2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2013.12.25 (Wed)

入江法律事務所 23

言わなくてもお分かりだと思いますが、始めたのが遅かったためにクリスマスが過ぎても続行です。何とか年内完結は目指したいですが…すみません!




♪♪♪♪♪


【More】



「先生のお仕事、これから難しいものになるんですよね?今だって先生にしょっちゅう怒られているのに、さらにレベルが上がったら付いて行けそうにありません。」
琴子は笑いながら説明した。
「だからって…。」
「足を引っ張るようなことだけはしたくないんです。そりゃ、突然のことで御迷惑かけちゃってますけれど。大きな仕事が始まるまでに優秀なアシスタントを雇うべきじゃないかって。」
琴子の理由は明瞭簡潔だった。直樹が反論する余地もなかった。
「突然のことで、少し考えさせてくれないか?」
直樹はそれだけ答えることが精一杯だった。琴子は直樹があっさりと辞表を受け取るものだと思っていたので拍子抜けした様子だったが、
「…分かりました。」
と、答えて自分の席に下がった。直樹はそのまま、テーブルの上に置かれた辞表を見つめていた。



琴子が突然退職を言い出した理由は何だろうか。仕事についていけないというのはどうも直樹には納得しかねた。
今までも難しくても悲鳴を上げながら頑張っていた琴子である。なぜゆえ突然放棄するようなことをするのか。
そんなことを考えながら直樹は顧問先から真っ直ぐ事務所へと歩いていたのは、琴子から話を聞かされて三日経った夜のことだった。

「よろしくお願いします。」
突然の琴子の声に直樹は足を止め、どこから聞こえてきたのか辺りを見回した。
「久しぶりだから迷惑かけちゃうかもしれないけれど。」
「いや、そんなことは気にしなくていいよ。」
見ると、ビルの一階の店の入り口に琴子の姿が。そしてその前にいるのは。
「鴨狩啓太…?」
かつて自分が担当した男が琴子に笑いかけていた。

「けれど、弁護士の仕事の手伝いは本当にいいのか?」
「うん。もう辞表も出したし。認められたらすぐにでもこちらにお世話になります。」
「俺は助かるよ。まあ…気心知れた琴子がホールを担当してくれるってのは。」
それを言う啓太のはにかんだ顔。直樹の胸に突き刺さる。
「こちらこそ嬉しいよ。啓太くんの夢のお手伝いが出来て。」
そして琴子の声も弾んでいた。

――成程、そういうことか。
琴子が去り、啓太が店内に戻った後も一人残った直樹は理解した。琴子は啓太の店を選んだ。自分の事務所よりも。
啓太の店が開店することを知り、琴子はそちらで働きたいから直樹の元を去ることにしたわけである。
そういえば、啓太の事件の時から琴子は洗濯物を持ち帰ったりとあれこれ世話を焼いていた。いやいや、以前啓太から愛を打ち明けられたとまで言っていた。

「焼けぼっくいに火がついたってわけか。」



「ん?これ、何だろう?
翌朝、事務所に出勤してきた琴子が自分の机の上に置かれた段ボール箱を見つけ首を傾げていると、直樹が程なくしてやって来た。
「先生、これは何でしょうか?」
「お前の荷物入れ。」
「え?」
どこか冷たい直樹に戸惑いつつ、琴子は段ボール箱と直樹を見比べる。
「ここに長いこといたら、私物も置きっぱなしになってるだろ?それにまとめればいいと思って。」
「…ということは?」
直樹は琴子の前に銀行の封筒を出した。
「給料と少ないけれど退職金。」
直樹はとうとう自分の辞表を受け入れたということである。それを望んでいたはずなのに、琴子はショックを受けずにいられなかった。
「そこに荷物を詰め込んだら、もう帰っていいぞ。」
「え?」
「早い方がいいだろう。今までありがとう。」
琴子に給料と退職金を押しつけるように渡すと、直樹は自分のパソコンに向かった。琴子を見ようともしない。



「…お世話になりました。」
段ボール箱を抱え、琴子は直樹に頭を下げた。
「体に気をつけて。」
「…先生も。」
他に言葉を交わすこともなく、琴子は事務所を出て行った。直樹は一度も顔を上げなかった。



