いとし、いとしと言う心 あとがき
そこには大正時代の女学生たちの髪型とか服装とか好きな少女雑誌とかについて色々書かれていて、「なるほど、こういう雰囲気だったのか」と。
それを読むうちに、ムクムクと大正時代のイリコトが書きたくなってきました。
まずタイトルですが。
この言葉、はるか昔にちょっと見ていたドラマに出てきたのです。そこで言葉の意味を知って「素敵だなあ」と思いました。
今回のお話を書くにあたってタイトルもやはり悩んだのですが、ふとこの言葉が浮かびました。
内容とどうつなげるか、その時は全く未定だったのですが、一度この言葉をタイトルにお話を書いてみたかったのでつけちゃいました。
調べたら都々逸だそうですね。
どこかでこの言葉を出さなければなあと悩みつつ、写真の裏に直樹が書いていたという設定にしちゃいました。
そして内容について。
今まで書いてきたお話はどちらかの片思いから始まって、結ばれるという内容が多かったので、最初から結婚スタートというのはどうだろうかと思ったことからです。
しかもお互いの印象は最悪←よくある設定ですね(笑)
時代物はどうしても琴子ちゃん側が貧しかったりすることが多かったので、今回は対等の立場で。それで琴子ちゃんも引け目を感じることなく堂々と入江くんと渡り合ってもらいました。
そして大正といったら、袴の女学生!琴子ちゃんにも是非と思い、着せました。
この時代の名家のお嬢様は結婚したら退学しちゃうのが普通だったようですが、そうなると袴も第一話で終わってしまうので(笑)、途中で復学させたのはそのせいです。これを入江くんの優しさを知るきっかけにしたらちょうどいいかもと思いまして。
と、このように後から辻褄を合わせることが多いのが私のお話の特徴ですね(笑)
最初いがみあっていた夫婦がどう打ち解けていくか。
これが一番の悩みどころでした。
ここで考えたのが、秘密の共有。琴子ちゃんが偶然入江くんの秘密(医者をめざしていること)を知って二人の距離を縮めていくというのがいいかなと思ってそうしてみました。
医者を目指すきっかけも何か必要だろうなと考えたのが、オリキャラです。
友人が病に倒れたということを経験したら、医者をめざすことも自然な流れになるかと思いました。
ただ、私自身のこだわりとして、オリキャラでも死なせるということがかなり抵抗はありました。とにかく登場人物を死なせるということが
まあこの時代だし、結核も多かったし…と自分に言い聞かせながら書いておりました。
ここでまた一つ、入江くんの優しさエピソードを作り琴子ちゃんを惚れさせることに成功(笑)しかもこの時の小道具が後々役に立ち(重樹に入江くんの夢を認めさせるところ)、ああ、よかったよかったと一人安堵しておりました。
医者になることを隠していた以上、ばれた時は争いになることは必然的だと思いました。
それで入江くんは勘当されちゃいましたけど。
そこを書いている頃にはもう、松下先生の活躍は考えておりました。
というか、ふと浮かんだ「五十年分の幸せをいただきました」という台詞を使いたかったんです。
それで松下先生も未亡人設定に(すみません)。
松下先生もあの軍人さんとうまくいくかどうするか迷ったのですが…こんなセリフを言わせたら再婚させるのも気の毒になってしまって。
でも再婚せずともきっと、あの軍人さんと穏やかな時間を過ごしていくと思います。
途中の銀座デートは、『大正ロマンの雰囲気がちっとも出ていない!』と焦ったことから入れました。
何でこんなに大正ロマンの雰囲気が出ないんだろう、どうすれば少しでも雰囲気が出るかなあと考えた末、出した結論は…銀座!
銀座ブラブラデートで少しでも大正っぽさが出たらと思って書きました。
当時人気だったクロケット、ここから家庭向きにコロッケが出てきたみたいです。
そして化粧品。きれいな瓶に入ったものがこの時代にかなり出てきたと本にも書いてあって、それもせっせと書いてみました。大正ロマンの欠片でも表現できていたらいいなと思っていたのですが、いかがでしたでしょうか?
そして忘れちゃならないお嬢(笑)
今回は悪人にしたくなかったので、穏やかに書きましたけどいかがでした?
いつも原作設定無視して極悪人になりがちなので、気を付けたんですが。
ただ、今回はお嬢の元に入江くんから転がり込んじゃったんですよね。
それで「やっぱり琴子がいい」とか言ったら、すごい身勝手な男になってしまうなあと新たな悩みが発生。
お嬢から身を引かせるためにはどうすればいいんだ~と考えた時に、あの写真です。
最初の方に琴子ちゃんが雑誌の取材を受けて写真を撮る場面を出しました。
当然、この時もこんな先のことまで考えていたわけではなく(笑)
当時の少女雑誌、婦人雑誌は名家の令嬢を紹介するコーナーがあったそうです。
雑誌もそこそこの値段だったそうで、読者もそこそこの余裕のある娘さんや奥様だったそうで、そういうコーナーが人気を呼んだのでしょうね。
だから紀子ママも絶対、可愛い嫁を全国に紹介したいはずだと書いてみたのです。
この時の写真を入江くんがこっそりと持っていた設定にして、落としたそれをお嬢が拾う、そんなものを見つけたらお嬢も身を引くことを決めるだろうと思いました。
で、写真を拾う→入江くん、自分の気持ちに幸せになる→相原家に許しを請う→重雄許さない→琴子ちゃん、「私も勘当して!」と入江くんに寄り添う→重雄、娘の気持ちに打たれ結婚を許す…というストーリーにするつもりでした。
しかし、何かちょっと物足りないなあと。
そこで出たのが、ヒキガエル大作戦ですよ(笑)
琴子ちゃんを再婚直前まで追い込んでみようと。
再婚相手はイケメンにしようか、ヒキガエルにしようか。
いずれ入江くんが奪いに来る予定でしたので、どっちが盛り上がるかなあと。
イケメンだとマザコン、ヒキガエルだともう単品でOK、余計な設定必要なし。
結論、ヒキガエル。
ただ結婚させるだけじゃ物足りないので、いつものごとく「入江くん以外の男の前で脱ぎかける琴子ちゃん」(笑)
そして入江くんが助けて、めでたしめでたし。
…まだ物足りなさが残ってました(笑)
というか、ここで私の中に「大河ロマン」という言葉が浮かんできてしまいました。
自分で言うなって感じですが、何か一度くらい大河ロマンというものを書いてみたいなあと思い始めたんです。もっと世界を広げてみたいなあと。
もっと世界を広げるためにはどうしたらいいか。
大正…大正…あ、治安維持法!!
なんか誤解を受けて入江くんが逮捕されたら、大正っぽいのではと。
ところがどっこい。
治安維持法って大正末なんですよね。
そういえばなんかそんなことを昔日本史で習ったなあと…(汗)
この物語の設定、大正7年くらいにしていたんです。
そして色々調べて、ロシア革命までいきついて。
「そうだ!ロシア革命の影響で社会主義者に目を光らせていたとかも習ったぞ!」と、またもや思い出し(汗)
はい、入江くん、逮捕!
しかもこれでお嬢が身を引く大義名分ができた!
さすがに逮捕者と結婚させることは大泉家は尻ごみするだろうし。お嬢も反対を押し切って入江くんと添い遂げる勇気はないだろう。
そして入江くんがドイツへ旅立つ理由も半ば強引ながら出来上がりと!
なぜドイツにしたかというと、やはりこの時代の医学留学はドイツのイメージが強かったことと、前半に登場させたドイツ語と関連させることができるからです。
琴子ちゃんの袴姿と並んで私が描くことが好きなのが、旧制高校から帝大と進む入江くんの姿なんです。
旧制高校は全寮制で、ドイツ語を交えた会話をよくしていたらしいのです。だから渡辺くんもメッチェンだのダンケだのと口にしていたんです。
帝大生も詰襟、制帽、マント姿が多かったみたいですし。入江くん、似合いそうだと思うのは私だけでしょうか?というか着ている入江くんを私が見たかっただけですけれど。
ドイツ留学も決定したところで、またしても問題発生!!
ただ第一次大戦後のドイツは多額の賠償金を請求された影響ですごく荒れていたらしい…。
そんな国に留学する人、いるか?
アメリカの方がいいのだろうかと、結構悩みました。
でもやっぱりドイツ。琴子ちゃんが追いかけるのもドイツがいいし、何か絵になるし!
貧しさは目をつぶり入江くんにはドイツへ行ってもらいました。
そして琴子ちゃんが追いかけてくると。
ここで琴子ちゃんを看護婦にしようかどうするかも、かなり迷いました。
看護婦にしちゃったら結婚後も働かせてあげたいなあ。でも結婚後はあの渡辺くんの家で暮らしてほしいなあ。琴子ちゃんに両立は難しいかなあとか。
だけど看護婦にしておいた方が後々(いつのことだかわかりませんが)役に立ちそうだし、時代柄、既婚女性は仕事が見つからないかもしれないとか勝手に考えて、看護婦になってもらいました。
ドイツではあまり関係のない人たちの恋愛模様をいつまで書いているんだと思われている方も多かったことでしょう。
これ、一応理由があったんです。
一つは、ドイツでイリコトが仲睦まじい様子を描きたかったこと。
ここでさっさと帰国させて結婚して、はいおしまいとなると二人のラブラブな様子がまったく書けないんですね。
それで帰国を延ばして、心が結ばれた二人を存分に描くことにしました。
あと一つはウェディングドレス。
琴子ちゃんがキューピッドになってエリヴィーネたちの仲をとりもてば、ドレスを着せることができるなあと(笑)
という理由で、なかなか二人は帰国させませんでした(笑)
と、以上がこの話の制作裏話です(裏話っていえるほどでもありませんが)。
伏線を張っておいて、回収することもたま~にしますけれど、ほとんど先に書いたエピソードを後から無理やり伏線にしてしまうという手法が多いです、お恥ずかしいことですが。
この話を連載するにあたって、コメントのお返事ができないということを許して下さってありがとうございました。
本当にいただいておきながら、失礼なことをお願いして申し訳ありませんでした。
お返事はできませんでしたが、何度も何度も読み返しておりました。
皆様、本当に温かいコメントそしてたくさんの拍手をありがとうございました。
私のわがままを許して下さり、本当にありがとうございます。
過去最高の長さになり、自分でも驚いております。
それにしても、お話の最終話をアップすることは本当にさびしいです。
何かまだまだ書きたかったことがある気がするし。
この寂しさは二次創作を始めて四年経った今も慣れませんね。きっとこの先も慣れることはないでしょう。
そして。嬉しいことに、私の話にしては珍しく続編をというお声を多くいただいて!
長い話に関わらず、飽きずに最後までお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました。
最後に参考にした本をご紹介しておきます。
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『大正ロマン手帖』よりも大正時代から昭和初期の女性の様子が詳しかったです。
和服の種類とかも説明が詳しくて、とても参考になりました。
どちらも表紙がちょっと怖いけど(笑)高畠華宵はきれいだけど絵が怖いかも。
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眉目秀麗かつピアノの名手でもある大天才の法医学者、神津恭介が主人公の推理小説シリーズの一作です。
こちらは旧制一高を舞台にした、恭介の高校時代の作品です。
当時の寮生活の風景、そして憲兵なども出てきます。