日々草子 サブ・ローザ 6

サブ・ローザ 6

ど、どうでしょうか?
楽しんでいただけているのでしょうか?
久々の創作なので(しかもパラレルじゃないし)、書いている私は毎日不安です…ドキドキ。











琴子が残業を終え帰宅しても、直樹はまだ戻っていなかった。
「入江くん…。」
一人買ってきた弁当を食べ、琴子はあの政治関係の本を読みながら帰りを待つ。
「もう12時過ぎるのに…。」
いくら明日直樹は休みだとはいえ、あまりに遅すぎるのではないかと琴子が心配していた時、玄関ドアのカギを開ける音が聞こえた。

出迎えた琴子に直樹は「ただいま」の一言もなかった。
「…遅かったね。」
そして琴子も「お帰り」とは言えなかった。直樹はそんな琴子を無視し、中へと入って行く。
テーブルの上には琴子の読みかけの本が置いてあった。
―― まだこんなもん、読んでるのか。

どうしてこう熱心に分野違いの本を読んでいるのか。それはあの理志とやらと話を合わせたいからではないだろうかと直樹は不安になる。

「…楽しかった?」
琴子が水を運んできた。直樹はそれに手を付けようとしなかった。
「私も今度は一緒に…。」
「お前はあの政治家ジュニアに媚でも売ってればいいじゃん。」
「え?」
直樹は琴子を見据えた。
「聞いたぞ。お前とジュニア、いい雰囲気らしいじゃん。」
「ちょっと待って。あれはみんなが勝手に…。」
「そうやってさ、分かりもしない本を読んで“私、あなたに協力します”っていうのがお前のやり方だもんな。俺の時もお前、医学書真似して読んでいたし。」

琴子は自分では全く意味を理解できないのに話を合わせるために一生懸命な所があることを、直樹が一番知っている。直樹が医者になると言い出した時も医学書を図書館で広げていた時があった――。

「あれは入江くんの夢を一緒に追いかけたかったから!」
「で、今度は政治家の夢ですか?」
直樹はテーブルの上の本を取り上げパラパラとめくった。と思ったらすぐにそれを乱暴に叩きつけた。
「お前、愛想だけはいいから有権者受けはいいんじゃね?」
「何を勘違いしてるの?私はそんなつもり、ちっとも…。」
「頑張れよ、未来のファーストレディ。」
琴子の話に全く耳を傾けることなく、直樹はそのままベッドに入ってしまった。
「ひどい…。」

とてもじゃないが、こんな状況で直樹の隣で眠ることなど、琴子にはできなかった。
仕方なくリビングにクッションを並べ、琴子はその上で毛布にくるまった。

「…ひどいのはどっちだ。」
隣の部屋で直樹は琴子に聞こえぬよう呟いた。
一生懸命人に尽くす性格は琴子の長所でもある。だが、それがどうして今は自分に向けられていないのだろか。
―― 俺のことも、もう少し理解してくれよ。
琴子に言いたくても言えないことを、直樹は呑みこんだ――。



それから二人は日勤と夜勤ですれ違いの生活をしばらく送ることになった。が、お互い助かったとシフトに感謝していた。
勿論、寺崎の前では夫婦喧嘩をしていることなど感じさせないよう、お互いプロとして振る舞っている。

ところが自分たちだけでなく、寺崎親子の様子がおかしくなってしまったのは、喧嘩をしてから一週間ほど経った頃であった。
ここ三日ほど理志が病室に姿を見せないのである。
最初は仕事の関係かと思っていた琴子であったが、それならば他の秘書たちの口からその名前が出てもいいはず。だが秘書たちはあえて理志の名前を避けるようにしている。そしてそれは寺崎も同じであった。
「親子喧嘩でもしたのかしら?」
自分たちが喧嘩をしているからそう思うわけでもないが、他に理由が考えられなかったし、琴子には思い当たる節があった。

――もしかして、俺が親父を心配して後援会会長にあんなことを言ったと思ってますか?

あの言い方はまるで父親を心配しているわけではないと言っているも同然ではないだろうか。

勿論、寺崎の食欲不振については担当医の直樹に琴子は報告した。それで直樹も寺崎に話を聞きに行ったが、「年のせいでは」と誤魔化されてしまったという。
体に異常があるわけでもないので、精神的なものとしか琴子には思えなかった。
となると、理由は一つ。息子のことに違いない。



「うわ…豪邸ばっか。」
病院から電車で15分ほどの所だというのに、そこは大きな家ばかりであった。
「見つけられるかしら?」
メモの住所を頼りに、この豪邸の中から目当ての家は見つけることができるのだろうかと琴子は不安になった。
休日を利用して琴子が向かったのは、寺崎の神戸の家であった。
こんなことは本来してはいけないことだと分かっている。だが、患者の不調の原因が分かっているのに何もしないなんてことは琴子には出来なかったのである。勿論、直樹には言っていない。

