日々草子 吾輩は猫である 2

吾輩は猫である 2




吾輩は猫である。
名前は…。

「あら、タゴサク!」

…違う!!吾輩はそんな名前ではない!!

「こんにちは、元気そうね。」

吾輩の名前を間違えていることに気づかずニコニコと笑っているのは、最近吾輩の散歩コースに加わったとある家の嫁である。

「ニャー。」
お前は相変わらず呑気そうだ。

「あら?ちょっとふっくらしたんじゃない?」
失礼な!
紳士に向かって何ていうことを。
こいつだけじゃない。人間というものはどうして、吾輩を見たら太った、太ったと連発するのだろうか。
吾輩はふっくらしたわけではない。毛並みがそのあたりの猫と比べ物にならないくらい、フサフサしているからそう見えるのである。
それなのにお前といい、吾輩の下僕(注・飼い主)も太ったとか言い張って勝手に食事を減らしおった。

「ニャー。」
吾輩は抗議の声を上げた。

「まーくんのこと?」

嫁は勘違いをしたままであった。
でもそれでもいい。吾輩も密かに気にはしていたのだ、まーくんを。

まーくんとはこの家の幼児である。つまり嫁の子供。
幼児のくせに、将来は獣医という、悪魔に魂を売り渡す輩になろうと目論んでいる末恐ろしい子供である。
その悪魔の卵に吾輩は先日犠牲になったばかりである。
吾輩は何とか、悪の道から連れ戻そうと日々奮闘している。
そのまーくんの姿が最近見えない。

「まーくんね、この間から風邪を引いちゃったの。」
まーくんの母親が申し訳なさそうに吾輩に告げた。
ほうほう、風邪か。
そうなると、まーくんも悪魔に魂を売り渡した人間(医者のこと)に散々泣かされたであろう。
少しは吾輩の気持ちが分かったに違いない。

「ニャー。」

「あら、心配してくれているの?」

違う、そういう意味ではない。

「大丈夫よ、もう熱も下がったし。入江くんがちゃんと診てくれたから。」

「入江くん」というのは悪魔に魂を売り渡してしまった、愚かなまーくんの父親である。まーくんの父親は泣きわめく善良な人々に痛い思いをさせてはほくそ笑む、地獄の使者そのものである。まーくんは毎日この悪魔を見ているから、恐ろしさに気づかないのだろう。
おお、怖い!

「あら、チビもキンジロウにご挨拶?」

だから吾輩の名前はそんな名前じゃないと。さっきと変わっているし。
どうもこの母親、とんちんかんだ。

チビとはこの家の犬である。番犬にもならなさそうな、ぬぼーっとした大型犬である。
まーくんはこのチビと始終一緒にいる。

「ワン!」

そうかそうか。お前もまーくんがいなくてつまらないのだろう。
ん?
「お前も」ってそれではまるで、吾輩もまーくんがいなくてつまらないみたいじゃないか。

「もうすぐ元気になるから、そしたらまた遊んであげてね、ドザエモン。」

…とうとう吾輩を殺したな、この母親。
何だろう、どうしてこうなんだろうか?

と、ふと吾輩は視線を感じた。

家を見たら、窓際にパジャマ姿のまーくんが立っている。
こちらに向かって手を振っているではないか。

こらこら、ちゃんと寝ていないと治るものも治らないぞ?

「ニャー。」

「あ、まーくんたら!」
母親が息子に気づいた。
「もう、ちゃんとお布団に入ってなきゃだめって言ったのに!それじゃ、またね。」
母親はパタパタと家の中へと走って行った。



「うん、もう大丈夫だろ。」
「よかった。」
直樹の許可が出て、真樹は起きていてもいいことになった。
「だけどマスクはしてないとだめよ。」
まだ咳が出ているということで、琴子は可愛いイラストの入ったマスクを真樹につける。
「まーくん、食欲も出てきて安心したわ。」
「おばあちゃんの作ってくれたおかずのプリン(茶わん蒸し)、おいしかった。」
「そっか。」
数日前から熱を出しぐったりとしていた真樹であった。食欲もなく、寝ていた時は目がぎょろっとしていて大人たちを心配させたものである。

「真樹、起きられるようになったのかあ!」
「あ、おじいちゃんだ!」
一番心配していたのは重樹であった。いくら直樹が大丈夫と言っても「本当に大丈夫なのか」とオロオロとしていた。
だから起きられるようになった真樹を見て大喜びである。
「お帰りなさい。」
「ただいま、真樹よかったなあ。」
ひしっと抱き合おうと重樹が両手を伸ばした時だった。
「はい、ストップ。」
紀子がガシッと重樹の腕を取った。
「何をするんだ?」
「まーくんに触れる前に、うがいと手洗いをお願いします。」
紀子が重樹を睨んだ。
「あと真樹はまだ風邪が抜けていないから、あんまり接触しないように。」
直樹も注意する。
「これは真樹だけじゃなく親父のためでもあるんだ。親父は年なんだから風邪一つ命取りになりかねないからな。」
「わしはそんなヤワじゃないぞ!」
年寄り扱いされて重樹が言い返すと、
「用心に越したことはないからな。ほら、洗面所へ行った、行った。」
と直樹が追い立てる。

