日々草子 新妻の希望

新妻の希望

暑さでだらけている娘を見かねて「三文小説でも書いてろ!」と母が言ったので、続けて書いてみました…。








テレビでは朝から、某国のロイヤルベビーの誕生を放送していた。
「はあ…私のロイヤルベビーはいつ来るのかしら?」
と、まるでその気配のない様子であるのはトンブリ王国の元王女で現在、主婦修業中真っ只中の琴子である。

「ベビーちゃんが来るどころか、作る相手すら…。」
しょんぼりと琴子が肩を落とすのも無理はなかった。愛しのダーリンはここ一週間ばかり取材に忙しく新聞社に泊まり込み。一度だけ着替えを取りに戻ってきただけ。

「いけない、いけない。気を取り直しましょ。」
琴子はテレビのリモコンを押した。

「これこれ。ちゃんとお勉強しないとね。」
テレビに映し出されたいつもの再放送の時代劇で、琴子は日本について勉強を始める。
「ん?」
テレビを見ていた琴子の目が大きく見開かれた――。



「…何であなたがついてくるんですか?」
「いいじゃん、夫婦の感動の再会を取材したくて。」
「別にしなくていいのに。」
鬱陶しそうに眉を潜めているのは、琴子のダーリン、直樹。ようやく仕事から解放され、久々の自宅へと戻ろうとしているのに先輩の西垣がくっついてきたのである。
「それに、琴子ちゃんが大歓迎してくれるんだもん。」
琴子の中では夫の知人の接待は、妻としての仕事第一位となっている。
「疲れた体をさ、琴子ちゃんの笑顔とお酌で休めたいわけ。」
「5分経ったら、出て行って下さいね。」
そんなことを騒ぎつつ、直樹は自宅の前に到着した。

「ただいま。」
「こんばんは、琴子ちゃん。」
二人が揃って玄関を開けたら…。

「ナーマーローシャー…キェェェイッ!!」

おどろおどろとした琴子の声が部屋の中から聞こえてきたのである。
直樹は思わず開けた玄関のドアをパタンと閉めてしまった。

「…まだ午前二時にはなってないよな?」
顔色を変えた西垣が腕時計を確認した。
「丑三つ時のわら人形とかじゃないな。」
直樹はもう一度、静かにドアを開けた。
ワンルームのマンション、玄関から中の様子はすぐに見える。

「モージャールーダー…ナンジャーコーリャー…キェェェェ!」
やはり琴子の口からその得体のしれない言葉は出ていた。
しかもそれを口にする琴子の格好ときたら、どこから出して来たのか真っ白な服。
そして電気もつけずにテーブルの上に蝋燭を数本立て、どこから手に入れたのか怪しい香りの線香まで焚かれていた。

直樹はまた玄関のドアを閉めた。

「お前が放っておくから、琴子ちゃんがおかしくなっちゃったんだ!」
西垣が真剣な顔で詰め寄った。
「可愛そうに。あいつは一人で大丈夫とかほざいていたからだぞ!あんな変な儀式まで。」
「あれ、儀式なんですか?呪いじゃなくて?」
「そんなこと知らないよ!」

何時までもこうして二人でここに立っているわけにはいかない。
直樹は決心して三度目のドアを開け、靴を脱いだ――。



「…ったく、またくだらない勘違いを。」
「時代劇かあ、うん、確かにそういうシーンあるかもね。」
小さくなっている琴子を前に、男二人が頷き合う。

本日琴子が見たもの、それは時代劇で祈祷をしているシーンであった。

「女の人がね、子供ができますようにってお祈りしていて。なんか火の前でジャラジャラさせながらお祈りしてたから真似してみたんだけど…。」

「そっか、琴子ちゃん、赤ちゃんほしいんだ。」
西垣の言葉に琴子は頬をポッと染めた。

「ま、後は二人でよく話し合いな。僕はこれにて失礼するよ。」
さすがにこれ以上邪魔する気のない西垣は、そそくさと退散した。



「赤ちゃん、どうしてもほしいってわけじゃないの…。」
怪しげな線香や蝋燭を片付けていた直樹が、その手を止めた。
「じゃあ、何?」
「…入江くんと会えなくて、ちょっとさびしかったの。」
白い衣装を脱ぎながら、琴子がポツリとつぶやいた。
「一週間も取材していたでしょ?その間にすごくきれいな人とかと出会っていて、私のこと忘れちゃったらどうしようって不安になって。」
成程、人はこうして何かに頼って生きていくのかと直樹は納得しつつ、少し反省を覚えた。
確かに西垣の言うとおり、少しくらい放っておいても大丈夫と電話すら入れなかった自分である。
だが琴子は寂しがっていた。

「…忘れるわけないだろ。」
クスッと笑いながら、直樹は琴子の頭を自分の胸に押し付けた。
「こんな面白いことを次から次へとする奥さんを。」
「…本当?あきれてるのに?」
「あきれるけど、でも退屈しないから許す。」
「入江くん…。」
べそをかいていた琴子がやっと笑う。
「悪かったな、連絡もしないで。」
「ううん、私こそごめんね。こんなことで弱音はいちゃって。」
まだ怪しげな香りが残る部屋で、二人はしっかりと抱き合った。