しばらくした後。
「だめだ、こりゃ見つからない。」
琴子はしゃがみ込んでしまった。
「…ていうか、どうしてこんなど真ん中に美術館なんかあるわけ?」
琴子は続く塀を恨めしげに見つめた。白く高い塀が続いている。中は見えないがこんなに広いのだ、美術館か何かに違いない。
「こんなもんがあるから、寺崎家が見つからないっていうの!」
琴子は塀を拳で突いた後、立ち上がった。
「誰かに聞いてみるしかないわね…しかし、教えてくれるかしら?」
トボトボと白い塀に沿って歩き始めた。美術館の人間にでも聞いてみるかと思い、その入り口を探すことにしたのである。
「やっと門か。」
大きな門が見えて来て、琴子の足が早まった。
「…え?」
門の前で琴子は目を疑った。
「寺崎」と表札がかかっているではないか。
「この美術館が寺崎家?」
門の奥には白壁の洋館が見えた。
「嘘…こんなに大きな家だったなんて…。」
こんな大きな門から入るわけにはいかない。
「通用口、通用口はどこかしら?」
琴子があたりを見回した時だった。

パッパー。

車のクラクションの音に琴子は振り向いた。
「相原さん?」
「理志さん!」
車の窓から顔をのぞかせたるのは、理志であった。

「うちの前に女性が立っているなんて珍しいと思ったら。」
車を止めて理志は降りてきてくれた。
「すみません、突然に。」
「いえ、それは全然構いませんが。」
「どこかにお出かけだったんですか?」
いつものスーツ姿とは違って、今日はポロシャツにジーンズというラフな格好の理志であった。
「ええ、マリーナに。」
「マリナさんという方とお会いしていたんですか?」
琴子は東京の友人、品川真里奈の顔を思い浮かべながら訊ねた。
すると理志は「ブッ!!」と噴き出すと、
「アハハハハ!!」
と腹を抱えて笑い出した。
「あ、あの…。」
こんな理志は初めてであった。
「す、すみません。あまりに面白い勘違いで…アハハハ。」
と言いつつ、理志は笑いが止まらない。
「マリーナというのはヨットやボートの保管所です。俺のヨットが置いてある場所です。今朝からヨットに乗っていたものですから。」
「あ、ヨット…そうですか。」
琴子は自分の勘違いに顔を真っ赤にした。そういえば理志は大学でヨット部に所属していたと聞いた覚えがあったことを思い出す。

理志は笑いながら門を開けてくれた。



「うわあ…中もすごい。」
○×邸とかよく観光名所になっている所があるが、この家もそうなってもおかしくないのではと思う内装であった。
「どうぞ。」
家政婦が紅茶を出してくれた。
「すみません。お気づかいなく。」
「いいえ、理志さんがお客様をお連れするなんて珍しいので。」
家政婦は琴子を理志のガールフレンドとでも勘違いしているのかもしれない。

「素敵な家だと思うけれど。」
ヨーロッパのホテルみたいだなと思う琴子。どうしてこんな素敵な家を古いと波名子は拒否したのだろかと不思議でしょうがない。

「すみません、琴子さん。」
車を入れてきた理志が琴子のいる応接間に顔を見せた。
「お待たせしているのに申し訳ないのですが、ちょっと仕事で東京に連絡を入れなければいけなくて。」
「私は全然構いません。突然押しかけてきたのはこちらですから、どうぞお仕事を優先なさってください。あ、それより帰った方がいいですよね?」
相手の都合も聞かずに突然訪問したのは自分である。琴子は慌てて立ち上がった。
「いえ、すぐに済みますから。そのクッキーでも食べてゆっくりと待っていて下さい。それ、俺の知る神戸の店で一番うまいクッキーです。」
茶目っ気たっぷりに片目をつぶる理志に琴子もクスッと笑ってしまった。



理志のおすすめだけに、クッキーはとてもおいしかった。
が、あれから30分経とうとしているのに理志は姿を見せない。
「やっぱり悪かったなあ。」
やはり帰った方がいいかと、琴子は思いバッグを手に立ち上がった。
「さっきの家政婦さんはと…。」
家政婦に帰ることを伝えようと琴子は応接間を出たが、人影がまるでない。
「おーいって呼ぶわけにもいかないよね…。」
とりあえず少し歩いてみるかと、琴子は思った。
ところが、
「ええと、何となくこっち…いや、こっちかな?」
と琴子は迷い始めてしまった。
「案内図とかパンフレットとか作ってないのかなあ?」
個人宅にそんなものあるわけないと知りつつ、琴子は口にしてしまう。

