日々草子 いとし、いとしと言う心 25

いとし、いとしと言う心 25

復活(?)後のコメント、ありがとうございました!
待っていてくださって安心しました~。

ヒキガエルにしようか、イケメンにしようか迷いました。











「こんなに早く行かずともよいのに」と重雄は何度も止めた。しかし、琴子は「早くあちらの家に慣れたいので」と言い張った。
何と琴子は再婚先、薮小路(やぶのこうじ)家へもう移ることになったのであった。
琴子の相手となる薮小路という人物であるが、年齢は38歳。琴子とは実に親子ほど年齢が違うことになる。
見合い話が持ち込まれた時から重雄は気が進まなかった。しかし当の琴子が乗り気なのであるから仕方がなかった。

「一度目の結婚は年齢もさほど変わらない若造だったそうで。」
初めて顔を合わせた時、薮小路はいやらしく笑っていたことが重雄には引っ掛かった。
「しかし、今度の相手である私は大人であります。琴子さんを大きな心で包み込み幸せにしますから。」
ニッと笑ったその顔は、ヒキガエルを重雄に連想させたのである。何でも若い頃は柔道をやっていたとかで体つきも大きい。琴子が傍に立つと、まるで今から食べられてしまうかのような錯覚を起こさせた。

あまりに不安だったので、重雄は密かに薮小路の身辺を調べさせようとした。が、琴子に見つかり怒られてしまったのである。
「お父様は私を信用して下さらないのですね。」
妻亡き後、大事に育てた一人娘から泣かれたら重雄はどうすることもできなかった。
薮小路家もそれなりの財産を蓄えていることから、相原家の財産狙いというわけではなかろうとは信じているのだが。

そうこうするうちに、薮小路が早々に琴子を引き取りたいと申し出てきたのである。
「しかし琴子は離婚してからまだ半年経過してないゆえ。」
さすがに重雄はそれには反対した。離婚後一定期間が経たねば再婚はできない。
「そのような戸籍上の問題は気にしません。」
薮小路が重雄にまたもや、ヒキガエルのような笑みを向けた。重雄は背筋がゾッとなった。
「私は琴子さんと早く共に暮らしたいのです。あのような可愛い人が傍にいたらどんなに毎日が楽しいことでしょう。」
いずれ結婚するのだからと、薮小路は一歩も譲らなかった。そして琴子も何とこれに同意してしまったのである。
いい年齢の娘を縄で縛りつけて蔵へ放り込むわけにもいかない。
どうも重雄から見ると、琴子は直樹のことを忘れようと自棄を起こしているように見えて仕方がない。しかし何度尋ねても琴子の返事は決まって、
「そんなことはありません。直樹さんだって幸せになるのです、私も幸せになりたいのです。」
というものであった。
琴子なりに離縁の傷を早く癒したいのだろうか、男親にはやはり娘の、いや女心を完全に理解することは不可能であった。



「…最近、お部屋に閉じこもりきりで祖父も心配しております。」
二月ももう終わるという夜、沙穂子が直樹の部屋にお茶を運んできた。
沙穂子が心配するとおり、直樹はほとんど大泉家で自分にあてがわれた部屋で過ごすようになっていた。琴子の再婚が決まってからは食事以外は顔を出すことはなかった。
「試験はまだ終わらないのですか?」
「いえ、あらかた終わったのですが。」
しかし直樹の机の上には本が散乱していた。
「これは家庭教師先の生徒のために作っているものです。」
不思議そうな顔をしている沙穂子に、直樹はノートを広げた。大泉家に移ってからも直樹は家庭教師を辞めていなかったのである。
「一高の受験も間もなくですから。」
「面倒見がよろしいのですね。」
沙穂子が顔を綻ばせると、直樹も少し笑った。

「あの…直樹様。」
ためらいがちに沙穂子が声をかけた。
「その…。」
自分から話しかけておきながら、沙穂子は言いよどんでいる。
「…結婚のことでしょうか。」
直樹から先に切り出した。
「…はい。」
沙穂子の白い頬が赤く染まった。
そろそろ具体的な日程をと大泉翁が気をもんでいるのだろう。確かにその通りではある。
「とりあえず、一高の入試…合格発表まで待っていただけませんか。」
直樹は理由を見つけて答えた。
「あ、そうですわよね。大事な生徒さんですもの。」
「勝手を申し上げてすみません。」
「いいえ。では祖父へは私からそのように。」
賢い女性だけに、物分りもよかった。沙穂子はお盆を手に「では」と立ち上がる。
「直樹様。」
「はい。」
「…直樹様のお心にいらっしゃる方に私が勝てる日はいつか来るでしょうか?」
「え?」
直樹は沙穂子を見つめた。
「いえ、何でもございません。お忘れ下さいませ。」
沙穂子はそれ以上何も言わず、直樹の部屋を出て行った。



