日々草子 結成する後輩 

結成する後輩 

ふう、なんとかこの話で決着ついた~、よかった。
時間がちょっと空いたので一気に書き上げました!
って更新したら、なんか「しばらく消える消える詐欺」みたいなことをしているみたいで心苦しいです^^;
表裏とも過去作を読み返しているよ~とのお声、本当にうれしいです!
読み返していただけれるなんて、本当に幸せですよね♪
いや、もういくらでも読み返していただけたら!









あの生意気な後輩がバチカンへ旅立った後も我が斗南大付属病院は、何一つ変化がなかった。
当然さ、あいつ一人いない程度で病院の機能が停止するわけがない。
それにこの僕が残っているしね。
え?今回は金魚のフンみたいにくっついていかなかったのかって?
フン、いつもいつも僕がそんな暇人だと思わないでよ。僕だって忙しいんだ。何と言っても真の斗南大病院外科のエースはこの僕なんだから。

あいつがいなくて気になった点といえば、入江の奴が出かけた翌日、琴子ちゃんが生まれたての小鹿みたいにヨロヨロと歩いていたことくらいかな。
さぞや琴子ちゃんを好き放題にしたんだろうよ。まったく少しは考えろっての。

で、その生まれたての小鹿から、ようやくまともに歩けるようになった琴子ちゃんと職員食堂で顔を合わせた時のこと――。

琴子ちゃんは焼き肉カルビ定食なんて、スタミナにあふれたメニューを食べていた。いつもは桔梗くんやらと一緒なんだけど、この日は一人。どことなく寂しい様子の琴子ちゃんを放っておけなくて僕はその前に席を取った。

「入江、いなくて寂しいね。」
「そうですね。」
しゅんとなっている琴子ちゃん。ああ、なんて可愛いんだろう。
「でも寂しいなんて口にしたら、だめですよね。」
「そんなことないさ。」
強がる琴子ちゃんもまた、かわゆいなあ。
「だって、入江くんは大切なお仕事のために海外に出ているんですもん。それを寂しいなんて言ったら…。」
「大切なお仕事…。」
ふと僕は思った。これは琴子ちゃんに、入江が何と自分のサイドビジネス(いや本業か?)を確認する絶好のチャンスってやつ?

「ねえ、琴子ちゃん。その大事な旦那様の、大事なお仕事、なんだか知ってる?」
「勿論!」
琴子ちゃんは(ほとんど真っ平の)胸を張った。

「国境なき医師団みたいなものに、参加しているんですよ!」

…何ですと?
今、君、何か変なことを言わなかったかい?

「ええと…国境なき?」
「国境なき医師団みたいなものに、参加しているんですよ。もう西垣先生、耳がどうかしちゃったんですか?まさか?」
琴子ちゃんは僕を気遣わしげに見た。
「…国境なき医師団の意味が分からないとか?」
「分かるよ、それくらい!」
知ってるさ!国境なき医師団くらい!
つうか、僕が言葉に詰まったのはそういう意味じゃない。
「それ、入江の奴がそう言った?」
「ええ。」
あいつ…何ちゅうことを吹き込んでいるんだ!
国境なき医師団?
確かにあいつの仕事は国境を越えているさ。ああ、そうだとも。
だけど、それってどうなの?

「西垣先生も女の人ばかり追いかけていないで、入江くんみたいに立派な仕事をした方がいいですよ。」
「琴子ちゃん、君ねえ…。」
「琴子。」
「騙されている」と言おうとしたところで、邪魔が入った。

「ほら、ヒデキくんと散歩に行く時間じゃないの?あの子、“琴子ちゃんまだかなあ”ってベッドでずっと支度して待っているのよ。」
桔梗くんが琴子ちゃんに笑いかけた。
「あ、いけない。急がないと。」
「そうそう、ほらトレーはアタシが返しておくから。」
「ありがと、モトちゃん。」
と、桔梗くんは琴子ちゃんを半ば強引に追い立てて行った。



「西垣先生も凝りない人ですねえ。琴子に何を吹き込むつもりだったんです?」
と、他に誰もいない医局で僕に呆れた顔を向けているのは鴨狩くんだ。
「ここのコーヒーまずいんだよな。」
とか言いながら、今日も図々しくコーヒーを口にする鴨狩くん。
「琴子に下手に手を出したら、入江先生の帰国後はこのまずいコーヒーを味わえなくなりますよ?」
「そうそう。」
と、頷くのは後からやってきた桔梗くん。
「先生、知らないでしょ?琴子は今や、入江先生の情報と一緒にデータ管理されているんですよ。」
「どこで?」
「ホワイトハウス、クレムリン、バチカンにええと…。」
「ちょっと待て。嘘だろ?」
入江はともかく何で琴子ちゃんが?
「だって琴子に何かあったら、入江先生が黙っていないから。」
サラリと答える鴨狩くん。
「今や琴子は世界中にSPがいるようなもんです。」
琴子ちゃん…すげえ。



