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2013.10.12 (Sat)

シンデレラ・コトリーナ 10


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チーンという音が聞こえると、いそいそとコトリーナは赤いチェックのミトンをつけた。
「今度はどうかしら?」
ドキドキしながらオーブンの扉を開け、中身を確かめる。
「どうよ?」
そのコトリーナの後ろからオーブンを覗きこんでいるのは、王妃付きの魔法顧問である魔女モトである。
「見て、モトちゃん!」
コトリーナはオーブンの中から鉄板を出した。
「ああ、やっと少しキツネ色が見えるようになったわね。」
鉄板の上に並んでいたのは、コトリーナのお手製のクッキーであった。

「ここまで来るのに、どれだけの材料を無駄にしたことか…。」
モトが目をやった先には真っ黒なクッキーが積み重ねられていた。
「やっと王子様にお届けできるわ。」
いそいそとコトリーナはクッキーをラッピングする準備を始める。
「王子様はここ数日、執務にお忙しくいらしてお部屋に閉じこもりきりなんですもの。」
コトリーナは愛するナオキヴィッチ王子の顔を思い浮かべる。
「甘い物を食べて脳の疲れを癒して下さるといいのだけど。」
「あら?苦い物を食べて目を覚ますの間違いじゃなくて?」
モトのからかいにコトリーナはぷぅっと頬を膨らませた。



焦げの目立つクッキーをきちんとラッピングして、コトリーナはナオキヴィッチの執務室へと、渡り廊下を足早に通る。
「…それじゃ、漸く王子様はお出かけになられるということか。」
ナオキヴィッチの話が耳に入ったコトリーナは足を止めた。キョロキョロと辺りを見回すと、従者二人の姿が見えた。
「これは聞き逃せない」とコトリーナは足音を立てぬよう、二人の傍の繁みの蔭に姿を隠した。
「ああ。この所お忙しくてなかなか会いに行けないと嘆いていらしたからな。」
―― 会いに行けない?
一体誰に会いに行けないとナオキヴィッチが?コトリーナは全身を耳にする。
「以前は月に二度はロクサーヌ嬢の元へ足を運ばれていたくらいだし。」
―― ロクサーヌ…?
どう考えても女性の名前ではないか。
「王子様はロクサーヌ嬢の前では生き生きとされるしな。我々もできる限り協力して王子様がロクサーヌ嬢と会えるようにして差し上げたいと思うのだが。」
「ご優秀な方ゆえ、ご自分で仕事を見つけてしまうからどんどん忙しくなられて…。」

そこまでで十分だった。これ以上コトリーナは聞きたくなかった。

どこをどう歩いてきたのか、気付いたらコトリーナはナオキヴィッチの執務室の前に立っていた。

「どうしよう…。」
考えただけで涙が出てくる。このまま帰ろう。そう決めてコトリーナが体の向きを変えた時である。
「どけ、邪魔だ。」
よりによって一番会いたくなかった人物、ナオキヴィッチがどこからか戻ってきたところに出くわしてしまった。
「王子様…。」
「入るなら入れ。入らないならどけ。ったく相変わらずトロい奴。」
ナオキヴィッチが扉を開けて、部屋の中へと入る。ついコトリーナは付いて行ってしまった。
「用件は何だ?忙しいからさっさと言ってくれ。」
「忙しい…んですね。」
「これ見たらわかるだろ?」
ナオキヴィッチは机の上に山と積まれている書類をトントンと叩いた。
「あの…。」
「何だ?」
「…ロクサーヌさんって方なんですけれど。」
「えっ?」
コトリーナが漏らした名前に、ナオキヴィッチの目が大きく見開かれた。こんなに驚くナオキヴィッチを今まで見たことがあっただろうか。
「なぜ、お前がその名前を?」
ここまで驚くということは、それだけ大切な人なのだろうとコトリーナは思わざるを得なかった。
「ロクサーヌさんって、どんな方なんでしょうか?」
ナオキヴィッチの問いには答えず、コトリーナは自分で余計なことをと思いながらもそんなことを口にしてしまった。
「きっと…素敵な方なんでしょうね。」
「…まあ、な。」
そしてナオキヴィッチは否定もしない。
「大人しくて優しくて。少し恥ずかしがり屋で。そうそう、なかなかの別嬪だな。とにかくお前とは正反対だな。」
自分とは正反対…コトリーナはもう辛くて立っているのがやっとだった。
「そうですか…。お仕事邪魔して申し訳ありませんでした。」
コトリーナはペコリと頭を下げると、ドレスをひるがえして部屋を飛び出して行った。



