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2013.02.12 (Tue)

入江法律事務所 12

バレンタインが近いので。
やっとテンプレに合ったお話が書けた(笑)







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「うーむ…。」
琴子は自慢のフランス直輸入の手帳を広げていた。そして事務所の壁にかかっている月間予定表に目を向ける。手帳と予定表、それぞれを何度も見比べる。
「もうクリスマスの過ちは繰り返さないもんね。」
琴子は手帳の2月14日の欄を最後にもう一度確認する。そこは空欄である。

「先生、コーヒーです。」
琴子は直樹の机の邪魔にならないスペースにコーヒーを置いた。
「サンキュ。」
直樹は判例をパソコンでチェックしている。
「あの…14日なんですけれど。」
「あ?」
コーヒーを飲もうとカップに伸ばす手が止まった。
「14日、私…暇なんです。」
「で?」
「ほら、先生も暇ですよね。予定表真っ白。」
琴子が指差す先、2月14日の欄は何も記入されていなかった。
「だから…その…。」
「…お前はもっと俺に働けと言いたいわけか?」
直樹はギロリと琴子を睨んだ。
「え?いや、そういうわけではなくて…。」
「あれだろ?あの月間予定表が隙間なく書き込まれるくらい仕事を入れてくれないと私の給料が減らされるとか、空欄があるから安月給なんだと言いたいわけか?」
「滅相もない!!」
あわわと琴子は首を激しく振った。
「何でそんなひねくれた考え方なんですか!」
「悪かったな、どうせ俺はひねくれてるぜ。」
「違いますってばあ。」
「お前程度の能力でここに雇っていることに感謝してほしいくらいだぜ、ったく。」
「違います。バレンタインは私も先生も予定がありませんねってことを言いたくて。」
クリスマスはつい意地を張って予定があるふりをしてしまったために、散々な目に遭ってしまった琴子である。結果的に二人きりで過ごせたのだが、バレンタインはそんなことはもう繰り返したくなかった。

「バレンタイン、だあ?」
また直樹の目が光った。
「はい、そうです。ほらテレビでも雑誌でもやってるでしょ?電車の中吊りとかでも見ません?」
「俺は移動時間も無駄にしたくないんで電車では本を読むことにしている。お前みたいに大口開けてよだれ垂らして寝ているか、どこぞの芸能人が不倫しただの何をしただのと週刊誌の中吊りをチェックすることはない。」
「そういう雑誌じゃなくてえ。」
「第一、何でバレンタインが存在しているか知っているか?」
「え?」
ほうら言わんこっちゃないという顔を直樹はする。
「ローマ皇帝の迫害により殉教した聖ウァレンティヌスが殉教した日なんだよ、2月14日は。」
「ろ、ろーま?ワンレングス?じゅんきょー?」
「そんなことも知らないで騒ぐんじゃねえ。」
「すみません…。」
何だかさっぱり意味が分からないが、琴子は謝るしかなかった。
しかし、ここでへこたれる相原琴子ではなかった。

「先生はあまり甘くないチョコがいいですよね?」
「お前、全然人の話を理解してねえな。」
「ビターなチョコを頑張って作りますね!」
「出た、手作り!」
「え?」
直樹が深い深い溜息をついた。

「手作りに何か問題でも?」
「女って本当に怖えよな。」
「怖い?」
「そもそも、知らない女が作ったチョコを食う勇気のある男がどれほどいると思う?」
「勇気?」
「お前、知らない人間が作った食い物がさ、下駄箱に入っていたら食うか?」
「…やです。」
「だろ?どんな環境下で作られたか分からない。ちゃんと衛生的に大丈夫なのか。それも分からないんだぞ。それが靴箱に入っている!靴だぞ、靴と一緒に食い物を入れる。それも下駄箱ぎっしり!そんなもんを食えると思うか?で捨てたら冷たい男呼ばわりだ。俺、何か間違っているか?」
「間違って…いないかと。」
確かに直樹の言いたいことは琴子にもよく分かった。言われてみたらその通りである。
靴の中に入っていた食べ物を食べろと言われて喜ぶことは難しいかもしれない。
「先生、そんな下駄箱ぎっしりのチョコもらってたんですね…。」
昔からモテモテだったという事実を知り、琴子は肩を落とした。
当時直樹に渡した女の子の一員ではない琴子であるが、何だか女の子を代表して謝りたい気分にすらなってくる。
しかし、やはりここでへこたれる相原琴子ではなかった。

「でも、私が作ったのならば問題はないですよね?」
「何だと?」
「私のことは先生もよく知ってますし。ほら、うちの父は板前だから衛生管理はしっかりしてますし。そんな父を見て育ってますから私もちゃんと手を洗って気を付けて作りますよ!」
「…お前は俺の話を全く理解してねえことがよく分かった。」
「下駄箱だってこの事務所にはありませんから。ちゃんと綺麗にラッピングしてお渡しします!品質保証バッチリです!それで14日は私が先生にお食事をご馳走します!」
Vサインをする琴子に直樹は「好きにしろ」とだけ言うと、また判例に目を戻したのだった。



さてバレンタイン当日がやってきた。
「うんうん、何も予定が入りませんように。」
あれから14日には何も予定が入らなかった。
「レストランも予約したし、チョコを渡してあとは…むふふ。」
ちょっと頑張っていいレストランを予約した琴子である。

「おはようございます、先生。」
そして出勤してきた直樹を機嫌よく迎える琴子。しかし直樹の表情はどこか浮かなかった。
「先生?どうかしました?」
「今日11時に来客。」
「11時ですね。」
午前中なら何の問題もない。当日にアポイントが入ることは珍しくもないので琴子は何も疑うことなく『11時 来客』と予定表へ記入した。
「どなたですか?」
「親父の知り合い。」
珍しいものだと思いつつ、琴子はコーヒーの支度のため給湯室へと向かった。