大きな段ボール箱を抱える自分をすれ違う人々が不思議そうな顔で見ている。琴子はよたよたと歩く。
「あ、すみません!」
忙しそうに歩いてきた男が琴子にぶつかった。その拍子に琴子の手から段ボール箱が落ち、中身が少し出てしまった。
「…。」
それをきっかけに直樹の前で必死で堪えていた涙が琴子の目から溢れだした。直樹は止めてくれなかった。辞表を出したのは自分だというのに、何て勝手な考えだろうと思いながら琴子は段ボール箱から飛び出した物を拾おうと手を伸ばす。
が、琴子の手より先に違う手が伸び、物を拾った。
「大丈夫、琴子ちゃん?」
「西垣先生…。」
西垣が素早い動きで琴子の段ボール箱の中に物を入れた。

「ありがとうございました。」
再び段ボール箱を抱えた琴子は西垣に頭を下げる。
「タクシーで帰らないの?」
「…お金、かかりますし。」
「でもそれを抱えて歩くのは危ないよ。」
と、西垣は手を上げタクシーを止めた。
「僕が送ってあげる。」
「先生…。」
西垣は琴子がなぜこんな状態になっているか一言も訊ねなかった。きっと直樹から聞いて知っているに違いない。
「ほら、おいで。」
琴子を安心させるように西垣は笑い、先にタクシーに乗り込んだ。琴子も後に続いた。


「…宅配で送るとかいう知恵もねえのか、あいつは。」
その様子を直樹は事務所の窓から見ていた。琴子たちのタクシーが走り出すと、直樹は窓にブラインドを素早く下ろした。



「今日こそ僕が勝つ、入江!」
裁判所にて今日も船津が吠えていた。しかし直樹の対応がいつもと違った。
「ああ、そうだな。」
「え?」
「お前に俺、負けるかもしれない。」
「え?え?」
歓喜の色を浮かべながら自分の席へ戻る船津。直樹は傍聴席へと目を向けた。いつもそこにいた顔がいない――。

「…何だよ、あれは?」
裁判を終えた直樹を待ちかまえていたのは西垣であった。いつもの軽い調子ではなく、その顔が険しい。
「船津が相手だったから勝てたようなものの、違う検事だったら負けていたぞ。」
「…船津が聞いたら怒りますよ。」
西垣を追い越すように直樹は歩いていく。

「大事務所のご令嬢と結婚することが決まったら、小さな事件なんてどうでもいいと?」
直樹が琴子に沙穂子との交際を打ち明ける少し前、直樹は西垣にそれを告げていた。
「別に。」
「何でそんな道を選んだんだ?」
「…男だからですよ。」
「は?」
直樹は階段を降りかけた足を止め、西垣を振り返った。
「大泉の事務所と組めば大企業の合併など扱えますしね。小さな個人事務所にとっては夢のような話ですよ。」
「…何だ、それ?」
「西垣先生だって分かってくれるでしょう?男ならばでかい仕事をバリバリやりたいってことです。勿論それだけじゃないです。彼女は美人で賢い。話をしても楽しい。一挙両得ってことです。」
「おい。」
「西垣先生だって美人が好きだから分かるでしょう?」
「…美人好きなのは認めるが、でかい仕事をしたいってのは理解できないね。」
腕を組み、階段の上から直樹を西垣は見下ろした。
「そういうのがやりたいなら、どうして大事務所から独立したんだ?今更なぜそんな気になった?」
「ちまちまとした仕事に嫌気がさしただけです。すみません、忙しいのでこれで。」
足早に階段を下りて行く直樹の背中を西垣は、複雑な表情で見ていた。





関連記事
09:30  |  入江法律事務所  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2013.12.25(Wed) 11:21 |   |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2013.12.25(Wed) 14:43 |   |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2013.12.25(Wed) 15:54 |   |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2013.12.25(Wed) 17:21 |   |  【コメント編集】

★メリークリスマス(^o^)

水玉さん、こんばんは(*^^*)
入江君も琴子ちゃんの気持ちに気付かない何て、天才も恋愛は疎いんですね(-_-;)早く入江君の、焼きもちモードが炸裂しないかな(>_<)
ハラハラドキドキだわ(>_<)
こっこ(*_*) |  2013.12.25(Wed) 19:45 |  URL |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2013.12.26(Thu) 06:49 |   |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |