日々草子 イリエアン・デイズ 5

イリエアン・デイズ 5

なぜかだんだん書くのが楽しくなってきた。気分が乗っております。
怒涛の更新ですみません。












「森へ遊びに行かない?」
ガッキー王子がそう提案したのは、コトリーナとナオキヴィッチが冷戦状態となって三日が経過した頃だった。
「ほら、この間コトリーナ言っていただろ?“こんがりキツネ色”のキツネの色が分からないって言っていたじゃない?」
料理においてこんがりキツネ色は重要なキーワードである。だがコトリーナはいまいちそれがピンと来なかった。
「森へ行って実際にキツネを見ようよ。」
「そうですねえ…。」
コトリーナは迷った。
「あ、ナオキヴィッチの許可なら僕が取ってあげるよ?」
「いえ!」
ナオキヴィッチの名前が出た途端、コトリーナの顔つきが変わった。
「王子様の許可など必要ありません!」
「でも。」
「いちいち許可をもらう必要なんてないでしょう?私は私なんですもん。」
「けれど…。」
「行きましょう、ガッキー王子様。」



「…というわけで、出かけてくるけれど。」
三十分後、ガッキー王子は執務室で書類を睨んでいるナオキヴィッチに報告をしていた。
この冷戦状態の中、さすがのガッキー王子もコトリーナをこっそりと連れ出す勇気は持ち合わせていなかった。
「お前も行こうよ。」
「何で俺が?」
書類から上げたナオキヴィッチの目は恐ろしく光っていた。
「いい加減、仲直りした方がいいって。」
二人の仲違いの原因は、一応自分も一因があることをガッキー王子は反省している。
「行先は森だよ?相手はこの僕だよ?二人きりにしてお前、不安にならないわけ?」
どうして自分がここまで口にしないといけないのかと思いつつ、ガッキー王子はナオキヴィッチをその気にさせるために必死になっている。
「お前の方が折れてやってもいいんじゃないの?男なんだしさ。」
男だからこそ折れたくないのだがと思いつつも、自分以外の男と二人きりにすることも嫌なのでナオキヴィッチは渋々、一緒に出掛けることに合意したのだった。



翌日は見事な晴天だった。

「いい天気でよかったね。うーん、空気もいい。」
狩猟服に身を包んだガッキー王子が深呼吸をした。
「さ、君たちも深呼吸してごらん。」
そう言われ真似をしたのは、こちらは女性用の狩猟服に身を包んだコトリーナ。
「いい気持ち。」
「だろ?」
そしてガッキー王子はナオキヴィッチを振り返った。
「…たまには外もいいもんですね。」
「だろ?」
コトリーナはこっそりとナオキヴィッチの狩猟服姿を見つめた。いつもと違う凛々しさについうっとりと目を奪われてしまう。
と、その時ナオキヴィッチと目が合った。慌ててコトリーナは目をそらした。
「何だ、あいつ。」
わざとらしく目を逸らせてと、ナオキヴィッチは不快になった。

イーリエ王国はもともと平和な国であり事件も滅多に起こらない。なので森もいたって穏やかであるので三人は護衛を遠ざけた。その方がゆっくり過ごせると思ったからである。

キツネを見ながら三人は川辺へと歩いてきた。
「コトリーナ、それはお弁当かい?」
ガッキー王子はコトリーナがぶら下げている大きなバスケットを指さした。
「はい。」
「コトリーナが作ってくれたの?」
「はい。」
「そうか、そうか。いやあ楽しみだなあ。」
お菓子は散々な出来だったが、もしかしたらおかずなどは上手なのかもしれない。ガッキー王子は前向きに考えた。
「でもごめんなさい。ガッキー王子様の分は料理長さんにお願いして作ってもらったんです。」
「あ、そうなの?それは残念!」
途端にガッキー王子の声が明るくなった。どうやら胃袋は守られたらしい。

「川もとてもきれい。」
コトリーナは流れる小川をのぞきこんだ。魚も気持ちよさげに泳いでいる。
「育った村を思い出すな。」
「ついでにジーンが魚を掴んで取ったことも?」
「そうそう、あの時はジーンが魚に変身して泳いでいっちゃうんじゃないかって…。」
コトリーナは振り返った。言葉の主はナオキヴィッチである。
「何を言わせるんですか!」
「俺は事実を言ったまでだ。元々お前が話したことだろう?」
「だからって言わなくてもいいでしょう?そういうデリカシーのない所が嫌いなんです!」
機嫌を損ねてコトリーナはナオキヴィッチから離れてしまった。
「何だよ、人が折れて話しかけてやったのに。ったく、面白くねえな。」
「折れ方が根本的に間違えているんだよ、お前は。」
呆れたガッキー王子は、川に釣り糸を垂らした。
「どっちが大物を釣るか競争しようぜ。」
「やれやれ。」
仕方なく付き合ってやるといった風にナオキヴィッチが釣り糸を垂らした。
「釣れた時に備えて火をおこした方がいいかな?」
「火?」
コトリーナが首を傾げた。
「ほら、釣ったばかりの新鮮な魚を焼いて食べるとおいしいじゃない?」
「別に焼かなくても、三枚おろしにでもすればいいんじゃないですか?」
ナオキヴィッチが言った。
「ちょうどここにまな板もあるし。」
そういうナオキヴィッチの視線の先にはコトリーナの胸がある。コトリーナは胸を手で隠した。
「王子様なんて、大嫌い!!」
コトリーナはバスケットをぶら下げて、森の中へと行ってしまった。
「森に来たのは失敗だったか…。」
呟くガッキー王子の傍で、ナオキヴィッチは早々に魚を釣り上げてご満悦であった。



