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2009.01.07 (Wed)

奥さんへ

皆さん、はじめまして。
田中一郎と申します。

【More】

と、言っても誰だか分からないと思う。
神戸の病院で研修医している、メガネをかけたちょっとぽっちゃりめの人間です。

この病院で研修を受けているのは僕の他にもう一人いる。
入江直樹先生。
僕とは正反対の細身、長身、そして美形、更にずば抜けた頭脳の持ち主だ。
わざわざ東京からやってきた勉強熱心な人でもある。

そんな人なので病院内でも女性の人気は抜群だ。
一緒に行動することが多い僕なんかには誰も目をくれない。
看護師さんも女性の医師もみんな「入江先生」と隙あらば近寄ってくる有様だ。
だけど、入江先生はほとんど相手にしない。

そんな入江先生は何とその若さで結婚していることが、最近判明した。
そして、奥さんが現在神戸に来ている…。

「あ!鈴木先生!」
「…田中です。奥さん。」
僕の名前を間違えた女性、この人が入江先生の奥さんだ。どんな流れでそうなったのかは詳しくは知らないが、入江先生が手を焼いている患者に手術を受けさせようと、なぜか奥さんが説得しているらしい。なので毎日病院にやってくる。
「入江くん、いますか?」
奥さんの手には弁当らしきものがあった。愛妻弁当というやつか。
「ああ…。入江先生なら外来だからまだ当分戻らないですね。」
「そうですか…。」
可哀想に。はるばる東京からやってきて、お弁当まで作ったんだろうな。
「なら、これ勿体ないので、佐藤先生食べてもらえます?」
「え!?」
だから田中だって言っているのに。って、そんなことどうでもいい。
「ぼ、僕が食べていいんですか?」
「はい!悪くなっちゃうともったいないし。」
いいのかなあ…。僕なんかが食べちゃって。
結局、僕は奥さんから弁当を受け取った。
母親以外の女性の手作りの弁当なんて、初めてだ。ちょっとドキドキする。
僕は自分の机に座り、ワクワクしながら弁当箱の蓋を開けた。

…弁当って、こんなに茶色かったっけ?
僕の母親だって、もう少し緑色の野菜とか、卵焼きとかで色を工夫してくれた気が…。
そして、
「これ、ネギ…?」
ご飯の上に、焼かれたネギがドーンと鎮座している。
食べるべきか、食べない方がいいのか迷っているとき、後ろから、
「それ…。」
入江先生の声がした。
「あ、入江先生。これさっき奥さんが持ってきたんだけど。先生いないって言ったら僕に食べてくれと置いて行ってくれたけど、やっぱり先生が食べるべきだよね?」
口ではそう言いながら、僕は内心「助かった」と安堵していた。
そしてさっさと蓋をしめ、入江先生に弁当を渡した。
僕はいつものようにパンを買いに部屋を出た。

戻ってくると、信じられないことに入江先生はあの茶色い弁当を口に運んでいた。
…それも時折笑みを浮かべて。
そ、そんなにおいしいもの、入っていたっけ?
そして、入江先生の笑顔を僕はこのとき、初めて見た…。

そういえば、奥さんって名前何て言うんだろう?
僕は入江先生に尋ねてみた。
すると、先生は、
「いいよ。名前なんて。」
と一言言い放った。
「でも、“奥さん”って呼ぶのって失礼な気も…。」
僕はそう言った。でも、
「奥さんであることは間違いないから、そのままでいい」
と言われてしまった…。

「あ、石田先生!」
今日も奥さんが僕の名前を間違えて呼んでいる。
「田中です。奥さん。」
僕も何度目かの訂正をした。でも訂正しても意味がないだろう。
「あのね、奈美ちゃんがやっと手術受けるって言ってくれたの!」
どうやら患者の説得に成功したらしい。
奥さんは嬉しそうに言った。
すごいな。あの入江先生ですら説得できなかった患者を…。この奥さん、実はものすごい人なのかもしれない。
「よかったですね。」
「うん!」
自分のことのように喜んでいる。性格がいい人なんだな。入江先生が選んだのもちょっと分かるかも。
「あたし、神戸におもいきって来てよかった!」
「そうですか。」
僕は自動販売機でジュースを買い、奥さんに渡した。ちょっとしたお祝いの意味を込めて。
「ありがとう。」
奥さんは嬉しそうに飲んだ。

