日々草子 入江法律事務所 24

入江法律事務所 24

すみません!
もう開き直りました(笑)
『予約したクリスマス特番を時期外れに見ている』という設定で(笑)
それでも年内に完結させたいので(今年の汚れは今年のうちに(笑))、記事のアップを優先させていただくことをお許し下さい!コメント頂いているのにお返事できなくてすみません。でも全部、全部読んでますから!!
失礼なことをして本当にすみません!









「すみません、沙穂子さん。あと少しで目処がつきますので。」
せわしなく机の上の書類に目を通しながら、直樹は沙穂子に謝った。が、すぐにまたパソコンのモニターに目をやる。
「いいえ、私の方は気にしないで下さい。」
待ち合わせ時間に遅れるという連絡を直樹にもらったが、三十分過ぎても来ないので沙穂子は心配になって事務所にやってきた。そうしたらこの様子だった。
「それにしても」と沙穂子は事務所の中を見回した。直樹がこのように忙しいのならば秘書の琴子がいるのでは?
「相原さんはお休みなんですか?」
「いえ…彼女は退職しました。」
「退職!?」
これには沙穂子も思わず声を大きくしてしまう。この間会った時からひと月も経っていないというのに。あの時、琴子は何も言っていなかった。
一体何が理由だろうと思ったものの、それはプライバシーに関することだから聞かない方がいいだろうと沙穂子は思った。

「はい、入江法律事務所…ああ、どうも。ええ。」
左手で受話器、右手でマウスを動かす直樹。それを沙穂子は心配そうに見つめる。



「お待たせしました。さあ、行きましょうか。」
漸く目処がついたのか、直樹がコートを着ながら沙穂子に笑いかけた。
「あの…直樹さん。」
「どうかしましたか?レストランの方は大丈夫です。」
「いえ、あの…よろしければ、なんですが。」
沙穂子が遠慮がちに口を開く。
「私、明日からこちらのお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
「え?」
鞄を持とうとした直樹の手が止まる。
「勿論、直樹さんのお仕事がとても難しいことだと承知しております。ですが電話応対やコピーなどはできます。祖父から話を聞いているので法律事務所の雰囲気も分かります。」
あまりの直樹の忙しさを沙穂子は見かねたのだった。
「…では、お願いできますか?」
正直、琴子のいなくなった現状は猫の手も借りたいほどだった。
こうして沙穂子が直樹の事務所に勤めることになった。



「入江先生、コピー三部です。」
「ありがとうございます。」
「そしてこちらも必要になるのではと思って、作成しておきました。」
「ああ、後で指示をしようと思っていたのですが…助かりました。」
と、会話を交わすうちに電話が鳴る。
「入江法律事務所でございます。はい…少々お待ち下さいませ。」
受話器を手に沙穂子が直樹に、
「入江先生、丸橋様からお電話です。」
「分かりました。」

謙遜など沙穂子には必要ないくらいだった。
事務経験がないとは思えない有能ぶり。最初こそ直樹が教えたものの、すぐに飲み込みテキパキと片付けていってくれる。直樹がいちいち指示せずとも先を見通して作業をしてくれる。
いつも余計なことをして叱っていた琴子とは大違いであった。



「いらっしゃいませ、丸橋様でございますね。」
この日の午後3時、午前中に電話でアポイントメントを取り事務所にやってきた丸橋夫妻を、沙穂子はにこやかに迎えた。夫が社長、妻が副社長として会社を経営しており、共に六十代の丸橋夫妻は沙穂子を見て驚いた顔を見せた。
「あの…以前こちらにいらした相原さんは?」
「退職いたしました。」
「では、新しい秘書の方なんですね?」
「さようでございます。」
沙穂子は自己紹介をしながら、時計を見る。直樹の戻りが少し遅れているようだ。
「申し訳ございません。入江は戻りが遅れておりまして。」
「ええ、ええ。先生がお忙しいのはいつものことですから。」
丸橋夫妻はすっかり慣れているらしく、気を悪くした様子はなかった。

やがて直樹が戻って来て、打ち合わせが始まった。



「あら?お忘れ物だわ。」
無事に打ち合わせが終わり、丸橋夫妻が帰った後を片付けていた沙穂子はソファに落ちていた手袋を見つけた。婦人物の皮製の手袋。
「私、届けてきます。多分追いつくと思いますので。」
沙穂子は事務所を飛び出した。