とうとう琴子が相原家を出る日がやってきた。
「それでは、お父様。」
今日は薮小路は所用で迎えに来られないのだという。琴子が一人で薮小路家の車に乗って出発することになっていた。
「無理だけはしないでおくれ。」
重雄はそれだけしか言えなかった。今回こそは、琴子に相原家から気心が知れた女中を数名付けるつもりであったが琴子はまたもや断っていた。
「お前はいつも自分のことよりわしを優先するのだから。」
琴子の綺麗な髪を撫でて、重雄は涙をこらえて送り出したのである。



薮小路家は、いかにも成金といった風の作りであった。
外国の建築と日本の建築をごっちゃにしたような、何と表現していいか分からない屋敷に琴子は圧倒されてしまった。
「こちらがお部屋でございます。」
琴子の部屋に用意された場所は、和風なのだか洋風なのだかやはり理解できないものであった。
金色のカーテンに赤いじゅうたんと、目が痛くなってくる。
しかし、これがこれから自分が嫁ぐ家のやり方なのだからと早く慣れねばなるまい。
部屋に一人になり、琴子は和箪笥の引き出しを何気なく開けた。
「何、これ!!」
開けた途端、琴子の顔は真っ赤になった。そこに入っていた物は真っ赤な下着類だったのである。このようなものは一枚たりとも持っていないはず。相原家からあらかじめ送っておいた衣類はどこへ消えてしまったのか。引出のどこを探しても見つからなかった。
そして見つからないのは下着だけではなかった。
「クリームの瓶がない…。」
直樹から買ってもらったあのクリームの瓶が、鏡台になかったのである。未練がましいと思いつつ、薮小路に申し訳ないと思いつつ、どうしてもクリームと夢二の便箋だけは琴子は実家へ置いて行くことはできなかった。できればその二つだけは今日、自分で抱えて来たかったのであるがそのようなことをすると薮小路からの迎えの者に不審がられると思い、あえて送っておいたのである。その二つも見当たらなかった。

「お呼びでしょうか?」
琴子に呼ばれ、やってきた女中頭は神経質そうな老女であった。
「私の荷物を片付けてくれたのは、あなたですか?」
「左様でございますが。」
「あの…これは一体どういうことでしょう?」
自分からそれを口にするのはどうしても恥ずかしく、琴子は箪笥の引き出しを少しだけ開けて、女中頭に見せた。
「私が持って来た物はどちらに?」
「旦那様が処分されました。」
「薮小路様が!?」
女中頭の返答に、琴子は驚いた。
「左様でございます。奥様の荷物をご覧になられて、あまりに薮小路家にふさわしくないと。」
「ちょっと、それはあの方が私の衣類を直接見たということですか!」
琴子は恥ずかしさで真っ赤になった。男性が女性の下着を見るとは考えられない。
「左様でございます。相原家よりのお荷物を一つ一つ、すべて目を通されて、触っておいででした。」
「そんな!!」
何と破廉恥なことをと叫びたい気持ちを琴子は堪えた。そんなことをする人間だったとは。
「それでは、これは…。」
「旦那様のお好みでございます。」
赤い下着を身に着けさせるのが好み…やがて藪小路がこれを身に着けた自分を見る夜がやってくることを意識するとゾクゾクと悪寒が琴子の背中に走った。
「では化粧品の類も…?」
「化粧品…ああ、あの安っぽいクリームのことでしょうか?」
女中頭が意地悪く笑った。
「さすがに旦那様も化粧品まではご興味がないご様子でした。」
「では?」
「私の一存で処分いたしました。あのような安物、薮小路家の奥方にふさわしくございません。もちろん、文具類もです。薮小路家にふさわしい高価な品を全てご用意いたしましたので。」
「そんな勝手な!」
「奥様。」
女中頭が琴子の前に進んだ。
「…奥様は今後、薮小路男爵家の人間として生きていかれるのです。旦那様を“あの方”などと呼ばれることはいかがかと。」
「それは…。」
女中頭の迫力に琴子はたじろいだ。
「…前の婚家がいかがだったかは存じませんが、くれぐれも再縁であるお立場をお忘れなきよう。」
「…。」
女中頭が出て行った後、琴子はへなへなとその場に崩れ落ちたのだった。




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うゎぁぁぁ~っ!!!!
水玉さん!!!キモイよ!!キショいよ!!!
ヒキガエルの口から金歯が見えるのは私だけでしょうか???

カエルってなんでもペロって飲み込んじゃうのよね。。。。
琴子ちゃん気をつけるんだよ!!!
あ~~そして直樹さん、お嬢のお茶飲んでる場合じゃないですけどね。

私のキャラが完全に崩壊されてるわ。

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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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