日々草子 ポリシーのある後輩

ポリシーのある後輩







いつ医師免許を剥奪されてもおかしくないことをしでかしている、違法行為スレスレの後輩を抱える僕の悩みは尽きることがなかった。
なぜゆえ、厚労省や日本医師会はあんな奴を野放しにしておくのだろうか。
いやいや、CIAだのをバックにつけている奴にとっては、小国日本のお偉方を黙らせることくらい、朝飯前なんだろうな。

と、そんなことを考えながら病棟内を歩いている時だった。

その問題な後輩が立っていた。どうやら誰かと話しているらしい。
あれは、現在小児病棟に入院している子のお姉ちゃんだ。患者の名前は丸橋新太郎くん。年は二歳。そんでもってお姉ちゃんの名前は栞ちゃん。新太郎くんよりニ歳上の四歳。

栞ちゃんが入江に可愛い封筒を渡している。そして入江はそれを受け取ると中身を確認してから白衣のポケットへ入れた。
それを見て、栞ちゃんはニコッと笑うと、タタタと弟くんの病室へと行った。


「よ、モテモテじゃん。」
僕が後ろから肩を叩くと、すこぶる機嫌悪そうに後輩は振り返った。
「いいのかな?奥さん以外からラブレターもらっちゃって。」
封筒の外見から察するに、あれはラブレターに違いない。全く栞ちゃんも見る目がないよ。この僕の方がずっといい男だってのにさ。
「琴子ちゃんにチクっちゃおうかなあ?」
「馬鹿馬鹿しい。」
後輩は鼻を鳴らして去ってしまった。何だよ、本当につまらない奴。
いくら僕だって、あんなお子様からのファンレターのことを本気でチクるつもりないぜ、あっかんべーだ。



「どうかお願いします、入江先生!!」
この日の午後、会議室にてまたもや大金が入江の前に提示されていた。
何と、依頼者は午前中に見かけた栞ちゃんの御両親だ。
「新太郎が可哀想で、可哀想で。」
「入江先生ならば、私共の願いを聞き入れてくれると信じてやってまいりました!」
丸橋夫妻はなかなかの資産家だった。そういえば新太郎くんはあの年齢で個室に入院していたな。
「…。」
そして今日も壁に背をつけたまま、無表情で立っている後輩。いつもならばここで「やってみよう」と一言答えてすぐに金を持ってトンズラするところなのに、今日はそれをまだしていない。

うーん、確かにいくらこいつでも、丸橋夫妻の依頼は難しいと思う。

「どうか、どうか!!あの子の点滴ラインを確保してあげてほしいんです!」

え?それくらい医者ならば朝飯前じゃないかって。
いやいや、それがね。新太郎くんの血管、めちゃくちゃ細いんだよね。
まず琴子ちゃんは最初から手を出さないこと決定ね。そんでもって最初にチャレンジしたのが桔梗くん。彼…おっといけない、彼女?もなかなかライン確保上手なんだけどさ…だめだった。
そりゃあ、病室の外まで響き渡る泣き声を上げられたもんだよ。その後外科の看護師が数人チャレンジしたけどダメで。
え?僕はって?いや、僕も勿論挑戦したよ。結果は…僕の左腕に派手な引っかき傷があることで想像してよ。

で、最終兵器として呼ばれたのが外科じゃないところにいる智子くん。生まれたときにはすでに注射を握って生まれていたんじゃないかとか、人の肌に針を刺す瞬間は至福の時だと公言しているとか云う噂のあるほどの腕前の彼女が笑顔で現れたときは、本気で天使だと思ったさ。

ところが――。

あの彼女をもってしても、全く太刀打ちできなかったわけで。
初めての挫折を味わった智子くんは、その日の午後から休暇を取って傷心旅行に出かけてしまったんだよね…。

新太郎くん、散々痛い目に遭ったもんだから、針を見ただけで泣き叫ぶくらいになっちゃったわけ。
無理もないよね、ニ歳だもん。小さい腕の痛々しい痣は大人の胸を突き刺すよ。