幸い、ゆっくり歩いていた丸橋夫妻に沙穂子はすぐに追いついた。
「丸橋様…。」
声をかけようとした沙穂子の足が止まった。
「…相原さん、退職しちゃったんですね。」
丸橋夫人が寂しそうに話すのが聞こえてくる。
「今日も先生と相原さんの夫婦漫才が見られると楽しみにしてたのに。」
「お前は打ち合わせよりも、そっちを楽しんでいたからなあ。」
「そういうあなただって、入江先生を待っている間に相原さんにうちの犬の話をすること、楽しみにしていたでしょう?」
「まあな。うちのチャイコフスキーの子供の写真、見せようと持って来たんだけど。」
「相原さんと話すと難しい打ち合わせの前でもリラックスできたのに。」
「今度の新しい秘書さん、綺麗すぎて緊張してしまったな。」
「あなたは美人に弱いから。」



「間に合いませんでしたか?」
「え?」
「それ。」
直樹が指をさす方向を沙穂子は見た。自分の手にしっかりと丸橋夫人の手袋があった。
「…ええ、ごめんなさい。」
「後で宅配か何かで送ればいいですよ。御苦労さまでした。」
単に沙穂子の足が追い付かなかっただけだと直樹は思っている。沙穂子も深くは説明しなかった。



「ちょっと啓太くん!泣いてるの?」
「だってお前…マヨがあまりに可哀想じゃねえ?」
店の休憩時間、啓太と琴子はマンガに読みふけっていた。
「全く何だよ、このカトレア野郎!中途半端に世話しやがって!幸せにするつもりないなら手を出すんじゃねえ!」
と言いながら啓太はナフキンで涙を拭く。
「それにしても、啓太くんがまだ『ガラスの能面』を読んでいたとは…。」
啓太の様子を見て琴子はクスッと笑った。
「バイトの時にお前に教えてもらって以来、ずっと読んでいたよ。ああ…もう!!マヨと結婚する気がないならもう姿を見せるんじゃねえ!」
「そうよね。うん、うん。」
趣味が合う人間っていいなあと琴子は思った。
―― 先生はすぐに“くだらねえ”“天狗とか意味不明”とか…。
そこまで思いかけ、琴子は「いけない、いけない」と頭を振る。もう直樹のことは忘れなければいけないというのに。
「しかし、どこがいいのかねえ。俺はやだね、こんな世間知らずなお嬢様と結婚するなんて。」
「仕方ないよ。会社同士の付き合いもあるし…うん。」
何となく直樹のことを思わせる『ガラスの能面』の展開。だが直樹と“紫のカトレアの人”は全然違う。直樹は沙穂子を好きになり結婚するのだ。
考え込む琴子を啓太は見た。
「ま、俺だったらこんなお嬢様よりも明るくて気取っていないお前みたいな…。」
「おっと、もう準備に入らないと!」
琴子が時計を見て立ち上がる。啓太がズルッとテーブルに突っ伏す。
「どうしたの?啓太くん?」
「い、いや…何でも…うん。」



書店に『ガラスの能面 81巻 発売中』と大きなポスターが貼られていた。直樹は何となしにそれを見る。
―― あいつ、買ったかな?
あれだけ楽しみにしていたマンガの続刊だ。
「直樹さん、本は見つかりましたか?」
直樹が本を探すことを邪魔したくないと思い待っていた沙穂子がやってくる。
「あら?直樹さん、マンガをお読みになるんですの?」
「はい?」
「だってこれ、マンガでしょう?私はマンガは読まないのでよく分かりませんけれど…。」
『ガラスの能面』のポスターを指しながら、沙穂子が楽しげに笑った。
「…くだらないマンガですよ。」
「え?」
今度は沙穂子が聞き返す番だった。
「演技しか取り柄のない女が何だっけ?ああ、そうだ。“紅天狗”とかいうこれまた妖怪か?っていう名前の芝居の主役を目指して色々しでかす話ですよ。その女に紫のカトレアとかいうキザなことをする男が関わってきて、まあよくもこんな話が81巻も続いたもんだと。」
「直樹さん…?」
「はい?」
「…詳しいんですね?」
ここで直樹は自分が今何を話していたか、我に返った。
「…以前あらすじを聞いたことがありまして。一度聞いたら覚えてしまっただけです。」
「そうですか…。」
一体誰にあらすじを聞いたのか。誰に聞いたから忘れられないのか。何となく沙穂子はそれが誰か分かったが、訊ねることはしなかった。
「すみません、デート中にこのような場所に寄ってしまって。」
直樹は話題を変えた。
「いいえ、そんなこと。」
沙穂子は気を取り直し、直樹の腕を取った。
「…直樹さんの行く所でしたら、どこでも付いていきます。」





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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
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