日々草子 サブ・ローザ 18

サブ・ローザ 18






「それじゃ、ずっとホテルに泊まっていたの?」
「ああ。最安料金で泊まれる所探して。」
「そうだったんだあ。」
琴子は出来上がったおかゆを直樹の元へ運んで来た。
「はい、あーん。」
「…自分で食べられるよ。」
直樹の言葉に、琴子が途端に落ち込む。
「…あ、まだ、だるいから食わせてもらうか。」
すると琴子の顔が忽ち輝きだす。
「ふう、ふう」とレンゲにすくったおかゆを覚ますと、「はい、あーん。」と、琴子は直樹の口元へと運ぶ。直樹は言われるがまま口を開けた。重雄からのレシピノート通りに作ったのか、味はまずまずである。

「あのさ、入江くん。」
「何だ?」
「ええと…その…。」
直樹に薬を渡しながら、琴子が言いにくそうな顔をしている。
「その…黒田さんとは…どういう関係だったの?」
「黒田さん?」
飲み終えたコップを琴子へ渡しながら直樹が怪訝な顔をした。
「だって、ほら。一緒に朝帰りしたとか。ていうか、着替えないで二人で病院に来たこととかあったじゃない。」
「ああ、あの時ね。」
ベッドに横になって直樹は思い出した。

「あれは俺が一人で飲んでいた時だったっけ。店に偶然、彼女が入ってきたんだ。」
「…で?」
「なんか彼氏と喧嘩したとかで結構酔っていてさ、まあ俺も色々あったもんで他人の話でも聞いて気を紛らわせるのもいいかと思って適当に相手していたわけ。」
「…それだけ?」
「それだけ。一晩開けている店だったから朝までそこに。まあさすがに仕事があったから後半は酒飲まないようにしてたけどな。」
「…黒田さんとおかずの取り換えっこしてたのは?」
「おかず?何だ、それ?」
「食堂で!」
「食堂?ああ、あったっけ?ていうか、お前よく見ていたな。」
「…目に入って来たんだもん。」
「あの人さ、俺がどうもどっかに女を作っていると勝手に誤解している感じで。まあ俺も好きに思わせておいたんだけど。お互い恋愛に苦労しているねとか何だか決めつけてきて。俺が神戸の人間じゃないってことも気を許したんだろうな。あれから何かと愚痴を聞かされることになったというか。」
「気を許す…。」
「彼女、イケメンで将来性のある医者と結婚するって豪語してたんだろ?」
「そうそう。」
「ところが、実際は違うんだな。」
「え?」
「金や地位よりも愛情を取ったらしい。彼氏、普通の勤め人。まあ、医者だって全員イケメンで金持ちというわけではないけど。だけど周囲にそう豪語していた手前、今更普通の男と付き合ってるとは言えないらしい。」
「ああ…確かにそうかも。」
あれだけ言っていれば周囲に馬鹿にされると黒田は心配しているのだろう。
「それを唯一話せたのが、どういうわけだったか俺だった。」
「それとおかずは?」
「いや、あの性格だろ?“入江先生、これどうぞ”っておかずを皿の上に乗っけられてさ。それされたら俺も自分のおかずをなんかやらないとまずいかと。人のおかず食っておいて、自分のも食うって、どんだけ俺は心が狭いんだってことにならないか?」
「…色々気を使ったんだねえ。」
「まあな。でもこれもお前の影響だけど。」
「私の?」
「ああ。お前と一緒にならなかったらそもそも他人の悩みなんて聞かなかったさ。おかずを押し付けられようもんなら、“いらない”って押し返してたぜ。」
「そうだね…。」
自分がかつて“いらない”と手紙を返された苦い思い出が蘇り、琴子はしゅんとなった。
「…あの頃の俺だったら間違いなくそうしてたな。でも今は違う。」
琴子が何を思い出しているかを悟り、直樹は続ける。
「おせっかいな奥さんのおかげで、俺も少しは他人の気持ちを慮るようになったってわけだ。お前のおかげでまあ、人間らしくなったってこと。」
「私のおかげで…。」
「そういうこと。」
「それって喜んでいいの?」
「いいんじゃね?」
直樹に言われ、琴子は「エヘヘ」と照れ笑いを浮かべた。

