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2013.03.05 (Tue)

縁ありて 22

ほぼ一週間空いてしまいました。
親戚の所へ遊びに行ったり、花粉症がとうとう発症して苦しくなったりしていたもので。
待っていてくださった方、申し訳ありませんでした。








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「師匠、お口を開けて下さいな。」
「やだよ。」
「師匠が書く手を休まなくて済むように、作ったんですよ。」
何度もうるさくお琴が口を開けろと言うので、直樹は渋々口を開けた。そこにお琴がおにぎりを入れる。
「お味はどうですか?」
「…。」
「紫蘇とごまを混ぜて握ってみました。お魚があったら手まり寿司ができたんですけれどね。手まり寿司ならぬ手まり握りってとこかしら?」
「…。」
「どうですか?おいしい?」
「…。」
「もう師匠ったら!」
「…口いっぱいに物が入っていたらしゃべれねえだろうが!」
とうとう直樹の雷が落ちた。

「何が手まりだ?」
直樹はお琴の膝の上の皿に目をやった。
「これのどこが手まり?は?俺の拳大のでかさじゃねえか。」
直樹が話す通り、そこにはそこそこの大きさのお握りが並んでいた。
「だって、小さく握るのって結構難しいんですよ。」
お琴がぶーっと頬を膨らませた。
「ったく、こんなでかいもんを口の中へ詰め込むから手が全く動かねえ。」
「そんなあ。」

直樹の生みの親の家の騒動もようやく落ち着き、二人の暮らしも元に戻った。
そして渡辺屋も元の賑わいを取り戻し、直樹の仕事も増える一方である。
「しばらくさぼっていたから仕方がねえな。」
お琴の二つ目のお握りをかじりながら、直樹は机に向かう。
「仕事がもらえるだけ有難いし。」
「そうですね。」
渡辺屋が閑散としていた時を考えると、今の忙しい状況は幸せなことだと二人は思っていた。
なのでお琴も張り切って直樹が仕事に集中できるよう、世話をせっせと焼いているのである。

「ところで師匠。」
「何だ?」
「ちょっと気になることがあるんですけれど。」
お琴は自分も一つとお握りを頬張った。
「お隣のおうめ婆さん。」
右手にお握り、左手で隣家をお琴は指さした。
「最近、姿を見せないと思いません?」
「そうか?」
直樹は机に目を向けたまま返事をする。
「そうですよ。いつもだったら“先生、あたしの腰巻見せてあげようか?”って腰を振りながらやって来るのに。」
「…いや、そこまではしてなかったと思うが。」
おうめ婆さんの声色が妙に似ているお琴に、直樹は噴き出すのを堪えた。
「そんなことないですよ。でも最近静かなんですよね。」
「お前の相手をするのに飽きたんだろうよ。」
「そうでしょうか?体でも壊してなければいいのだけれど。」
喧嘩友達のおうめ婆さんが姿を見せないことが心配でたまらないお琴である。
「あの家だって小女がいるんだから、何かあったら知らせてくるだろう。」
「そうかしら?」
それでもまだ心配そうに隣家を見ているお琴の前で、
「よし、ひと段落ついた。」
と直樹が立ち上がった。

「お出かけですか?」
慌ててお琴が直樹を見た。
「ああ。」
「渡辺屋さん?」
「そういうこと。」
とにかくどんどん新しい作品を出して行こうという話になったとかで、直樹は最近頻繁に渡辺屋と打ち合わせを重ねているようであった。しかも直樹が出向くことばかりでお琴は毎日のように一人で家に置いて行かれている。

「渡辺屋さん、たまにはうちにいらしたらいいのに。」
「あっちだって取引先への挨拶とか付き合いが忙しいんだ。」
「でも…。」
「俺はあいつから仕事をもらっている身なんだ。そもそも俺が出向く方が筋ってもんだ。」
「そうですけれど。それじゃ、私も今日は一緒に行ってもいいですか?」
「だめ。」
直樹が即答した。
「お前がいると仕事にならない。」
「そんなあ。弟子なのに。」
「弟子はおとなしく家で修業してろ。」
直樹は何も書いていない料紙の束をお琴の胸に押し付けると、そそくさと準備をして出かけてしまった。

「もう、またお留守番…。」
仕事のためとはいえ寂しさを隠せないお琴は庭に目をやった。お琴が洗った直樹のふんどしが風に揺れている。
それをしばらく見ていたお琴の頭に一計が浮かんだ。

