日々草子 入江法律事務所 20

入江法律事務所 20

今頃ですが、入江くんのバースデーネタです。
本当は当日に書きたかったのですが、できなかったので。









「先生、またまた宿命のライバル、船津検事と対決ですね!ほら、今日はうちわもバッチリ!」
裁判所で琴子が「ジャーン」と見せた、自分の写真入りうちわと名前を直樹は今日もバキッと膝で砕いた。
「ったく、こんなもん作るなって何度言ったら分かるんだ。お前、今すぐ事務所帰って留守番してろ。」
「やだあ。傍聴席の一番前で先生の戦いぶりをこの目でしっかと見届けるつもりなんです!」
琴子は両目を指でグイッと広げる。
「ハハハ、今日も琴子ちゃんは絶好調だね。」
と、傍で笑っているのは西垣弁護士である。直樹と船津検事の戦いをこちらも見物しに来たのだった。
「はい。だって今日は先生の誕生日ですから!」
「へえ、入江、今日誕生日なんだ。おめでとさん。」
「別に、この年じゃめでたくも何もないですし。」
と、素っ気ない直樹。
「もう、そんなこと言わないで。先生、法廷が終わったらラーメンでもいかがです?」
琴子がラーメン店の割引券を直樹に見せる。それだけではない。琴子のバッグの中にはこの日のためにと紀子から教わって編んだ、マフラーが入っている。勿論、直樹への誕生日プレゼントである。

そんな時、直樹の顔の横にカトレアの花束がスッと差し出された。

「入江先生、おめでとう。この世に君が生まれてきてくれたことを僕は神に感謝するよ。」
花束の主は直樹の大ファン、大蛇森検事部長であった。
「さ、これを君の胸に。僕の気持ちだ。」
と、大蛇森検事部長が花束からカトレアを一輪取り出し、直樹の胸に挿そうとした時である。
「ちょっと!変なもんを先生にくっつけないでください!」
と、琴子が大蛇森からカトレアをサッと奪うと、西垣の胸に挿す。
「琴子ちゃん、僕だったらいいってこと…?」
悲しげに呟く西垣を無視し、琴子は大蛇森に向かい合った。
「また税金の無駄使いですか?国民の血税を何だと思っているんです?」
「はあ?だから君に税金をどうこう口にする権利はないと言っただろうが!」
「さっさと自分の場所へ戻りなさいよ、ほら、ハウス!」
「僕は犬じゃなーいっ!」
ギャーギャーと喚く二人に、直樹は耳を塞ぐ。全くどうしてこの二人は顔を合わせるとこうなるのか。

「あの…失礼します。」
そんな騒ぎに、静かな声が聞こえた。思わずこと琴子と大蛇森も言葉を止め、聞こえた方向に顔を向けた。
「直樹さん、こんにちは。」
「沙穂子さん!」
何と、そこに現れたのは大泉沙穂子であった。

「どうしたのですか?」
何で沙穂子が裁判所にいるのか。
「大泉先生の法廷を見学にいらしたんですか?」
「いいえ。その…。」
沙穂子は頬を赤く染めて言った。
「直樹さんの法廷を一度、見学させて頂きたいと思って。祖父の事務所に時間を調べてもらって、来てみました。」



「…琴子ちゃん、あの美人さん、大泉先生がどうとか言ってるけど?」
西垣の問いに、琴子は答えた。
「大泉総合法律事務所の先生のお孫さんの、沙穂子さんです。」
「あの大事務所の!」
西垣もその名前は知っているだけに、驚く。
「なるほど、どうりで、どこかの誰かとは育ちが違うわけだ。」
大蛇森の嫌味に琴子はキッとなった。
「あんなにお似合いじゃ邪魔しようがないじゃないね。君みたいな身の程知らずが入江先生の周囲をチョロチョロしていると駆除したくなるがね。」
悔しいが大蛇森の言うことは当たっていると琴子は思った。駆除はともかく、自分よりずっと沙穂子の方が直樹とお似合いである。現に通行人が2人を振り返って行く。まるでそこだけ花が美しく咲いているかのよう。
「カトレアみたい…。」
西垣の胸のカトレアを見て、琴子は沙穂子がその花のようだと思った。



