日々草子 イリエアン・ウェディング 6

イリエアン・ウェディング 6









晴れてイッシキ国王に孫嫁として認めてもらえたコトリーナ。しかし、まだ重要な問題が解決していなかった。

「今日はどこを探せばいいかなあ?」
また草むらでも突くかと、すっかり愛用品となった棒をぶらさげながら廊下を歩いていた。
「また探しに行くのか?」
前方から歩いてきたナオキヴィッチに声をかけられた。
「ええ、王子様。」
コトリーナの返事を聞くと、ナオキヴィッチは「ふぅ」となぜか溜息をついた。
「だって、王妃様の大事な…。」
見つかるあてもないのに探し続けていることに呆れられたと思ったコトリーナが弁明しようとすると、
「いや、そういう意味じゃなくて。」
とナオキヴィッチは否定した。そして、
「…そろそろ、限界だな。」
と呟いた。
「限界?」
「とりあえず、今日はそれを置いておいて。」
と、ナオキヴィッチはコトリーナから棒を取り上げた。
「ちょっと俺に付き合え。」
「え?え?」
目を白黒させるコトリーナの手を引き、ナオキヴィッチが向かった先は――。

「兄上!」
ナオキヴィッチの突然の訪問に、ユウキヴィッチが顔を輝かせた。と、思ったのも束の間、その兄の後ろにコトリーナの姿を見つけ「何でこいつが…」と舌打ちをする始末。祖父がコトリーナを認めたことは知らないはずはないのだが、どうもこちらはまだ受け入れてくれていないらしい。
「入るぞ。」
ナオキヴィッチはコトリーナの手を引いたまま、ユウキヴィッチの部屋に入る。ユウキヴィッチが二人の繋がれた手を見つめている。

「どうしたのですか?」
「特に用はないんだが。せっかく帰って来たお前とコミュニケーションを取るのも悪くないかと思ってね。」
ならば兄弟二人きりにした方がいいのではと思うコトリーナ。しかしナオキヴィッチが手をしっかりと握っているため、どうも言い出しにくい。

「あの、王子様。私、お邪魔でしょうから…。」
「そんなことはない。三人で仲良く遊ぶんだから。」
「遊ぶ!?」
これにはユウキヴィッチとコトリーナ、同時に声を上げてしまった。
「そうだ。遊びに来たんだ。」
「遊びにって、何をするのでしょうか?」
コトリーナの問いかけに、ナオキヴィッチはニッと笑い答えた。
「宝探しさ。」
この答えに、ユウキヴィッチの顔色が変わったことを、ナオキヴィッチは見逃さなかった。

「さあて、どこから探すかな。」
部屋を見回すナオキヴィッチ。
「宝はもう決まっているのですか?」
一体ナオキヴィッチは何を考えているのかと思いながら、コトリーナが訊ねる。
しかし、ナオキヴィッチはそれに答えず、
「確か、ユウキヴィッチが昔から大事なものを探す場所があったよな…。」
と、ここで漸くコトリーナの手を離した。

「ああ、ここだったような?」
兄の本棚のようにぎっしりと本が詰まった本棚の前にナオキヴィッチは進んだ。ユウキヴィッチの顔色が一層青くなった。さすがのコトリーナもそれに気付く。
「王子様、ユウキヴィッチ様は気分でも悪いのでは?」
とコトリーナが言っても、ナオキヴィッチは本棚から動かずに、
「確かこの中…。」
と、分厚い辞書の箱を手に取った。が、その中に入っていたのは辞書ではなかった。
「お宝、見つけたぜ。」
笑みを浮かべながらナオキヴィッチが出してきたのは、コトリーナも見覚えのある黒革のケースである。
「それは…まさか?」
ナオキヴィッチがケースを開けると、中にはあのティアラがキラキラと輝いていた。

「お前、昔から大事な物はここに隠していたもんな。三つ子の魂何とやらとはまさに、このことだな。」
ティアラを弟に見せるナオキヴィッチの顔からはいつの間にか、笑みがすっかり消えていた。

「なぜ、これがここに?」
未だ事の真相が分からないコトリーナは、ティアラとユウキヴィッチを見比べてばかりだ。
「これさえなければ、結婚式は中止になると思ったんだろう。」
カチッとケースの留め金をはめると、ナオキヴィッチはそれをコトリーナに渡した。

ユウキヴィッチの様子がおかしいことに気付き、もしや…と思っていたナオキヴィッチであった。だが、本人が反省し、打ち明けられるまで待っていようと思っていたのだが、どうもその気配がないため、こうして強硬手段に出たのである。

