日々草子 いとし、いとしと言う心 41

いとし、いとしと言う心 41

三日ぶりです~。待っていてくださった方、すみませんでした。









結婚式当日は雲一つない青空が広がっていた。

「入江直樹、汝は相原琴子を妻とし、その健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛しこれを敬いこれを慰めこれを助け、その命ある限り 真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います。」
はっきりとした直樹の声が静まる教会の中に響く。
「相原琴子、汝は入江直樹を夫とし、その健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛しこれを敬いこれを慰めこれを助け、その命ある限り 真心を尽くすことを誓いますか?」
「…誓います。」

参列者は二人の姿を温かく見守っていた。ここにいる人々は皆、二人が苦労を重ねここまでたどり着いたことを知っている者ばかりだった。だからこそ感慨深さはひとしおである。

そして参列者のうちの女性たちは、琴子のウェディングドレス姿に目を奪われていた。
フランス製のそれは袖にはふんだんにレースがあしらわれ、ベールには細かい花のモチーフがちりばめられている。それを身に着けている琴子はまるで妖精のようだと、隣に立つ直樹は思っていた。

「では指輪の交換を。」
神父に促され、まず直樹から琴子の指に指輪をはめる。そして琴子が直樹の手を取った。
「…逆。」
「え?あれ?どっちだっけ?」
小声で琴子は直樹に訊ねる。
「左だろ。」
「左?左って?」
緊張と喜びのあまり、琴子は完全にのぼせ上ってしまっているようである。
「茶碗を持つ方だよ。」
「お茶碗?ええとお箸が右…あれ左だっけ?だとするとお茶碗は?」
「こっちだよ。」
たまらず直樹は左手を少し動かすと、ようやく琴子が指輪をはめた。
「ったく。」
「…ごめんね。」
顔を上げて少し恥ずかしそうに笑う琴子。それを見て直樹もつられて笑顔になる。




式の後は入江家へ移動し、ささやかな披露パーティーが行われた。
晴天なのでガーデンパーティーである。
まず出席者全員で、その後入江、相原両家、そして花婿と花嫁と写真を撮影した。
それぞれ談笑しながら食事を楽しみ、和やかな披露宴となった。資産家でもある侯爵家の披露宴としてはかなり小規模なものではあったが、誰もそれを不思議がる人間はいなかった。

「本日は私たちのためにお忙しい中集まって下さり、ありがとうございます。」
宴もたけなわとなった頃、直樹が琴子と並んで挨拶に立った。
「ここにいらして下さった皆様は、私たちがどのような状況になっても変わらないお付き合いをして下さった皆様です。そのような方々に今日という日を祝っていただけて、本当にうれしく思います。」
直樹の声に耳を傾けながら、これまでの出来事をそこにいる全員が思い出していた。
本当にこの二人はいろいろなことがあったものである。

「私たちは皆様に支えていただいたおかげで、こうしてまた夫婦として共に生きていくことができるようになりました。本当に何とお礼を申し上げていいか分かりません。沢山ご迷惑をおかけし、ご心配をおかけしました。それぞれの親を泣かせもしました。」

紀子がそっと目をぬぐった。

「まだ何のご恩も返せていない私たちでありますが、これから幸せな姿を皆様にお届けすることからご恩を返せていけたらと思います。」

直樹の言葉に皆が頷いた。皆、直樹と琴子のために尽力してきたのである。それがようやく報われる日が来たと思うと嬉しい。

「そして、最後に。」
これでお礼を述べて二人で頭を下げて話が終わるのかと思っていた琴子は、「おや?」という顔を直樹に向けた。

「どうか琴子を褒めてやってください。」
直樹の言葉に琴子は驚いた。

「私たちの最初の出会いは、親同士が決めた結婚でした。私は琴子の写真を見た時に、他の女性とは違う何かを感じて結婚を承諾したのですが、親が主導権を握って話を勧めたということへの反発もあってか素直になれませんでした。そのせいで琴子に辛く当たったことも多々あります。あまりに酷いことを言って殴られたことも。」

これは事情を知っている渡辺とみさをが笑い、松下が目をむいて驚いた。

「琴子はただ私に何でも従うだけの中身のない女性ではなく、しっかりと自分を持った女性だとだんだんわかりました。そんな琴子に魅かれていったのに私は素直になれませんでした。」

まさか直樹がこのような話をするとは思っていなかったので、琴子はただただ、驚いている。

「そのうちに私は親と争い家を出ることになりました。そんな私を琴子は追いかけて来てくれて、共に苦労をしてくれました。私が捕まった時も、恐ろしかっただろうに一人で毎日、警察へ足を運んでくれました。そして私がドイツへ行った後も、琴子はずっと待っていてくれました。私の力になりたいと看護婦の資格まで取ってドイツまで来てくれた時は言葉にできなかったほどです。」