「じゃあ、シャツもそんな感じで?」
「シャツ?ああ、あれ…て、お前、どんだけ俺のこと見てたんだ?」
「見てたわけじゃなく、そっちから私の前に現れたんだよ。」
「まあ、いいや。俺も似たようなもんだ。さすがに着替えが足りなくなってきたもんで何か安いもんを買おうと店を選んでいたら偶然黒田さんと出くわしたんだ。何か彼氏のシャツを選ぶんだとかで強引に引きずり込まれて。あの人、本当に強引だぜ。お袋といい勝負だ、いやお袋以上だな。」
「それで…見立ててもらったの?」
「まさか!黒田さん、俺のことなんて眼中にねえもん。あくまで俺はあの人の恋愛事情を知る人間。彼氏のシャツを選ぶ手伝いをさせられたというか。まあ最終的に自分で決めていて、俺なんている意味なかったけど。」
「それじゃ、あのシャツは自分で選んだの?」
「そうだよ。一人になって選んだんだ。」
「そうか…よかった。」
やっと琴子の胸がスッキリとした。
「俺、自分とお前以外の奴が選んだもんなんて身につける気ないし。」
「入江くん…。」

「ところでお前、さっきから何を作ってるんだ?」
直樹の話を聞きながら、ベッドの傍で手を動かしていた琴子だった。
「あ、これ?ウフフ。」
琴子が「ジャーン」と言いながら直樹の目の高さに掲げたのは…。
「…ネギ?」
ぶつ切りにしたネギを紐に通したものだった。プーンとネギの香りが漂う。
「ほら、風邪の時はネギを首につけるといいっていうでしょ?」
「ネギを首に巻くんだろうが。焼いて、ガーゼにくるんで湿布するんじゃなかったっけ?」
「え?そうなの?」
またもや琴子の顔が曇った。
「そうなの…?」
「…いや、まあ首に巻くのも似たようなもんだから、いいか。」
琴子を散々傷つけてしまったこともあり、直樹はこれ以上琴子を悲しませたくなかった。
「それじゃ、つけてくれるの?」
「ああ…せっかくのお前の気持ちだし。」
「そう?そう?それじゃあつけてあげるね!」
嬉々として琴子が直樹の首に手を回す。
「これで風邪も早く治るね!」
「…素敵なネギネックレスのおかげでな。」
首からぶら下がっているネギを見ながら、直樹は顔を引きつらせた。



「ところで、お前の方はどうなんだ?」
「私の方って?」
琴子はキョトンと直樹を見つめ、「曲がってるなあ」とネギネックレスを直す。
「…秘書さんだよ。」
「ああ、理志さんか!すっかり忘れてた。」
本人が聞いたらさぞがっかりするだろうと思いつつ、それでも自分の方が優先事項だったことで直樹は気をよくしていた。
「交際申し込まれてたんじゃねえの?」
「あれ、考えたんだけど、あちらが勘違いしているんだと思うんだよね。」
直樹とは対照的に、琴子はとことん楽観的であった。
「勘違い?」
「そう。看護師仲間でもよく話が出るんだけどね。看護師って誤解されやすいんだよね。」
「誤解?」
「私たちは仕事として看護するわけで。それを愛情と勘違いされることも多いんだよね。」
「で?」
「理志さんもそうだと思う。みんな言ってるんだけど、看護師と付き合いたい理由って、プライベートでも自分の世話をしてくれる、尽くしてくれると思いこんじゃうことからなんだよね。実際はそんなことないのに。」
「…つまり、秘書さんはお前に理想の看護師像を見ていると。」
「そういうこと。」
「弱っている人間には白衣の天使が輝いて見えるんだよね、きっと。理志さんもそれで勘違いしちゃってるんだと思う。だから流すことにした。」
「…まあ、お前がそれでいいなら。」
明らかに理志はそんな勘違いはしていないと思うが、琴子がそう思っているのならばあえて波風立てることもあるまいと、直樹はそれ以上触れないことにした。




