日々草子 イリエアン・ウェディング 4

イリエアン・ウェディング 4





コトリーナとナオキヴィッチの捜索も空しく、ティアラは見つからない。
「もういいのよ、コトリーナちゃん。他のティアラもあるのですから、そちらを結婚式に。」
そう話すノーリー王妃ではあったが、その顔がどこか寂しそうであることをコトリーナは見逃さなかった。
コトリーナとて、ノーリー王妃の大事な思い出の品をつけて結婚式に臨みたい。出来る限り探そうと決意していた。

そしてこの日もコトリーナは、城の裏手を探していた。
「ここもないか…。」
と、顔を上げた時である。
「あれは?」
繁みがガサガサと動いている。そこから時折はみ出すのは、見え覚えのあるテカテカの頭…。
「イッシキの陛下?」
イッシキ国王が辺りを見回す。どうやらコトリーナの姿は気付いていないらしい。誰もいないことを確認すると ――。

「消えた!?」
慌ててコトリーナは国王が消えた辺りに駆け付けた。するとそこにぽっかりと人が通れるくらいの穴が開いている。どうやら城の外へ通じているらしい。



「はあ!たまには外に出んといかん。」
城の外に出たイッシキ国王は大きく伸びをした。
「どれどれ、婿殿の国はどげん感じやろね。」
前にこの国に来た時も、あの抜け穴を通って街にやって来たイッシキ国王であった。

「おじいさん、オレンジひとつどう?サービスしておくからさ。」
「おお、気前よかね。」
店の人間からオレンジを受け取り、にんまりと笑う国王。
「おじいさん、こっちもどうだい?」
「どれどれ。おお、これはうまかハムたい。」
市場でどんどん声をかけられ、イッシキ国王は上機嫌である。お忍びの格好をしているから誰も王族とは思わない。
「賑やかたいね。」
「そりゃあそうさ。もうすぐ王子様の結婚式だもん。」
店の者の言葉に、危うく国王は喉をつまらせるところだった。
「結婚式…。」
「あれ?知らなかったのかい?そうだろうね、おじいさん、その言葉からこの国の人間じゃないみたいだし。」
「まあ…旅の途中…たいね。」
「そうかい。この国の王子様が間もなく、お妃を迎えられるんだよ。そこのイーリエ大聖堂での結婚式の後、初めて私らはお妃の顔を見ることになるのさ。どんな方だろうねえ?」
「…冴えない、つまらない小娘たい。」
「え?」
思わず呟いたイッシキ国王の言葉は、店の者たちには聞こえなかったらしい。

「それで賑やかだったのか」と面白くない思いをしながらも、勧められるまま試食をしていると、肩をポンと叩かれた。

「…ここで何をされているんですか?」
「お、おまえは!!」
今度はトマトを喉につまらせそうになるイッシキ国王。それを睨んでいるのはコトリーナであった。



「…見ればわかるやろ。視察たい、視察。」
「視察?」
声を潜めながら国王は話した。
「こうして、お忍びで街を歩けば、城にいては気付かないことが分かるけんね。」
「ふうん…。」
「ところで、お前は何ばしよっとね?」
「私は、陛下…」といいかけたコトリーナの口を国王はムギュッと押さえた。
「お前、今何を聞いとったね!わしゃ、お忍びといったやろうが!陛下とか言うんじゃなか!このばかちんが!」
「す、すみません…。その…爺やが一人で出かけたので心配になって。」
「…今、何と言ったと?爺や?」
「はい。」
これまたきっぱりと返事をするコトリーナ。
「だってお忍びなんでしょう?ここは貴族のお嬢様とお付きの爺やという設定が一番しっくりくるかと。」
「何でお前の方が上とね。わしが旦那様でお前が侍女の方がしっくりすると!」
「ええ!そんなことないですってば。」

「あら?そちらの可愛いお嬢さんはお孫さん?」
先程、オレンジをくれた店の人間がコトリーナに気付いた。
「アハハハハ、女の孫でよかったねえ!男だったらお爺さんに似て、ここがツルツルピカピカになるかもだしね!」
頭のてっぺんを撫でる店の人間に、
「そうですよねえ。ほんと、よかった!」
と受けるコトリーナ。それを国王が苦々しく見ている。

「もぐもぐ…とにかく、お城に戻るまで付き合いますからね。」
ハムやら何やらを食べながらコトリーナはイッシキ国王にピッタリと付いていた。
「お前なんかに付き添われんでもよか!」
「だめです。万が一のことがあったら大変ですもん…もぐもぐ。」
「万が一?」
「ええ。白骨死体になって発見されたなんてことになったら、目覚めが悪いというか…もぐ。」
「白骨化するまで、誰もわしを探しに来んつもりかね!!」
一体何年放置されるのかと憤慨するイッシキ国王ではあるが、こうしてコトリーナと話していることは嫌なことではなかった。むしろ、このようにサバサバと話せることを楽しんでいる。
しかし、それを素直に認めないのが、イッシキ国王…あのナオキヴィッチの祖父である。


「この国はとても安全なんですよ。国王陛下、あ、シゲキヴィッチ国王陛下のことです。その陛下が治めていらっしゃるから。」
と、街を歩きながら自慢するコトリーナに、
「ふん。そげなこと、お前に言われんでも分かっているけん。」
と、相変わらずなイッシキ国王である。
「でも気をつけて下さいね。時折、変な人が迷い込むことがあるので。」
「お前以上に変な人間がいるとは思えんばってんが。」
「私の友達にヨシヤくんというパティシエがいるんですけど。前に、そのヨシヤくんのお店にいきなり乗り込んで“浮気しやがって!”とイチャモンつけた馬鹿な男がいたんですって。ヨシヤくんは奥さん一筋の人なのに。酷いと思いません?」
「変人の友は変人たい。そんな変人が呼び寄せるのは馬鹿な人間なんやろ。」
と、まさかその馬鹿な男が自分の自慢の孫だとは思わないイッシキ国王。
「んま!何て言い方なんでしょ!」
と、怒るコトリーナ。
こうして二人は騒ぎながら街を歩いて行った。