「ここ、一番先生がよく見えますよ。」
法廷に入って、どこに座ろうかと迷っている沙穂子に、琴子は声をかけた。
「よろしいのですか?」
「はい。どうぞ。」
本当は自分が座ろうと思っていた場所に、琴子は沙穂子を座らせる。
「ありがとうございます。」
琴子に礼を言うと、沙穂子は静かに腰を下ろした。やはり花がそこに咲いたようだと琴子は思った。

「琴子ちゃん、隣においでよ。」
西垣が招いてくれたのは、沙穂子からずっと離れた、傍聴席の後ろの方である。琴子は西垣の好意を受けることにした。
大蛇森は沙穂子の出現に戦意をなくし、傍聴することもなく検察庁に戻ってしまった。



弁護人の席で準備を終えた直樹は傍聴席に目を向けた。と、琴子が座っているはずの席になぜか沙穂子がいるではないか。
沙穂子が直樹の視線に気づき、軽く頭を下げてきたので、直樹も頭を下げた。
琴子はどこにいるのかと思い探すと、西垣と隣り合わせに座っているではないか。
―― 何であんな遠くに?
しかもどこか楽しげな様子に、直樹の目には映った。

裁判が始まり、船津検事の芝居っ気たっぷりの起訴状の朗読が始まった。とても聞くに堪えず、直樹はそっと琴子へと目をやった。西垣と肩が触れている。それを見ると胸の中に黒い物が広がってくる。
時折、西垣が琴子の耳に口を近づけ囁いている。琴子が嫌そうじゃないところが気になる。

―― あいつ、まさか西垣先生に気があるとか?
ふとそんな気がしてきた。琴子は実は西垣が好きで、西垣に近づきたくて直樹の世話を焼いているのでは?
―― いや、あいつにそんな芸当できるわけがない。
愚かな考えだと直樹はそれを捨てた。だが、どうも気になる。
―― あいつ、あんなに親しくしてると、あのエロ弁に遊ばれるぞ。


「おはようございます…。」
昨日と同じ服で琴子が事務所に姿を見せた。
「お前、昨日家に帰らなかったのか?」
直樹の問いに琴子がコクンと頷く。どこか恥ずかしげである。
「実は…西垣先生と一晩…。」
そこで琴子が赤くなったことで、直樹は何があったかを察した。
「西垣先生…いつもよりずっと優しくて。あたし、初めてあんな世界があると知って。“琴子ちゃんって色が白いんだね”って囁いてくれて。」
「何をベラベラ喋ってるんだ、いい加減にしろっ!!」

************

「…ベラベラ?」
せっかくの朗読を邪魔され不快な表情を向ける船津に気付き、直樹は自分が今何を口にしたかを察知した。
「弁護人、静かにするように。」
裁判長に注意され「申し訳ありません」と直樹は一礼する。
再び船津の朗読が始まった。が、直樹はやはり違う方向に思いを巡らせ始めてしまった。


************

「先生、あたし…西垣先生の赤ちゃんができちゃいました。」
オロオロする琴子の言葉に、直樹はあんぐりと口を開けた。
「じゃあ…結婚すれば?」
ところが琴子は首を横に振った。
「それが、西垣先生に話したら…海外に行っちゃったんです。連絡取れなくて。」
「…逃げやがったのか、あの野郎。」
直樹は舌打ちをする。やっぱり遊び人はとことん遊び人だった。
「それじゃ、認知請求するか?金はちゃんともらうぞ?」
「認知…。」
「それともおろすか?」
「そんな!」
琴子はお腹を撫でた。
「…先生の子として育てたら、だめですか?」
「…は?」
「入江先生の子として、育てたいんです!」
「ふざけんな!何で俺がそんなことしねえといけないんだ!」

