日々草子 イリエアン・ウェディング 5

イリエアン・ウェディング 5






「こいつら、誰だ?」
クローゼットの前に集まった泥棒三人は、腕を組みコトリーナとイッシキ国王を見下ろしていた。
「…おぬしら、何ば考えているけん?」
「ちょ、陛下!」
泥棒たちに言い返し始めたイッシキ国王を慌ててコトリーナは止めようとする。しかし、国王の口は止まらない。
「何ね?盗みば入る?どうしようもない悪人たいね!」
「このジジイ、言わせておけば!」
「何ね?わしを誰やと思ってるね?」
「知るか!」
「わしはこの国の王妃の父親たい!」
「…え?」
イッシキ国王の告白に、泥棒たちはポカンとなった。が、すぐに「アハハハハ」と腹を抱えて笑い出した。

「聞いたか?この爺さんが王妃の父親だと!」
「こりゃ、あれだな。自分を王族だと思い込んでいるんだぜ。」
「成程、それでこの娘が介護係として付き添っているってわけか。」
「思い込みじゃなか!!」
顔を真っ赤にして怒るイッシキ国王であったが、泥棒たちが信じないことも無理はなかった。お忍びの格好なのだからどう見ても王族には見えない。

「ほ、本当です!この方は王妃様のお父様なんです!」
コトリーナは言った。しかし、
「分かった、分かった。あんたも大変だな。こんな爺さんの戯言に付き合って。」
と、逆に同情される始末である。

「どうする?ボケてる爺さんと女か。」
ひとしきり笑った後、泥棒たちは二人について話し合いを始めた。
「俺らの計画を聞かれた以上、黙って帰すわけにいかねえし。」
「…どっかに売るか?」
泥棒たちはコトリーナを見た。
「…色気ねえ。」
「何ですってえ!!」
これにはコトリーナが顔を真っ赤にして怒鳴る番だった。
「ちょ、ちょっと!!あんたたち、何て失礼なの!」
「…そこで本気になって怒るのもどうかね?」
呆れて見つめるイッシキ国王。

「まあ、いい。色気のない女でもいいという、変わった趣味の男が世界のどこかにいるかもしれないしな。」
「とりあえず、売れば俺らの飯代くらいは…。」
「ちょっと!もうちょっと高く売れるわよ!」
「身売りしたいんか!お前は!」
イッシキ国王がコトリーナに更に呆れて怒鳴った。

一方、イッシキ国王については、
「爺さんはどうする?」
「爺専門の女なんているかね?」
「面倒だから、どっか山奥に捨てていけばいいんじゃね?」
と、本当に白骨死体になりかねない状況になってしまった。

「じゃ、そういうことで決まり…。」
「何が決まりや!このバカたれがあ!!」
と、白骨化したくないイッシキ国王は立ち上がり、泥棒たちに突進した。老体とはいえ体ごと突進されたら、油断していた泥棒たちもたちまちバランスを崩すことになる。

ガラガラ、ドシャーンッ!!

テーブルと共に泥棒たち、そして国王は倒れ込んでしまった。

「い、痛い!」
そしてどうやら腰を痛めてしまったらしい国王。
「このジジイ!優しくしてやったら、付け上がりやがって!!」
痛さに顔をゆがめながらも泥棒の一人がイッシキ国王の首に手を伸ばす。

「おじい様に何をするのよ!!」
今度はコトリーナが突進してきた。
「うわっ!!」
まさか女まで来るとは思っていなかった泥棒は、やはり意表を突かれコトリーナと共に倒れ込んだ。
「あ、丸見え。」
傍観していた泥棒が、コトリーナのドレスの裾がまくれていることに気付いた。パンツが少し見えてしまっている。
「きゃあっ!!」
コトリーナは顔を真っ赤にしてドレスの裾をパッパッと直した。

「まったく、こいつら…本気で怒ったぞ!!」
そして二人の決死の行動は泥棒たちを本気にさせてしまったらしい。
「お、おじい様…。」
震えながらもコトリーナは、イッシキ国王を背に庇った。愛するナオキヴィッチの祖父である。いざとなったら自分の命を呈してでも守るつもりだった。

その時だった。

ガシャーンッ!!!