やがて ――。



「…何でこげな遠くまで来てしまった?」
賑やかな所から離れ、家も何もない所に二人は来てしまっていた。
「お前が城までの道を知っているとか言うたやろが!」
「だって、こんなはずじゃなかったんです!」
城へ戻ろうとしていたのに、方向音痴のコトリーナのせいで二人は見事に迷ってしまった。
そしてさらに状況は悪化する。

ポツ、ポツ…。

「雨まで降って来たと!」
先程まで太陽が出ていたのに、いつの間にか黒い雲に空が覆われとうとう雨まで降り出してしまった。

「あそこに家があります!雨宿りをお願いしましょう!」
国王の手を引いて、コトリーナは一軒だけポツンと建っている家へまっしぐらに走って行った。

「すみません、雨宿りをさせていただけないでしょうか?」
トントンと何度ノックしても、その小さな家からは人が出てくる気配はなかった。
「空き家じゃなかとね?」
壊れかけている窓の桟を見ながらイッシキ国王が話す。
「そうですかねえ?」
コトリーナが「失礼します」とドアを開けると、鍵はかかっていなかった。

「うっぷ!!な、何!?」
「うるさかね!ただのクモの巣たい!」
入るなり顔にクモの巣がかかったコトリーナ。家の中はテーブルやいすが倒れていて、とても人が住んでいる気配はなかった。
「空き家みたいですね。雨がやむまでここにいましょうか?」
「ふん!」
窓の外は雨が激しくなる一方である。二人は雨宿りをすることにした。
「本当にろくなおなごじゃなかね!」
と文句を言うイッシキ国王。
「お天気はどうにもならないでしょう?」
と、こちらも負けていないコトリーナ。その時である。

ガタッ…。

表のドアが開く気配がした。二人の口が閉じられる。
「…空き家じゃなかったのかしら?」
「まずかね。このままじゃ不法侵入たい。」
ここで見つかって騒ぎになったら、さすがに二人とも立場がない。
「あそこ、あそこに隠れましょう!」
部屋の隅のクローゼットの中にイッシキ国王を押し込め、コトリーナも後に続き、その戸をそっと閉めた。



「やれやれ。雨で下調べが途中になったのが残念だな。」
男の声が聞こえた。どうやら一人じゃないらしい。
「あの伯爵家にはかなりのお宝が眠っていると聞くがな。」
「お宝?」と、クローゼットの中の二人は目で会話をする。

「この国は祝い事で浮かれているから、隙だらけだと思うけど。」
「そうだな。結婚式の夜がチャンスだろうよ。皆、騒いで家を空けるだろうし。」
「その間に俺らがごっそりと頂く物を頂くってことで。」
「ガハハハ」と笑う男たち。こいつらは盗みのためにイーリエ王国にやってきた泥棒のようである。

「いっそのこと、城へ入るか?」
「それもいいな。そういや、結婚する王子ってどんな顔なんだ?」
「さあ?どうせたいした顔じゃないだろうよ。」
「へえ。そんな奴と結婚する女も気の毒だな。」

「何ですって!!」とコトリーナは憤慨した。

「俺の方がいい男じゃねえ?」
「ていうか、俺たちが城に忍び込んでイチャイチャしている所に姿を見せたら、俺らの方がいいって惚れられちまうかも!」
「違いねえ!!」
再び「ガハハハ」と笑い声が起きた。



少しした後のことだった。
「寒いな。ちょっと何か着るもんでもないか?」
泥棒の一人が騒ぎ出した。
「この家の住人、着る物くらい残していってねえか?」
「見てみるか。」
足音がクローゼットに向かって来た。コトリーナと国王は青ざめる。

「コートくらい残って…え?」

クローゼットを開けた男は目を丸くした。

「ばぁ!…なあんて。」
そんなことを口にする女性と、それを睨んでいる老人がそこに座り込んでいたのだから ――。




関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

水玉さん、更新ありがとうございます♪
思いもよらない展開で続きがとても楽しみです!
「ばぁ!…なあんて。」緊張感のある場面なのに
琴子ちゃんがかわいくて、笑ってしまいます。
ティアラも早く見つかるといいですが、
まずはこの場をどう乗り越えるかですね!!
イッシキおじいさんと力を合わせることが出来るのでしょうか?楽しみです!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

たまちさん、ありがとうございます。

護衛が護衛になってませんよね。
ギャーギャー騒ぎながら、まさしく珍道中。
ツルピカ妄想は、イタキスファンにとってはついしてしまうけど、具体的にはしたくない妄想ですよね。
隔世遺伝だと危険、父からの遺伝でも危険…結構入江兄弟の将来はドキドキものでしょう。
迷子にはなる、ピンチになる…本当にイッシキ国王にとっては散々な散歩です。

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそ!
うふ、ゆみのすけさんに可愛いと言って頂けて嬉しいです。
恐怖のあまりに琴子ちゃん、ぶっ飛んだ行動をとってしまったようで。
この後、一体どうなることやら。
ティアラも行方不明のままですしね。
この場を切り抜け、ちゃんと結婚できるのでしょうか?

あおいさん、はじめまして。

はじめまして!コメントありがとうございます。
会話、テンポいいですか?そんな風に仰って頂けて嬉しいです。
テンポよく読んでいただけたらいいなと思って書いているので!
最近イタキスにはまったんですね!
ぜひ、またお気軽にコメント残して下さいね!とても励みになりますので~♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
リンク