************

「…弁護人。」
静かな裁判長の声で、直樹は我に返った。
「私はあなたに“弁護人、意見があればどうぞ”と申し上げました。そうしたら“ふざけんな!何で俺がそんなことしねえといけないんだ!”と言われたのですが?」
「あ…。」
またもや言葉に出してしまっていたらしい。
「弁護人。」
裁判長が静かに続ける。
「あなたの立場は?」
「…被告人の弁護をすることです。」
「ですよね。あなたはそれでこの法廷にいるわけですよね?」
「裁判長!!」
謝ろうとした直樹より先に、船津が声を張り上げた。
「弁護人は何度も裁判長の注意を無視しました。それだけでなく、検察官のことも冒涜しました!もはやこんな人間に弁護人、いえ、法曹資格を与えることは相応しくありません!」
「検察官、ちょっと…。」
「…何、馬鹿なこと言ってるんだ?」
直樹がユラリと立ち上がり、船津を睨んだ。その目の端に直樹は琴子を捉えた。不安そうに身を乗り出している。

「法曹資格なんて関係ないだろ。」
「いいや、関係ある!それに入江、なぜ君がこんなことばかりするか言い当ててやろう!」
「何だよ?」
「君は今度の事件で僕に勝てないと思ったからだ。それで法廷を混乱に陥らせようと馬鹿なことばかりしてるんだ、そうに違いない!」
ビシッと直樹に向けて指さす船津。
「…バカバカしい。」
直樹が横を向くと、船津は自分が馬鹿にされたと思い顔を紅潮させた。
「虚勢を張るのもいい加減にしろ、この能無し弁護士!」
「万年二番の検事に言われたくねえ!」

「いい加減にしなさい!」
裁判長の怒声に、直樹と船津の口が止まった。
「閉廷します!次回まで二人は頭をとことん、冷やしてくるように!」



「いやあ、あの二人の法廷は荒れるね!」
楽しげな西垣とは反対に、琴子は心配で堪らなかった。どうも直樹の様子がおかしい。
「先生…。」
と、法廷から出てきた直樹の傍に駆け寄ろうとした琴子の足が止まった。
「直樹さん。」
琴子より先に、沙穂子が直樹の傍に駆け寄ってきたのである。
「…みっともない姿を見せてしまって。」
「そんなこと、気になさらないで下さい。」
沙穂子が直樹を慰める。
「何か理由がおありだったのでしょう?大変なお仕事ですもの。」
直樹は沙穂子の後ろに、琴子の姿を見つけた。琴子はじっと自分を見つめたまま近寄ろうともしない。

「沙穂子さん、ランチでもご一緒にいかがでしょうか?」
「え?」
「ちょっと疲れました。沙穂子さんとおしゃべりをして気分を変えたいなと。」
「まあ!」
沙穂子は嬉しさで声を弾ませた。
「私が直樹さんのお力になれるのならば、喜んで。」
「では、すぐそこのホテルのレストランで。おいしいんですよ。」
直樹は琴子のことを頭から振り払うように、沙穂子を連れ歩いて行ってしまった。
「先生…。」
後に残された琴子は、ラーメンの割引券をギュッと握りしめてそれを見送るしかなかった。





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水玉さん♪いつもありがとうございます。

琴子ちゃんはただただ直樹さんを思って行動しているだけ。
だから自分より沙穂子さんの方がお似合いだと思って
遠慮しちゃうんだよね。
そこがまたキュンとしちゃう。
で、直樹さんはその琴子ちゃんの気持ちがわからない←まぁ直樹さんだから気付かないのだろうけど・・・・
その二人がかみあわなくてせつないよ~~
本当に直樹さんはお馬鹿さんだから。。

琴子ちゃん私とおいしいラーメン一緒に食べようよ♪

わ~い 待っていました

 ありがとうございます。このお話大好きで更新を待っていました。
 でも、またまた彼女が・・・、彼の自分で気がつかない嫉妬が・・・
 あ~またしばらくドキドキイライラしながら待つんですね。
 わかっています。きっと最後はハッピーエンド。だけどそれまでの道のりが・・・。
 まあそれが面白くて毎日お邪魔しているのですけれど。
 過去のお話も何度も読み返しています。あらすじがわかっているのに、落ち着くところまで一気に読んでしまったりして。
 これからも楽しみに読ませていただきます。

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こっこさん、はじめまして。

はじめまして!コメントありがとうございます。
入江くんの誕生日に来て下さったんですね!遅れてしまってすみません。
本当、琴子ちゃんの気持ちは届いているはずなんですけれどね…。
確かに、琴子ちゃんに見守られているから安心してお仕事もできているというのに。
次回も楽しみにしていて下さるとうれしいです。