「な、な、何ですってえ!!!」
コトリーナの部屋を訪れたモトはあんぐりと口を開いて、次の言葉が出て来なかった。
「王子様が…女を囲っていたなんて!!!」
そしてコトリーナは、ベッドにつっぷしてずっと泣いていた。それはもう、ベッドに大きな水たまりができるのではないかというくらいに。
「そんな、何かの間違いじゃなくて?」
「間違いなんかじゃ…大人しくて優しくて恥ずかしがり屋で美人だって。王子様、すごく嬉しそうに言ってたもん。」
ロクサーヌのことを話すナオキヴィッチの顔がどれほど優しかったことか。自分には一度も向けてくれたことがない。
「そんな、だって聞いたこともないのに。」
「大切な方だから隠していらしたんだわ。私が知っていること、とても驚いていらしたし。」
「アタシと王妃様に隠せるわけないわ。」
あまりに女っ気のない息子を心配して王妃が花嫁を探してくるようにと自分に命じ、その結果コトリーナがここにいるわけである。
「ホモ疑惑すら浮かんでいたっていうのに…。」
どうやって隠し通していたのかとモトは考える。
「いや、あの頭脳をフル回転させたら隠せるか…。」
天才王子ともてはやされるナオキヴィッチが全力で隠せば誰にも見つけられないだろう。

「とにかく、王妃様に急いでこのことを…。」
と、急いで王妃の部屋へ向かおうとしたモトのドレスの裾をコトリーナが掴んだ。
「だめ!モトちゃん、王妃様には言わないで!」
「ちょっと、いきなり掴まないで…ぎゃあっ!!」
その拍子にモトはすっ転んでしまった。

「これは言わなければだめでしょう!」
ぶつけてしまった鼻をさすりながら、モトはコトリーナに言った。
「駄目よ。王子様が大切に大切に心の奥に秘めてきた方なのよ?そういう恋は静かに進めていきたいんじゃないかしら?」
「つまり王妃様に話したら大騒ぎになってしまうってことを遠回しに言っているわけよね?」
「とにかく、このままにしておきましょう?ね、お願いよ、モトちゃん。」
「アンタって子は…。」
涙で目を真っ赤にして、涙の跡がべったりとついた顔を向けられて、それ以上モトは何も言えなかった ――。



コトリーナは涙で濡れたシーツを抱えて廊下に出た。あまりに濡れてしまったのでとりあえず庭に干そうと考えのである。
「それくらい女官に命じれば」とモトは言ってくれたのだが、いくら特別扱いされているとはいえコトリーナも王妃付きの特別女官という身分である。出来ることは自分でしたかった。

「グスッ…王子様…。」
またもやこみ上げてくる涙。コトリーナは顔をシーツに押し付ける。
「お前、何をしてるんだ?」
そしてまたもや、こんな姿を一番見られたくない人間の登場であった。

「シーツ?」
ナオキヴィッチはコトリーナが抱えているシーツに目を止め怪訝な顔をする。
「何だ、お前。昼寝して寝小便でも垂らしたのか?」
意地悪く笑うナオキヴィッチ。それを見てコトリーナの目から涙がどっとあふれ出した。そしてコトリーナは何も答えずナオキヴィッチに背を向けてタタタッと走って行く。
「何だ、あれは?」
いつもならば「もう王子様は!」と言い返してくるところなのに
「まさか、本当に寝小便したのか?」
と、ナオキヴィッチは首を傾げたのだった。




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 |  2013.10.12(Sat) 21:41 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.10.12(Sat) 23:55 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.10.13(Sun) 17:49 |   |  【コメント編集】

★紀子ママさん、ありがとうございます。

おお~紀子ママさんからうちにも後ろから蹴飛ばしたい発言が!!
嬉しいです、これを待っていた(笑)
いじらしいコトリーナちゃん、本当に…。
ナオキヴィッチは本当に意地悪ですよね!!
水玉 |  2013.10.14(Mon) 17:17 |  URL |  【コメント編集】

★YKママさん、ありがとうございます。

法律事務所の琴子ちゃんはなかなか言いますもんね!
こちらのコトリーナちゃんは一生懸命好き好きアピールしているのに、相手にされていないし。
私もそのいじらしさに水たまりを作りそうです。
入江先生より手ごわいかもしれませんよ~こちらの王子様。
水玉 |  2013.10.14(Mon) 17:19 |  URL |  【コメント編集】

★佑さん、ありがとうございます。

きゃあ~(笑)分かっていてもどうかシーッの方向で(笑)!!!
まあ分かりやすいオチですけどね…(苦笑)
もっと精進しないといけませんね、うん、頑張る!
水玉 |  2013.10.14(Mon) 17:20 |  URL |  【コメント編集】

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