日々草子 シンデレラ・コトリーナ 5

シンデレラ・コトリーナ 5

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ホーホーホー…バサッ、バサッ!

闇の中に気味の悪い声と羽音が響く森の中。

「ううっ…ぐすっ…。」

そして続くのは呻き声か、はたまた泣き声か。

「アンタ、こんなとこにいたの?」
「モトちゃん!」

呻き声と泣き声を上げていたコトリーナは、天の助けともいえるモトの姿を見つけ顔を輝かせた。

「あたし…一生懸命歩いていたら、何かに足を取られて。動けなくなっちゃって。もしかして魔物に捕まっちゃったの?」
「違うわよ。伸びきった草よ。どうしたら足が絡まるのかしらね?」
そんなことを言いつつも、モトは懐から杖を取出し、
「カマ、カマ、カマ~。」
といつもの呪文を唱えた。するとコトリーナの周りが光り輝く。
「あ、足が自由になった!」
絡まっていた草はどこかへ消えた。コトリーナはそっと立ち上がった。
「うわ、アンタ、もしかして追い剥ぎにでもあったの!?」
立ち上がったコトリーナの姿を見てモトは目を丸くした。コトリーナの服の裾はズタズタに破れ、その顔は泥だらけであった。
「ううん。道に迷っているうちに夜になっちゃって。そうなると私、鳥目だからどこをどう歩いているかますますわからなくて、切り株とかも見えなくて何度も転んでしまったの。」
「鳥目で山奥に臨むって、無謀過ぎでしょ!」

モトが魔女だったから居場所がすぐに分かったものの、もしいなかったらコトリーナはそのまま遭難していたことは間違いなかった。

「でも、どうしても博士の元に行きたくて。王子様が必要としていらっしゃる本をお願いして借りてきたかったんだもの。」
「しょうがないわねえ。」
モトは乗ってきた箒にまたがった。
「ほら、後ろに乗って。ここからヒュンと飛んで行けば博士の家まですぐだから。」
後ろを顎で示すモトであったが、コトリーナは動こうとしなかった。
「どうしたの?座り心地はあんまりよくないけれど…。」
「ううん、そうじゃなくて。」
「じゃあ、なあに?」
「あのね…私、自分の足で頑張って歩きたいの。」
コトリーナはじっとモトを見つめた。その目には固い決意が浮かんでいた。

「ごめんね、モトちゃん。せっかく迎えに来てくれたのに。」
謝るコトリーナに、呆気にとられていたモトであったがすぐに「ウフフ」と笑みをこぼした。
「そうだったわね。アンタはそういう子だったわ。」
そしてモトは杖を高々と上げ「カマカマカマ~カマンベール~」と呪文を唱えた。
すると、木々に明かりが灯され、それは遠くまで続いている。
「うわあ…きれい!」
「さ、この明かりをたどって歩いて行けば博士の家まで辿り着くわ。」
「ありがとう、モトちゃん!」
「じゃ、出発!」
「え?出発って、モトちゃん?」
歩き出すモトにコトリーナは驚いた。
「箒に乗ってばかりだと、あたしのこのプロポーションも崩れて来ちゃうし。たまには歩くのもいい運動だわ。」
「てことは、一緒に?」
「こんなに明かりがあっても、アンタのことだもん。絶対道にまた迷うわよ。」
「モトちゃん…。」
コトリーナはモトの優しさに胸がいっぱいになった。
「まったく、これくらいは手伝わせなさいよね。」
何でも一人でやろうとするのだから水くさいと、モトは思ったのである。



「私ね、モトちゃん。」
明かりに照らされた木に沿って歩きながら、コトリーナは口を開いた。
「ほら、モトちゃんにお城に連れてきてもらったでしょ?」
「そうね。」
「だからもう、戻る場所はないの。」
「戻る場所?」
「そう。もうユーコたちの所へは戻れないし。」
コトリーナは意地悪な姉たちにこき使われる暮らしを送っていた。
「だから、お城で頑張らないとだめなのよね。」
モトはハッとなった。
そうである。コトリーナの言うとおり、帰る場所はもうない。城に居場所を作らなければいけない立場であった。そうしたのはモトである。
「それなのにアタシときたら…。」
自分で連れてきたくせに、ナオキヴィッチに見込みがなかったら他の男を見つけろなんてよく考えられたものだと、モトは自分の考えを恥じた。
「あ、ごめんね、モトちゃん。」
黙り込んだモトをコトリーナは気遣わしげに見た。
「別にお城に連れて来てもらったことを恨んでいるとかじゃないの。むしろモトちゃんには感謝しているのよ。毎日夢のような暮らしだし、モトちゃんと友達になれてとてもうれしいし。」
それでも黙り込んだままのモトに、コトリーナは不安になって続ける。
「ごめんね、モトちゃん。私の言い方が悪かったから気を悪くしちゃったんでしょう?私、本当に頭が悪いから。」
「そうじゃないわよ、コトリーナ。」
モトはコトリーナをギュっと抱きしめた。
「大丈夫。アンタをお城に連れ込んだ以上、ちゃんと先まで考えてあげるから。」
「先?」
「そうよ。王子様に相手にされなかったら慰謝料としてお城の一つや二つ、せしめてあげるから。」
「せしめるって、そんな。」
「いい男たくさんそろえて、楽しく暮らせるようにしてあげる。」
「モトちゃんたら。」
二人は声を上げて笑った。