ということで、丸橋夫妻が出した結論は入江に、新太郎くんの腕をめがけて針を撃ち込んでもらうというものなわけで(ていうか、普通そんな結論に達しないけどね)。
入江の腕ならば痛みを感じさせずに、ライン確保できるだろうってことらしい。

…無理でしょうよ。

いくら入江がすご腕だからといっても、ニ歳児の、細い血管をめがけて狙撃って無理だよ。
こいつが今までやって来たのは大人のケツめがけて座薬撃つことだから。
大人のケツの穴と幼児の血管は全然違うでしょう?



「…この依頼は受けることはできない。」
入江の口から今まで聞いたことのない台詞が出てきた。
「そんな!!」
「なぜでしょうか?入江先生!!」
「その理由を話す義務は俺にはありません。」
「そんなあ!!」
悲嘆にくれる丸橋夫妻。それを見捨てて部屋を出て行こうとする後輩。
そうだよな。挑戦して失敗したらカッコ悪いし。やっぱ入江だって無理なことがあるんだよな。

「しかし。」
入江が口を開いた。
「あなたたちの願いは聞き届けられるだろう…。」
「え?」
何ごとという顔をする夫妻を尻目に、入江はバタンとドアを閉めてしまった。

何だ、あいつ?
予言か?あれ?あいつ、今度は予言者でも始めるつもりか?何とか教とか開いちゃうとか?



「ねえねえ、琴子ちゃんに確認したいことがあるんだけど。」
翌日、患者のことで話がしたくて琴子ちゃんの姿を探した。しかし琴子ちゃんはスタッフステーションにも病棟にもいなかった。
あれれ?今日は日勤だよね?僕は琴子ちゃんのシフトを確認する。うん、間違いない。

「すみません、西垣先生。そこ通ります。」
「OK。」
桔梗くんが点滴セットを手に僕の傍を通る。その慌ただしさに、
「どうした?行こうか?」
と僕は訊ねた。
「いいえ、大丈夫ですよ。」
「誰?」
「琴子です。」
「えっ!?」
琴子ちゃんが点滴を必要としている?どうした、琴子ちゃん!
「どこで倒れたんだい?」
「仮眠室です。」
「仮眠室…もしや?」
すると桔梗くんが「ムフフ」と笑った。
「ええ、そうなんです。ちょっと今日の入江先生…ねえ?」

あいつが琴子ちゃんをそんなにしたってことは。
あいつが仮眠室で琴子ちゃんをそういう風にするのは、ビジネスの前後なわけで。
しかも、そんな激しいってことは、よほど緊張を要する仕事が後に…。
ということは?僕は急いでスタッフステーションを出た。



「失礼します。」
僕が向かったのは丸橋新太郎くんの病室だった。突然姿を見せた僕に驚く両親。その隣にはお姉ちゃんの栞ちゃんもいる。
「何か?」
「あの…!」
と、その時だった。

ヒュッ!!

風を切る音がした。

「あ、あなた!!」
丸橋夫人が夫を手招きする。
「新ちゃんの、新ちゃんの腕に!!」
「おお!!」

眠っている新太郎くんの細い腕。そこには何と点滴ラインがちゃんと確保されていた。

僕は窓を見た。数センチ開いていた。そこから入江があのアーマライトM16で撃ち込んで来たに違いない。
こんな神業ができる奴(ていうか、こんな面倒なことで点滴ライン確保する奴)、お前しかいない。
すげえ、すげえよ、お前!!
こんな隙間から、こんな細い標的を見事に撃ち抜きやがった!
お前、今日からプロフィールの職業欄、「医師」から「スナイパー」って変えていいさ、僕が許可するよ!

でも金も受け取ってないのに、断っておきながらどうしてこんなことを?