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水玉さん♪更新ありがとうございます。
ようやく二人仲直りできてよかったです。
お互いの擦れ違いを話し合えてよかったです。

ドナドナ直樹くんはホテル暮らしだったのですね。
直樹さんがドナドナするのは珍しいので
動向が気になっていました。えへへっ

二人が明るくなってよかったです。
ネギのネックレス強烈だね琴子ちゃん♪

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水玉さん、こんにちは。
更新ありがとうございます。

直樹と琴子仲直り出来て本当に良かったです。直樹は琴子以外の女性から選んだシャツは身に着けないのですね。
ホッと一案心です。
直樹にとって、琴子はいなくてはならない存在なんですね。
黒田看護師には、ちゃんと彼がいると言う事も判ったし安心だね。
直樹も琴子の愛情たっぷりのねぎのネックレスで風邪も吹き飛ぶかも??

更新ありがとうございます!(^^)!
この終わり方って・・・・・
もう一波乱あります?????

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YKママさん、ありがとうございます。

16からの連続コメントありがとうございます。

本当に完全なお仕置き状態ですよね。だから入江くんも黙って受け入れているのかも。
神戸シリーズの琴子ちゃんは、実は原作よりもかなりしっかりしている設定だったりします(笑)
だから失敗も少ないし、同僚からの信頼も厚いという(笑)
秘書さんと琴子ちゃんの問題はまだ決着ついていませんね。
それより親子関係ですけれど。
こちらもまとめていけたらと思います。

佑さん、ありがとうございます。

ちゃんと読んでますからっ!の主張に笑ってしまいました(笑)
てっきり佑さん、辛くてドロップアウトされたかと…←佑さんの二人三脚申し込みを待っていたのです。
そっかあ、今回も佑さんに「もう読めない」と言ってもらえなかったか。ちょっと悲しすぎるお話でも探してイリコト変換考えてみた方がいいかしら?
琴子ちゃんは駆け引きしませんものね。だから入江くんも惚れただろうに…。
本当に何度悲しませればいいのやらですよね。

カスガノツボネさん、ありがとうございます。

16からの連続コメントありがとうでありんす。
ようやくカスガノツボネさんを尼から還俗させることができてよござんした。
さ、おぐしをゆっくりと伸ばしておくんなまし…。

ぶつ切りネギネックレス、本当にすごいですよ。
書きながらどんな匂いだ、余計眠れないだろうなと思わずにいられません。
お嬢さんは大丈夫、考えもしないから(笑)

まだ終わらないのでありんすからね~。

紀子ママさん、ありがとうございます。

16からの連続コメントありがとうございます。

途中「読むのが辛くなってきた」とあって、なんか申し訳ないやら嬉しいやら。
でも指輪で入江くんと黒田さんの仲を当てるなんて、さすが紀子ママさんです!すごいっ!
入江くんも自分の心の狭さを自覚しているようで、少しずつ成長していってるんですねえ。
そうですね、来週からですね!

爽やか理志さん、もれなくついてくる波名子~彼女も書いていて楽しいキャラであります。

kazigonさん、ありがとうございます。

もうひと波乱…起こせるものなら起こしたいっ(笑)
なんかここで安心しちゃうと、続き読んでいただけるかと不安があって(笑)
小細工を日々している身としては、本当、どうしたものかと思案ちゅうです。

tiemさん、ありがとうございます。

16からの連続コメントありがとうございます。

天気までご心配下さりありがとうございます。
うちの方はそんなに荒れなくて。でも夜に一瞬停電がありました。数分後に戻りましたけど。
そうです、入江くんは琴子ちゃん以外の女性に服は選ばせないのです。
そこが愛!
あのネックレスは風邪も見事に吹っ飛ばしてくれますよね。