「あ、そうだ。」
何かを思い出したように、奥さんは言った。
「あの、山本先生。」
だから田中だってば。
「私のこと奥さんって呼んでくれてありがとう。」
「え?」
「東京では誰も奥さんって呼んでくれなくて、ちょっとさびしい思いしてたんだよね。でもここで山本先生が“奥さん”って呼んでくれて、すごく嬉しかった!」
それは、入江先生が奥さんの名前を教えてくれなかったからであって…。
そこまで思って、僕はハッとした。

…もしかして、奥さんの気持ちを知って、わざと教えなかった?僕に“奥さん”と呼ばれることで、奥さんが喜ぶことを知っていたのかな?入江先生は…。

「こっちでの入江くんってどんな様子?やっぱり人気あるのかな?」
「そうですね…。人気はありますよ。」
「やっぱりなあ。浮気とか…しないとは思うけど、離れていると心配だし。」
「そりゃ、そうでしょうね…。」
そこまで話していたら、奥さんの頭上に入江先生の鉄拳が落された。
「何をくだらないことをペチャクチャ喋ってるんだ!お前は!」
「痛い…!」
「ほら、用が済んだらさっさと行け!」
「あ、じゃあね!近藤先生!」
だから、田中だってば。
最後まで僕の名前を覚えることなく、奥さんは入江先生に引きずられるように、去って行った…。

そして奥さんは東京へ戻ったらしい。
入江先生も前と変わらずポーカーフェイスで仕事をしている。
ただ、時々溜息をついているのが気になるけど…。

奥さんが東京へ戻った日から数日経った夜、僕は仮眠室へ仮眠を取りに入った。
2台あるベッドのうち、一つでは入江先生が先に休んでいた。
僕も時間があるうちに寝ておこうと隣のベッドへ入ろうとした。
あれ?
枕がない。
ベッドの下とか周りを探したが見つからない。
正直、僕は枕がないと眠れないので、困った。
隣で寝ている入江先生の方を何となしに見た時、
「!?」
僕は目を見張った。

なぜか、入江先生は枕を抱きしめて寝ていた。
自分の頭の下にはちゃんと枕を置いている。
つまり、先生が抱いている枕は僕が本来使う枕だということだ。

な、なんでそんな子供みたいなことを?

あ…!
もしかして、その枕は奥さんの代わりなのか…。
奥さんが神戸に来ている間、二人でああして寝ていたのかも…。
それで奥さんがいなくなった今、物足りなくてこんなことを…。
溜息を時々ついていたのも、寂しさからとか…?

何だか僕はおかしくなってしまった。
あの完璧な入江先生が、こんな様子を見せるなんて…!

…奥さん、心配する必要は全然ないです。
入江先生はきっと神戸にいる間、誰にも目をくれません。
だって、入江先生の心の中はこんなに奥さんで満たされているんですから。誰一人、入れる余地はありませんよ。
だから早く看護師になって傍で暮らして上げてくださいね。

僕はそう、奥さんに心の中で言った。


☆あとがき
実はこの話を思いついたため、あのメガネくんを模写してみたんです(笑)
名前がないと書きにくかったので、とうとう勝手に名前をつけてしまいました。
誰だか、分かりますか…?

☆拍手&コメントのお返事
foxさん
私も実は初日の出は一度も見たことがありません(笑)
寝ています!
一度は拝んでみたいものですが。

いたさん
本人が気がつかないことが、面白さでもあるんですよね。
ある意味「無償の愛」と呼べて、純愛にも取れるんですが(笑)

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*Comment

★あの人か!

琴子が神戸に行ったとき、病院で入江君の横にいた人ですよね?
水玉さん、使えるキャラはなんでも使え!ですね!

入江君が枕を抱きしめているのが、目に浮かびました。
かわいすぎです(笑)
萌えました(笑)




takie |  2009.01.07(Wed) 00:24 |  URL |  【コメント編集】

水玉さんのチョイスはすごいなーww
最初はそこで来た!?と思って爆笑でしたが、読んでいくとすごくいいお話で、いやーん☆と思いました。
「いいよ、名前なんて」がかなり萌えました///
haの中で平川ボイスが聞こえてきましたね(笑)。


ha |  2009.01.07(Wed) 00:40 |  URL |  【コメント編集】

最高、最高、さ・い・こ・ーっ!
すっごく素敵なお話だわ!!!