そして11時。
「こんにちは。」
現れたのは貫録のある老人であった。
「11時から入江先生とお会いする約束を。」
「はい、承っております。」
この人が重樹の知り合いかと琴子は応接スペースへと案内した。

「先生、お見えです。」
「ああ。」
直樹はネクタイを締め直すと立ち上がる。

「やあやあ直樹くん、久しぶり!」
「大泉先生もお元気そうで。」
応接スペースからそんなやり取りが琴子の耳に入ってきた。
「すっかり一人前になって。あの大事務所を辞めたと聞いた時は驚いたものだが。」
「何とか頑張っております。」
そこへ琴子はコーヒーを手に入った。

「大泉先生には父の会社がお世話になっております。」
「いやいや、君のお父さんの会社は優良会社だから何も問題が起きず、こちらは顧問料だけ受け取るという楽な仕事だ。」
どうやら大泉という老紳士は直樹の父の会社の顧問弁護士らしい。

琴子はコーヒーを運び終えると自分の席に座り、パソコンでインターネットを開いた。
『大泉 弁護士』と打ち込むと目当てのページがすぐに見つかった。

「うわ…大きな事務所のボスなんだ。」
大泉総合法律事務所のホームページを見て、琴子は息を呑んだ。弁護士数は50名。大手とは呼べないかもしれないがそれでもなかなかの大所帯である。
「弁護士会の会長も…すごい方なんだ。」
大泉弁護士は弁護士会の会長も経験したことのある大物中の大物であった。
そんな大物弁護士が直樹に何の用なのだろうか?琴子は応接スペースを見やった。

「それで、今日は何の日か知ってるかい?」
大泉弁護士の声が聞こえてくる。
「バレンタインデーですね。」
直樹が愛想よく答える。
「私が言ってもあんなに機嫌よくなかったのに。」
直樹に見られていないことをいいことに、琴子は口を尖らせる。
「直樹くん、今夜は何か予定があるかい?」
「今夜ですか?」
「いや、何もわしとバレンタインデーを過ごしてくれとは言わんよ。こんな年寄りの相手など気の毒だからな。」
大泉弁護士は笑った。
「わしの孫娘のこと、覚えているかね?」
「沙穂子さんですよね?前にパーティーで何度かお会いしてます。」
「沙穂子さん」という名前に琴子の胸をざわつかせた。直樹から女性の名前が出るなんて初めてではないだろうか。
「覚えていてくれたかね。その…予定がなかったら沙穂子の相手をしてくれないかと思って。ほら、昔君はパーティーでよく沙穂子の相手をしてくれただろ?」
「そうでしたね。」
しかし直樹には先約があった。琴子との約束を忘れているわけではなかった。

「先生、今夜は何も予定入ってませんよね。」
聞こえた声に直樹が振り返った。
「すみません、お話し中。先生がはっきり言われないから。」
琴子は笑った。
「そうかね?」
「はい。秘書の私が保証します。」
「そうか、なら大丈夫だろうか?」
「…ええ。」
「それでは今日の夕方、こちらに沙穂子を寄越すからすまんが相手を頼むよ。」
大泉弁護士は大喜びで事務所から出て行ったのだった。

「…ったく、何余計なことを。」
後片付けをする琴子に直樹が声をかける。
「だって弁護士の世界の大物の先生ですよ?おじさんの会社の顧問弁護士だし。ちゃんとお相手しないと。」
「お前がそんな気を回すことができるとはな。」
「先生の秘書ですもん。」
「ったく。」
直樹が机に戻った後、琴子は「これでいいんだよね」とポツリと呟いた。

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 |  2013.02.12(Tue) 17:11 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.02.12(Tue) 17:38 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.02.12(Tue) 21:59 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.02.12(Tue) 23:53 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.02.13(Wed) 00:14 |   |  【コメント編集】

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 |  2013.02.13(Wed) 09:08 |   |  【コメント編集】

もう!胸がきゅーーーん!!ですよ。
直樹さんのためなら自分はどんなことも耐えられる
琴子ちゃん。健気です。
前半の面白路線から後半の胸キュン!!とにかく琴子ちゃん頑張れ!!
ゆみのすけ |  2013.02.13(Wed) 09:17 |  URL |  【コメント編集】

★たんたんははさん、ありがとうございます。

裏を読み返してくださっているんですね、ありがとうございます!
あれは本当に琴子ちゃんがこれでもかって苦労するシリーズですから…コトコスキーさんたちには苦しいお話であります。
そうそう、苦しめば苦しむほど愛は深まっていくんですよね!ムフフ。
なれなれしいなんてとんでもない。楽しんでいただけていることがわかってとても楽しいコメントでした!
ありがとうございます。
水玉 |  2013.02.15(Fri) 20:56 |  URL |  【コメント編集】

★ゆみのすけさん、ありがとうございます。

ゆみのすけさーん!!
もうゆみのすけさんたら、いつも突然来て下さるんだからっ!!
でもこうやって読んで下さっていることがわかって嬉しいです。
これからもよろしく~。
なんだって直樹いじめ同好会の会長と副会長ですもんね、私たち!
水玉 |  2013.02.15(Fri) 20:57 |  URL |  【コメント編集】

★るんるんさん、ありがとうございます。

本当に琴子ちゃんったら気をまわしすぎ…ある意味いい秘書ではあるんですけれど。
琴子ちゃん、本当にこれでいいの~?
水玉 |  2013.02.15(Fri) 20:58 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2015.08.10(Mon) 11:40 |   |  【コメント編集】

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