いつしか女性たちは皆、ハンカチで目を押さえている。渡辺も眼鏡をこっそりと外して目をぬぐっていた。

「そんな琴子をどうか褒めてやってください。こんなに素晴らしい女性を妻にできて私は本当に幸せです。」

直樹がしめくくると、皆から拍手が沸き起こった。

「琴子、よく頑張ったわね。」
「おめでとう、琴子。」
理美とじんこが泣きながら拍手をする。
「琴子さん、あなたの根性は誰にも負けないものがありましたからね。」
直樹と共に暮らしていた時に、家事全般を琴子に教えてくれた松下も琴子を褒めてくれた。

そして皆に褒められている娘を見て泣く重雄の肩を、重樹が「うんうん」と叩いている。
隣で泣き続ける紀子、そして裕樹も目に指を当てている。

「ありがとうございます。」
たまらず琴子も涙を流した。まさかこんなに直樹が自分を褒めてくれるとは。
直樹が琴子を支えるよう、その肩に手を回したのだった。



そして夜。
久々の二人の寝室で、直樹は本を読みながら琴子を待っていた。
「…遅いな。」
時計を見るともう日付が変わる時間である。直樹の次に風呂へ入ったはずであるが、そろそろこちらに来てもいい頃ではないだろうか。

「おい…。」
琴子の居間に続くドアをノックしようとした時、直樹は耳をすませた。部屋の中から何かが聞こえてくる。
直樹はそっとドアを少し開けた。

「ぷりぷりの琴子ちゃんになあれ、ぷりぷりの琴子ちゃんになあれ。」
鏡に向かって、琴子が例の呪文を呟きながらあのクリームで丹念にマッサージをしているところだった。
「うん、ぷりぷりの琴子ちゃんになった!」
琴子が頬を突いて、肌の弾力を確認している。直樹は慌ててベッドへと戻った。

「このお部屋、久しぶり!」
はしゃぎながら琴子がベッドへ入ってきた。直樹は何も気づかないふりをしながら、本をベッドサイドに置いた。
「いい結婚式だったね。」
「そうだな。」
しばし二人は結婚式、パーティーを思い返していた。
「皆がお祝いしてくれて、直樹さんがあんなこと言ってくれて。」
「多分最初で最後だから、よく覚えておけよ。」
「そんなあ!」
頬を膨らませる琴子。

「写真、エリヴィーネに送らないとね。」
「そうだな。」
ドレスを贈ってくれた、異国の友人のことを琴子はちゃんと覚えている。きっと喜んでくれるに違いない。

「…なあ。」
「なあに?」
「この間、お前俺に妾を作ってもいいみたいなこと、言ってたよな?」
意地悪い笑みを浮かべながら、直樹は琴子を見た。
「あれは…だってお金がかかるって直樹さんが。」
なぜ今その話かと、琴子は戸惑っていた。そんな琴子を見るとますます直樹の心に意地悪が芽生える。
「三十人は金がかかるけど、十人くらいなら何とかなるような気がするんだ。」
「そ、そうなの?」
結婚式の夜にそんなことを言われる花嫁は自分くらいではないだろうか。
「十人…。」
琴子は以前見た夢を思い出す。十人の妾の家にリヤカーで贈り物を運ぶ自分…。
「何だよ、十人でも多いってのか?」
「ちょっと多いような…。」
「じゃあ何人?」
「五人くらい…いや三人かなあ?」
「ふうん。三人ならいいんだ。」
「…やだ。」
琴子が直樹のパジャマの袖をひっぱった。

「…三人もやだ。私以外の女の人なんて好きになったらやだ。」
子供のような琴子に、直樹はとうとう笑い転げた。
「冗談に決まってるだろ。」
「何でそんなこと言うの?」
「散々俺を待たせた仕返しだよ、仕返し。」
直樹は琴子の頬を突いた。
「へえ、ちゃんと“ぷりぷりの琴子ちゃん”になってるじゃん。」
「聞いていたの!」
こっそりとしていたつもりだったのに、まさか直樹にばれていたとは。
「…どれほどこの時を待っていたか。」
琴子が丹念に手入れをした肌を引っ張ったり突いたりしながら、直樹は目を細めた。そして琴子の白い肌が赤くなっていく。

「…俺のために“ぷりぷりの琴子ちゃん”になったんだろ?」
「…うん。」
「これからは、さらに“ぷりぷりの琴子ちゃん”になるぜ。」
「…本当?」
琴子の問いかけに直樹は言葉ではなく、口づけで答えた。

この夜、直樹の優しさに琴子は包まれた。
何を言われたか、自分が何を言ったかは記憶が定かではなかったが、直樹がずっと優しく導いてくれ、目を開けると安心しろというように優しく微笑んでくれたことだけは覚えていた。

二人の『いとし、いとしという心』が実った夜だった――。







関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

琴子ちゃんを褒めてください。のところから
私まで感情移入!!
本当によく頑張った琴子ちゃん♪ウルウル。
なのに何気に松下先生の驚く様子に吹き出しちゃいました。

そしてそして!!!!最後の所
私まで優しさに包まれてとっても幸せになりました♪
とっても綺麗に書かれてうっとりです」

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
リンク