日々草子 一日だけ…

一日だけ…

「連番とバラ、どっちがいいかなあ?」
さっきから琴子がブツブツと言っている。
「入江くん、どっちがいい?」
「…どっちでもいいよ。」
「当たるのはどっちだろう…?」
「琴子、前!進んでいる。」
琴子は慌てて進んだ。
「…連番にしとけば?」
次は琴子の番というところで、直樹が口にした。
「あ、そうだね。最低300円は儲かるもんね。」
琴子はそう言って、自分の番になった時に元気よく声を上げた。
「年末ジャンボ、連番、10枚!」

「儲かるってお前言ったけどさ…。」
年末ジャンボを手にした琴子に、直樹は言った。
「それ、10枚でいくらした?」
「…えーと、1枚300円だから、300×10で…3000円。」
「それで、300円しか当たらなかったら…?」
「3000円払って、返ってくるのが300円だけだから…え?2700円損してるってこと?」
ようやく分かったらしい。
「じゃあ、バラも買った方がいいかなあ。ねえ!買っとこうよ。」
琴子の子犬のような目に負け、直樹はその後、
「年末ジャンボ、バラ、10枚…」
と売り場で買わされるハメになった。

「3億円当たったら、どうしようかなあ?」
帰宅後、バラと連番それぞれの束を手にして、琴子は嬉しそうに言った。
「まず、お義父さんとお義母さんには旅行をプレゼントしよう。…草津とか、温泉がいいわよね。」
琴子はうっとりとしながら言った。
「国内なんだ…。」と直樹は心で突っ込んだ。
「うちのお父さんはお酒かな、やっぱり。」
「いくらの?」と以下同文。
「裕樹くんには…新しい携帯とか?」
「それでも三億円はまだ余るだろ?」と以下同文。
「あ、チビには…いつもより高いフードかな?」
「それでも千円単位だろう?」と以下同文。

「じゃ、俺らはマンションでも買うか。」
直樹が言った。
「えー?だって家あるじゃない!」
琴子が不満そうに言った。
「…お前、二人っきりで暮らしたいとか考えたことないわけ?」
「うーん。ちょっと憧れることはあるけれど…。」
琴子は言った。
「だって、にぎやかなの楽しいもん。みんながワイワイ言っているのがいいの。だからここでずっと暮らしたい。」
琴子は「何が不満なの?」という顔を見せた。

「…お前分かってないなあ。」
直樹は溜息をついた。
「何がよ?」
「親父たちだってやがていなくなるんだぞ?裕樹だってもう少ししたら家を出るだろうし…。それに俺がいなくなったら、お前この家に一人で暮らすことになるんだぞ。広い家で一人で。」
それだけ言い残して、直樹は部屋を出ていった。

「あら?琴子ちゃんは?」
夕食が並べられた食卓に、琴子の姿がなかった。
「具合でも悪いのかしら?」
紀子の心配そうな声に、直樹が、「しょうがねえな」と言いながら部屋へ呼びに行った。
「おい、琴子。夕食…。」
部屋へ入ると、そこにはベッドへ突っ伏して泣いている琴子がいた…。

「どうしたんだよ…?」
直樹の声に、琴子が涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
「…だって、だって一人で暮らしていることを想像したら…。」
どうやら、先程の直樹の言葉が相当、ショックだったらしい。
「…誰もいなくなって、入江くんもいなくなって…。あたし、入江くんがいない暮らしなんて想像できないよ…。」
そう言って、琴子は声を上げて泣き出した。

「いなくなるって…それはまだまだ先の話で、数十年も後で…。」
琴子の手がつけられない様子を見て、直樹は呆れて言った。
「でも、それでも嫌なの!入江くんがいなくなるなんて絶対嫌なの!」
直樹は琴子を優しく抱き寄せた。
「分かった。分かったよ。お前より絶対先にいなくならないから。」
「…本当?」
「本当。」
琴子がようやく落ち着きを少し取り戻した。
「じゃ、約束して。」
琴子が小指を出した。直樹も自分の小指を絡める。
「指きりげんまん。嘘ついたら針千本飲ます…。」
琴子が抱きしめられながら、歌った。
琴子の歌を聴きながら、直樹は思った。

『…一日だけ琴子より長く生きられればいいよ。俺だって琴子のいない世界になんていたくないからな。たった一日だけ、長く生きられるようにすればいい…。』


☆あとがき
私は今年は連番で勝負します(笑)
仕事納めの皆様も多いかと思います。
お休みでゆっくりとお体を大切になさってくださいね!


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ガラクタ置き場、ちょっとだけ~
入り口どこかに~
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Re: 一日だけ…

入江君の最後の独り語り・・・心に染みました~。水ちゃんの入江君て文句なしに素敵・・・。実は神戸の入江君もツボだったのだ。mad about 琴子なアリエルにそう思わせるあなたはすごいよ、やっぱり。

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Re: 一日だけ…

さーやもアリエル同様、最後の直樹の心の声…
鳥肌が立ちましたわ^^

実は映画はあまり恋愛ものは観ないさあや!
けれど「君に読む物語」を観た時は恋愛ものでも素敵だと思いました。

あの最後のラストのシーン!!
直樹と琴子の最後の日…なんて想像はしたくないけども
あんなラストを二人が迎えられたらな?って重ねてしまいました♪

ありがとう!

アリエルさん、さあやさん
嬉しいお言葉ありがとうね♪
新宿の宝くじ売り場で並びながら思い浮かんだ話にそこまでいっていただけて…。
最初は面白話にするつもりが、描いている途中で変わってしまいました(汗)

そうですよね。入江くんも琴子がいなかったら生きていけないですよね。
入江くんの心の声、素敵です!琴子は入江くんの一言で泣いたり、笑ったり
可愛いですね。だから入江くんもほっとけないのですね。

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chieさん
そうですね。
琴子みたいに相手にゾッコンだったらきっとその時を想像するだけで泣いちゃうと思います。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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