「だめだ、家の中でも迷子になりそう。」
仕方ないと、琴子は元の応接間へ戻ることにした。
「確かドアに花の絵があったような。」
それだけはぼんやりと覚えていた。
「あった、あった。ここだ。」
バラの絵がはめこまれたドアを見つけ、応接間に無事に戻れたと琴子は嬉々としてドアを開けた。
しかし、そこはよく似ている部屋であり先程の応接間とは違っていた。

「ここ、何のお部屋かしら?」
歴史を感じさせるテーブルセット。ベルベットのソファが座り心地よさそうである。
「うわ、すごい天井!」
見上げた琴子は目を見張った。天井一面に見事なバラの絵が描かれていた。
「すごーい、バラのお部屋…。」
「相原さん、そこにいたんですか?」
突然声をかけられて、琴子は振り返った。
ドアの所で理志が琴子を見ていた。

「ごめんなさい、やはり帰ろうと思って家政婦さんを探していたらここに…。」
「構いません。俺の方こそお待たせして申し訳ありませんでした。」
理志も部屋の中に入ってきた。
「すごいお部屋ですね。バラがとっても綺麗。」
心から褒めた琴子であるが、理志の顔は少しも嬉しそうではなかった。
「…出ましょう。」
「え?あ、そうですね。すみません、勝手に入ってしまって。」
他人が入ってはいけない部屋だったのかもしれないと、琴子は謝った。
「いえ、そういうわけではなく。」
理志は琴子の手を突然つかんだ。
「とにかく、出ましょう。」
「は、はい。」
まるでそこから引きずり出すかのような理志に戸惑いつつ、琴子は引っ張られたままであった。
「…この部屋にいると、気分が悪くなるんです。」
「え?」
「この部屋、俺は大嫌いですから。」
「そ、そうなんですか…?」
あんなに素敵な部屋なのにと琴子は思ったが、理志の様子が尋常ならぬものであったのでそれ以上琴子は何も触れなかった。
理志は琴子の手を握ったまま、元の応接間に入った。





関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

毎日楽しみにしていますよ(^_−)−☆
琴子ちゃんの鈍感な所が誤解を招いていますね(≧∇≦)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

前話までは直樹さんの嫉妬はほほえましかったけど、
今回は、お馬鹿な域になってるわ。
これ以上直樹さんが噴火しなければいいのだけれど・・・・

で、琴子ちゃん!!一生懸命は分かるけど、これじゃあ直樹さんも怒っちゃうよ!!琴子ちゃんとりあえず頑張ってね・・・

あ~理志さんなんだか好青年ね・・・
憎めないところがつらいわ私。

トトロンさん、ありがとうございます。

ありがとうございます~。
なんかあんまりイリコトが二人そろった場面がないからちょっと心配してたので…。
良かった、楽しんでいただけているようで!
安心しました!

ユメコさん、ありがとうございます。

ありがとうございます~。楽しんでいただけて何よりです。
琴子ちゃんの鈍感さが本当に事件を起こしてますよね。
それを承知で入江くんは好きになったくせに。
放っておかれて面白くない気持ちもわかりますけれどね。
ユメコさんの想像どおり、一応波乱は続く予定です…。

紀子ママさん、ありがとうございます。

そうなんです、琴子ちゃんはやっちゃいました。
一生懸命なんですけれど、それが時として…。
しかしこの二人、最初に神戸に来たときの色々を完全に忘れてますわな…。

レイナさん、ありがとうございます。

すごい!
レイナさん、琴子ちゃん派なんですね。
あ、パンプキンは人格はいいんですよ~(笑)ちょっと困ったちゃんなだけで(笑)
だからそこはレイナさんは自分を信じて大丈夫です!(笑)

たまちさん、ありがとうございます。

本当にお子ちゃま入江くん。
一番大事にしてもらいたいんですよね。でもそれを琴子ちゃんにわかってもらえない→琴子ちゃんに当たる。
そして琴子ちゃんもまさしく、火に油を注ぐことを…。
琴子ちゃんは猪突猛進ですからね。人のために一生懸命なんですよね。

佑さん、ありがとうございます。

わ、佑さんが来てくれた♪
佑さんにまで琴子ちゃんが見限ってもいいって言われる入江くんって一体…。
でも琴子ちゃんは入江くんが大好きですから、そんなことは絶対ないんですよね。

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

そうそう、憎めないのがライバルキャラなんです(笑)
そして出た!ゆみのすけさんの「おバカ」、あ~最高!!
これを聞くと二次創作を始めた頃を思い出します。
そうですね。入江くんがこれ以上噴火しないことを祈るのみです、はい。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク