日々草子 縁ありて 10

縁ありて 10





お琴は鼻歌を歌いながら、庭掃除をしていた。
直樹は今まで溜めていたものを出すかのように話を何本か考え、今日も渡辺屋に出向いていた。
「やっとみんな、元気になってきたわ。」
お琴も直樹の手伝いをしながら、自分の創作にいそしんでいる。勿論、家事も頑張りつつ。
「そうよ、そんなに悪いことばかり続かないって。」
一人呟きながら、庭を掃き清めていく。

「ちょっと、ふんどし娘。」
隣からおうめ婆さんが声をかけてきた。
「あんたなんかに縁がない、すごいおいしいお菓子がうちの店から届いたんだ。」
おうめ婆さんは日本橋の呉服屋の隠居である。
「仕方ないから、少し食べさせてやってもいいよ。」
「仕方ないからって、何ですか。」
「ふん、こっちから声をかけなかったら、匂いを嗅ぎつけてうちに押し込んで来るだろうからね。」
「そんなことしませんよ。」
「どうだか。食べたくないってなら無理強いはしないけれど。」
「行きます、行きます。」
口は悪いが、おうめ婆さんはお琴の食べっぷりが気に入っている。だからこうして時折、お茶に誘うのである。
「手を洗ってからお邪魔しますね。」
「はいよ。」
お琴は急いで井戸端で手を洗い、おうめ婆さんの家へと飛んで行った。



おうめ婆さんの所に届いたお菓子は京からの物ということで、なるほど、美味であった。
「あたしゃ甘いもんを食べ過ぎると胃がもたれるんだ。」
と、おうめ婆さんはお琴に沢山食べさせてくれた。
「今度、相原の家からお酒が届いたら持って行かないと。」
相原家からは入江家、そして直樹とお琴夫妻の元へと銘酒が届けられる。おうめ婆さんは元は花魁なので甘いものよりそちらの方が好きだろうと思いながら、お琴は家に戻った。

「あら?誰かがゴミを投げていったのかしら?」
綺麗に掃き清めたばかりの庭に、紙屑らしきものがぽつんと落ちていた。
「まったくもう!」
ぷりぷりしながらお琴はそれを拾いに庭へと入る。
「ん?文字?」
それはただの紙屑ではなかった。お琴は何だろうかとそれを広げる。
途端にお琴の顔色が青ざめた。

『領民のことを考えたことがあるのか?』

そこには、そう書かれていた。他には何も書かれていない。

「これって…。」
もし、これを見たのがお琴ではなかったらただの悪戯だと思っただろう。しかし、お琴にはそう受け取れなかった。
それは大名の姫として生まれたお琴の胸の奥にしまっておいたものであったからである。
たった一人の姫と生まれながら、お琴は家より恋する人と添い遂げることを選んだ身であったのだから。



「…おい、おい。」
直樹に呼ばれ、お琴はハッと顔を上げた。
「お茶をくれと先程から言っているんだが。」
「ごめんなさい。ただいま。」
あの投げ文を見てから、お琴は心ここにあらずといった様子であった。
直樹が渡辺屋から戻って来てもそれは変わらず、今もぼうっとしてしまって直樹が声をかけてくることにも気づいていなかった。

「はい、どうぞ。」
「…どこか体の具合でも悪いのか?」
「え?」
「何かずっと様子がおかしいから。」
「いえ、そんなことは。」
いけない。せっかく直樹がやる気になっているところに自分のことで水を差すわけにはいかない。
「あの、おうめ婆さんからもらったお菓子がすごくおいしくて。その味を思い出していました。」
「お前らしいな。」
お琴の淹れたお茶を飲みながら、直樹がクスッと笑う。
その顔にお琴はますます直樹が好きでたまらなくなる。

――もし、領民を大事に思うならば。

自分は直樹と別れ、相原家に戻らなければならない。どこぞの大名家より婿を取ることになるだろう。

――師匠と別れるなんて…。

想像しただけで涙が浮かぶ。
そんなお琴の額に、直樹の額が当たった。

「…熱はないな。」
お琴を心配して、直樹が熱を測っていた。
「お前にも心配かけてばかりだからな。無理をしているんじゃないか?」
「いえ、そんなこと。」
優しい夫の言葉に、お琴は頭を振る。
「大丈夫です。師匠はお話をいっぱい書いて下さい。私もお手伝いしますから。」
笑顔で胸を叩くお琴に、直樹が「頼もしい嫁だな」とまたもや笑顔を返す。

直樹には絶対内緒にしておかねば。
懐に隠した投げ文を気にしながら、お琴はそう誓った。



やがて直樹の新作が数冊、渡辺屋に並べられた。
客足はやはり思わしくなかったが時折、訪れる客が出てきた。渡辺屋はその客こそ大事にしようと懸命に商売をしていた。

そんな時だった。

「兄上、兄上はおいでですか!」
どんどん新作を書いていこうと机に向かう直樹、そして直樹の書物を整理していたお琴はその声に顔を見合わせた。
「裕樹?」
「兄上、大変です!」
履物を脱ぐのももどかしそうに家の中に飛び込んできたのは直樹の弟、裕樹であった。
「どうしたんだ?」
兄に似て常に冷静な弟がこんなに興奮しているのは珍しい。お琴は「お水を」と急いで台所へと飛んでいく。

「父上が!」
「父上がいかがされた?」
裕樹は息を整えることも忘れ、顔を赤くしたまま直樹にしがみついている。
「どうした、裕樹。」
直樹の顔も険しくなった。
「父上が突然謹慎を命じられました!」
「何だと!」
裕樹の前に水を置こうとしたお琴は、思わず手を滑らせ湯呑を倒してしまった。
水が畳に広がっていき、直樹と裕樹の袴を濡らしていく。
しかし誰もそんなことに気づかなかった――。



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紀子ママさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

紀子ママさん、何度も言いますけれどどんな話にもついてきてくださって嬉しいです!
ありがとうございます♪

そうそう老中とか目付とか、私もちょっと図書館で勉強してきました。
でもややこしや~。
まあ、その辺は適当に流します(笑)←おい!

ちぇるしいさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

まるでチワワのようなお琴ちゃん(笑)
せっかくおうめ婆さんが励ましてくれたのに。
私、この話をちゃんと書き上げられるかどうも不安で…。
なんか中途半端になるんじゃないかと怖くてたまりません。
頑張りますね!

佑さん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

謎が多すぎて私自身回収できるのか…最後は勢いで突っ走るつもりですが(笑)

ミチさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

ありがとうございます。
別館まで読んで下さっているんですね!あの時はどうしてあんな話が書けたのやら…(笑)
イリコトのラブラブはやはり必須だな~とわかってはいるのですがなかなか書けず。
ストーリーを楽しんでいるからとのお言葉に、ちょっと安堵いたしました。

お優しいお言葉をありがとうございます!
これからも別館共々よろしくお願いいたします。

たまちさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

そうそう、雑草のように(笑)次から次へと災難が降りかかってくるんですよね(笑)
相当入江家への恨み…うんうん、なかなかいい方向かと(笑)
でも最後まで話が進んだときどうもみなさんから「なんじゃこりゃあ」と言われそうな気がしてならない…ううっ。

吉キチさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

琴子ちゃんが直接狙われているわけでもないみたいですもんね。
少しずつ包囲されていっているような感じですよね。

続きを待っていてくださり、ありがとうございます!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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