「ということで、明日より休暇を頂きます。」
「休暇って入江、仕事は?」
部長の前に直樹は取材済みのデータを置いた。
「一応、スクープになるかと。あ、裏もちゃんと取れてますので。」
「だがな、今日からワシントンポストのお偉方がうちの社の見学に来ていて、お前に相手を頼もうと…。」
「そんなの、西垣さんに頼めばいいじゃないですか。あの人も一応英語できるし。」
「ふざけるなよ、何が楽しくてオッサンたちの相手しなけりゃならないのさ。」
と、西垣が即座に反論した。
「もしかしたら、美女の秘書とかついてきているかもしれませんよ。」
「ふむ、それなら付き合ってもいいか。」
「おい、お前ら。一応この役目は名誉なことであってなあ。」
有能な割には、まったく出世に興味のない若手記者二人を前に、夕日新聞社の社会部部長は頭を抱える。
「とにかく、俺は明日から休暇を取ります。」
仕事は完璧に終えている直樹に、部長は何も言い返せない。仕方なく海外新聞社のお偉方を迎えに部を出て行った。



「入江、休暇ってどこか行くのか?」
先輩記者が直樹のデスクの傍に寄ってくる。
「ええ、うちの別荘にでも行こうかと。」
「さすがボンボン。」
西垣がヒューヒューと冷やかす。
「新妻ちゃんと一緒に?」
別の記者が直樹にニヤリと笑いかけた。
「勿論。」
「くそ、あの新妻ちゃんと旅行かよ。」
社会部では琴子は「新妻ちゃん」の愛称で注目の的であった。

「その新妻ちゃんに、構ってほしいと言われたら断れないでしょう?」
そそくさと身支度を終えた直樹が立ち上がる。
「子作りしたいって頼まれたら、俺が断れるとでも?」
ニヤリと笑い返して、直樹は「それじゃあ、お先に」と出て行った。

「あの可愛い新妻ちゃんに…。」
「子作りしたい…。」
「あの大きな目で…。」
「あのムニュムニュほっぺで…。」



「…こちらが、わが社の社会部です。」
部長がワシントンポストのお偉方を流暢な英語で案内しながら、部に戻ってきた。
「西垣、おい、西垣!」
西垣を呼んだが、本人は机にだらりと脚を乗せたまま、
「…仕事なんてやってられないさ。」
とうつろな表情である。

「おい、西垣…と。」
再び西垣を呼ぼうとした部長の頭に、何かがコツンと当たった。それは紙飛行機である。しかも何個も部内を飛んでいる。
「何だ、これは!」
部長が絶叫した。

「俺たちが仕事したってさ。」
「俺たちがスクープ取ったってさ。」
「ムニュムニュほっぺが待ってるわけじゃねえし。」
「入江の野郎がうらやましいさ。」

と、完全に士気の下がった記者たちが、原稿用紙で紙飛行機を作り飛ばしていたのである。

「社会部はいつもこのようにリラックスしているのか?」と言葉を選ぶワシントンポストのお偉方。
「い、いや…暑いからですかね…ええと…その…何と言えば…。」
部長が汗ダラダラになって取り繕っても、西垣たち記者は目を覚ます気配はなかった。



「…ったく、うちの社会面はどうもしまりがねえな。」
別荘で直樹は夕日新聞の朝刊を広げ、眉を潜めていた。
「俺のスクープ以降、全然なってないじゃねえか。“どこまでも沈み続ける夕日新聞”とかいうキャッチコピーがマジで流れるぞ?」
その原因を作ったのは自分だと、全く直樹は気づいていない。

「入江くん、見て!おいしそうなジュースでしょ?」
と、琴子が直樹にジュースを運んできた。
それだけで直樹には目の保養である。

「あ、またお仕事のこと考えているでしょ?」
「そんなことないよ。」
夕日新聞を放り投げ、直樹は琴子を膝の上に座らせた。
「ちゃんと奥さん孝行するつもりだし。」
「本当?」
茶目っ気たっぷりな目で自分を見つめる琴子は、色鮮やかなサンドレス姿。露出している白い手足によく映えている。
直樹はその白い首にチュッとキスマークをつけたのだった。






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sayuさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。
新妻琴子ちゃんは本当に一番けなげかもしれません。
私も書いていて可愛いと思ってしょうがないんですよ。
sayuさんもどうぞ、お体に気を付けてくださいね。

紀子ママさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

これでもソフトな評価になったんですよ。前は一文小説呼ばわりでしたので。
イタキスは読み返すと「白衣の核兵器」で必ず笑ってます。
どうなんですかね、あんまりパソコンに向かってると『いい加減にしなさい!』と叱られてますけれど。

そうそう、その祭壇です。なんかよく時代劇でやってるやつ(よくはやってないか)。
こんな愛妻、目が離せなくて退屈しませんよね。
ロイヤルベビー騒動も書いてみたいけど、もう少し二人でラブラブで過ごしてほしい気もします。
これはあまり嫉妬が出てこないので。

佑さん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

久しぶりのトンブリ琴子ちゃんです。
王女様だから赤ちゃんが生まれたらロイヤルベビーですよね。
そうそう、琴子ちゃんはこのシリーズはモテモテなんですよね。
色々しでかすし、可愛いし。
入江くんは優しいし。あんまり怒らないし。

まあちさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

このシリーズの入江くんは堂々とのろけてますよね。
それが夕日新聞社の士気を下げていくという(笑)
琴子ちゃん、本当に可愛いです。

まあちさんのお嬢さんと息子さんのお話もまた聞かせてくださいね!
私はお嬢さんのクールさがかなりツボです(笑)

ユリアンさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

琴子ちゃん、本当に健気ですよね。
入江くんは素直に反省しているし、ちゃんと望みを聞いてあげているし。
ユリアンさんにほっこりしていただけてよかったです。

最近暑くてバテバテなので、ユリアンさんもお体に気を付けてくださいね!

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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