日々草子 いとし、いとしと言う心 33

いとし、いとしと言う心 33

いつもコメント下さる方も、初めましての方も本当にありがとうございます♪
寒くなってきて、皆様お体大丈夫でしょうか?
私は先日、なんとソフトクリームとかき氷をおいしく食べられましたあ!!!←寒いのになぜかイベントで食べた。
歯がしみないってなんて素晴らしーい!!
といっても、まだ治療終わっていないのですけれどね…ハハハ。
いやあ、先生、「本当に治るのかしら?」とずっと疑っていてごめんなさい。←だってなかなか痛みがおさまらなかったんだもん。













日曜日ということで、日本橋は混雑していた。家族連れも多く子供のはしゃぐ声がにぎやかだ。
そのような中、琴子は日本橋丸善にいた。買い物を終え、店を出ようとしたところで肩を叩かれた。
「久しぶり!」
「渡辺様!」
琴子が振り返ると、渡辺が懐かしい笑顔を向けていた。

「すっかりご無沙汰してしまって。」
二人は喫茶店に入った。
「俺も。確か最後に会った時は、服部の命日だったよね。」
「はい。」
「半年以上経ったんだなあ。」
迷ったのだが、昨年琴子は服部の命日に墓参りをしていた。入江家とも縁が切れた身で図々しいと思われることを覚悟していたのだが、墓前でみさを夫妻、渡辺には歓迎されたことが嬉しかった。

「渡辺様、今は?」
「うん、おかげさまで弁護士になれたよ。」
「わあ、おめでとうございます!」
「ありがとう。まだ見習いだからこれから頑張らないと。」
そういえば、会った時はいつも渡辺は詰襟姿であった。今日はネクタイに背広姿で雰囲気もだいぶ変わったと琴子は思う。
「琴子ちゃんは買い物?」
「はい。」
答える琴子の傍には丸善の紙袋が置かれている。
「渡辺様も本を買いに来られたのでしょう?」
「ああ。法律書って次から次へと必要なものが多くて。俺の少ない給料はほとんど本代に消えていくよ。」
大げさに悲しむ渡辺に思わず琴子が笑い声を立てた。

「お付きの女中とかは?」
「一人です。電車で来ました。」
「琴子ちゃん、そういうところ変わらないねえ。」
伯爵令嬢であるのに、お付きもつけず一人で気軽に出歩くところが琴子らしいと渡辺は思う。
「ええと…あの…。」
渡辺は気になるところを訊ねたいと思ったが、どう切り出していいか分からず考えている。
それを見て、
「一人です。まだ相原琴子ですよ。」
と、琴子が笑って答えた。
「そうか。」
それを知り渡辺は安堵した。別に自分が琴子をもらいたいとかそういう気持ちはないのだが、海の向こうに渡ったまま戻らない親友を思ってのことである。
その親友の話題を渡辺は切り出せなかった。切り出したくとも情報がないのだから仕方がない。何せ親友は自分にも滞在先の住所を知らせなかったのだから。



「よいしょっと。」
琴子は自分の部屋に入ると、買ってきた品物を机の上に置いた。
「また買っちゃった…。」
本棚からは、あれほど夢中になっていた少女小説の雑誌がなくなり代わりにドイツの関連本が並ぶようになった。中にはドイツ語だけで書かれた本もある。意味が全く分からないのに買ってどうするのだろうと自分で笑ったが、ドイツ語を眺めているだけで直樹の傍にいるような気がする。
勿論、今日買った本もドイツの関連本である。

「こういうところも、歩いているのかなあ…。」
琴子は壁を見上げた。
少し前までは華宵、夢二、まさをといった少女小説の挿絵画家の絵が飾られていたそこには、ドイツの古城や待ちの風景の写真にその場所を譲っていた。

琴子は買ってきた本を机の上に広げた。それはドイツ語の本であった。
「い、イッヒ…。」
振り仮名が振ってあり、何とか読むことはできる。しかし発音などは本だけではよく理解できない。
ドイツ語を覚えたところで、ドイツに行くあては全くない。それでも琴子は直樹に少しでも近づきたかった。

直樹は今どこにいるのだろうか。勿論住所など知らない。
重樹の会社が持ち直したのは、直樹がドイツへ渡ってから半年経ってのことだった。
「さすがイリちゃんだ」と重雄も感心していた。噂などすぐに消えてしまうものだと琴子はこの時知った。今ではもう、直樹の逮捕のことなど口にする人間は華族の世界では誰もいないと重雄が安心していた。
しかし、重雄と重樹の間に交流は復活していなかった。やはりお互いの子供たちの結婚が不幸な結果に終わったことが尾を引いているのだろう。