たまちさん、ありがとうございます。

16からの連続コメントありがとうございます。

場末のホテル(笑)確かに!!
相棒なんかで容疑者が泊ってました~というような感じ?
琴子ちゃんとネギは切っても切れない関係です。
熱が出ているのに罰ゲーム状態。でもつけるところが愛。
ぶら下げている所を想像したら、爆笑です。

会話は大事なんですよね。うん、うん。

まあちさん、ありがとうございます。

そうです。
二時間ドラマでいうところの、午後10時20分…いやいや、まだそこまで行ってないか。
とりあえず黒田問題はクリアってところでしょうか。
黒田さん、入江くんを振り回すくらいの強引さ。
理志問題はまだ解決してませんよね~。
入江くんは熱が引いたら全て忘れている…なあんてことにならなければいいですけれど。

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

今回もおばかと呼ばれた入江くん(笑)
でもやっぱりゆみのすけさんにおバカと言われると嬉しいんだなあ~。
ドナドナ入江くん、ホテル暮らしでしたよ。膝小僧抱えて寂しく寝ていたことでしょう。
確かに、入江くんがドナドナするのは珍しいですよね!ウフフ、癖になるかも…。
それにしても、前から思っていたのですがゆみのすけさんの「えへへ」がとても可愛くてたまらないです!!

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ありがとう、これで二人はラブラブで・・?

水玉さ~ん、直樹君と琴子ちゃん元の鞘に納めてくれてありがとうございま~す、お互いの心のすれ違いのまま離婚届まで出す話になり私の心臓はハラハラドキドキ此のまま続くと持ちませ~ん、なんて思いながら更新の度に読ませてもらってましたが、やっとやっと二人仲直りか?仲直りですよね、このままラブラブで~、もう1つ報告です、水玉さんのブログ読ませていただいて数か月此の度パスワードどちらも解明出来、ちらしの裏も読むことができました、達成感!!うれし~い・・・・

ユメコさん、ありがとうございます。

こちらこそ、読んでくださりありがとうございました。
解決しない問題…そうですね。って、それって私も分かっていることですよね?(笑)
何か自分で忘れている問題が残っているのではと不安なのですが。
ハラハラドキドキは、そんなにないと思います…多分(笑)

彩さん、ありがとうございます。

そうですよね。無自覚すぎる琴子ちゃんに入江くんもだいぶ振り回されていますよね。
ずいぶん回り道しましたが、これからは医者と看護師として問題解決に邁進して頂けたらと思います(笑)
本当に琴子ちゃんの気持ちを疑うなんて、おバカな入江くんでした。

いたさん、ありがとうございます。

お久しぶりです(笑)そんなに…大丈夫ですよ!
というか、猛暑も絶対原因だと思います。
そうそう、修理に出しては「異常なし」で戻ってくるんですよね!パソコンじゃなくてラジカセ(古いっ)、MOドライブ(これも古いっ)、ウォークマン(カセット時代ですよ)…私も何度その思いをしたことか!
でもカードの交換で済んでよかったですね~。よかった、よかった。
本当に入江くんのことは敏感なのに、自分のことは鈍感な琴子ちゃん…だから入江くんも苦労するんでしょうね(笑)
琴子ちゃんに惚れた男は、本当に苦労しますよ。
私もいたさんの「続き…お待ちしています」が聞けて、すごく嬉しかったです!
私の滑り気味、いやいや見事に滑りまくっている自称ギャグネタに乗って下さる、数少ない方たちの一人ですので…(笑)

ムーさん、ありがとうございます。

ハラハラドキドキして下さってよかったです。
何か毎度同じネタで申し訳ないと思いつつ、でも成長しない自分が情けない。
やっと仲直りできました。よかった、よかった。
パス、解読して下さってありがとうございます。当分変えられないですね(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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