「おじいちゃん、まーくんここで待ってるからね。」
「待っていておくれ~。」
クマのプリント柄のマスクをした真樹に見送られ、重樹が涙目で洗面所へと向かった。



「それじゃ、おじいちゃんを待っている間にまーくんはお薬飲みましょう。」
琴子が白湯を入れた真樹のカップと薬を運んできた。
「え~。」
途端に真樹が眉を寄せた。
「お薬、もう飲まなくても大丈夫…。」
「いいえ、だめよ。」
琴子が注意したそばから真樹がコンコンと咳をした。
「ほら、まだお咳が出ているでしょ?」
「お薬苦いんだもん…。」
真樹はチラリと直樹を見た。
「まーくん、パパのお膝の上だったら、お薬ゴックンできる気がするの…。」
「よし、それじゃおいで。」
直樹は真樹を膝の上に抱き上げた。

「もう、すっかり甘えん坊なんだから。」
しょうがないと言う琴子の前で真樹は、カップを両手で抱え薬を飲んだ。
「ゴックンできた、パパ。」
「うん、偉い偉い。」
直樹が真樹の頭を撫でたところに、
「真樹~!」
とうがい、手洗い、着替えを済ませた重樹がリビングに戻ってきたのだった。



「あら、猫よ。」
「綺麗な毛並みね。」
フッ。今日も吾輩の魅力で女たちを虜にしてしまった。
女子高生すら夢中にさせる吾輩って、何て罪な男なのだろうか。

「名前何ていうのかしらね?」
「渋い感じだから、そうねえ…。」
名前など、男女の間には必要がないのだよ、お嬢さん方。

「ゴンザエモーン!!」

…誰だっ!!

「あらゴンザエモンっていうみたいよ?」
「へえ、なんかおじいさんみたい。」

…あの悪魔の申し子め!!

「ゴンザエモン、まーくんのお見舞いに来てくれたんだって?」
下を見ると、まーくんが愛犬と共に吾輩を見上げていた。
仕方ない、相手をしてやるか。

「ありがとうね。まーくん、元気になったよ。」
そりゃよかったな。

「そうだ、ゴンザエモンも風邪を引いていないかまーくんが診察してあげる!」
いらんわっ!!
「遠慮しなくていいよ。おいで。」
「ワン!」
「降りてこないのか」と言うように吾輩を犬が睨んでいる。ったく、お前は忠犬ハチ公なみだな。

「ゴンザエモーン。」
これ以上その名を呼ばれたら困るので、吾輩は仕方なくまーくんの元へ下りた。

「どれどれ?」
何時の間に用意したのか、まーくんはあの悪魔に魂を売り渡した奴(獣医)と同じ道具を持っていた。確か聴診器とかいったような。

「うーん…。」
まーくんが真面目な顔をしている。
ふん、熱を出して復活したことで心も生まれ変わったかと思ったのに。
まだ悪魔に魂を売り渡す気満々なんだな。

「…ゴンザエモン、太った?」
親子して!!
しかもお前はダイレクトに「太った」と言いおった!さすが幼子にして悪魔に魂を売っただけあるわい。

「あと、好き嫌いしてない?」
してないわっ!

「好き嫌いはだめだよ?まーくんみたいにトマト以外は全部食べないと。」
それを世の中では好き嫌いって言うのではないのか。



「あら、ドザエモン、また来てくれたのね。」
そこに登場したのはまーくんの母親だ。また吾輩を殺しおった。
「ママ、ゴンザエモンだよ。」
「そうだった?」
まったく物覚えの悪い母親だ。

「ゴンザエモンがね、風邪を引いていないか診察しているの。」
「そうなの?よかったわね、ジロウエモン。」
我が子が悪魔になることを止めることもしない母、何て恐ろしい。

「でもチョウタロウが嫌がることしないようにね。仲良くするのよ。」
「ゴンザエモンだよ、ママ。」
「そうそう、バンタロウね。」
「ゴンザエモンだってば。もう、ママは。」
とかいいつつ、この母親に対してまーくんはニコニコと笑っておる。ここは吾輩の名前を覚える気がないことについて、少しは怒ってほしいものだが。
「ごめんね、まーくん。」
いや、謝るのは吾輩に対してであるのでは?
「ううん。ママはわざと間違えているわけじゃないもん。」
と、とことん母親に甘いまーくんである。
当たり前だ、わざと間違えていたらもはや悪魔そのものだろう。

この母親といると、吾輩の名前がどんどん増えていく気がする。
早々に退散した方がよかろう。

「あ、ゴンザエモン!」
スタッと塀の上に上がった吾輩を見て、まーくんがさびしそうな顔をする。
「ニャー。」
大丈夫だ。また遊びに来てやろう。
吾輩は何としてでも、このまーくんを悪の道から救い出さねばならないからな。





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お話の内容には関係ないのですが…"おかずのプリン"わが家では"温いプリン"と言っていたので(*^o^*) ツボっちゃいました~!

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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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