窓が割れる音と共に、何かが飛び込んできた。

「…随分長い散歩だな。」
「王子様!!」
「ナオキヴィッチ!!」

窓を割って飛び込んできたのは、ナオキヴィッチだった。



「だ、誰だよ、今度は!!」
次から次へと来る乱入者に泥棒たちは驚きっぱなしである。だが、ナオキヴィッチの美しい顔に気付くと、
「へえ、きれいな顔の兄ちゃんだ。こりゃあ、その娘より高く売れるんじゃねえか?」
「いや、それよりなかなかいいもんを着ている。身代金をがっぽりもらえるんじゃね?」
と勝手なことを囃し始めた。
「とりあえず、ここは大人しくしていてもらうか。」
ナオキヴィッチを顔のきれいな金持ちの息子と思った泥棒たちが縄を手に、近づく。

ドカッ!!

そして今日、三度目の意表をついた攻撃に泥棒たちは遭遇することになった。
ナオキヴィッチの蹴りが泥棒の一人の顎に入ったのである。

「おい、大丈夫か!」
しかし顎を思いきり蹴られた男は伸びきってしまった。
「この、どいつもこいつも!!」
ナオキヴィッチが実はかなりできる男だと知った泥棒たちがますます本気になった。
「今度は俺が相手だ、この生白い坊や!」
「坊やかどうか、自分の身体で確かめるがいい!」
「こいつ、調子に乗り上がって!」
比較的大きな体の泥棒が、ナオキヴィッチに拳を突きつけてきた。ナオキヴィッチは器用にそれをかわす。ヒラリとナオキヴィッチのマントが揺れたと思ったら、ナオキヴィッチのパンチが泥棒の頬に入った。
しかし、今度は泥棒は倒れなかった。
「ふん、俺をなめるな!」
と、またナオキヴィッチに拳を突きつけて来た。するとナオキヴィッチのマントがまた揺れる。その陰から長い足が泥棒に入った。
泥棒は白目を剥いて、倒れた。

「よくも…俺の仲間を!」
ラスボスはかなり出来る奴だと、ナオキヴィッチは判断した。それだけではなかった。
「こっちにはこういうもんがあるんだ。」
と、出してきたのはどこに隠していたのか、斧だった。
「王子様!」
「ナオキヴィッチ!」
これにはコトリーナとイッシキ国王の顔が真っ青になる。ナオキヴィッチは武器を持っていない。
「ふん、細かく切り刻んでやるよ。」
ブンブンと斧を振り回すラスボス。さすがのナオキヴィッチも後ろに下がる。

辺りを見回したコトリーナは、壊れた傘を見つけた。
「王子様!」
それをコトリーナはナオキヴィッチに投げる。ナオキヴィッチが受け取る。
「傘で戦う気か?ハハハ。」
笑われても仕方がなかった。しかし、何もないよりはましだろう。

ガチーンッ!!

ナオキヴィッチと泥棒の傘と斧がぶつかった。

「う、うぬぬ…。」
「くっ…!」
どちらも一歩も動かない。傘がこんなに強くなるとはと、泥棒は内心驚いていた。だがここで負けるわけにはいかない。

「はぁっ!!」
ナオキヴィッチの傘に渾身の力をこめて、斧が振り落とされた。傘が真っ二つに折られる。
「くそっ!」
「再び手ぶら状態ってわけだな。」
そして泥棒はナオキヴィッチを壁際へと追い詰めて行く。

―― もはや、これまでか…。

さすがに斧相手では何もできない。ナオキヴィッチは最後を覚悟した。

「ナオキヴィッチ!!そいつは、コトリーナのドレスをめくってデカパンば、見たとよ!!」

突然、イッシキ国王が叫んだ。この声にナオキヴィッチの目がハッと大きく見開かれた。

「ざけんな、ジジイ!あれは女が勝手に転んだから見えただけ…。」
と、ここで泥棒の言葉が途切れた。
ナオキヴィッチが突然身を屈めて、壊れて取れていたテーブルの足を手にしたのである。
それでナオキヴィッチは、泥棒のすねを思いきり殴りつけた。

「痛ええええ!!」
あまりの痛さに、泥棒の手から斧が落ちる。ナオキヴィッチはそれを器用に蹴り上げた。高く上がった斧はナオキヴィッチの手にすっぽりとおさまる。
それをナオキヴィッチは、足を押さえる泥棒の鼻先につきつけた。