「ああれえ、師匠のふんどしがおうめ婆さんのお宅のお庭に~!!」
お琴の叫びに、
「何だって!!」
と、おうめ婆さんが家から飛び出してきた。
「どこだい?どこに先生のふんどしが?」
「…落ちてしまったかと思ったら、無事でした。」
直樹のふんどしを手にお琴がニッコリと笑った。そして風に飛ばされぬようしっかりとふんどしを竿にとめる。

「あんた、だましたね?」
ふんどしを手に入れ損ねたおうめ婆さんが苦々しい顔をお琴へ向けた。
「だって、こうでもしないと元気か分からないじゃないですか。心配していたんですよ。」
「ふん、あんたに心配されるほど落ちぶれちゃいないさ。」
相変わらずのへらず口を叩いた後、家の中へ入ろうとするおうめ婆さんを、
「ちょっと待って下さい。」
とお琴が呼び止めた。
「何だい?あたしゃ忙しいんだ。」
「ちょっと相談に乗ってほしいんです。」
お琴にはおうめ婆さんに会いたかった理由があったのである。

「あの、実は…。」
お琴は深刻な顔でおうめ婆さんの耳に口を寄せた。
「…お金がない?」
おうめ婆さんが眉をひそめた。
「ええ。家の中に置いてあるお金が少し減っているんです。」
「あんたがボケッとしているから、留守を狙われたんじゃないのかい?」
「いえ、それが…。」
お琴は更に声を潜めた。

「…先生が?」
更におうめ婆さんの眉がひそめられた。
「はい。この間…。」
直樹がお金をしまってある小箪笥の前に座っていたところをお琴は見ていた。
「それなら何も心配することないじゃないか。お宅の先生が金を使ったってことなんだから。」
「でも、いつもだったら私にちゃんと言ってくれるんですよ。」
お琴が正式に嫁になってから、お金の管理を直樹はお琴に任せていた。直樹が入用になったらお琴に言って出してもらうことになっている。お琴は直樹が金銭管理を任せてくれたことが自分を信用してくれていると感じられて嬉しく思っていた。

「コソコソしていたのが気になって。」
「なるほど。」
「それから。」
「まだあるのかい?」
お琴は頷いて、
「最近、師匠は夜が遅いんです。渡辺屋さんとの打ち合わせだって言うけれどそんな遅くまで仕事しているかなって。よそのお宅で。」
「まあ色々あるだろうがねえ。」
「あと香り。」
「香り?」
「…私が使っているものと違う香りが師匠から漂っているんです。」
お琴は半泣き状態でおうめ婆さんにしがみついた。
「私はこれをずっと持っているんですけれど、これとは違う香りが師匠から…。」
お琴は懐から香り袋を取り出した。

「なるほどね。そりゃあ答えは一つさ。」
ニヤリとおうめ婆さんは笑って小指を立てた。
「…赤ちゃん指?」
「おバカだね!女ができたってことだよ!」
お琴の呑気な答えにおうめ婆さんが怒鳴った。

「お、女って…。」
「女だよ、女。女房にばれぬよう金を用立て、女房とは違う香りを体に染み込ませてくる。それはもう女しかないね。」
イヒヒと笑うおうめ婆さんとは対照的に、
「そんな…まさか…師匠に限って…。」
と、お琴の顔は真っ青である。
「だって師匠は、師匠はそんなことをするわけ…。」
「乳臭い女房よりも色気ぷんぷんな女の方がいいってことさ。あたしみたいにね。」
おうめ婆さんは腰を振りながら上機嫌で家の中へと戻ってしまった。
「乳臭い…。」
お琴はよろよろとその場に座り込んでしまった。



こんなことしちゃいられないと、お琴はすぐさま渡辺屋へ向かった。
本当に直樹がそこにいるのか確かめたかったのである。
「お琴ちゃん!?」
突然現れたお琴に、渡辺屋は驚いた。
「どうしたの?そんな息を切らせて。」
奥へとにかく、いや先に水をと渡辺屋は手代に命じる。
「あの…師匠…いますか?」
「入江?」
渡辺屋はきょとんとした。
「入江は今日は来ていないけれど?」
「え?」
やはり直樹は自分を騙していたのか――お琴は目の前が真っ暗になった。
「お琴ちゃん!!」
渡辺屋の声がお琴には遠く感じられたのだった。





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 |  2013.03.05(Tue) 17:34 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.03.05(Tue) 17:38 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.03.05(Tue) 18:33 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.03.05(Tue) 20:38 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.03.05(Tue) 22:15 |   |  【コメント編集】