「お前もとうとう、真人間になることを決意したってことだよな?」
「は?」
医局で思いきり嫌な顔をする後輩に、僕は「いいんだ、いいんだ」と肩を叩いた。
「法外な料金を受け取るなんて汚いことに嫌気がさしたんだろ?ようやく気付いたか。お前も成長したじゃん。」
「…何を言ってるんですか?」
「もう、とぼけやがって!」
「このやろ、このやろ」と僕は肘で後輩の体を押す。
「気持ち悪いんですが。」
「あの時断っておきながら、今回は無料で丸橋さんの依頼を受けたじゃん。」
「違いますけど。」
「へ?」
僕の肘から身体を遠ざけ、いつもの冷たい顔で後輩は僕を見つめた。

「俺は二重依頼を受け付けないことにしているだけです。」

「二重依頼?」

「そうです。素知らぬふりをして二重に依頼料を受け取るなんて姑息な真似は俺の流儀じゃないので。まあ、西垣先生でしたら何の迷いもなく受け取るでしょうけどね。」

失礼な!僕だってそんなこと考えないよ!…多分。

それはともかく、二重ってことは…丸橋夫妻の前に別の誰かが新太郎くんのことを依頼したってこと?
一体親以外に誰がそんなことを?

あっ!!
栞ちゃんだ!!
僕はこいつが栞ちゃんから可愛い封筒を受け取っている所を思い出した。あの封筒の中身、入江へのラブレターじゃなくて…もしや小切手!?

なるほど。可愛い弟を救うためにあの子なりに考えたってことか。
きっとパパの机から小切手を探して来たに違いない。

そうだよな、こいつが報酬なしであんな難しい狙撃、やるわけがない。


「なあ、でも一応丸橋さん達に話した方がいいと思うぜ?」
「何を?」
「何をって、小切手だよ。栞ちゃん、勝手に持ち出したんだろうし。もしかしたら取引先とかに払う大切なものかもしれないし。なくなっていると大騒ぎになる前にさ。」
「金をどういう手段で手に入れたかなど、俺には全く関係ありませんよ。」
「だけど!」
「金を得る手段が、金の本質を変えるとは思えません。」
入江はそう言い残し、医局を出て行ってしまった。

全く、何て奴だ!もらえるもんをもらえればあとは知ったことではないってことか。

ん?
入江の机の上を見たら、栞ちゃんから受け取った可愛い封筒が放置されていた。
ここに放置しているってことは、中身は早々にスイス銀行へ預けたってことか。
やんなっちゃうねえと思いながら僕は封筒を手に取った。
あーあ、こんな可愛い封筒、守銭奴のあいつには勿体ない…あれ?何か入ってるじゃん。
僕は封筒を逆さまにした。

「これ…。」
中から出てきたのはお札だった。でもそれは…おもちゃのお札だった。おもちゃの小銭も含まれている。

「何だよ、あいつ…。」

栞ちゃんはお金を出せば弟が痛い目に遭わないと両親の話を聞きかじった。それでいつも遊びに使っているお金を全部集めて、入江に渡したんだ。
そうだよね、四歳の子の身近にあるお金はこれが普通だ。

「いいとこあるじゃん、あいつ…。」

僕はもとどおりに封筒にお金を入れ、机の上に置くと医局を後にした。








「あ、西垣先生!」
桔梗くんが僕の姿を見つけて手を振って来た。
「ちょうどよかった。入江先生早退しちゃったんで、後をお願いできます?」
「早退?」
「ええ。琴子を抱えて。西垣先生はお金に飢えているから夜勤手当をあてにしているだろうからって。」」
「…あの野郎!!」
「よろしくお願いしますね。」

くそ!!僕の感動を今すぐ返せ!!

