日々草子 いとし、いとしと言う心 24

いとし、いとしと言う心 24

お待たせしました!…と大声で言えるほどの内容かというのが疑問ではありますが。
自主トレ効果か、何とか続きが書けました。
励ましてくださった皆様、ありがとうございます。











元々、直樹の縁談は大泉沙穂子が最有力候補であった。才色兼備とは彼女の代名詞ではないかと思うほど、何の落ち度もない令嬢である。
いつかは結婚しなければいけないのなら沙穂子を迎えるのが一番いいかもしれないと直樹が思いかけた時、一枚の見合い写真が直樹の運命を変えることになった。

その写真の令嬢は明るい笑顔であった。名家の令嬢らしく錦紗の振袖を着て笑っている。
その顔が直樹には新鮮であった。
何せ直樹の元へ送られてきた見合い写真の令嬢たちはいずれも、無表情であったのである。
恐らくヘラヘラと笑うなどみっともないと躾けられてきたことと、写真撮影に緊張してどうしても表情が硬くなってしまったのだろう。

「どうだね、わしの親友の令嬢なのだが。」
写真を見ていた直樹に重樹が声をかけてきた。
「素敵なお嬢様じゃありませんか!ニコニコと可愛らしくてきっと性格も愛らしいこと間違いないわ。」
紀子までも乗り気であった。
「このお嬢様だったら、私の可愛い娘になってくれるわ。」
元々娘がほしくてたまらなかった紀子は既に大喜びである。
「どうだね?この娘さんならば…。」
「…悪くないですけれどね。」
今までどんな写真を見てもはっきりと感想を述べなかった息子から、これまた意外な言葉が飛び出したことに両親は顔を輝かせた。

トントン拍子に見合い、結婚となった。
妻は笑顔は可愛いものの、中身ははやり華族令嬢で直樹の言うことに「はい」と何でも従う、よく言えば従順、悪く言えば手ごたえのない面白くない女性かと思いきや、これまた直樹を驚かせる性格であった。
どう接していいか分からない直樹は妻に冷たく当たってしまいがちであった。温室育ちの令嬢ならば泣くだけだろうと思っていたら、結婚初日から直樹にぶつかってきた。これが直樹には新鮮であった。
ある時は直樹を殴ったこともあった。こんなに自分をはっきりと持った女性だとは思わなかった。
そして努力家な一面もあった。人に迷惑をかけないよう、こっそりと努力しているその姿を見て直樹はつい手を差し伸べたこともあった。



――本当に変な奴だったよな。
懐かしいことを思い出しながら歩いているうちに、直樹は相原家の前に到着していた。
考えてみれば、相原家を見るのはこれが初めてであった。妻の実家を一度も訪問することがないうちに離婚する羽目になったのである。
ここで琴子が育ったのかと思うと感慨深いものがあったが、今の直樹にそれに浸りきる余裕はなかった。
琴子が再婚するということを重樹から聞かされ、気づいたらここに来ていたのである。

「直樹さん…?」
懐かしい声に、直樹は屋敷から視線を動かした。
「琴子…。」
そこには車から降りたばかりの琴子が、立っていた。

「どこかへ出かけていたのか?」
何と話していいか分からず、直樹はそのようなどうでもいいことしか口にできなかった。
「お芝居を観に。」
琴子はお召という外出着姿であった。どこから見ても名家の令嬢である。
「芝居…。」
それは誰と行ったのか。再婚相手と共に出かけたのか。直樹は気になって仕方がない。
「直樹さんは何の御用でこちらに?」
琴子は直樹を見た。
「俺は…。」
直樹は拳を握りしめた。
「…再婚するって本当なのか?」
「どこからそれを?」
琴子の目が大きく見開かれた。直樹は琴子の言葉にショックを覚えた。もし根も葉もないものであったら「何でそんなことを」と言うはずである。今の言い方だと事実だと認めたも同然であった。

「父上がお前からの手紙を見せてくれたから。」
直樹は必死で気持ちを殺しながら、返事をした。
「では。」
琴子の顔に笑みが広がる。
「お義父様と仲直りしたの?」
「…そこまでは行っていないけれどな。」
「でも、会ったのでしょう?」
「まあな。」
「よかった。」
琴子は安堵したようだった。

「そんなことより、お前の話だ。」
うっかり琴子のペースに引きずり込まれそうになった直樹は、話を立て直す。
「再婚って本当なのか。」
「はい。」
琴子は頷いた。
「そうか…。」
おかしなものである。自分から「いい男を見つけて」と言っておきながら、実際にそれをされると気持ちがざわついて仕方がない。
「直樹さんもお医者様をめざせるようになったでしょう?お義父様のことも…奥様になられる方も見つかったし。」
「…。」
直樹は言葉が出なかった。
「何かそうなったら、安心しちゃって!」
「うふふ」と笑う琴子は自分と一緒にいた時と同じだった。直樹が可愛くてたまらなかった表情である。

