日々草子 いとし、いとしと言う心 26

いとし、いとしと言う心 26



24をUPした後にもっと違う展開ができたかもと気づきましたが、時すでに遅し。
何だろう、本当にワンパターンで恥ずかしいと毎回言いつつ、脱却できない自分が情けない…。

とりあえず『直樹のヘタレ街道一直線』を経て、『不幸のエスカレーターに乗ってしまった琴子ちゃん』をどうぞご堪能下さいませ。











薮小路は予定外の仕事が入ったらしく、そのまま帰宅しなかった。
まだ結婚はしていないものの、一応新妻になる琴子を放置しているというのに何の連絡も寄越さない。釣った魚に餌はやらないというところだろうか。
しかし、琴子はむしろホッとしていた。薮小路という男の本性が徐々に分かりかけてきた今、できることなら顔を合わせたくはない。この家に一生懸命慣れる努力をする気も、今は失せていた。
ということで、琴子はほとんど自分の部屋に籠って日々を過ごしていた。

だが、そういう日々にも終わりはやってくる。

「明日の夜、旦那様がお戻りになると連絡がございました。」
例の冷たい女中頭が琴子に告げた。
「そう…ですか。」
新妻らしく喜ぶべきところなのだろうが、むしろ落胆の色を隠せない琴子であった。とうとう薮小路が戻ってきてしまう ――。
「明日はお忙しくなるので、そのおつもりで。」
「なぜ?」
「旦那様よりご指示がございましたので、その通りに準備をいたします。」
「準備?」
「入浴やお召し替えなどでございます。」
まるで物を扱うかのように、女中頭は淡々と告げた。入浴、着替え…それだけでその先のことが容易に想像するには十分であった。そして同時に琴子の背中に震えが走った――。



琴子は今頃幸せに暮らしているだろうか。
教授の話の内容など何一つ耳に入ることなく、直樹は教室の窓から空を見上げた。
あの時、とてもいい男と縁を結ぶことになったと嬉しそうに話していた。財産もあり包容力もあり、琴子を幸せにしてくれる男なのだろう。
医者になることを重樹が許してくれたとはいえ、いまだ直樹は大泉家に居候をしている。
医者になることは認めてくれても勘当は解かれていないのだから仕方がない。
もうすぐ春がやってくる。そうなると沙穂子との縁談も本決まりとなるだろう。
もう琴子のことを忘れなければ…。



「入江―!客だぜ。」
休み時間、直樹を級友が呼んだ。
「何だ、お前か。」
直樹を尋ねてきたのは、渡辺であった。わざわざ法学部から医学部を訪れるなど珍しい。
「…ちょっと話があるんだけれど。」
いつも笑っているイメージのある渡辺であるが、この日はニコリともしていない。直樹は一体何事かと思った。
「教室では話せないことなんだ。」
「それじゃあ、池に行くか。」
「もしかしたら授業を欠席させるかもしれないけれど。」
「え?」
真面目な渡辺に似つかわしくない台詞が出てきたことに直樹は驚いた。
「いいか?」
「ああ…お前がよければ。」
幸い次の授業は出席に厳しいものではない。それに直樹の成績ならば一時間休んだくらいで遅れる心配もなかった。

二人は三四郎池にやってきた。
「話って何だ?」
何か事件でも渡辺の身に起きたのかと、直樹は心配になった。
「…琴子ちゃんのことだけど。」
「琴子?」
「再婚するって本当か?」
一体どこからその情報を仕入れて来たのかと、直樹は驚いた。
「本当なのか?」
「ああ、本当だよ。」
「それは誰から聞いたんだ?」
「誰からって、琴子本人からだけど。」
「琴子ちゃん、幸せそうだったか?」
「ああ、すごく幸せそうだった。相手の男は包容力もあり金持ちで生活に何の不安もないて喜んでいたよ。」
直樹の返答を聞いた渡辺は、そこにあったベンチに力なく座り込んだ。直樹もその隣に座った。
「やっぱり琴子ちゃんはそう言ったか…。」
「…どういうことだ?」
どうも渡辺の様子がおかしい。

