日々草子 入江法律事務所 13

入江法律事務所 13




「お仕事中、お邪魔して申し訳ございません。」
大泉沙穂子の美しさに琴子は見惚れてしまった。ゆるくカールされたセミロングがいかにも育ちのいいお嬢様といった感じである。
「あの…入江先生は?」
「あ、すみません。どうぞこちらに。」
琴子はハッとなって応接スペースへと沙穂子を案内する。

「先生、大泉様が。」
「ああ。」
直樹は席を立ちながら琴子を見たが、俯いている琴子は気づかなかった。

「それじゃ、行ってくるから。」
「はい。」
「お前も時間が来たら帰っていいから。」
「はい。」
二人を見送った後、琴子はそのままそこに立ちつくす。
沙穂子が座っていたソファはいい香りが残っていた。
「香水かな?」
ほんのりとしたさりげないおしゃれ。
「着ていた服もすごく素敵だったな…。」
いかにもブランドといった感じではなく、良家の令嬢が選ぶようなデザインの服。
「私なんてバーゲンだもんね。」
琴子は自分が着ているワンピースを見た。直樹とバレンタインを過ごすということで頑張っておしゃれしてきたのだが、沙穂子を前にすると滑稽に見えてしまう。
「お似合いだったな。」
机に顎を乗せ、琴子は深い溜息をついたところで思い出す。
「レストラン!!」
どうしたものかと琴子は考えた。



直樹と沙穂子はホテルのティールームにいた。
「ごめんなさい、おじい様が突然お願いしてしまって。」
「いえ。」
「私がこの間、直樹さんはお元気かしらって漏らしたらこんなことを。」
「そういえばしばらくお会いしてませんでしたね。」
「ええ。直樹さん、弁護士になられてお忙しくなってしまわれましたから。」
「確か最後にお会いしたのは一年半くらい前でしたか?」
「覚えていて下さったんですね。」
父親の会社の顧問弁護士の孫ということで、高校くらいからパーティーで顔を合わせることがあった二人である。
「直樹さんの事務所を見学できてうれしかったです。」
「狭くて恥ずかしい。」
高級ホテルの雰囲気に見事に合った直樹と沙穂子は、周囲の注目の的であった。



「あーあ…レストラン、どうしよう。」
最初はキャンセルしようかと受話器を取り上げたものの、こうなったら失恋パーティーを一人で開催するのも悪くないかと自棄になりキャンセルは考え直した。
しかし、いざ行くとなるとどうも気が重い。

「あと、これもどうしようかしら?」
バッグの中に入っている手作りチョコを見て、また琴子は溜息をついた。
「明日渡すのも間が抜けているし。」
第一、沙穂子から何かもらっているだろう。そんなところに渡すことなど琴子にはできない。
「散々なバレンタイン…。」
きちんと計画しても結局こうなるということは、自分と直樹はよほど縁がないということか。

「あ!コトリンだ!」
「げっ!」
そしてさらに琴子がげんなりする状況が起きた。
「コトリーン、この間はどうも!」
そこにいたのは啓太の裁判の時に関わったオタク、矢野であった。
「あここでバレンタイン記念コトリンイベントが開かれるんだよ。」
「うわぁ…。」
琴子はチラリと横を見た。『ラケット戦士コトリン バレンタイン記念イベント』と派手に描かれた看板がかかっている。
「もしかしてゲスト出演とか?」
「違います!」
冗談じゃない!コトリンの真似をするなんてもうこりごりである。あれは直樹に頼まれたから引き受けたのである。

「コトリン、コトリン。」
矢野が琴子に笑いかける。
「私に笑いかけてくれるのは、この人くらいか。」
直樹に捨てられた(?)ショックから、琴子の思考回路はややショートし始めていた。
「こんなに慕ってくれるのなら…。」
琴子はバッグの中からチョコを出した。
「これ、いります?」
「え!?」
矢野が小さい目を丸くした。
「こ、こ、これって…。」
「…バレンタインだし。」
捨てるのももったいない。だったらこの矢野にあげた方がましだろう。
「どうぞ。」
「うわあ!!!」
矢野は目と耳と鼻から湯気を出すかのような興奮ぶりでチョコを高く掲げた。



「直樹さん、こちらを。」
テーブルの上に沙穂子がきれいにラッピングされたチョコを出した。
「あの…ごめんなさい。今日突然おじい様から連絡を受けたので作る暇がなくて。」
本当は手作りを贈りたかったと、沙穂子は暗に言っている。
「でも直樹さんと会えると思うと嬉しくてデパートに飛んで行きました。」
そのチョコは直樹も知っているベルギーの有名菓子店のものであった。
「ありがとうございます。」
直樹が笑顔で受け取ると、沙穂子は頬を染めた。



「コトリンからチョコ!コトリンからチョコ!」
琴子のチョコを高く掲げ踊る矢野を見ているうちに、更に琴子の思考回路はショートしていく。
こんなに喜んでくれるのなら一緒にレストランへ行くのもいいかもしれない。
少なくとも一人分無駄になることはない。
「もしよかったら…。」
琴子の口が開かれた。



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sarasaさん、ありがとうございます。

うわ~お久しぶりです!!!
久しぶりにsarasaさんのコメントを拝見できて、とっても嬉しいです。
お忙しくていらしたんですね。体調はもう大丈夫なのでしょうか?
そんな状況でも読んで下さっていたなんて感謝感激です。
sarasaさんのお体が少しでも楽になるのなら、もういくらでも読んで下さい!!

sarasaさんが冬眠から目覚めてくれるのならば、私、いくらでもはちみつを差し入れいたしますわ!
さ、さ、なめてなめて(笑)
立春も過ぎましたし、私も肉襦袢を脱ぎ捨てて(これがへばりついて脱げないんだわ~涙)アクティブにまいりましょう!

こちらこそよろしく♪

ナイトさん、ありがとうございます。

矢野さんに襲われたら、それはもう琴子ちゃん可哀想すぎる…涙
いや今まで未遂は散々書いたような気がしますけど(笑)
大好きと言っていただけてうれしかったです、ありがとうございます!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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