やっぱり水ちゃんてすごいよね。大蛇森シリーズと同じその手からこんなお話が生み出される不思議!その書き分けの見事さには恐れ入るの一言。

田中さん、いい人だよね。水ちゃんのオリジナル(…というべきなのか?!)のキャラって根がいい人ばかりだよね。アタシそういうの好きだわ。
水ちゃんの人となりのなせる技だね!

思えば、原作にもいい人しか出てこないよね。ふふふ、やっぱり

水ちゃん、だいすきだからね!

(↑いい加減にシロ!!!!)

アリエル |  2009.01.07(Wed) 00:48 |  URL |  【コメント編集】

水玉さん、おはよう御座います。                                      神戸でのお話最高ですね。琴子が奥さんと呼んでくれる田中さんの名前を何回も間違えるなんて。琴子らしいし、直樹もしっかりお弁当食べてくれて旦那様していますが・・・琴子が帰京した後は淋しいのですね。枕を抱いて寝ているなんて!!田中先生もお弁当の犠牲者にならなくて良かったのかなぁ・・(^0^)
tiem |  2009.01.07(Wed) 06:04 |  URL |  【コメント編集】

コメ、出遅れ悔やまれちゃう(≧ω≦)やっぱり意志が弱いさあやは携帯からこんにちわしちゃいました♪
ニヤニヤしながら読むのはいつものことなんだけど後半スッゴク心温まるお話ぢゃない(*^_^*)アリエルが吠えてるのがわかるわ
しかし、水ちゃんの神戸編もどれもみないいお話でありがとうね゜+。(*′∇`)。+゜私も大好きだよん
さあや |  2009.01.07(Wed) 10:05 |  URL |  【コメント編集】

もうもう水玉さんの視点には驚かされるばかりです。
脇キャラ使いのプロですね!
なのにとってもいい話。
抱き枕な入江くんがなんかかわいい☆
はぎ |  2009.01.07(Wed) 11:41 |  URL |  【コメント編集】

★素敵!!

素敵なお話ですね。
神戸で2人きりの生活は、入江くんにとっても琴子にとっても最高の思い出ですよね。
琴子が東京に帰ってしまい寂しくて、つい枕を抱いて寝てしまったのでしょうね。
普段なら絶対人に見せない姿ですが、どうしようもなく寂しかったのね~。可愛い♥
写メを琴子に送って「自信持ちなさい!」と言ってあげたいです!
chie |  2009.01.07(Wed) 11:55 |  URL |  【コメント編集】

★ありがとうございます。

いやあ…(照)
(自称?)田中くんにこんなに感想をいただけるとは…!

takieさん
そう!その人です!妙にインパクトがあって記憶に残ってたんですよ~。
使えるキャラは本当に何でも使うかもしれません(笑)
次はじゃあ、あのおじさんでいきますか?(笑)

haさん
haさんの萌えポイントに入りました?よかったです。
書いているうちに、なんかこんな展開になったんですが^^

アリエルさん
勝手に名前までつけて、あたし怒られたらどうしようとちょっと思ってます(笑)
確かに根っからの悪人は書くのも、読むのも嫌ですね。
原作も本当にいやな人は出てこない、うん。(でも新婚旅行の麻里は腹立つキャラだけど)
どんどんアリエルに大好きって言ってほしいな♪

tiemさん
あれだけにぎやかだったら、絶対帰った後は寂しくてたまらないと思います>入江くん
枕を抱いて眠るというラストは、最初から実は決めていたんです^^

さあやさん
大好きといってくれてありがとう!
神戸編は原作で描かれていない分、かなり想像の余地があります(笑)
携帯から読んでくれているなんて、嬉しすぎ!

はぎさん
そんな、はぎさんから誉めていただけるなんて…光栄です!
抱き枕ネタは、大蛇森とかぶちゃったので、ちょっと心配だったけれど。
次はオタッキー三人組でいきますか?(冗談です)

chieさん
素敵といっていただけて嬉しいです。
ちょっと可愛い入江くんを書いてみたくなったもので。
田中(仮名)くん、写メ撮っちゃえばいいのに(笑)
水玉 |  2009.01.07(Wed) 23:14 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2009.01.08(Thu) 10:10 |   |  【コメント編集】

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