だけど、それとこれでは話が別だ。
「だって、琴子ちゃんが騙されているんだよ。」
「騙されているって、どういうことです?」
と聞いてきたのは、桔梗くんだ。
「入江先生が琴子を騙している?そう思っているんですか?」
「そうさ。だってあいつ、自分のあの怪しい仕事をよりによって、“国境なき医師団”とか言いやがって。何だよ、それ。」
「別に嘘じゃないと思いますけれど。」
と、二杯目を注ぐ鴨狩くん、今日もその図々しさは絶好調だ。しかも桔梗くんまでコーヒーを口にして「まずっ!」と顔をしかめている。

「確かにあいつの仕事は国境を越えてる。ああ、そうさ。国境どころか惑星まで超えたしね。」
「分かってるじゃないですか。」
「でもよりによって国境なき医師団。何だ、それ?え?どこの国境なき医師団が人のケツに薬ぶちこんで、多額の金をスイス銀行に貯金している?そんな国境なき医師団いるか?あと、どこの国境なき医師団が、CIAやらKGBやらイスラエルの諜報部やらに追いかけられるんだ?守ってもらうことはあっても狙われることなんてないだろう?勝手に名乗って、訴えられるぞ!」
「…西垣先生、琴子の話をちゃんと聞いていなかったでしょ?」
コーヒーを手にした二人が、僕を冷めた目で見ていた。
「琴子は“国境なき医師団”とは言ってません。」
「言ったさ。この耳でちゃんと…。」
「国境なき医師団“みたいなもの”って言ったんです。」
「…え?」
「国境なき医師団とは断言していません。国境なき医師団“みたいなもの”って言っていたんです。」
「“みたいなもの”?」
「ええ、そうです。国境なき医師団とは入江先生は言っていないんです。つまり、国境なき医師団に似たものって意味で琴子に教えたんですよ。」

…何だ、そりゃあ!!

「だって当たっているでしょ?国境を越えて人のために治療を施しているんだから。」
自信たっぷりな鴨狩くん。
ううっ…さっきの僕の言葉を取りやがって。

「だけど、医師団って何だよ。医師団なんてあいつ結成してないじゃんか。メンバーが他に誰がいるっていうのさ。」
「はい。」
「はあい。」
鴨狩くんと桔梗くんが揃って手を挙げた。
「あと入江先生のご両親に、琴子のお父さん、智子と真里奈もそうだし。そうそう裕樹くんもだわね。」
「うん、立派な団体だな。」
桔梗くんの言葉に頷く鴨狩くん。
「入江先生は何も嘘言っていない。あと。」
「あと、何さ?」
鴨狩くんはドサッと医局のソファに腰を下ろした。

「…先生、もっと世界情勢を学びましょう。」
「へ?」
「そうねえ。」
と鴨狩くんの隣に腰を下ろす桔梗くん。
「どういう意味だ?僕はちゃんと学んでいるぞ。」
「…今、KGBなんてありませんよ?」
鴨狩くんが心底呆れた目で僕を見る。
「そうですよ。ソ連解体後、KGBはなくなって、FSBに権限を移行したんです。」
「新聞くらい、目を通しましょうね、先生。」
「ちょっと待て。失礼なことを言うな。僕は新聞くらいちゃんと読んでいる。」
「嘘ばっか。」
と、鴨狩くんはテーブルの上に放り出されていた医学雑誌を手に取ると、
「どうせ、タブレットで気になる記事だけをチェックしているんでしょ?」
と、雑誌の上で指を滑らす。
「“どうだい、僕はもう紙媒体なんて手にしてないのさ。かっこいいだろ?”」
「“素敵、先生。あたしも触らせてえ”。」
「“ああ、どうぞどうぞ。何ならこのままショッピングでもしようか?”」
「“あーん、先生、大好き!”と、こんな感じで女の子、口説いているんじゃないんですかあ?」
と、桔梗くんが僕をじっと見つめた。
…くそっ!当たっているだけに何も言い返せない!