「また大学ですか?今日は休みですのに。」
「読みたい本があるんだよ、キルマイヤー夫人。」
直樹は申し訳なさそうに話した。
「まあ、本当にお勉強ばかりですこと。お体だけは気を付けて下さいましね。」
「ありがとう、夫人のスープで栄養面はばっちりだよ。」
ドイツで直樹は下宿生活を送っていた。
キルマイヤー夫人はその直樹の家事全般の世話をしてくれている、近所に住む五十代の女性であった。
ドイツの大学は日本と全然違っていた。何とかドイツ語はマスターしていたものの、実験、実習と忙しかった。
しかし猛勉強の甲斐あって今では直樹の成績はトップであった。ドイツ人の教授や学生からも一目置かれ、充実した生活を送っている。

「夕方までは戻るよ。今夜は夜会に行かねばいけないからね。」
今夜はドイツ貴族宅で開かれる夜会に出席する予定になっていた。
ドイツで直樹はクルツバッハ侯爵という貴族に後見人になってもらっていた。侯爵は重樹の仕事の取引先の縁で快く面倒を見ることを引き受けてくれたのだった。
侯爵夫妻は自分の屋敷に直樹を住むようにと言ってくれたのだが、朝早くから夜遅くまで医学の勉強に集中したいと直樹が言うと、それならば大学傍の方がよかろうと、下宿の世話をしてくれたのであった。
そのような生活だったので、直樹が夜会に出席することはこの一年の間で数えるほどしかなかった。しかし、今夜の夜会はその後見人の侯爵のたっての頼みで出席することになっていた。我儘を許してくれている侯爵の顔も立てねばなるまい。



夜会で直樹は注目の的であった。
何せ滅多に顔を出さない日本の華族の御曹司、しかも優秀な医学生が出席しているのである。貴族がどんどん直樹に話しかけてくる。
日本人でも背が高い直樹は、ドイツ人と並んでもそう引けを取らなかった。加えて美しい顔立ちはドイツ貴族の夫人、令嬢たちの目を引き付けている。

ダンスを踊るドイツ人たちを、直樹はシャンパン片手に眺めていた。その脳裏にはかつて日本で出席した夜会がよみがえっていた。
あれは今頃、そう、九月だった。琴子の誕生日に二人連れだって出席した夜会。初めての琴子のドレス姿に目を奪われつつ、それを悟られないよう必死だった。
意地悪な華族の女たちにからまれた琴子を助けたことも懐かしい。

「ヘル入江はやはり踊られないのね。」
どこか遠い世界にいるかのような日本の貴公子を、ドイツ女性たちは噂し合っていた。
眉目秀麗の直樹を娘の婿にと願う貴族が多いことも事実である。直樹の優秀ぶりに国籍も気にしないといったところらしい。
しかし直樹はそういう話を適当にやり過ごしていた。
いくらダンスの相手を申し込まれても、直樹は踊ろうとしなかった。自分が踊る相手は、琴子が最初で最後にしたかった。



「お話してもよろしいでしょうか?」
ふとかけられた声に、直樹は現実の世界へ引き戻された。
そこに立っていたのは、クリーム色のドレスを着た若い令嬢であった。
「日本から留学されている方って、あなたですわよね?」
「そうですが。」
直樹は令嬢をまじまじと見た。宝石をあしらった髪飾りをつけた栗色の長い髪に、直樹を興味深く見つめている大きな目。
――琴子…?
勿論、彼女はドイツ人であるから顔の彫りも深く、琴子とは似ても似つかない。しかしその雰囲気は琴子を思い出させるに十分であった。
見ると親らしき人物が傍にいない。
「あちらで話し込んでいるので、抜けてきましたの。」
舌をペロッと出すところなどはとても令嬢らしくない。思わず直樹も笑ってしまった。

「エリヴィーネ、そこにいたのか。」
「あら、お父様。」
どうやら父親の登場らしい。
「何だ、ナオキと一緒だったようですな。」
エリヴィーネと呼ばれた令嬢の父親と一緒にいたのは、クルツバッハ侯爵夫妻であった。
「娘が失礼をしなかっただろうか?」
口髭をたくわえた紳士が直樹を気遣うと、
「まだ失礼をするまでお話をしていないわ。」
とエリヴィーネが答える。
「ナオキ、こちらはノイエンドルフ子爵とそのご令嬢のエリヴィーネ嬢だよ。」
クルツバッハ侯爵が親子を直樹に紹介した。
「噂のヘル入江と会えて光栄だよ。」
ノイエンドルフ子爵が直樹に手を差し出す。直樹も、
「こちらこそ。」
と挨拶をした。
その様子をエリヴィーネが興味深そうに、楽しげに眺めていた。





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どうなる

はじめまして、楽しく読ませていただいてます。
直樹君はだんだんと惹かれていくのでしょうか
琴子ちゃんはどうなるのかな

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また話がそれていくんですね。早く直樹&琴子を幸せの方向に…ラストに近づいて欲しかったのに……

いい加減疲れて来たので、しばらく離れまーす。
また戻ってきますけどね。。

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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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