日々草子 サブ・ローザ 19

サブ・ローザ 19

<一応御報告まで。気づいて下さった方もおいでですが、裏、半年以上放置してましたが、更新しました。フトンじゃないけど。牛でもないけど。ムフーンな内容でもないけど。完全お遊びだけど。










「そうか、まだそんな調子か。」
熱を出して三日目、ようやくネギネックレスからも解放された直樹は琴子から寺崎の様子を聞いていた。
「食事が取れないっていうのはなあ。」
「それって、絶対、理志さんのことが関係していると思うのよね。」
久しぶりに二人で囲む夕食のテーブルで、琴子も顔を曇らせる。
「で、本人は?」
「ちゃんと断れたのか」という意味も込めつつ、直樹は訊ねた。
「それがね、東京にずっと行ったきりなんですって。」
理志は直樹が倒れた頃、またもや東京へと出かけてしまっていた。
「東京の事務所のこととか、まあ色々あって大変みたい。」
「それが仕事だしな。」
「うん…。」
こじれたままの寺崎親子の関係は二人にとってとても気がかりであった。

「とりあえず、お前の持ち駒見せてみろよ。」
「持ち駒?駒なんて持ってないよ?」
エプロンのポケットに手を突っ込んで首を傾げる琴子に、
「ばあか。お前の知っていることを教えろってこと。」
と、直樹が小突いた。
「知っていることって、それってもしや、入江くん…。」
「あの親子関係何とかしてもらえないと、退院してもらえないということと、俺もお前のお節介に影響されたってこと。」
「入江くん…!」
琴子は直樹に抱きついた。
「馬鹿ッ、俺は味噌汁を飲もうと…。」
「やっぱり入江くん!最高!」
「ったく。」



「…金で買ったね。」
琴子から一通りの話を聞いた直樹は「ふう」と溜息をついた。
「そんなことってあると思う?」
「ドラマにはありそうだよな。跡取りができなかったから、金を払って愛人から子供を取り上げるって。」
「でも寺崎さん、そんなことするような人に見えない。」
「それは俺も同感だ。」
「え?」
てっきり「人は見ただけじゃ分からない」と返って来ると思った琴子は意表を突かれた。
「何だよ、その態度は。」
「だっていつも私の言うことに…。」
「俺だって寺崎さんをずっと担当しているからな。話をしてきたから分かるさ。」
そして「コーヒー」と琴子に直樹は命じる。

「金で子供を取り上げるような人間だったら、俺やお前にもっと当たり散らしているさ。」
「そうだよね。」
こちらも久々にコーヒーを淹れる琴子は、深刻な話の割にはどこか嬉しそうだった。
「だけどあの人は世間一般の政治家のイメージとは違う。俺に話していたことからもそれは分かる。」
そこで直樹は寺崎との会話を琴子へと聞かせた。

「そっかあ…寺崎さん、息子さん思いなんだね。」
「そうだな…。」
この会話を交わしていたからこそ、自分も重樹に素直になれたような気がする直樹であった。
「理志さんが誤解をしているってことだよね?」
「だと思うぜ。あのクソババアだったら金で人も動くと思い込んでもおかしくないと思うが。」
「そうね、あのクソババアなら…って、入江くん!」
「あれをクソババアと呼ばずに何と呼ぶ?あんなのが傍にいたら、他に女作らないと生きていけないのも分かる気がする。」
「そんな…。」
じとっと直樹を見つめる琴子。
「…お前はクソババアとは違うから、安心しろ。」
直樹が琴子の髪をクシャクシャとすると、琴子は安心した笑顔を見せた。

ところが ――。



エレベーターが到着するや否や、きつい香水の香りがVIP病棟に漂った。
「主人が食事をしていないんですってね。」
現れたのは寺崎が倒れた時も姿を見せなかった妻、波名子であった。
「食事、持ってきたわ。」
波名子が顎を動かすと、後ろに控えていた秘書が手にしていた風呂敷包みを琴子の前に出す。
成程、さすがに心配になったのか。何だかんだ言っても夫婦ではあるのだと変な感心をしながら琴子は病棟の応接スペースに波名子を連れて行った。

