日々草子 俺色に染まれ! 上

俺色に染まれ! 上

注意!!
このお話は、オタク部シリーズです!!







入江直樹と相原琴子の結婚にショックを受ける者たちがいた。

「コトリンが…。」
「ドンと…。」
「信じられない…。」

床に転がって、再起不能と化しているのは斗南大学オタク部、いや違った、アニメ部の面々であった。

「…やあ、やあ、やあ。」
そしてそこにやって来たのは、アニメ部OBの矢野である。いつもの挨拶にも元気が感じられないのは、彼もまたショックを受けている者の一人だからである。

「矢野さん…俺ら、これからどう生きていけばいいのでしょうか。」
「オタクたちの宝だったコトリンが…。」
「あのドンに…汚されていくのを黙って見ているしかないんですか!」
涙ながらに矢野に駆け寄る青木、白山、黄原の三人。
「汚される…。」
矢野の脳内に、それはもう、ここで書いたらおしまいなものが次から次へと浮び出す。

「…そんなこと、させるかあ!!!」
生気を失くしていた矢野が、雄叫びを上げた(永遠に生気を失くしていれば世の中平穏だったろうに)。
「ざけんな!!そんなこと、誰が許すか!コトリンは永遠に美しいままなんだ!あんな変態のっぺり野郎に手出しはさせない!!」
と、辺りの机やいすを蹴飛ばす。
いつもだったら「壊れる!」と止める後輩たちも、それをする元気はなかった。

「ん?何だ、これ?」
ガムテープで四か所補修されていた机を蹴飛ばそうとした矢野の太く短い足が宙で止まった。机の上に何かを見つけたらしい。
「おい、これは何だ?」
「あ、それ…ですか?」
相変わらず項垂れたままの青木がフラフラと歩いてきた。
「それはゲームが入っているフロッピーです。」
「ゲーム?」
「はい。ほら、あのコトリンのアニメ。あれをゲーム化してみたんです。一年半かけて。」
矢野はじっとフロッピーを見つめていた。そのささくれだった指で表面を撫でる。そしてニヤッと笑った。

「矢野さん?」
「…これだ、これはすごいぞ!」
「え?」
何事かと白山、黄原も近寄ってきた。
「このゲームをドンの所へ売り込むんだ!!」
「ええっ!!」
後輩三人は一斉に、先輩の提案に嫌な顔をした。

「何で俺らがそんなことをしないといけないんですか?」
「これ滅茶苦茶いい出来なんですよ?」
「商品化されたら、絶対大ヒットっす!」
そんな自信作を、なぜあの憎きドン入江の所へ持っていかなければいけないのか?そんなことしたらドン入江の会社を儲けさせることになってしまう。

「…だからだよ。」
今日も爪の間まで塗料が染まっている親指を、矢野は立てた。
「いいか?コトリンがドンに汚される…いや、奴の色に染まることをこのまま、俺らは指をくわえて見ていることしかできないのか?」
「それは…。」
後輩たちはまたもや顔を見合わせた。
「コトリンを俺らの色に染めるんだ?」
「へ?」
矢野はフフフと不遜な笑いを浮かべ、言った。
「そのためには、ドンをお前らの色に染めるんだ!」

「ドンを…。」
「俺らの色に…。」
「染める…?」
それでも後輩たちはピンと来ていないらしい。

「どうやって染めるんすか?」
青木が矢野に訊ねた。
「ああ、お前らは本当に馬鹿だな。」
「すんません。」
「だが馬鹿な後輩ほど俺は愛おしいぜ。」
そして矢野は今浮んだプランを口にする。
「まず、これをドンの会社に持ち込む。お前らの全てを注いで作ったゲームだ。絶対、これを商品化させてくれと頭を下げてくるだろう。」
「はあ…あんまり気が進みませんけどね。」
「で、たぶんこれに色々プラスアルファをしかけようとするだろう。」
「何で!これのどこに奴は不満を持つと!」
憤慨する後輩たちを「待て、待て」と矢野は宥めた。