★No title

一難去ってまた一難!だから楽しい2次小説!
Kazigon |  2013.03.05(Tue) 22:30 |  URL |  【コメント編集】

★No title

まったく・・・またですか?
入江くん・・・もぉーしょうがないなぁー(ー_ー)!!
お琴ちゃん・・・ちょっとばっかり入江くんをこらしめちゃおうか(笑)
入江くんを心配させちゃいなさい(*^_^*)
ゆり |  2013.03.05(Tue) 23:20 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2013.03.06(Wed) 10:00 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.03.06(Wed) 14:07 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.03.06(Wed) 20:48 |   |  【コメント編集】

相変わらずの 秘密主義者だねぇ~、頑張れ お琴ちゃん!
アンユリ |  2013.03.06(Wed) 22:18 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2013.03.08(Fri) 10:28 |   |  【コメント編集】

★紀子ママさん、ありがとうございます。

そうそう、黄砂も来ているんですよね~。
昨夜から花粉症ひどくなって…夜中に目が覚めるようになっちゃいました><
花魁を相手にしなかった直樹さん、そんな直樹さんがお琴ちゃんを裏切る真似はしないと私も思います。
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:37 |  URL |  【コメント編集】

★ようたいさん、ありがとうございます。

私もレーザーとか舌下療法とか聞いてはいます。
レーザーは毎年焼かないといけないらしくて、そんな思い毎年するのはやだ~と(笑)
この時期、杉の木をすべて伐採してほしいと思うのは私だけじゃないはず!
これぞイリコトという展開…楽しんでいただけてうれしいです。
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:39 |  URL |  【コメント編集】

★カスガノツボネさん、ありがとうございます。

こんばんはでありんす♪
いいですよね、この言葉づかい(笑)
おうめ婆さんの腰巻見ても、入江くんは眉ひとつ動かさないような。
むしろ「なかなか使い込んだ品ですね」とか冷静に言いそう(笑)
おうめ婆さん、なんだかんだとお琴ちゃんの味方なのです!
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:41 |  URL |  【コメント編集】

★佑さん、ありがとうございます。

今回の入江くんは秘密主義ですよね!
お琴ちゃんから見たら隠し事が多すぎて不審を募らせても無理はないかも><
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:42 |  URL |  【コメント編集】

★たまちさん、ありがとうございます。

そうそう!!
私も喉がかゆくて頭が痛いです。
昨夜からは夜中に苦しくて目が覚めるようになりました(涙)
たまちさんはアイボンですか、私はハナケア(笑)
お互い辛さを吐き出しあいましょうね!

不幸のエスカレーターに乗りかけているお琴ちゃん…何とか連れ戻さないと、入江くん!
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:45 |  URL |  【コメント編集】

★kazigonさん、ありがとうございます。

好き勝手にストーリーを広げられる、それが二次小説!!(笑)
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:46 |  URL |  【コメント編集】

★ゆりさん、ありがとうございます。

本当にこらしめちゃえって思いますけれど、それができないのが琴子ちゃんなんですよね。
というか、入江くんが本気にしないだろうし~。
たまには入江くんをおろおろとさせたいですね!
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:47 |  URL |  【コメント編集】

★anpanさん、ありがとうございます。

そうそう、吉原でも指一本動かさなかった入江くんですからね。
琴子ちゃんを裏切ることはしていないと思いますけれど。
いい男を亭主にもつと琴子ちゃんの苦労も絶えませんね!
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:48 |  URL |  【コメント編集】

★あやみくママさん、ありがとうございます。

そうですね、師匠には甘いですよね。
ちょっとお灸をすえた方がいいのかも!
胸ぐらつかんで「何をこそこそしてるんだい、このダメ亭主が!」とか…言えるわけないか(笑)
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:49 |  URL |  【コメント編集】

★ナイトさん、ありがとうございます。

怖くて聞けないのでしょうね~。
お琴ちゃんは旦那さまには臆病になりがちだから。
それでせっせとお世話をして本当に健気ですよね。
確かに師匠がやきもちを焼くのもたまにはありかもしれませんね。
ナイトさんが安眠できるようなお話を今UPしましたので、どうか今夜はぐっすりと眠れますように♪
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:51 |  URL |  【コメント編集】

★アンユリさん、ありがとうございます。

本当に頑張れ!お琴ちゃん!ですよね!!
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:51 |  URL |  【コメント編集】

★まあちさん、ありがとうございます。

そうそう、私も全然知らない子たちでした(笑)
これから売りだしていくんでしょうね。
琴子ちゃん役の子は、なかなか可愛いかなと思います^^
水玉 |  2013.03.09(Sat) 21:53 |  URL |  【コメント編集】

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