日々草子 入江法律事務所 16

入江法律事務所 16





入江法律事務所は法曹界でも評判の若手実力派弁護士入江直樹と、自称有能な秘書相原琴子の2人だけの小さな事務所である。

「裕樹くん、今月の領収書持ってきたよ。よろしくお願いします。」
「ったく、普通こういう作業をするのはお前の役目じゃねえのかよ。」
と、琴子から領収書の束を受け取っているのは、直樹の弟裕樹であった。

天才と謳われている兄には及ばずとも、大学生ながら裕樹の頭脳も素晴らしいものではあった。そこを買われ、兄より事務所の経理を任されている。

「琴子ちゃん、お夕食食べていってね。」
「はい、おば様。お手伝いします!」
「まあまあ、お仕事で疲れているというのになんて優しいんでしょう。」
「ほとんど昼寝してるから無駄に体力余ってるんだろうよ。」
「んまっ、何て失礼な!」
琴子は裕樹を睨んだ。が、裕樹は琴子より、領収書の簡単なチェックに夢中になっている。

「またお前の色気のないパンツの領収書とか入ってるんじゃないだろうな。」
「入ってないわよ。」
「ったく、くまのパンツとか何の経費にもなりゃしないんだから。」
「さっきから失礼なことばかりね、裕樹くんたら。」
言い返す琴子であるが、「ん?」と何かに気づく。

「色気のあるものだったら、経費で落ちるってこと?」
「落ちねえよ!」
即答してきたのは、黙ってソファで新聞を読んでいた直樹であった。
「何に使うって言うんだ、お前は。」
「ええと…。」
考えながら、琴子はポッとなった。
「…先生が私の下着姿を見たらお仕事がはかどると言うのならば、来客のない日にブラインドを全部下ろしてドアをしっかりとロックして、私勇気を出してみますけど?」
「明日世界が滅びるって言われても、絶対言わねえ!」
「そうだ、そうだ。琴子の下着姿なんて目が汚れる!」
「…何て失礼な兄弟なんでしょ!」
琴子は口を尖らせて、紀子の手伝いをしにキッチンへと行った。

「ええと、コーヒー豆、電気代…こっちは法律書…弁護士会の会費…。」
「…おい。」
「ん?何、お兄ちゃん?」
兄に呼ばれ領収書から目を上げた裕樹だったが、その顔が途端に凍りついた。
「…お前、あいつの下着とか見たのか?」
「い、いや…。」
「…まさかお互い下着を見せ合う仲とかじゃねえよな?」
その目があまりに恐ろしく、裕樹の手からバサバサと領収書の束が落ちた。が、それを拾うことは今の裕樹にはできなかった。
「ち、違うよ!そんな!」
「じゃあ、何であいつの下着の柄まで知ってるんだ?まさかお前、あいつの家に下着盗みに?俺は弟の弁護をしなきゃならねえのか?法廷で“弟は一瞬の気の迷いであんなことを…”と俺に言わせる気か?え?」
「ち、違うって!下着泥棒なんてしてないってば。前に領収書の中にあいつの私物のレシートがまざっていて、そこに“くまパンツ”って印字されてたから。ほら、レシートの中身を確認するのが僕の仕事でしょ?」
「そういうことか。」
直樹の態度が軟化したことに、裕樹はホッと胸を撫で下ろした。そしてテーブルの下に散らばった領収書を拾いながら、
「何でそんなにお兄ちゃんがムキになるのさ?」
と兄に訊ねた。
「ムキ?俺が?」
「そうだよ。お兄ちゃん、何かあいつの…。」
「あいつの?」
「保護者みたい。」
裕樹の言葉に、今度は直樹が胸を撫で下ろした。確かになぜこんなくだらないことにムキになるのかと自分でも不思議である。
「それは…。」
「それは?」
「…あいつの雇い主だからな、俺は。」
「そういうことか。」
「そういうこと。一応親父の親友の一人娘を預かっている身だからな。嫁入り前の他人様の娘に何かあったら責任問題だし。」
「成程。」
裕樹は兄の答えに疑いもなく納得したようであった。

「ちょっと、二人とも!」
話に一段落ついたかと思いきや、そこに飛び込んできたのは兄弟の母、紀子であった。
「さっきから何なの!琴子ちゃんのパンツがどうとか!」
「いや、それはもう終わったんだけど。」
直樹が答えたら、
「お黙りなさい!お兄ちゃん、あなた弁護士だってのにセクハラって言葉を知らないわけ?」
と紀子が直樹に迫った。
「二人そろって琴子ちゃんにセクハラ攻撃!一体どういうつもりなの!」
紀子はフライ返しを振り回す。
「お、おば様、私は大丈夫です。気にしていませんから。」
「元々、あいつが変なことを言うから俺は…。」
「いいえ!」
あの直樹を黙らせることのできる、この世界唯一の人物。それが入江紀子である。