「中止って…。」
「…ああ、そうだよ!」
これまで黙っていたユウキヴィッチが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「そうだよ!これがなければ、お前と兄上は結婚しないと思ったんだよ!」

ティアラを隠してまで、結婚を阻止したかった――この行為にコトリーナは深いショックを受けていた。そこまで、そこまでユウキヴィッチは自分が気に入らないのか。

「お前のせいで!」
「ご、ごめんなさ…。」
訳が分からず、もう謝るしかないかと思ったコトリーナであったが、それをユウキヴィッチが遮った。
「お前のせいで…兄上からの手紙はお前のことばかりになったんだ!!」
「…え?」
見るとユウキヴィッチは泣いていた。そしてこれにはナオキヴィッチも驚く。

「僕がイッシキ国に出かけてから、兄上は手紙をいっぱいくれたんだ。僕も返事をいっぱい書いたんだ。兄上はいつも僕のことを気にかけてくれた。それが嬉しかった。兄上は僕が一番大好きなんだって。それなのにいつからか…僕の名前しかなかった手紙に、お前の名前が出てくるようになったんだ!」
「ひっく、ひっく」としゃくり上げながら話すユウキヴィッチ。

「コトリーナの下手なマフィンがどうとか、コトリーナがおてもやんになったとか、お前のことばかり書いてくるようになって。何で後から来たお前に兄上を取られないといけないんだよ!どうして兄上は僕の事を忘れちゃったのさ!」
泣きじゃくるユウキヴィッチを前に、ナオキヴィッチとコトリーナは声をなくしてしまった。

ユウキヴィッチもイッシキ国王と同じだった。コトリーナが嫌いなわけではない。ナオキヴィッチをコトリーナに取られてしまったと思い、寂しさからコトリーナに意地悪をしていたのである。

「ユウキヴィッチ様…。」
泣き続けるユウキヴィッチの前で口を開いたのは、コトリーナだった。
「…何だよ?責めたければ責めればいいさ。ああ、そうだ。悪いことをしたのは僕なんだから!
開き直るユウキヴィッチに、コトリーナは話しかけた。
「…ユウキヴィッチ様は年上の女性がお好みだとか。」
「…はあ!?な、何でお前がそれを!」
突然の言葉にユウキヴィッチの目から涙が引っ込み、同時に顔がまた真っ赤になった。だがそれは怒りではなく言い当てられたかららしい。

「あと、運動は少々苦手なんですよね?」
「お前、それが僕に対する仕返しかよ!仕返ししたいなら、もっと正々堂々とするとか…。」
「お好きな食べ物はビーフストロガノフで、お菓子はババロア。」
「僕の素行調査でもしたいのか?徹底的に調査して弱点でも見つけようという魂胆か?」
「違います。」
コトリーナは微笑みながら首を振った。
「これは全部、王子様…ナオキヴィッチ様が話して下さったんです。」
「え?」
「お兄様は私にたくさん、ユウキヴィッチ様のことを話して下さったんですよ。ね、王子様?」
「…まあ、な。」
コトリーナに確認され、ナオキヴィッチは頷いた。

「すごく勉強家で、お兄様を尊敬されていて。お兄様が国王になられたら、お傍でそれを支えるんだって。とても嬉しそうに話して下さいました。私もいつもユウキヴィッチ様のお話を聞くことが楽しかったのです。」
「…本当?兄上?」
「…まあ、な。」
ユウキヴィッチの顔色がようやく、通常の色に戻りつつあった。

「私は兄弟がいないので、お二人の仲がいいことがとてもうらやましくて。そんなユウキヴィッチ様とお会い出来る日を指折り数えて待っていました。それはお兄様も同じです。」
ニッコリと笑うコトリーナ。

「…今も?」
ユウキヴィッチが消えそうな声を出した。
「ええ、勿論。ですよね?王子…。」
「違う。お前は今も…僕に会えたことを喜んでいるかってことだよ。」
コトリーナがどんな顔をするかと下からそっとユウキヴィッチは見上げた。

「当然じゃないですか!」
コトリーナは即答した。それはこの場を取り繕いたいがために言っているわけではなかった。
「想像していた通りのユウキヴィッチ様で!弟が出来るなんて嬉しいです。」
コトリーナの笑顔に、ユウキヴィッチはそれが嘘ではないということが分かった。

「…ごめんなさい。こんなひどいことをして。」
コトリーナの自分に対する気持ちを知り、漸くユウキヴィッチは素直になれた。この言葉にコトリーナとナオキヴィッチは顔を見合わせ、笑い合う。