「一応、拝見してもよろしいでしょうか?」
「何ですって?私が毒でも仕込んだと?」
波名子の眉が吊り上る。
「いえ。寺崎さんに食べていただいてもいいか、先生に確認しないといけないので。」
「なら先に食べてもいいものは何なのか、確認しなさいよ。」
波名子は小さくなっている秘書を叱りつけた。
「面倒だこと。」
「すみません。」
秘書と琴子が同時に謝る。波名子は「フン」と鼻を鳴らし横を向いた。
秘書が解いた風呂敷の中から出て来たのは、一目で高級と分かる漆塗りの箱であった。
「失礼します。」
琴子は傷つけないかとヒヤヒヤしながら蓋を開けた。途端に目が点になった。

―― 病人に…?

中に入っていたのは、分厚いステーキであった。下には白米が見える。

「何か御不満でも?」
「いえ、そんなことは。寺崎さん、ステーキがお好きなんですか?」
寺崎はステーキが好物なのだろうか。たとえ好物だったとしても、今の状態で果たして口にできるものなのか。そんな疑問を思わず琴子は素直に波名子にぶつけてしまった。
「さあ?」
ところが、波名子の答えはまたもやとんでもないものだった。
「そんなこと、知りませんわ。」
「え?」
「あの人の好物など知りません。でも、妻らしいことをしなければ何を書かれるか分かりませんでしょ?」
「書かれる?」
「…どなたかさんのおかげで、週刊誌沙汰になりましたし。」
波名子は琴子を睨む。
「寺崎家に相応しく、最高級の神戸牛を用意しました。文句あります?」
何と、波名子は寺崎の好みなどお構いなしに、ただ体裁だけを考えてこれを用意してきたのである。
「とりあえず、先生に確認をしてまいりますね。」
琴子は急いで直樹に確認を取りに向かった。

「ステーキ!?」
内線の向こうの、直樹の声を聞いただけで琴子は答えが分かった。
「…寺崎さんの好物なのか?」
「…いえ、そういうわけじゃないみたいで。」
「却下。」
「…ですよね。」
小児病棟が忙しくしばらくVIP病棟へ行けないと言うと、直樹は内線を切った。

「持って帰れと!?」
直樹が許可を出さなかったことを聞き、波名子の顔は一層険しくなった。
「神戸牛ですよ?一流のシェフに調理させたのに?冗談じゃないわ。そんなみっともないことできるものですか!」
「…先生の判断ですので。」
「それなら、あなたが食べなさい。」
波名子は琴子の前にズズッとステーキを押した。
「そんなこと、できません!」
「持ち帰ることなんてできるもんですか!」
押し問答の末、哀れな秘書が引き取ることになった。

「そうそう。あの人、東京で何をしているかご存知かしら?」
「あの人?」
「…東京でお見合いをしていてよ。」
どうやら理志のことらしい。波名子は理志が見合いをしていると言ったら琴子がどんな反応をするか面白がっているようだった。
「大山田建設のご令嬢と。幸いにも先方はあんな男でも気に入って下さったみたいで。育ちの良さが滲みでた、本当にどこかの誰かさんとは大違いのお嬢様ですよ。」
「あの…。」
自分と理志は何でもない関係だと訴えようとする琴子だったが、波名子はそれを無視して、
「生まれは何であっても、寺崎家の人間になった以上、釣り合った家柄から嫁をもらわないと。ということですので、今後はあなたも自分の立場を自覚して身を慎むように。」
「ですから。」
何とか波名子の誤解を解こうとした琴子だったが、そこに新たな人物が姿を見せた。

