日々草子 中華料理・直琴軒 12

中華料理・直琴軒 12

イリコト結婚記念日(すぎちゃったけど)特別プラン(?)ということで。
ひそかに人気のあるこのシリーズを久々に…。

11/22にUPしたものです。
emaさんより挿絵をいただいたので、改めてUPします!
emaさん、本当にありがとうございました!







「メニューの名前を変えたい?」
「うん、そう。」
お久しぶりの中華料理・直琴軒。今日は琴子と直樹がメニューについて話し合っていた。

「ほら、よく聞くじゃない。ちょっとおしゃれなメニュー。」
「中華におしゃれもへったくれもねえだろ。」
付き合ってられないと、直樹は包丁を研ぎ始めた。しかし琴子はあきらめずに直樹の傍から離れようとしない。
「だって、うちもちょっと変化をつけるのも悪くないんじゃないかなって。ほら、生き残るのも大変でしょ?」
「今のところ、そんなこと考えなくても大丈夫だ。」
「あん、だめよ。現状に甘んじてたら。」
どこかから聞いたセリフを琴子は主張する。

「じゃあ、どんな名前に変えようと?」
引き下がらない琴子に直樹は降参した。
「うんとね、例えば…ほら、“森のくまさんのお散歩風ステーキ”とか、そんな感じ。」
「どんなステーキだ」と直樹は心の中で突っ込んだ。
「とにかく、中華って漢字が多いせいか難しいイメージじゃない?」
「それは読めないお前だけが抱くイメージだろうけれど。」
「もっと柔らかーい雰囲気の方が、浴槽が広がると思うの。」
「客層だろ。」
「そう、それ。」
こんな調子でメニューの名前を変更して成功するとは、直樹には到底思えない。
しかし琴子が「一日だけでいいから」と懇願するため、直樹は渋々許可したのだった。



「こんにちは、琴子ちゃん!」
「いらっしゃい、西垣さん!」
いつもの常連客、料理評論家の西垣がにこやかに店に入ってきた。
「琴子ちゃん、どうも!」
「いらっしゃい!」
西垣に続き、常連客がどんどん来店する。今日も直琴軒は商売繁盛のようである。

「あれ?メニュー変わったの?」
壁に貼られているメニューがいつもと違うことに、西垣がいち早く気づいた。
「変わったのは名前だけですよ。」
水を運びながら琴子は答える。
「何々…子ブタのワルツ?」
「それ、回鍋肉定食のこと。」
なぜこのような名前にと首を傾げながら、常連客達はメニューを追いかける。

「恋人たちの白いささやき?」
「麻婆豆腐定食ね。」
「雪降る夜のラストダンス?」
「チャーハン。」
その名前から全く想像のつかない料理に、常連客の首はどんどん傾いて行く。

「琴子、こっち手伝ってくれ。」
「はあい。」
厨房から直樹に呼ばれ、琴子は「あとから注文取りに行きますね」と言い残し消えた。

その後も客は謎めいたメニューの内容を必死で考える。
やがて、彼らの目が最後のメニューに一斉に止まった。

「琴子汁…?」

彼らは目をこすった。しかし何度こすっても、瞬きを繰り返しても、目薬をさしても、間違いではなかった。
そこにははっきりと『琴子汁』とマジックで書かれている。

「ど、どんな汁?」
客の一人がゴクリと喉を鳴らした。
「そりゃあ、あれだろ。」
「あれって?」
ヒソヒソとざわつく客たちの中から、自信たっぷりの声が響いた。

「琴子ちゃんの出汁がたっぷりのスープに決まってるじゃん!」
「西垣さん!」
西垣がニンマリと笑った。
「いやあ、店主もようやくおもいきったことを考えたか。」
「そ、それじゃあ、これは?」
「琴子ちゃんのエキスがたっぷりのスープさ。それ以外に何を考えろと?」

彼らは想像する。
お湯がはられた大きな容器に、琴子がつかっているところを――。
「いやあん」という声を出しながら、なぜか一糸まとわぬ琴子が胸を押さえている――。

「それでスープを作ったんだろうね。」
西垣の言葉に、彼らは顔を見合わせた。間違いない、それ以外に何があると?
「そんな…そんな元気が出そうなものを店主が?」
「あの店主、男心がわかってるんだな!」
一気に直樹の人気が上昇していく。