紀子ママさん、ありがとうございます。

キュウリ男(笑)
琴子ちゃんに冷たくすると、確かにそう見えますよね。
お嬢様に見事にいい男ぶっていますし。
琴子ちゃんはラーメンの割引券を手に寂しそうですし。でもあんな完璧なお嬢様が来たら前に出る勇気はなくなっちゃいますよね。
大蛇森に嫉妬する入江くん…ちょっと見てみたいかも!
ミジンコ、ミトコンドリアクラスの器の小さな入江くんです。

たまちさん、ありがとうございます。

そうです、今回もこの掛け合いです。
確かに入江くんは船津くんを相手にしてませんもんね。宿命のライバルとは思っていないでしょう。
宿命のライバルは琴子vs大蛇森の方がぴったりですね。
そこにお嬢様も加わってきましたし。
幅が広がっていく台形マフラー(笑)ほんと、見事な台形ですもんね。
それを入江くんがどう思うか。喜ぶと思うんですけれど…。

そうそう、本当に琴子ちゃん化している入江くん(笑)
入江くんの妄想はとんでもないことに。ガッキーは最低男になっているし。
でもガッキーとの子供を入江くんとの子にしたいなんて言われたら、そりゃあ「なんでそんなことを!」と叫びたくなるってもんでしょう。

ナイトさん、ありがとうございます。

このお話は他のシリーズみたいに、不定期連載なのでそこはご安心を♪
いつ続きを書こうか迷ってはいるんですけどね。結婚記念日に合わせるべきか、それともその辺りは違う話を書こうか、はたまた書けないかも…的な感じです。
うれしいです、連載希望とかいろいろ言っていただけて!

私も最近、皆様のコメントで過去作を読み返しています。
ナイトさんのコメントで君がため、読み返しました。ああ、そうそう。この辺はまだパラレル始めたばっかでちょっと書き方が変だったなあと思ったり。物置の場面は本当、可哀想な琴子姫でした。

あ~また平安書きたいな!

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

うんうん、本当に一緒にラーメン食べてあげたいですよね!
ていうか、私もゆみのすけさんと一緒にラーメン食べたいです(ちなみに好みはとんこつ醤油です)←だから何?

本当に遠慮しちゃった琴子ちゃん。それに気付かない入江くん…。
そうですよね、気づいているならとっくに両想いになっていますよ。
おバカです、入江くん!

森のおうちさん、ありがとうございます。

待っていましたとのお言葉、とてもうれしいです。
しかも毎日来て下さっているんですね!これもまたうれしいです。

気づけばこのシリーズも20回を超えました。そろそろ動きをと思ってみました。
もうちょっとドキドキイライラしてお待ち下さい(笑)
過去のお話もありがとうございます。
ぜひどんなお話が心に残っているか、お聞かせ下さるとうれしいです。

よしピーさん、ありがとうございます。

そっか、リアルタイムのご経験があまりないんですね!
ぜひとも楽しんでいただけたらと思います(笑)

本当に馬鹿ですよね~自分の妄想に振り回されて。この間は確か夢でしたよね。
ここの入江くん、すごい想像力です。琴子ちゃんを上回る勢いです(笑)

ヘビの生殺しなんて~。ええ、よしピーさんが息絶えないうちに続きを頑張りますね(笑)

カスガノツボネさん、ありがとうございます。

こちらこそ、読んで下さってありがとうでありんす♪

と思ったら、いきなりムキィィっとは!カスガノツボネさんがタオルをかみしめている所を想像してしまいました。
そうですよね、琴子ちゃんがじれったいくらいに引っ込み思案になっちゃうんですよね、お嬢が出てくると。
そうです、そうです。カトレアよりもひまわりですよ~!
いえいえ、急かして下さって嬉しいです。ありがとうございますでありんす!

ととろんさん、ありがとうございます

ありがとうございます。もうすっかり大丈夫です!
胸が締め付けられるなんて…ごめんなさいね。と言いつつ、それがまた嬉しかったりします(笑)
続き楽しみにしていて下さいね~!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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