「奥様、おいでだったのですか。」
次に姿を見せたのは、琴子も一度会ったことのあった寺崎家の家政婦であった。
「何をしに来たの?」
今のやりとりを見られていなかったか気にしながら、波名子は家政婦に訊ねる。
「あの、理志さんより旦那様のお好きな物をと言われたもので。遅くなりましたがお持ちしたのですが。」
家政婦の手には紙袋があった。
「貸しなさい。」
波名子の迫力に押され、家政婦は紙袋を渡す。

「旦那様のお好きなゼリーでございます。」
桃のゼリーが数個、袋から出てきた。
「旦那様のお好きな物で私の知っている物と申しますと、これくらいしか浮かびませんでしたので。恥ずかしながら私、こういった洋菓子は作る自信がございませんことから。」
デパートで買ってきたのだと、家政婦は説明した。

すると波名子は、
「…こんな貧乏くさい物!!」
と、テーブルの上に並べられたゼリーを手で払いのけた。音を立ててテーブルのあちこちに散らばるゼリー。
「やっぱり、私にはあの人の味覚なんて分からないわ。ああ、来て損した。時間の無駄だったわ。」
波名子は寺崎の顔を見ることもなく、秘書を追い立てるように病棟を出て行った。



後に残された家政婦はゼリーを拾う。琴子も一緒になって拾った。
幸い、個別包装のためゼリーは無事だった。
「よかった。中身は何ともありませんよ。」
ゼリーを手に琴子が笑うと、家政婦も安心したように笑顔を見せた。
しかし、それでも波名子の言葉が気にかかるらしく、
「…旦那様のお口に合いませんでしょうか?」
と、家政婦は不安そうに琴子を見た。
「そんなことありませんよ。お気持ちは寺崎さんに伝わります。寺崎さん、喜びますよ。何より素敵な方がお見舞いに来て下さったんですもの。」
波名子はともかく、息子の理志もいない今、慣れ親しんだ家政婦の顔は寺崎をホッとさせるに違いないと琴子は思った。
「先生にゼリーのこと、確認してきますね。」
ステーキよりはずっとましだと思いながら、琴子はまたもやステーションへと急いだのだった。

「本当に…家柄なんかより、人柄を考えてお相手を決めて下さるといいのだけど。」
琴子の後ろ姿を見ながら、家政婦は「あの看護師さんがお相手だったら…」と溜息をついたのだった。





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紀子ママさん、ありがとうございます。

出ましたよ、奥さま(笑)
もしや紀子ママさん、彼女のファン?なあんて。
このキャラ、書くのが結構楽しいです。もうこんな人いないだろって感じだし。
そうそう、口を挟ませない奥さま。可哀想な琴子ちゃん。
すんばらしい家系のお嬢様に気に入られている理志さんはどうなるのか?

たまちさん、ありがとうございます。

ベッドからパジャマから何から何まですごい匂いだったんでしょうね~。
それに耐えた入江くん、愛ですね。

ステーキを持参するそのセンス。患者のこと全く考えていない。
誰も止められない政治家夫人、波名子(笑)

琴子ちゃんをいびり、秘書をいびり、家政婦をいびる…やることなすことすごいです。

もうそんなに荒れることはないと思うので、ご安心を。
ただ続きは「どうでもいいや~」的な展開になるかもしれません。

YKママさん、ありがとうございます。

「こ~んなにパーフェクトな人(除・人柄)」…爆笑しました!!
除・人柄って!!!でも入江くんも自分で認めていますしね。
仲直りしたら、琴子ちゃんはまたもや入江くんに献身の日々ですし。
入江くん、本当に子の幸せをよーくかみしめてほしいものです。
入江くんしか見えていない琴子ちゃんは、他の人間なんて眼中にないですしね。
またコーヒーを飲めて、本当によかったです。ネギネックレスに耐えた御褒美ですね、きっと!

カスガノツボネさん、ありがとうございます。

出ましたよ、クソババア!
そりゃあ言わずにいられないでしょう!
言わずに堪えている琴子ちゃんはえらいです。それが仕事とはいえ。
本当にあれだけ悲しませたんですから、今度は守ってほしいですよね☆
ムフフな関係…期待せんでおくんなまし~。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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