樹は自分のコートを脱ぐとその子をくるんだ。
「…?」
女の子が顔を上げ直樹を見る。
「大丈夫、一緒にママの所へ行こう。」
直樹が笑いかけると、女の子は小さくコクンと頷いた。

「おい、相原…琴子!いないのか?」
コートにくるんだ子供を抱え歩きながら、直樹は琴子の名前を呼び続けた。
「琴子!俺だ!聞こえたら返事をしてくれ!」
危険の少ない箇所を慎重に選びながら、直樹は黒煙の中に向かって呼び続けた。いつしか「相原」から「琴子」と呼び方が変わったことに気づかずに呼び続ける。しかし返事はない。
「くそっ…琴子!!お前、どこで寝てやがる!」
直樹がひときわ大きく叫んだ時だった。

バキッバキッバキッ!!

轟音と共に二人の目の前に建物の梁が崩れ落ちてきた。

「うわぁぁぁぁぁんっ!!」
途端に火がついたように泣き叫ぶ女の子。

「大丈夫、大丈夫だ。」
直樹は女の子の背中を撫でながら、自分の心も落ち着かせる。

このまま、琴子を探していたら逃げ道を失ってしまう。一人ならばそれも怖くはなかったが、今はこの子供がいる。
ここで強引に探し歩いたら、この子の命まで失われてしまう――。

直樹は苦渋の決断をした――。



「出てきたぞ!!」
燃え盛る炎、広がる煙から逃れ、直樹は脱出した。
「舞!舞!」
母親だろう。こちらも顔じゅうを涙でぐしょぐしょにした女性が直樹の元へ駆けつけてきた。
「ママ!」
女の子は直樹の腕から母親の腕に飛び移った。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
何度お礼を言っても言い足りないとばかりに頭を下げる母親から逃れ、直樹は再びスーパーへ足を向ける。一人ならばまた探しに行ける――。



「直樹さん、もうやめて!!」
沙穂子が泣き叫びながら直樹をつかまえた。
「お願い!もう行かないで!」
今度は何が何でも行かせまいとする沙穂子は体全体を使って、直樹を止めにかかった。
「やめて!お願い!」
いつものおっとりとした様子とは正反対の必死さで、直樹の背中にすがりつく沙穂子。
「君、もう行くな!」
消防士たちも沙穂子と共に直樹を止めに入る。
「行かせてくれ!頼む!」
直樹が怒鳴った時だった。


バキッバキッバキッ!ガシャーンッ!!

今まで以上の轟音と共に、スーパーの入り口が崩れ落ちた。もう入ることはできない――。

「嘘…だろ…。」
直樹は目の前が真っ暗になった。もう自分も消防士も入れない。ということは、琴子は――?
直樹の体から力が抜けて行く――。

「先生!」
目を閉じたら、いつも傍にいたあの顔が浮かんで来た。声まで今もこうしてはっきりと思い出すことができる。

「先生!」
もう二度と呼んでもらえないその声…。

「先生!!」
…なぜ「先生」としか呼ばないんだろうか。もっとたくさんのことを話したはずなのに。














































「先生!」
いや、違う。これは自分の脳裏の声ではない。直樹は目を開けた。

はっきりと聞こえている。幻聴ではない。直樹はその声が聞こえた方を見た。

「先生!先生!」
人混みの中から、琴子の顔が見えた。幻覚かと思う。
「先生!」
琴子の顔がぐしゃぐしゃだった。泣いている。
幻覚ではない。幻聴でもない。
直樹はフラフラと琴子の方へと歩いて行った。

「もう先生!突然火の中に飛び込んで行って…あたし、あたし!!」
そこまで言うとあとはもう聞こえなかった。琴子が直樹の体を揺らしながら泣いている。
「そりゃあ、弁護士が人を助けるお仕事だってのは知ってます!でも、でも!火事の中に飛び込むなんて無謀すぎです!」
「お前…。」
「先生が出てくるまであたし…もう怖くて怖くて!」
「この子、君の後を追いかけて行くって聞かなかったんだぞ。」
傍で琴子を必死に止めていたという初老の男性が口を挟んだ。
「この細っこい体のどこにそんな力があるかってくらいでね。」
止めても暴れた琴子につけられた痣を、男性は苦笑しながら披露した。



「お前、何でここにいるわけ?」
火災の後片付けが始まり人も散り散りになり始めた所で、直樹はまだ信じられないという様子で琴子に訊ねる。
「何でって買い物に来たんですけれど…。」
漸く少し落ち着いた琴子が涙を手で拭きながら答える。
「取り残されたんじゃなかったのかよ!」
思わず直樹は怒鳴った。
「お店に入ろうとしたら、さっきチラシ渡した子に“サンタが何でいるんだ”ってからまれちゃって。相手をしているうちに火事が起きて…。」
つまり琴子は店内に入っていなかったということだった。