「ドンはそういう男なんだ。お前らの最高傑作に、どこかしら自分も手を加えたい、自分も携わったという証を残したいと考える、姑息な男なんだよ。」
「本当ですよ!」
「奴は最低だ!」
「で、その時だ。」
矢野が後輩たちを制しながらきっぱりと言った。
「お前らと奴は共同作業になるだろう。不本意だろうが堪えてくれ。その時、奴をお前らの色に染めるチャンスなんだから。」
「チャンス?」
「そうだ。お前らが、ああだ、こうだとオタクのしきたりを教えてやるんだ。いくら奴が天才だ何だとちやほやされているといっても、オタクの世界を熟知しているとは思えないからな。」
…熟知させたくもないが。

「お前らの見事な手腕にドンは惚れ惚れとするに違いない。それは俺が保障する。お前らはどんなオタクよりも魅力的だ!!」
塗料が染まっている指先を後輩たちに矢野は向けた。
「ドンはやがてお前らに憧れていくだろう。お前らのようになりたいと姿形を真似し始めるに違いない。それを見たコトリンはどう思う?」
「コトリンは…?」
ゴクリと唾を飲み込む青木たち。
「いいか?コトリンはどんな目をしているか分からないがあのドン野郎に惚れ込んでいる。そのドンがオタク街道を走り出すんだ。“私も一緒に!”と共にオタク街道を走り出すに違いない。しかし、ドンがいくら俺たちの真似をしたところで完璧にはならない。そんなドンを見てコトリンはこう思うだろう。“入江くんって中途半端なオタクなのね。あたしは完璧なオタクがいい!”って。」
「ということは?」
「コトリンは…もしかしたら、俺たちになびくと?」
矢野は大きく頷いた。
「どうだ?俺の作戦は!」

矢野の問いかけに、青木たちは彼を抱きしめることで答えた。
「矢野さん、最高っす!!」
「さすが我らの矢野さん!」
「愛してる!」
「ガハハハハ!!」
矢野は後輩たちに抱きしめられ、すっかりご満悦になりながら言った。

「いいか?コードネームは“俺色に染まれ”だからな!」
「ウッス!!」


かくしてオタク部の青木たちはパンダイに乗り込んだ(矢野はあんなでも一応会社員なので同行不可能だった)。
彼らの思惑どおりには運ばなかったが(当たり前である)、商品化を目指すことが決まった。

「それでは、今後二週間はここに寝泊まりしてもらうので。」
「はあ!?」
直樹の命令に、青木たちは耳を疑った。
「何でそんなことを!」
「当たり前でしょう!」
矢野以上に迫力のある直樹に、青木たちは黙り込んでしまった。
「いいですか?極秘にこれは進めなければいけない。さらに年内に製作発表をしたい。そのためには寝る間も惜しまなければ。」
「…ね、年内って?」
「…今って12月…なんですけど?」
「二週間後を目安に。」
「二週間後!?」
直樹の計画はまさに無謀であった。しかし、オタクたちは渋々これに従うことになった。



「あ、青木…。腹が減った…。」
ボロボロになった白山が山となった資料の向こうにいる青木に声をかける。
「もう俺…カップめん…飽きた。」
このフロアからの外出禁止、電話等の通信も禁止ということになっている。食料は部屋の片隅に積まれたインスタント食品。
「くそ!情報が外に漏れることを防ぐためにって監禁しやがって!」
青木が机を思いきり叩いた。

「…うるさい。」
すると、隣の部屋から直樹が不機嫌な顔を見せた。
「仕事の邪魔だ、叫ぶな。」
「叫ばずにいられるか!」
「黙って作業しろ!ったく!」
いつも以上に不機嫌にこちらも叫ぶと、直樹は自分に与えられている部屋へと戻った。