「それに、直樹さん一人だけが幸せになるなんてずるいもの。私だってちゃんと幸せにならないとね。」
「…だから俺と父上の仲を取り持つようなことをしたのか?」
「ええ、そう。」
琴子の答えに直樹は眩暈を起こしそうになった。…できれば違う答えがほしかった。
「私が黙っていたことが、お義父様と直樹さんの諍いの原因の一つでもあるし。」
「それは違うって何度も言っただろ。」
「ううん、そんなことない。だからせめてできることをと思って、お義父様とお義母様にお話をしに伺ったの。そうしないと心残りで、新しい人生を歩めないから。」
「新しい人生…か。」
「そう。新しい人生。」
直樹と琴子の間には、壁ができているかのようであった。手を伸ばせば抱き合うことができるのに、できない。



「…相手は俺みたいにどうしようもない男じゃないよな?」
自嘲気味に直樹が訊ねると、
「ちょっと年齢が離れているけれど、優しい方。再婚でも構わないと仰ってくれて。」
と琴子が嬉しそうに答えた。
「ぜひにと望んで下さったから。望まれて嫁ぐことが女の幸せだもん。」
「望まれて嫁ぐ、か。」
自分との結婚は、両親が望んだものであった。今度はそうではない。きっと琴子は幸せになれるだろう。
「今日もね、一緒にお芝居を観てきたの。ほしいものがあったら何でも買って下さるって、すごい太っ腹だったのよ。」
「そうか…。」
貧しい思いもさせてしまった。もうそんな思いをする必要が琴子はないと分かっただけでも、直樹は安心した。

「それじゃあな。」
もう話すことは何もなかった。
「ええ、直樹さんもお幸せにね。」
琴子は最後まで笑っていた。



「…直樹くんが来ていたようだな。」
家に戻ると、玄関で重雄が待っていた。どうやら二人が話をしていたことに気づいていたらしい。
「ええ。入江のお家に私が再婚することを知らせたから。」
「…そうか。」
重雄はそれだけしか言わなかった。

「琴子。」
自分の部屋へ向かおうとする琴子を重雄が呼び止めた。
「はい?」
「…直樹くんのことは、本当にいいのか?」
「いいも悪いも…あちらは…お父様だってご存知でしょう。」
「だがな。」
わざわざ直樹が相原家を訪ねてきたことが、重雄には解せなかった。確かに大泉家との縁談が進んでいるという情報は得ているが、それにもかかわらず別れた妻の元へ来る理由が重雄には見当たらない。
「直樹さんは責任感の強い方ですから。」
琴子は曖昧に答えた。

「お前、無理して嫁がなくてもいいんだぞ。」
重雄は話題を変えた。
「ヒキガエルのような顔だとか噂もあるし…。」
「もう、お父様ったら!」
琴子が笑う。
「薮小路様に失礼じゃありませんか。」
「しかし、噂は…。」
「噂は噂です。お会いしたらそんなに恐ろしい顔じゃありませんでした。お父様もお見合いの席にいらしたらよかったのに。」
「しかし、どうもお前を見ていると辛くてならんのだよ。」
重雄は溜息をついた。
「しばらくゆっくり過ごしていればいいのに、藪小路家からの縁談に飛びついて。」
「だって、やはり世間体が悪いものでしょう?」
琴子は舌を出した。娘が出戻っているなどと知れ渡らないうちに、さっさと次の縁談へ飛びついた方が父のためになると琴子は考えている。
「わしはそんなこと、ちっとも気にせんよ。」
優しい一人娘の肩に重雄が手をそっと置く。
「お父様…。」
優しい父だからこそ、琴子は気遣わずにいられないのである。

しかし、琴子の本心は直樹も重雄も気づいていない――。
――たとえ、他の人に嫁ごうとも、心は直樹さんへ。
直樹が自分じゃない女性と結婚しても、自分は直樹しか愛さないと誓っていた。相手に悪いと思いつつ、それはどうしようもできないことを琴子は悟っていたのである。






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みんちょるです。

せっかく、入江くん逢いに行ったのに…
お互い想いやり過ぎて、切ないですね…。
入江くん、頑張って!!
続き、楽しみにしております。

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水玉さん大変なところ更新ありがとうございます。

ヘタレ街道を脇目もせず突っ走る入江君にイライラしながら
琴子ちゃんの健気さに、余計に直樹のおばかーーーーー!!!
と叫びたくなる私です。
とってもシリアスで、笑いなんて・・・・・と思うのに
何故かヒキガエルには、水玉さんのセンス??を感じます(笑)
だってだってアイちゃんがヒキガエルって言葉を使うんだよ~~
凄い理由だよね♪アイちゃん
さぁ直樹さんそろそろヘタレ街道を逆走して美味しいお茶を飲みたいと思いませんか???

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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