「それじゃあ、サンタ姿の女が残されているってのは一体…?」
「その子を先生が助けたんじゃないですか。」
琴子が「ほら」と示した方向には、直樹が助けた女の子がまだ母親と抱き合っていた。琴子が言うとおり、その子はサンタの服を着ていた ――。

「あれ?サンタの子が残されているって聞いて先生、飛び込んだんですか?ということは…?」
「…お前、すげえ腹が立つ奴。」
「え?」
低く響いてきた声に、琴子は聞き返す。
「腹が立つ?私に?」
「ああ、そうだ!すげえ腹が立つんだよ、お前って奴は!」
何で自分が怒鳴られるのか理由が分からない琴子は、口をポカンと開けていた。
「ったく、何で俺がこんな目に!」
「…すみません。」
何だか分からないが、怒っている直樹を前に琴子は謝ったところでハッとなった。
ここでこうして直樹を労うのは自分ではなく、沙穂子ではないだろうか。琴子は自分がいかに出しゃばっているかという状況に気付いた途端、穴があったら入りたくなった。

「あ、あの…私はこれで。」
沙穂子に見つからないうちに逃げようと琴子が背中を直樹に向けた。が、その手がガシッと掴まれそれ以上進めなかった。
「…行くな!」
「あ、あとでお詫びに!いえ、もうお二人の前に姿は見せませんので!」
頼むから逃げさせてくれと琴子は直樹に目で訴える。しかしその手は離れない。
「もう懲り懲りなんだよ、お前にトラブルを持ち込まれるのは!」
「ですから、もう持ち込みませんから!」
グイグイと琴子が何とか直樹の手を振りほどこうとするが、直樹は殊更力を強めてくる。
「お前のせいで俺はどれだけ苦労するのか!もうたくさんだ!」
「分かりました、すみません、ごめんなさい!」
半泣き状態で騒ぐ琴子。しかし直樹は力も表情も緩めなかった。

「…ったく、俺から離れるとすぐに騒ぎを起こしやがって!」
「べ、別に私が火事を起こしたわけじゃありませんよう!」
「うるさい!」
直樹の一喝に琴子は口を噤んだ。

「…もうこんな思いをするのは二度とごめんだ。絶対したくねえ!」
自分の顔をじっと黙って見つめる琴子に、直樹ははっきりと言った。

「いいか!お前は俺の目の届く範囲にいろ!」

「せ、先生…?」
直樹の言葉の意味がよく理解できず、琴子はまたポカンとした顔になった。
「先生…何を一体…?」
戸惑う琴子に、直樹は続けた。

「お前は二度と俺から離れるんじゃない!ずっと、一生俺の傍にいろ!これは命令だ!」

「先生…。」
直樹は掴んでいた琴子の腕を引き寄せると、力強く抱きしめた。
窒息するのではと思わずにいられないその力強さに驚いていた琴子だったが、その顔はやがて笑顔と嬉し涙が広がり始めた。


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「返事は…?」
直樹の問いかけに、琴子もはっきりと答えた。
「…はい!」
その言葉を聞いて直樹は、琴子の体が壊れてしまうくらい、強く強く抱きしめたのだった。





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Comment

きゃ~
嬉しすぎて倒れる~~~
そうか~女の子違いか~
はいからさんが通る(古い!)のように
ハラハラドキドキでした♪
ばーばもじゃ |  2013.12.29(Sun) 23:38 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2013.12.30(Mon) 00:39 |   |  【コメント編集】

良かったね。

今日の入江君かっこいい(笑)スーパーの中に琴子ちゃんがいると、勘違いして必死に探している所がかっこいいです。 もう助けられなかったと思ったけどどっこい、琴子ちゃんは、無事でした。それでも入江君は、素直になれず、怒鳴ったけど最後は、プロポーズ(かな?)してもらい、琴子ちゃん良かったね(*^_^*)これからの二人はどうなるのか、気になります。新しいお話し待ってます。
さな |  2013.12.30(Mon) 01:27 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2013.12.30(Mon) 02:43 |   |  【コメント編集】

更新有難うございます(*^o^*)
いや〜ん!素敵o(^_^)o
でも・・・・
二人とも沙穂子さんの存在を忘れちゃ〜いませんか?
キャハハッ(≧∇≦)
続きを楽しみにしております(^_−)−☆
Kazigon |  2013.12.30(Mon) 02:54 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2013.12.30(Mon) 07:02 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.12.30(Mon) 07:37 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.12.30(Mon) 13:29 |   |  【コメント編集】

入江直樹

やっと?素直になりましたね!特に、入江君、火事がもたらした、と、いったら、変だけど、お互いに、大切な人、入江君、と、琴子ちゃん。
なおたん |  2013.12.30(Mon) 14:15 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2013.12.31(Tue) 10:02 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.08.12(Wed) 10:34 |   |  【コメント編集】

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