モトの魔法のおかげで、それから二人は難なく歩くことができ、朝には博士の家の前に立っていた。
「おはようございます。朝早くすみません。」
小さな家のドアをトントンとコトリーナが叩くと、
「本当に朝早い客じゃ。」
と、不機嫌な顔で白いひげをはやした小柄な老人が姿を見せた。
「何じゃ、追いはぎにでもあったか!?」
不機嫌だった老人は、コトリーナの悲惨な恰好に驚きの声を上げた。
「いえ、違います。来る途中に転んだだけですから。」
「どれだけ転んだらそこまで…。」
言葉を失う博士。

「初めまして。私は王妃様付きの特別女官のコトリーナと申します。」
「王妃様付き?」
「はい。ナオキヴィッチ王子様のために博士のご本をお借りしたくて参りました。」
「何と!!あのひねくれ王子のためにだと!?」
博士の形相がガラリと変わった。
「そうです。王子様がお仕事のために博士の書かれたご本を読まれたいということでぜひ…。」
「あっかんべえ。」
コトリーナの言葉が終わらないうちに、博士は指で目を下げ舌を出した。
「あっかんべえって、ちょっと!」
「やなこった。あんな王子に誰が貸すもんかいな。帰れ、帰れ。」
博士はシッシッとコトリーナたちを追いやる。しかしそこで食い下がるコトリーナではない。
「お願いします。」
「嫌じゃ。」
「お願いしますってば。」
「嫌じゃ、嫌じゃ。」
「ちょっと、話くらい聞いてくれたっていいじゃないですか!」
「聞きたくもないわ。」
「何よ、偏屈ジジイ!」
「ちょ、ちょっとコトリーナ。」
博士のあまりのつれない態度に業を煮やすコトリーナを、モトが止めに入った。
「こちらはお願いしているんだから。」
「あ、そうだった。」
そこで博士は、モトの姿に気づいた。

「お前は、もしや?」
「お久しぶりです。王妃様の顧問魔女、モトです。」
「フン、何が魔女じゃ!」
博士は鼻でモトを笑った。
「お前、魔女じゃなくて魔法使いじゃろうが!男のくせに…うっ!!」
博士の口が左右に引っ張られた。引っ張っているのは、
「男じゃなくて、間違えて男に生まれてしまった女だってお城にいた頃から説明してましたよね!!」
モトである。
「も、モトちゃん…お願いしている立場だってさっき…。」
「ああ、そうだったわね。」
「フン」とモトは博士の口から手を離した。

「まったく、あの王子の周りにいるだけあってとんでもない輩じゃわい。」
渋々博士はコトリーナたちを家の中へ入れた。
「そもそも、なぜおぬしは王子のためにここまでする?」
博士がコトリーナに訊ねると、
「それは…恋しているからです。」
と、コトリーナが頬を染めた。
「…今何だって?」
「あら、お耳が遠かったのかしら?恋をしているからですぅ!!」
「聞こえとるわ!!」
声を張り上げたコトリーナを、耳を押さえながら博士は怒鳴りつけた。
「恋とはその…あれか?ラブか?」
「そうです、ラブです。」
「エル、オー、ブイ、イーのラブか?」
「そうです、それです。」
「はんっ!!」
博士は笑った。
「あの王子に恋?何が楽しくてそんなもんを!おぬし、あの王子の見てくれに騙されておるだけだわい。」
「いえ、そんなことはありません。」
コトリーナはムキになって言い返す。
「王子様は確かに口と性格が悪いお方です。でもあの性格の中にほんの一グラムほどの優しさがあるんです。」
「そんな男のどこがいいんじゃ?」
「全て!」
「はあん!」
と、博士はまた叫んだ。