「俺は頼むよ、これ!」
「俺も!」
「店主、琴…んぐっ。」
注文しかけた客の口に、何かが放り込まれた。
「俺も琴…ぶほっ!!」
「琴…うっ!!」
琴子汁を注文しようとすると、最後までいい終わらないうちに次から次へと口の中へと何かが放り込まれる。それは巨大シューマイであった。

「…常連客へのささやかなサービスです。」
とてもサービスを提供しているとは思えない冷ややかな声が厨房から聞こえた。見ると直樹が客たちをギロリと睨んでいる。
――その注文したら命の保証はしない。
と、目が語っていた。
一気に直樹の人気は急降下していった――。



「はあ…やっぱり評判よくなかったか。」
『月の輝きの下でスキップライス(天津飯)』と書かれたメニューをベリッとはがすと、琴子は最後のメニューを見た。
「琴子汁、全然注文なかった。あたしってそんなに人気ないのかなあ?」
しょんぼりと肩を落とし、琴子は『琴子汁』のメニューもはがす。
「当たり前だ。人の名前のメニューなんて食いたいと思う奴いるかよ?」
「だって、ほら、○○おばさんのシチューとかマダム○○のクッキーとかってあるじゃない。中華だから漢字だけの方がいいかなって思ったのに。」
「そこだけ漢字にした意味が分からねえ。」
「はあ…。」

琴子汁が一番人気であったのだが、注文しようとすると客の口の中に特大シューマイが放り込まれていたことなど、琴子は全く知らない。まさか直樹が注文妨害しているなど、考える由もないだろう。

「ちゃんと元の名前に戻しておけよ。」
「はあい。」
直樹が書いた元のメニューを琴子は貼り直し始める。
「ほら、これで元気出せ。」
働く琴子の口に、直樹が例のシューマイを入れた。
「おひひい(おいしい)。」
口をもぐもぐとさせニコッと笑う琴子に、直樹もつられて笑う。

ちなみに『琴子汁』、それはただの『中華風コーンスープ』のことであった――。


syu-mai



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rinaさん、ありがとうございます。

うわ~面白かったと言っていただけてうれしいです!
久々なのでちょっと緊張しました。
包丁ばかり飛ばすのもあれなので、今回はシューマイに…。

たまちさん、ありがとうございます。

急にネタが降ってきたので、いとし…も一段落ついたところなので書いてみました。
ネーミング、考える方も大変でした。でも意味不明という設定なのでまあいいかと(笑)
あれだけ漢字はわかりづらいと主張していたのに、どうしてここだけ漢字にしたのか(笑)
本当に常連客、毎度毎度よく来ますよね。
こんな目に遭っておきながら、まさしくおっしゃるとおりドM!!

佑さん、ありがとうございます。

私もちょっと頼んでみたいと思いました、琴子汁…(笑)
一体どんなもんなのか(笑)

紀子ママさん、ありがとうございます。

あ~!!
今回も紀子ママさんに大好きと言ってもらえてうれしいです!!
本当に何でも拾って下さる、大切な存在ですよ~!!
直樹汁、それは絶対琴子ちゃんがつくらないでしょう(笑)
「私の入江くんを売り物になんてできない!!」とか顔を真っ赤にして怒りそうです。

カスガノツボネさん、ありがとうございます。

読み返してくださったんなんて嬉しいです!!
前日はどじょうすくいで、今回は琴子汁ですもんね~我ながら(笑)
何を読み返そうかと迷って下さるなんて、とてもうれしいです。
読み返していただけることが本当にありがたい…!!

彩さん、ありがとうございます。

ひっそりと埋もれてましたもんね、このシリーズ。
でも人気投票をすると、なぜか上位に食い込んでくるんですよ(笑)
つまらなかったのかとちょっとドキドキしましたが、楽しんでいただけてうれしいです。
他も一気に読んでいただけて、「すんげ~おもしろいっ!」というセリフに感動しました!

いたあん、ありがとうございます。

まあ、いたさんの大好物だったなんて!!
中華スープって何があるんだっけと私もメニューを検索してました(笑)
女性が頼んでも…飛んでくるでしょう!!
熱々のシューマイですよ~やけどしますよ~それでもいいですか?
食べ物のお話を書いた時「食べたくなった」と言われることが嬉しいです。
私も小説を読んで食べたくなることが多いので!
そしてゴルゴリク、ありがとうございます!本当、いたさんだけですよ(本当に!!)

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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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