「…君たち、そんなに小芝居が好きなら団は団でも劇団に参加したら?」
「あら、それいいかも。」
「劇団か。」
何だか本気にしだした二人。
「そうね、劇団ニシガキでも旗揚げする?啓太?」
「悪くないな。」
「ちょっと待て。何だよ、その名前!僕まで巻き込むな。」
何で僕まで参加することになっているんだよ、おい!
「いや、何となく。」
と、三杯目のコーヒーに顔をしかめる鴨狩くん。

「でも西垣先生、台詞覚えどうなのかしらね?」
「何度も懲りずに同じこと繰り返してるしなあ。」
「それじゃ、無理じゃない?」
「そうだな。結成やめとくか。」
「じゃ、劇団ニシガキ、解散ってことで。」

旗揚げ宣言から三分後に解散かよ、何だ、その劇団!



「…何が“みたいなもの”だよ、ったく!」
入江がそろそろ戻りそうな頃、僕はまた思い出しては腹を立てていた。
「“みたいなもの”をつければ、何を言っても許されるってのか?え?」
病棟に来ても、その怒りは収まらなかった。
「ふん、だったら僕だってつけてやるさ!」
そうだ、それが許されるっていうのならばつけてやろうじゃないか!

「僕は外科医“みたいなもの”だよ!そうさ、医者“みたいなもの”さ!」

劇団とか僕をからかいやがって、あのなんちゃって医師団!くそ、また腹が立つ!

「僕が台詞覚えが悪いだって?冗談じゃない!毎日毎日、一年365日、24時間医者を演じている、この僕に向かって!」

ザワッ…。

僕は何か視線を感じて辺りを見回した。

「医者みたいなもの…だって。」
「医者を演じている…ってどういうこと?」

僕を恐る恐る見ている患者さんたちの視線――。



「うん、確かに本物の医師免許状だね。」
外科部長は僕が持参した医師免許をくまなく確認した。
「君がおかしなことを言うから、患者やその家族から苦情が殺到してね。“あの先生は本当に医者なんですか?”“医師免許は確認しているんですか?”とか、対応に困ったんだぞ?」
「はあ…。」
というわけで、僕は医師免許及び医大の卒業証書まで部長に確認してもらう羽目になってしまった。
くそ、これも全部あの入江のせいだ!

「病棟のど真ん中で、そんなことを叫ばれたら不安になるのも無理はない。君、本当に気を付けてくれたまえ。」
「…すみません。」
「この間からおかしいぞ?下半身露出して入江先生を襲ったり、免許があるのに無免許発言をしたり。確かに医者は激務だが、それでも一歩間違えたら犯罪なんだからな。」
「…分かっています。」


返された卒業証書と医師免許を手に、僕は部長の部屋を出た。
はあ…何で僕がこんな目に。
僕はエレベーターの前に立って、到着を待つ。

無免許発言…無免許…僕もどっかのマンガの主人公みたいに、人里離れた崖の上に家を建てて、そこで医者やろうか。

チーン。

そこまで考えた時、エレベーターの扉が開いた。

「ゲッ…。」
今一番見たくない顔が、そこにいた。
バチカンから帰国したらしい。

仕方なく、僕は奴の後ろに立った。

「先生には無理ですよ。」
唐突に入江が僕に声をかけた。
「ブラックジャックは、無免許でも腕がいいから信頼されたんですよ。西垣先生とは根本から違っています。」
「お前…何で僕が考えていることがそこまで分かるんだ!!」
「先生が単純だから。」
これまた簡単に返す入江。
「大体、西垣先生よりもピノコの方が腕がいいんじゃないですか?」
「何だと!」

チーン。

エレベーターの扉が開くと、入江は目的のフロアにスタスタと下りていく。

「おい、待て!」
僕の声を無視するかのように、扉が閉まる。
と、思ったらすぐに開いた。
入江、下りるフロアを間違えたんだな?
ケッ、バチカンボケってやつか?

「アッチョンブリケ!!」

僕は両頬を思い切りつぶして、開いたドアに向かってピノコのセリフを叫んだ。

「西垣先生…君…一体…。」
「い、院長…。」
そこにいたのは入江ではなく、院長だった――。



翌日待っていたのは、「しばらく休暇を取るように」という外科部長からの声と、瀕死の白鳥のようにプルプルと体をこわばらせながら歩く琴子ちゃんの姿だった。
琴子ちゃん…そんな状態になるまで入江と…頑張ったんだね…。






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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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