「あの王子がどんな男か、わしだってよく知っておる。あの王子は年寄りを敬うってことを知らん!わしの考えは古いだの、何だのと主張しおって!わしはあやつよりずっと人生経験が豊富なんじゃ。それなのにあの態度ときたら!ちょっと賢いからって調子に乗っておるんじゃ。わしがヨタヨタと歩いていても手も貸そうとしない。城で転んでも優しい言葉もかけん。労わるって言葉も知らないのじゃ。」
「それで博士は怒ってお城を出られたんですか?」
「ああ、そうじゃ。出ない方が不思議だと思わんか?」
「うーん…。」
コトリーナは腕を組んで考えた。
「どうじゃ?分かったらあんな男は…。」
「博士の言い分だけを信じるわけにはいかないと思います。」
「何じゃと?」
意外なコトリーナの言葉に、博士だけではなくモトも驚いた。
「だって、一方の言い分だけを聞いて結論は出せないわ。王子様の言い分もあるでしょうし。博士の話を聞いていると確かに怒るのは無理もないと思いますけど、王子様だって博士に対して何か不満があったのかもしれない。」
「この子…。」
モトは目を見張った。てっきりナオキヴィッチをひたすら庇うかと思っていたら違っていた。
「お互いの言い分を聞かないと、判断はつけられません。ごめんなさい。」
ペコリと頭を下げるコトリーナだった。

「…なかなか面白い奴じゃの、おぬしは。」
博士もそんなコトリーナを面白く思ったらしい。
「フン、割としっかりしておるのにあんな王子に惚れているなど。」
「だって好きなんですもの。」
「そんな恰好になってまで、こんな山奥まで来たとはな。」
「えへへ。」
「やれやれ。」
と、博士は席を立った。そして部屋を出て行く。
「怒らせてしまったかしら?」
不安になるコトリーナの前に、博士はすぐに姿を見せた。
「ほれ。」
その手には本があった。
「持っていくがよい。」
「いいのですか?」
「あんな無礼千万な王子に惚れて人生を台無しにしようとしているおぬしへの、わしからのせめてもの情けじゃ。この先気の毒な生き方をするだろうしな。そんな奴に優しくしておいてもバチは当たらんじゃろ。」
「はあ…。」
何だか喜んでいいのかどうか迷うコトリーナである。だが、本は手に入った。
「ありがとうございます、博士!」
「気の毒に、あんな王子のために本当に気の毒に。」
首を振る博士の前で、コトリーナは笑顔で本を抱きしめたのだった。

「そうだ。」
本を布に包み、背中に背負って博士の家を出ようとしたコトリーナは思い出した。
「お城なんですけれど。」
「何じゃ?」
「段差が少ないんです。」
「段差が?」
「ええ。」
城で暮らすようになったコトリーナは、あんな大きな所なのに階段が極力少ないということが不思議だった。あってもスロープが併設されている。
「少し前に改良した結果だって聞きましたけれど…これって博士のために王子様がやったのではないかしら?」
「わしのために?」
「王子様に聞いたわけじゃありませんから、分かりませんけどね。」
コトリーナはクスッと笑った。



「よかった、本が手に入って。」
本をしっかりと背中に背負い、コトリーナはご機嫌であった。
「アンタって、すごいわねえ。」
「そう?でもモトちゃんが一緒だったから心強かったのよ。」
鼻歌まで飛び出しているコトリーナの背中を見ながらモトは、
「物事を公平に考える。決して恋に溺れているわけじゃない。見るところはきちんと見ている…ますますこの子って…。」
と思っていた。

「お城のてっぺんが見えて来たわ!」
コトリーナが指差した時だった。
「うん?」
モトの足が止まった。
「どうしたの?」
「いえ、アタシのカマレーダーが反応したわ…。」
「カ、カマレーダー?」
何だ、それはと思うコトリーナ。
「お城で何か起きているのかも!」
と、モトは箒をパッと出した。
「お城まですぐだから、一人で大丈夫よね?」
「うん、大丈夫。モトちゃん、気を付けてね!」
コトリーナに見送られ、モトは箒に飛び乗った。



ところが、城ではナオキヴィッチが上機嫌であった。
不思議に思ったモトはナオキヴィッチ付の侍従を捕まえて尋ねた。
「ああ、博士の本をまとめた資料を持っていた者が見つかったのです。これから王子様と面会するとか…。」
「オーマイガーッ!!」
モトは絶叫した。
これではコトリーナの努力が水の泡となってしまうではないか。




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プロフィール

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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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