廊下の窓から外を見たら、琴子ちゃんをお姫様抱っこにして、タクシーに乗り込むあいつの姿が見えた――。













☆ゴルゴ13の豆知識

ゴルゴは二重依頼は受け付けない。

ゴルゴは子供に懐かれることが多い。
少年からの依頼も意外と多く、その多くは無料または格安の報酬で引き受けている。

☆ゴルゴ13の名言
「金を得る手段が金の本質を変えるとは思わない」





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いたさん、ありがとうございます。

まさか、ゴルゴ入江のコメントで「かっちょええ」を言っていただけるとは(笑)
そんでもって爽やかな読後感などという言葉がこのコメント欄で拝見できるとは(笑)
それにしても、いたさん!あなたならゴルゴのコメント欄に必ず来てくれると信じてましたよ~!!!

そして不死身の体力、琴子って(笑)
本当にゴルゴ以上のスタミナの持ち主ですよね。

ぜひ違うゴルゴ、また朝鮮してみますね!

ぴくもんさん、ありがとうございます。

ぴくもんさんにまで面白いと言っていただけるなんて!
ありがとうございます!

サテンの衣装…もちろん頭巾もセットですよね(笑)できたら額に何かアクセサリーを飾って…あれ、なんか変?
「見えます…見えます…」ってあれ、やっぱり変?

愛の儀式(笑)そんな神秘的に言っていただけるようなものじゃないですけれど、笑えます!!
点滴を要するほどになったのは、それだけ控えているビジネスが集中力を要するものだからなんです。
お肌だけ妙にピカピカで点滴を受ける琴子ちゃんはどこからどう見ても病人ではありませんね。

そしてイラスト!!ぜひ~!!
まさかこのシリーズでぴくもんさんがそんな気になって下さるなんて!!
あんなおしゃれなイラストを描くぴくもんさんに、こんな入江くんを描いてもらっていいのでしょうか?

ソウさん、ありがとうございます。

こちらこそ、ありがとうございます!
喜んでペタペタとさせていただきました(笑)

またもやこのシリーズにコメント頂けて感激です。
本当に周囲からは「なんでこのシリーズ続けているんだろう」と思われているというのに、しつこく続けていて…。
こんな話が、あの傑作のお役に立てるならばなんぼでも書きます!!

息子さんの採血、大変でしたね!
でも採血できないとすぐに交代して下さるんですね。やはりそこはベテランさんだからでしょうか?
今や採血をされる側のプロと化したうちの母ですが、今ではかなりの腕をもつ看護師さんがついて下さるようになりました(笑)
その方はちょっと撫でただけで「ここですね」と一発でやってくれるそうです。
ちなみに「あれ?まだちょっと…かな?」という方に共通するのは…針で血管を探すそうです(汗)原作の琴子ちゃんのそれ、ギャグかと思ったら本当にやるんだなあと…。それをやられると、かなり痛いそうです。
ちなみにそういう方に限って意地でも自分で最後まで!と頑張ってくれちゃうそうです…。

点滴ラインの確保ネタ、これ、実は母の入院時の時の話がもとになってます。
なかなか入らなくて、何人も交代して…見つかった時はそりゃあ喜びの声に包まれたとか(私はその場にいなかったのです)。
その日やって来て、ライン確保してもらったと母に腕を見せてもらった時に私は思わず「ヤ○中…?」と呟いてしまいました。
その青あざは退院してからもしばらく消えなかったです…。

まあちさん、ありがとうございます。

えへっ、ようこそ♪
もう可愛い御挨拶をありがとうございます!

そうなんですよ、ゴルゴは子供に懐かれます。
あるエピなんかでは母親と結婚してくれと懇願されるくらいです。
切羽つまっているというものもありますが、何かあるんでしょうかね?

少年に勝手にまとわりつかれ、挙句の果てに山火事に巻き込まれ、少年に生き延びる方法を伝授したなんてエピソードもあるし。

なかなか奥が深いですよ~。

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レイナさん、ありがとうございます。

こちらこそ、ゴルゴ入江読んで下さりありがとうございます。
そういえばレイナさんはゴルゴ入江かオタク部~と以前書いて下さいましたよね。
これらのシリーズ、すごく人気ないのでそう言っていただけて嬉しかったです。
プロフィール

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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