「お前は琴子の再婚話を誰から聞いたんだ?」
「…この間、父の仕事関係の夜会があったんだ。」
直樹の質問の答えになっていないことを、渡辺は口にした。
「俺も顔を出すよう命じられて出席したんだが、そこに薮小路という男がいた。」
「薮小路?」
直樹は聞いたことのない名前であった。入江家とは付き合いがない。
「薮小路という家は男爵家で、財産を作って金で爵位を買った家なんだ。まあ、その財産の作り方もちょっと人前では堂々と言えないような方法で有名なんだけれど。」
渡辺家は金融関係の仕事をしているので、薮小路の噂も聞いたことがあるのだという。
「その男が声高々に話していたんだ。今度嫁を迎えることになったんだと。」
「それが…琴子の相手というわけだな。」
「ああ。」
渡辺は頷いた。

「相手は再婚になるのだが十八歳の伯爵令嬢だと自慢していた。若い奥方で幸せだと周りに言われ有頂天になっていたよ。それで俺はもしかしたら琴子ちゃんのことかと思ったんだ。」
「十八で再婚する女なんて、めったにいないだろうしな。」
「そうだな。」

「金で買った爵位だろうが、人に堂々と言えない仕事をする人間だろうが…琴子が幸せになるのならば…。」
渡辺が心配してくれる気持ちは理解できるが、直樹はそうとしか答えられない。
「ところが、俺はとんでもない噂を聞いてしまったんだ。」
「噂?まだ何か?」
怪訝な顔をする直樹に渡辺は言った。
「いいか、入江。薮小路という男は女好きで有名なんだ。それもただの女好きじゃない。毎晩のように女を抱かないと我慢できないどうしようもない男だ。それでいて、金にうるさいんだ。」
直樹の胸に不安がよぎり始める。

「今度妻を迎える理由がひどい。娼婦は何でも言うことを聞いてくれるがいかんせん、金がかかる。だが妻だと金は一銭もかからないうえに自由にできると吹聴しているくらいなんだ。」
「何…だって…。」
直樹は顔色を変えた。
「琴子は薮小路の…娼婦の代わりにされるってことか?」
「そうだ。」
辛そうに渡辺が頷くと同時に、直樹は立ち上がっていた。
「…冗談じゃない。」
「入江…?」
「そんな男へやるために、俺はあいつと別れたわけじゃない!」



華族令嬢ともなると、お風呂も一人では入らず着替えすら女中任せという人間も多い。しかし、琴子は一人で身の回りのことはできた。
それなのに、今回は女中頭をはじめとする女中たちの手で風呂に入れられてしまった。女性ばかりといえ、裸を見られるのは恥ずかしい。何度も一人でできると主張したのだが、「旦那様のご命令」と突っぱねられ、琴子はされるがままであった。

「…臭い。」
薮小路の好みの石鹸でゴシゴシと体をこすられてしまったのだが、その香りがどうも琴子の好きな物ではなかった。石鹸一つ、あの男に従わねばならないのかと思うとうんざりである。
そしてさらに琴子が嫌になったのは、この夜のために用意されたものであった。

「何、これ…。」
それは赤い襦袢であった。寝間着ならまだしも、なぜ襦袢なのか。これではまるで娼婦ではないか。これも薮小路の好みなのだろうか。
「これしかないのかしら?」
無駄と知りつつ琴子は女中頭に訊ねたが、
「裸で歩かれますか?」
と、冗談とも思えない返答が返ってきて琴子に選択の余地はなかった。


襦袢姿でこれまたどこの遊郭かと思うような部屋で琴子が待っていると、のしのしという足音が聞こえた――。





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水玉さま、こんばんは(^^)

『不幸のエスカレーター』という言葉にツボってしまいましたww
ああ!!琴子が危ないよ~。直樹さん、早く救出して~~~とパソコン前で叫ぶ私です(こんな時間なのに・・・ww)
薮小路に飛び蹴りしたいかも・・・(^_^;)
おっと・・・失礼しました。

でも、渡辺君の言葉で直樹さんが琴子を必ず救い出してくれると信じています。

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