「何だよ、自分だけ個室もらってさ!」
「俺らの部屋、狭すぎ!」
暫く文句を言い続けた後、白山がふと、気付く。
「ちょっと、待て。何か重要なことを忘れている気がする。」
「…何だっけ?」
「あれだ、あれ!」
黄原が叫んだ。
「“俺色に染まれ作戦”!!」
「そうだった、それがここに来た目的じゃん!」
青木がバンとまたもや机を叩いた。

「しかし、どうやってあいつを俺色に染めればいいんだ?」
青木たちは仕事そっちのけで、腕を組み考え始めた。
「アニメとかでさ、“俺の色に染まれ”って台詞聞いた記憶があるけど。」
「んな高尚な台詞があいつに通用するかね?」
「あいつのオタクレベル0を最高まで上げなきゃならねえんだぞ?」
「うーむ」と考え込む三人。

「よし!俺が犠牲になろう!」
青木が立ち上がった。
「え?」
何をするつもりだと青木を見つめる黄原と白山の前で、青木は元から薄汚れていたものが、監禁されていることで更に汚くなり、白地がもはや薄茶色になりつつあるトレーナーを、勢いよく脱いだ!

「ヘークションッ!」
これまた薄汚れ、やや黄ばんでいるタンクトップ一枚になった青木は大きなくしゃみをした。
「うるさいっ!くしゃみなんかするな!」
と、即座に隣室の直樹から文句が入った。どうも機嫌が悪い。
「青木、風邪引くぞ。」
「いや、これくらいなんともない!」
仲間の気遣いに笑いながら、青木は白くブヨブヨとした腕を振る。タプタプと揺れる白い肉…。

「もしかして、体を張るのか?」
黄原が恐る恐る訊ねた。
「もしかして、ドンを襲うのか…?青木、そこまで!?」
仲間の不安に答えることなく、青木は直樹の部屋のドアを開けた。

「ノックくらいできないのか?」
パソコンから目を離した直樹は眉を寄せたが、青木の姿を見て更にその眉間に皺が増えた。
「い、入江!!」
しかし、その眉間の皺に怯みつつも青木も胸を張る。
「何だよ?まさか、俺を抱きに来たとかくだらねえギャグをかますんじゃ、ねえだろうな?」
「だ、誰がお前なんかを抱くかあ!!」
この青木の言葉を聞き「よかったそうじゃないのか」と胸を撫で下ろしながら、黄原と白山は首を直樹の部屋に伸ばした。

「じゃ、何だ?その気色の悪い格好は?」
「お、お、お前は俺たちと心を一つにしてねえんだあ!!」
「当たり前だ!」
何を言えば分かってもらえるかと悩んだ結果に選んだ台詞を、一刀両断される青木。しかし今日の彼はそれでもめげない。
「いいか?俺たちはお前のためにコトリンのゲームを提供してやってるんだ!それをなぜ理解しない!」
「…何を言ってんだ、お前?」
「いいから、理解しろ!俺たちと心を一つにするんだ!そのためには…そのためには…これを着ろぉぉぉぉぉ!!」
と、青木は脱いだ自分のトレーナーを直樹にぶつけた。
『俺色に染まれ』…まずは自分の着ているものを直樹に着せることでそれを実行しようと考えた青木である(俺色に染まるというより、俺の体臭を染みつけろと誤解か?)

「…。」
直樹は至極嫌そうな顔をし、体にぶつかったトレーナーを汚い物を扱うかのように指二本で挟んだ。そしてそれをサッとこれまた器用に自分の席から遠く離れた場所へ投げつけた。そしてそれは、部屋の端に置かれていたコーヒーサーバーにぶつかり…。
「ひ、ひどい!!」
薄茶色が見事に濃茶色になってしまったトレーナーを握り、青木は抗議した。しかし直樹はこう返した。
「汚ねえもんを投げつけるからだ。さっさと仕事に戻れ!」





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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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