「もう、本当に何て人なのかしら!」
プリプリと怒りながら歩くコトリーナ。
そのコトリーナの前にリスの親子が姿を見せた。
「可愛い!」
リスを追いかけてコトリーナは森の中へとどんどん入っていく。
「ねえ、王子様!見て、親子リス!」
コトリーナは振り返った。が、そこにナオキヴィッチの姿はない。
「いけない、つい癖で…。」
すっかり一緒にいることが当たり前になっていたことに気づき、コトリーナはしょんぼりとなってしまった。
そしてコトリーナは下に置いたバスケットを見た。今朝五時から一生懸命作ったお弁当が中に入っている。
「王子様の好きな物、いっぱい入れたんだけどな…もう食べてもらえないかも。」
そう考えたらじわっと涙が浮かんでくる。失礼なことばかりしてきたので、本当に婚約解消となるかもしれない。
「王子様…。」
コトリーナが呟いた時、その体が突然動かなくなった。
「え?」
「…おとなしくしろよ、お嬢さん。」
野太い男たちの声が耳元で聞こえた。
「いいもん着てるな。」
「きっとこの国の貴族の娘だぜ。」
「よし、金をたんまりともらえる。」
「ちょ、ちょっと!!」
足をばたつかせて男の手から逃れようとするコトリーナだったが、男たちの一人がコトリーナの口を白い布で覆った。
「た…すけ…て。」
コトリーナの意識は遠のいていった――。



釣果はナオキヴィッチの圧勝であった。
「つまんないの。なあ、昼ごはんにしようよ。」
ガッキー王子がナオキヴィッチに話しかけた。
「コトリーナがお弁当を持ってきてただろ?あれ?そういやコトリーナは?」
ガッキー王子はキョロキョロと辺りを見回した。が、コトリーナの姿は見当たらない。
「森で迷子になっているんでしょう。」
面倒だと文句を言いながら、ナオキヴィッチは立ち上がった。
「お!迎えに行くんだ。よしよし、いいぞ。」
「クマにでも食われたら厄介ですからね。」
「クマなんていないよ、ここ。」
「たとえです、たとえ。」
男二人はコトリーナを探しに森の中へと歩いて行った。

しかしかなり奥へ進んでも、コトリーナの姿は見えない。
「おーい、コトリーナ。出ておいで。王子様は怒ってないよ!」
「馬鹿なことを言わないで下さい。」
ガッキー王子を止めるナオキヴィッチであるが、どうも様子がおかしいことに気づき始めていた。
一体どこまで歩いていってしまったのだろうか。

「ナオキヴィッチ!」
軽い口調だったガッキー王子の声が真剣を帯びたものへと変化した。
「あれ!」
ガッキー王子が指差した方をナオキヴィッチは見た。そこにはコトリーナがぶら下げていたバスケットが落ちていた。
「こんなものも落ちているぞ!」
ガッキー王子が手にしたのは、コトリーナが履いていた靴だった。それも右足の靴だけだった。
「ナオキヴィッチ…。」
話しかけようとしたガッキー王子の表情が凍りついた。
そこには厳しい表情のナオキヴィッチが、コトリーナの靴を握りつぶしていた――。





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爆笑です

水玉さん、お久しぶりです。まなです。
怒濤の更新楽しみにしております。

しかしそんな場合ではないのに思わず吹き出してしまいました。
コトリーナのくつを握りしめるのではなく、「握り潰す」ナオキヴィッチ(笑)
どんだけ怒ってんのかと(笑)

早いとこコトリーナを助け出して結婚できるといいね!ナオキヴィッチ(笑)

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紀子ママさん、ありがとうございました。

コトリーナちゃんの胸で三枚おろし…どうして王子様はこうやって怒らせてしまうのでしょうかね?
喧嘩を売っているとしか思えない(笑)
定番エピですよ!森と来たら熊に襲われるか、男に襲われるか(笑)
王子様、やっと本気モードです。
そうそう、今日別冊ゴルゴ出てました。ご主人はいかがでしょ?
ま~今回は話的には物足りなかったですが。ていうか、最近いつもそんな感じ…さいとう先生、さすがにお年?
絵柄もちょっと変でした(笑)

茉奈さん、ありがとうございます。

お久しぶりです!コメントありがとうございます。
そうなんです、「握りしめる」じゃなくて「握りつぶす」ってとこが怒りの度合いを表しているかと。
この後、コトリーナちゃんの靴はもう履けなくなっているでしょうけれど。
パリちゃん誕生も書きたいな~と思いつつ、なかなかうまく書けなくてそのままですみません。
でも必ず書きますよ~!

sarasaさん、ありがとうございます。

さすがsarasaさん!
ドリフに気付いてくださった(笑)そうです、意識してみました(笑)
イリエアン・デイズの森(笑)いい表現だ!
久しぶりにsarasaさんのお名前を見つけられて、とてもうれしかったです。
私もsarasaさんの楽しいコメントが待ち遠しくて!!
本当に上手に書けてうらやましいな~と思っています。
私も暑さで結構バテ気味のような…。いつまで続く、この暑さ!雨降ってくれ!
ぜひまた、波に乗って遊びに来てくださいね!私が波にさらわれないうちに笑
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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