「…ゲームオーバーだな。」
「くっ、くそっ!!」
斧を鼻につきつけられたら、もはやどうすることもできない。
「…そして、てめえが見たものをすぐに忘れろ。」
「見たもの?」
「俺の大事な女のことだ!」
「…あ、あれはだから、あいつが転んでまくれて…ヒィッ!!」
斧の冷たい感触に、震え上がる泥棒。
「わ、わかった!すぐ忘れる!いや、もう忘れた!俺は何も知らない!」



コトリーナとイッシキ国王が連れ立って(?)出かけた――。ナオキヴィッチの不安を煽るには、その事実だけで十分だった。祖父がお忍びで視察に出かけたことは前もあったので、気にはしない。恐らくそれを見かけたコトリーナがボディガードでもするつもりで付いていったのだろう。
そして、なかなか戻らない二人。
―― もしや、殺傷事件でも起こしているのでは?
お互い爆発して…取り返しのつかないことになっては困ると、ナオキヴィッチは城を飛び出したのだった――。

「あちこちで“老人と女性がギャーギャー騒ぎながら歩いて行った”と目撃されていたので、何処に行ったかがすぐに分かったので助かりましたけどね。」
「…フン!」
城に戻った後、ナオキヴィッチから経緯を聞かされたイッシキ国王は面白くなかった。
「窓から覗いたら、怪しげな状況になっていたことには驚きましたけどね。」
「あんな奴ら、お前の手を煩わせんでも…イテテッ!!」
泥棒と戦って痛めた腰を押さえるイッシキ国王。
「ほら、大人しくしていないと。」
「この…イテテッ!」
と、またもや腰を押さえた時、イッシキ国王の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「…大丈夫ですか?」
やって来たのはコトリーナだった。
「休んでいなくて大丈夫か?」
怖い思いをしたコトリーナをナオキヴィッチが気遣う。
「大丈夫です。私より陛下が心配です。」
「…フン!」
腰を庇うように、イッシキ国王はうつ伏せになった。

「ごめんなさい!」
コトリーナはベッドの傍に立ち、深く頭を下げた。
「私が道に迷ったばかりに、陛下を危険な目に遭わせてしまって。陛下を守るつもりだったのに、逆にこんなことになって。」
「…。」
枕の陰から目だけをコトリーナに向けるイッシキ国王。
「ごめんなさい。何とお詫びしていいか。」
今にも泣きそうになりながら、コトリーナは何度も謝る。ナオキヴィッチの大事な祖父に怪我させてしまったのだ。

「…こんなの、怪我の内に入らんばってん。」
イッシキ国王が呟いた。
「ですが…。」
「寝てればすぐに治る。さっさと治さないと結婚式ば、出られんけんね。」
「結婚式に出られないって…それでは?」
コトリーナが驚いた。
「いけしゃあしゃあと、わしのことをおじい様なんて呼んだくせに、とぼけるのがうまかね。」
「それでは…王子様と私のことを認めて下さるのですか?」
「…おじい様と呼ばれるのは、悪い気分じゃなかね。」
それはイッシキ国王なりの、コトリーナを孫嫁として認めるという意思表示であった。決め手は、泥棒たちから自分を守ろうとしてくれたコトリーナの強さと勇気であった。

「フン。わしは結婚式ば、おまえがスッ転んでデカパンを披露ばして、皆に大笑いされるのが楽しみで仕方なかと。勿論、誰よりもわしが大声で笑ってやるつもりやけん、覚悟しとき。」
「さっきからデカパン、デカパンって。そんなに大きなパンツは履いてません!」
「よう言うが。ここから見ただけで分かるけん。お前の尻ば、ゾウサイズや。」
「ゾウサイズなんかじゃないですってばあ!」
「小尻だなんて見栄ば、張るんじゃなかと。」
「張ってません!」
結婚の許しが得られたとはいえ、相変わらずの二人の様子にナオキヴィッチは「クスッ」と笑っていたのだった。





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よかったね!

初めてコメントさせていただきます。この話しを、見てすんご~く楽しませてもらいました。やっとお祖父様に認めてもらってよかったね!コトリーナちゃん。王子様もかっこいいです。

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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