日々草子 葉書を受け取る後輩

葉書を受け取る後輩











病院でその姿を見るのは、久しぶりだった。

「君はええと、確か…入江の弟くんだよね?」
僕が話しかけると、その彼はぺこりと頭を下げた。
「いつも兄に色々厄介をかけている西垣先生ですよね?」
「厄介って。」
…何だ、この口のきき方は。さすがあの兄と血がつながっているだけある。
ここは「いつも兄がお世話になっております」じゃないのか。

「裕樹、無駄なおしゃべりはやめろ。」
そこへ登場したのが、その兄。僕の後輩。
「こっちへ。」
兄に促され、後を追いかける弟。その後を更に追いかける僕。
「お兄ちゃん、あの先生が。」
と、僕が気になる弟は兄の白衣を引っ張った。
「ああ、いいんだ。気にするな。」
「そ?わかった。」
うん、いいよいいよ。もう無視されることは慣れたからさ。
それでも僕は、この兄、ゴルゴ入江やらデューク入江やらの名前を持つ後輩の観察を止めようとは思わないんだ。

僕たちが入ったのは、使われていない部屋だった。
「はい、これ。」
裕樹くんがテーブルの上に出したのは、一枚の絵葉書だった。
「へえ、国際便?」
葉書の宛名から見る限り、どうやらそれは外国から来たらしい。
「これって、バチカンじゃない?」
絵葉書には、あの世界遺産、サン・ピエトロ大聖堂の写真。
僕も今度、整形外科のナース、さやかちゃんでも誘って…ムフフ。

「ヨーロッパか…時間がかかるな。」
入江は目をサッと文面に走らせると、ため息をついた。
「時間?何、それ?返事のこと?」
確かに返事に時間がかかるだろうけど、今はメールもあるし。そういや、このご時世にわざわざエアメールってのも珍しいな。しかも葉書。


「入江…お兄さん、イタリアに友達がいるんだね。」
「え?」
せっかく弟くんがわざわざ届けてくれた葉書だってのに、それを置いて入江は仕事に戻ってしまったので、優しい僕はこの弟くんの相手をしてあげることにした。
「だって、それ。」
葉書を指すと弟くんは「ああ」となぜかクスッと笑う。それがまた、あの憎たらしい顔にちょっと似ている。
「これ、友達なんかじゃないんです。」
「友達じゃないの?そっかあ、あいつ友達なんていそうもないもんな。」
「そんな単純なものじゃないってことです。ところで西垣先生、イタリア語できますか?」
「いいや。」
「だろうと思った。しょうがないから訳してあげますよ。」
「だろうと思った」って何だよ、それ。そういうところも兄貴そっくりだな。

『鈴木三郎くんへ。
君が病気と闘いながら、世界中の絵葉書を集めていることを聞きました。
僕も力になりたいと思い、この葉書を贈ります。
これはバチカンという、イタリアのローマにある世界で一番小さな国の写真です。
ここには三十五万もの…(以下略)。
病気が治ることを心よりお祈りします。』

「何ていい話なんだあ!!」
僕は眼鏡を外し、涙をぬぐった。
何だよ、入江の奴。この病院に入院している患者のために絵葉書を集めていたんだな。
あいつ、いいところあるじゃないか。

「…感動しているところ、悪いんですけれど。」
鼻をかんだ僕に、無表情で裕樹くんが話しかけた。
「ん?何?ああ、僕も勿論協力するよ。いっぱい絵葉書を集めて…。」
「いえ、その必要ないんで。」
「どうして?」
「だって、これそういう類のものじゃないから。」
「どういう意味?」
すると裕樹くん、絵葉書をクルッとひっくり返した。



「あれ?これ、普通の住所じゃない?」
確か入江の自宅は世田谷。でもこれはちょっとおかしい。
「これ、私書箱に届いたものです。」
「私書箱?それって懸賞とかに使われるやつ?」
「ええ。兄は私書箱を借りていて、僕がそこに届いた葉書をこうして運んでいるんです。」
「何でそんな面倒なことを?」
だって君たち、同居しているんでしょ?私書箱って何?そういや家で渡さない理由は?

僕はもう一度、文面を眺めた。
よく見ると、数字が書かれていて、その下に赤いラインが引かれていた。
「これ、兄への依頼なんです。」
「あれかよ!」
入江への依頼、それはあいつが隠れて行っている(いや、かなりオープンだけど)、座薬を撃ちこんだりする、医療行為とは判断できるような、できないような、そんな怪しいサイドビジネスだ(いや、もはやこちらが本業か?)。

「それじゃあ病気の少年ってのも嘘なわけ?」
「ええ。」
まったく悪びれた様子もなく頷く裕樹くん。
「大体、そういう目的だったらもっと堂々としますよ。」
確かに。
「で?この数字は?」
「報酬です。」
「報酬?」
僕はまた目を凝らして文面を見た。
「35万…円?」
「円なわけないでしょ。イタリアの通貨くらいご存知ですよね?」
「ユーロだろ?それくらい知ってるさ。」
「というわけで、報酬は35万ユーロです。日本円に換算すると約4500万前後。」
「ご、ご、4500万!?」
「兄の最低報酬は日本円で2000万ですから。まあ平均ですね。バチカン相手だとこれくらいでしょう。」
「バチカン相手って、それじゃあこの写真が依頼者がいる国…てことは、今度の依頼は…。」
「シッ。お喋りはそこまでで。」
裕樹くんは唇に指を立てた。

「この依頼方法はあまり使われなくて。あっても半年に一度くらいなんです。」
「…それで君はいくら、お兄さんからお小遣いをせしめているわけ?」
すると裕樹くんはニンマリと笑った。
「まあ、一回につき、僕の年間の学費分くらい。」
結構な小遣いだな、おい。

というわけで、入江はまたもや院長や外科部長に適当に理由をつけ、バチカンへと旅立ったのだった――。








☆ゴルゴ13への依頼手段の一つとして、闘病中の少年(実在しているか不明)宛に報酬の数字を入れた絵葉書を送るものがある。ただし、めったに使われず半年に一度あればいい方。

☆なぜかゴルゴ13はバチカンとの接触が多い。

☆一応この話、続く予定。




関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
リンク