「ったく、何だかんだ言っても、お前はまだ子供なんだな。」
ナオキヴィッチがユウキヴィッチを抱きしめた。
「兄上…。」
「このティアラがなければ結婚式は挙げられないという掟があるわけじゃあるまいし。中止になるわけないだろ。」
「ごめんなさい…。」
兄の言うとおりである。今となっては愚かなことをしたと反省しきりのユウキヴィッチである。



「馬鹿ねえ!!」
ユウキヴィッチが謝った後、ノーリー王妃の発した言葉はこれだった。
「お兄様の言うとおりだわ。お子様なんだから。」
「…。」
これには何も言い返せないユウキヴィッチ。
「で?コトリーナちゃんにはちゃんと謝ったの?」
コクンと頷くユウキヴィッチ。
「そう?ならば私からい言うことはないわ。コトリーナちゃんは毎日、毎日探してくれたんですから。二度としないこと?いいわね?」
「…はい、母上。」



「王妃様とのお話、終わったんですね?」
王妃の元から戻る途中、ユウキヴィッチはコトリーナと再び出くわした。ユウキヴィッチの顔を見て、あまり叱られなかったことにコトリーナは安堵した。

「あの、ユウキヴィッチ様。」
「何?」
「その…ひとつだけお尋ねしたいことが。」
「何だよ?」
元のユウキヴィッチに戻ったことに安心しつつ、コトリーナはドキドキしながら訊ねた。

「結婚式、出て下さいますよね?」
「…あ?」
謝罪は受けたものの、あれだけのことをしてまで結婚式を阻止しようとしていたユウキヴィッチである。
自分を兄嫁として認めてくれているのだろうか?そこも不安なコトリーナだった。

「…お前、結構トロいんだってな。兄上が手紙に書いていた。」
「え?」
「トロいお前のことだ。結婚式で緊張して、ウェディングドレスの裾ふんづけてスッ転んで、デカい尻丸出しにするだろうよ!それを僕は誰よりも大笑いしてやることを楽しみにしてるんだ!こんな面白いことが待っているんだ、出るに決まってるじゃないか!」

「ブッ!」とコトリーナは噴き出した。てっきり顔を真っ赤にして怒りだすと思ったユウキヴィッチが逆に拍子抜けする。
「何だよ?」
「いえ…そっくりだと。」
「何にそっくりだって?」
「いえ、別に。」
「プププ」と笑いを堪えるコトリーナは思った。
―― あの祖父にしてこの孫!!



そしてとうとう、結婚式の前日となった。
今までは婚約者として城に暮らしていたコトリーナだが、この日は実家に戻ることになっていた。結婚式当日、王家から迎えに来る馬車に乗って城に入ることが慣例となっているからである。

「では、王子様。」
ほんの一晩とはいえ、離れることは久々である。
「私がいないと眠れないと思って、代わりにこれを置いて行きますね。」
と、コトリーナがナオキヴィッチに差し出した物。それは二人の思い出の品(?)のまな板であった。
「やっぱり自覚あるんだ。これとほぼ同じ体だって。」
まな板を指ではじきながら、ナオキヴィッチは意地悪く笑った。
「失礼な!出会った頃に王子様が随分執着していたからですよ!」
ぷーっと頬を膨らませるコトリーナの額に、ナオキヴィッチは素早くキスを落とした。
「…明日、大聖堂で待っているからな。」
「…はい。」
ほんの僅かな別れを惜しみ、二人はしっかりと抱き合ったのだった。











今更ですが、イリコトのラブラブがないお話ですみません。
そんなお話ですが、もう少しお付き合い下さい。


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今回も素敵なお話しでした。ユウキヴイッチのヤキモチ、可愛かったです。最後は、仲直りしたけどやっぱり、ユウキヴイッチは、可愛くない!でも琴子ちゃんは、義弟が出来て喜んでたので、よしとしましょうか(笑)二人の結婚式が楽しみです。次のお話し、楽しみに待ってます。

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さなさん、ありがとうございます。

初めまして!
5話からのコメント、ありがとうございます。
お返事が遅くなり申し訳ございません。

ユウキヴィッチ、最後まで可愛くありませんでしたね。素直じゃない!
でもこれが彼なりの親愛の表現なんでしょうね。
コトリーナちゃんが喜べばOKということで!

結婚式は楽しんでいただけたでしょうか?
こんなブログですが、ぜひまた遊びに来て下さいね♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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