「ああ、もう何てこんな息子たちに育ってしまったのかしら。琴子ちゃん、ダメな母親を許してちょうだい。」
紀子は琴子をギュっと抱きしめた。
「そんなことないです。ご立派な息子さんたちですよ。」
「まあ、こんなどうしようもない、女の敵みたいな息子たちを庇ってくれるのは世界で琴子ちゃん、あなた一人だけよ。」
おいおいと泣き出す紀子。

「…セクハラを受けたのは俺の方だと思うが。」
下着で仕事云々なんて琴子が勝手に言い出したことである。なぜ自分が叱られるのかと直樹は釈然としない。
そしてもっと釈然としないことを紀子は口にした。
「お兄ちゃん!あなた、お詫びに琴子ちゃんとデートしてらっしゃい!」
「はあ!?」
これには直樹が叫んだ。
「何で俺がこいつと?」
「これは命令です!」
「おい、ちょっと待て。俺はこいつと毎日顔を突き合わせているんだぞ?どうして休みまで顔を合わせなければいけないんだ?」
「こんな変態弁護士に付き合って気の毒なのは琴子ちゃんの方です。日々の労をねぎらってあげなさい。“こんな変態弁護士ですがこれからもよろしく”と頭を下げてらっしゃい!」

ということで、直樹と琴子のデートが紀子によって決められることになった。

「先生と…デート…。」
突然の成り行きで琴子の意識は既にどこかに飛んで行ってしまっている。
「おい、琴子。」
裕樹に呼ばれ、琴子は我に返った。
「な、何?」
「…一応言っておくけれど、お前の服なんて経費で落ちないからな。」
「お、落とすつもりなんてないわよ!」
「おい、相原。」
次に直樹が琴子を呼ぶ。
「は、はい!何でしょうか?」
「…服を買ったから給料前借したいなんて要求、俺は一切受け付けねえからな。」
「…は、はい。」
新しい洋服を買うことを入江兄弟に見透かされ、肩を落とす琴子であったが、それでも明日にでもとびきりの服を買いに行こうと思っていた。




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もう!!琴子ちゃんたら!!何を着てもかわいいわよ♪
でも、新しい服を買いたくなるいじらしさ!かわいいわねぇ~

クマパンツ♪とってもうけました。
直樹さんかなり焦った事でしょうね。

法律事務所、なかなか進展しない二人の関係が
余計にいじらしくドキドキしちゃうから好きです♪
ちゃんとデートできたのかしら??

きゃーーー

水玉さん、おはようございます。
最近、忙しくてお邪魔できず・・・申し訳ございません。

私の大好きな入江法律事務所!!
きゃーーーー今から読んできます。
水玉さん、ありがとうございますーーー(はあと)

たまちさん、ありがとうございます。

暑い中のコメント、ありがとうございます。

私もこの二人の掛け合いを書くのが楽しくて。
今回はパンツネタから始まり、なぜかデートに。
そうそう、入江先生は琴子ちゃんに事務作業なんて求めてもなければ期待もしてないと思います。
最重要任務はコーヒー。これだけで十分なんですよ。

紀子ママさん、ありがとうございます。

暑い中のコメント、ありがとうございます。
さすが紀子ママさん、私の思惑を分かっていらっしゃる。
そうなんです、ここらで甘いというか安心する話をと思いまして。
そうでもしないと、読者の獲得ができなそうという考えもあったりしますが(笑)

みかちっちーな♪さん、ありがとうございます。

暑い中のコメント、ありがとうございます。
そしてこのシリーズを待っていて下さって嬉しいです。
しかもゴルゴとオタク部まで楽しんでいただいているなんて。
確かにいつ、相原から琴子と呼び方が変わるのかっていうのはポイントですよね。
私もこんなに相原と呼ぶ入江くんは書いたことがないような気がします。

ユリアンさん、ありがとうございます。

暑い中のコメントありがとうございます。

こちらこそ、喜んでいただけて嬉しいです!
こんなにこのシリーズ、人気があったとは…嬉しい限りです。
毎日来て下さっているなんて、本当にありがとうございます。
ユリアンさんも、お体に気をつけて下さいね!

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

暑い中のコメントありがとうございます。

そうそう、琴子ちゃんは何を着ても可愛いんです!
も~入江くんのために服を選ぶなんて、本当に女の子してるんだから。

くまぱんつ、自分より先に裕樹君が見るなんて許せんっってところだったでしょうね!!
ちゃんとデートしてますよ~。よかったら読んで下さいね♪

みゆっちさん、ありがとうございます。

暑い中のコメント、ありがとうございます。
きゃーーーーっ、こんなに叫んでもらえてうれしいです!
はあとまでいただいちゃって♪
ぜひぜひ、楽しんで言って下さいね!
そうそう、私、イリコトでの後宮ものなら書いてみたくなりました^^
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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